青森県立八戸東高校コミュのこうして校歌ができたのです。

　校歌〝光あり〟――心の原風景――

　　　　　　　　　　　　　校長　竹井正光

　　八戸東高校校歌

　　　　　　　　作詞　石森延男
　　　　　　　　作曲　信時　潔

　　一、光あり階上の峰
　　　　清らかに我らは学ぶ
　　　　真理の世界
　　　　つくるなき情熱抱き
　　　　常に進まん
　　二、潮なる白銀の浜
　　　　うるわしく我らは掲ぐ
　　　　正義の旗を
　　　　かぎりなき希望を持ちて
　　　　いよよ勉めん
　　三、さくら咲く木の下の道
　　　　輝きてかたみに磨く
　　　　尊き個性
　　　　幸あふる学舎うれし
　　　　東高校

　平成十六年四月七日、入学式で二百名の新入生を迎えま
した。式終了後、音楽部員が新入生に校歌を紹介しました。
十五名の少ない人数でしたが、ピアノ伴奏のないアカペラ
で歌った透明感のある合唱は、出席したすべての人を魅了
するものでした。本校の校歌は作調・作曲ともに優れ、美
しいものですが、音楽部員の歌唱力がいっそう校歌を素晴
らしいものにしてくれました。一年生は早く校歌を覚え、
高らかに歌ってほしいと思いました。
　本校へ私が最初に赴任したのは昭和五十二年四月です。
第一体育館で新任式が行われ、壇上で校歌を聴いたとき、
女生徒の清澄で美しいハーモニーに、私は女子高校に勤務
することになった実感を抱きました。本校に都合三度勤務
する機会を得、これまで十七年間校歌を聴き、また、歌っ
てきました。品格のある歌詞と荘重な旋律が相まって、心
に沁み入る校歌になっています。
　校歌にはその学校の理想、精神、特長が込められていま
す。生徒は校歌を歌うとき、八東生として学ぶ心構えや追
求すべき価値を確認し、未来への希望や新たな決意が沸き
上がってくるにちがいありません。それとともに、八東生
の自覚、仲間との一体感を肌で感じ、母校への愛情も募る
ことでしょう。
　学校を離れたあとも校歌は、瞬時に学生時代を甦らせ、
年齢・職業・性別を越え、その場に居合わせる人の心を一
つに結びつけるカをもっています。まさしく校歌は心の原
風景といえましょう。

　本校は創立から百年を越える歴史があり、その間校名を
五度改称し、四つの校歌をもっています。
　明治三十四（一九〇一）年四月、本校は青森県立第二高
等女学校として創設されました。正規の校歌はなく、明治
三十八年、在校生の作詞・作曲により作られた「松友会の
歌」が校歌の代わりに歌われてきました。これは現在も松
友会入会式や同窓会の総会などで歌われています。（※松友
会は、はじめ生徒会組織であり、第一回卒業生のあと同窓
会組織にもなり、その後同窓会組織のみとなった。）
　第二高女から三度校名が改称され、大正八（一九一九）
年四月、青森県立八戸高等女学校となります。大正十五年、
在校生山田郁子の作詞・作曲により校歌が初めて制定され
ました。「…白銀の潮のしぶきに」「…階上の峰こそ」の詞
は、現校歌に「光あり階上の峰」「潮なる白銀の浜」と詠ま
れています。今もこれは同窓会などで旧校歌として歌われ
ています。
　昭和二十三（一九四八）年四月、新制高校が誕生し、本
校は青森県立八戸女子高等学校と改称されました。校歌の
制定は早く、同年五月、山田実校長の作詞・作曲により作
られました。平和の訪れと新時代への期待感からか、六番
までの長い歌詞となっています。八高女校歌の「階上の峰」
が詠われ、「木の下道を行く」は、現校歌に「さくら咲く木
の下の道」と生かされました。
　八戸女子高校は、一年後に男女共学となり、女子高校に
男子が入学してきました。そのため校名の変更を余儀なく
され、昭和二十五年四月、八戸東高等学校と改称されまし
た。「一千我等乙女子等」と歌われた校歌は、共学校にふさ
わしいものに作り替えられることになります。
　〝光あり〟の現校歌がどのような経緯で制定されたのか、
作調者・作曲者がどのような気持ちで制作に当たったのか、
調べてみることにしました。しかし、学校にはその記録は
ほとんどありませんでした。そのため、学校の資料のほか、
多くを同窓生・旧職員に尋ね、うかがうかたちになりまし
た。そこで知り得たことを、以下に校歌にまつわる話しと
して紹介します。
　校歌制定当時在職していた昆野清一教諭は、「松友会報」
（平成十三年九月）〈特別寄稿〉の中で次のように回想し記
しています。「……次に来られた校長は南部泰先生でした。
男共学もはじまり、高校に新しい伝統を方向付けようと、
情熱を傾けておられました。それは先ず新しい校歌の制定
でした。作詞を石森延男、作曲を信時潔の両大家にお願い
した事からも、その意気込みの程が察せられます」
　昭和二十六（一九五一）年十一月十日、創立五十周年記
念式典が南部校長のもとで行われ、校歌が披露されました。
校歌の制定月日は式典当日になっています。校歌は南部校
長が作詞者、作曲者を選定し、依頼しました。その際、本
校の立地環境、歴史、伝統、校風、学校行事、八戸周辺の
自然環境等について参考資料を提供しました。

　南部泰校長は、作詞者・石森延男と東京高等師範学校の
同期でした。依頼を受けた石森が現地視察に本校を訪れた
のは、桜の咲いている時期でした。舟場マサ教諭（高女二
十回生）の案内で、二人は正門から桜並木のトンネルを通
り、校庭へとそぞろ歩かれました。「やはり伝統のある学校
はちがいますね」と印象を語った石森は、その光景を校歌
の三番に「さくら咲く木の下の道」と詠みました。
　後年、石森は本校を再び訪れています。昭和四十五年十
月二十一日、第一体育館で生徒・教職員を対象に「胸に花
を」という演題で講演を行っています。講演の中で校歌に
ついて触れたであろうことは想像に難くありません。もし
その記録が残っていれば、それは校歌についての貴重な資
料になっていたことでしょう。
　石森延男は児童文学着で、四半世紀にわたり、国語教料
書の編集に携わりました。氏の編纂した小・中学校の国語
教科書はシェアの過半数を越え、〝石森国語〟は一時代を
画しました。小説では映画化された『コタンの口笛』があ
ります。
　作曲を信時潔へ依頼したことについては、南部校長の長
男直宣が信時の長男太部と東京府立二中（現都立立川高校）
と同期で、その時期親しい交際があり、その関係から決め
たものと思われます。
　信時潔は、東京音楽学校（現東京芸術大学）を卒業後、
ドイツに留学し、作曲・チェロ・和声学を学び、東京音楽
学校教授を長く勤めました。山田耕筰に次いで日本作曲界
の礎石と称され、戦時中歌われた「海ゆかば」は、当時儀
式や集会の際、国歌よりも多く歌われたものでした。
　のちに南部校長が直宣の結婚について信時にお知らせし
たところ、彼は祝意を表して「若き南部君のために」とい
う曲を贈っています。二人は子どもの結婚を知らせるよう
な親しい間柄であったことが想像されます。
　結婚プレゼントの曲は、歌詞を調べてみると、与謝野晶
子の「我が手の花」の詩であることが分かりました。詩の
冒頭のことば「我が手の花は人染めず」に曲を付けたもの
でした。譜面の下に「太郎への御友情を感謝しつつ」昭和
二十八年信時潔、と認めてあります（南部家所有）。そのと
き信時は、十一年前に愛息太郎を十九歳で失っていました。

　南部校長は出来上がった校歌に満足し、特に「幸あふる
学舎うれし」の詞を気に入り、卒業生への揮毫はこの言葉
を引用しています。校長は自ら英語の授業を担当し、生徒
の心に強く印象に残っている先生でした。授業の中で時に
校歌について語り、雑誌の巻頭言を飾った斯界の名士の文
章を紹介しました。生徒はその言葉に刺激を受け、触発さ
れ、将来への志を抱いたといいます。
　県立田子高校茂木典子教頭（高校十二回生）が昭和女子
大学に在学時、そこに石森延男が教授で勤めていました。
講義を受けることがなく、接する機会のなかった茂木先生
は、卒業を間近に控えた日、意を決して石森教授の研究室
を訪ね、校歌について話しました。茂木先生の出身中学校
（三戸中学校）の校歌もまた、石森延男の作詞によるもので
した。「歌ってみてください」という言葉にうながされ、茂
木先生は二つの校歌を歌い紹介しました。「いい校歌ですね」
と感慨深そうに石森先生が語られたということです。

　平成十五年四月、私は始業式で校歌について語りました。
「光ある」ではなく、「光あり」の効果、冒頭の素晴らしさ。
遠景に郷土の山、海を配し、拡がりのある空間が最後に学
校へ凝縮され、「幸あふる学舎うれし東高校」で結ばれる。
「かぎりなき希望を持ちて　いよよ勉めんし」「輝きてかたみ
に磨く」等の文語調が品格を与え、どの詞（ことば）も崇
高で美しいフレーズに満ちている、と。
　前述した昆野先生は次のような心温かな文章で同紙を締
めくくっています。
「……長い東高校の歴史と、校歌の中に流れる、尊く美し
いことばのひびきは、在校生の皆さんにとっては勿論のこ
と、卒業なさった皆さん方にとっても、いつかきっと、気
付かぬうちに、胸の奥で宝石の様に輝くものとなっておる
のではないかと思われてなりません。沈黙の中に、それら
は輝き続けておるのではないでしようか」

　平成九年四月、本校は男女共学となり、新しい校章・徽
章（バッジ）が制定されました。七十年近くにわたり親し
まれた白とライトブルーのあか抜けた横長のバッジは、ユ
リノキの葉をデザインした丸型のものに替わりました。校
歌が共学校に引き継がれたのは幸いでした。日本一素晴ら
しい〝光あり〟の校歌を生徒はしっかりと胸に刻み、いつ
までも歌い継いでほしいと思います。

　　《付記》
　校歌探求の契機となったのは、平成十五年五月の同窓会
松友会東京支部総会でした。その折校歌についての記録
（記述したまとまったもの）がないのを残念に思っておられ
た古畑篤子さん（高校五回生）から、校歌について調べて
ほしいというお話を受けました。こうして学校に残る資料
のほか、同窓生・旧職員にお会いし、あるいは電話で伺い、
ここに校歌にまつわる話をまとめることができました。本
文にいちいちのお名前を挙げませんでしたが、親切丁寧に
対応してくださった多くの方々に厚くお礼を申し上げます。
なお、文中敬称を略し、敬語表現を用いなかったことをお
詫び申し上げ、お許しを請いたいと存じます。

　　《付記》の《付記》
　前記の記事は八戸東高校の生徒会誌「樹下路」４４号（平成１７年３月発行）に掲載されました。竹井さんは東高校では教諭と教頭として教壇に立ち、３度目は校長となり、平成１７年春定年を迎えられたという珍しい経歴の先生です。またこのコピーを小生に下さった古畑さんは旧姓種市さんで、医師だった父親良春氏が東高校の当時のＰＴＡ会長で、南部さんと一緒に校歌の作詞作曲の依頼に行かれたそうです。竹井さんはそのことには触れておりませんが、南部さんを巡る石森、信時両氏との交友関係を克明に調べ、このように書き残されたことに我々は感謝しなければなりません。制定後６４年もたった今となっては、もう探り得ない貴重な記録であります。
　小生はここに出てくる南部校長と昆野先生に英語、舟場先生に国語の古文を教わりました。南部さんの名前の泰はヤスシと読むと思っていたのですが、昆野先生の回想にはユタカとルビが振ってあり、初めて正しい読みを知りました。
　南部さんは左手を腰の後ろに廻し、右手に英語の教科書を持ち、少し前傾して読んで聞かせるのです。誰かからあれが東京高師スタイルと聞かされた覚えがあります。石森さんと信時さんの両方だと思いますが、三戸から汽車通学をしていた田島雄一君が林檎を送るように頼まれ、英語の授業のときにそのことを聞かれ、小生の隣に座っていた田島君がいわれた通り送りましたというような返事をしました。
　なにしろ入学したとき、小生は英和辞典の引き方も知らなかったぐらい遅れていたので、英語の時間は旧制高女からちゃんと学んでデキる方々の陰に隠れるようにして、教科書ではなく基礎英語の本を読んで追いつこうとしていました。でも南部さんが民主主義のデモクラシーはデモークラシーとモを強く発音するようにと繰り返されたことは妙に頭に残っております。また、雑談で高師時代、南部煎餅を東京に持って行き、友達に食べさせたら、まずいといわれたと残念そうに話されたこともありました。昆野さんは申し訳ないのですが、髪をオールバックにした大学出たての物静かな先生だったことぐらいしか覚えておりません。
　３年になってからだと思いますが、全校生の英語の実力試験があり、小生はｇｒａｙは灰色と覚えていたため和訳がうまくゆき、男子では上位に入り、ようやく英語に自信が持てるようになりました。
　当時は授業ごとに特定の教室に移動する制度で、舟場さんの国語は２階の３年生のホームルームでした。それで何段活用なんてことはさておき「この教室にくるころは腹が減ってたまりません。優しきお姉様、何かお恵みを」などと書いた匿名のメモを机に入れておくと、コッペパンが入っていたりして、何度かご厚情に預かりました。何だったか思い出せないのですが、手紙を受け取ったら窓からハンカチか何かを下げてと書いたら、八高女以来の紫のネッカチーフがひらひらしていたこともありました。
　ただ、我々は八戸では初の男女共学であり、特に女生徒が絶対多数という雰囲気に圧倒されて、どう接してよいのかわからず、池部良や杉葉子らの映画「青い山脈」を見て、あれぐらいチカしくしたいもんだなあと話し合ったことがありました。米を持っての修学旅行でぐっと打ち解けたのですが、それまで心ならずも硬派のように過ごした２年間が惜しまれます。（２４研）