ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

深鏡椋の小説まとめコミュの第6話「その笑顔咲く水面は」

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
【13(B)】その焦る想いは

『アイちゃん、今日はミドルスクールもお休み。朝から亜夢ちゃんと練習。ミドルスクールのある日は朝からとはいかないもんね。でもね、なんでだろう?亜夢ちゃんの視線がすごく痛い気がするんだけど…』

 実は、あの日の一件以降、私は藍華先輩とメール交換をしている。
 藍華先輩は、梓先輩をこう評価したメールしてくれた。
『あの通る声と天才的なバランス能力は真似できない』と。
 姫屋の支店長もされている愛華さんですら、真似できないと評価するなんて。
 でも、藍華先輩はこうも言ってくれた。
『努力さえすれば、補える差よ。それがローゼンクイーンからあなたへのアドバイス』
 努力。
 私と梓先輩、今どちらが努力しているのか。
 明らかに梓先輩。
 私が学校に行っている間も練習をしているみたい。
 灯里さんの予約は午前中が多いので、灯里さんとマンツーマンでの練習ではないみたいだけど。
 私としては焦る要因だったりする。
 そして、私としての最大の不満は。
「あ、アリシアさんから、メールだぁー」
 時々聞こえる、この梓先輩の声。
 いつの間にかアリシアさんと。
 あのアリシアさんとメール交換をする仲になってたりするのだ。
 しかも、自発的にメールするのは専らアリシアさん。
 何度かメールの内容を見させてもらったが、美味しいお菓子のお店や美味しい料理のお店、お菓子のレシピなど、ウンディーネにはほとんど関係ないモノばかり。
 ほっとしる反面、そんなプレイベートなメールをもらっていることにアリシアさんと梓先輩の仲の良さが浮き彫りになる。
「……どうしたの?私の顔になにかついてる?」
「ん、別に。なんでもないわ」
 なんでもあるわよ!!
 内心叫びたくもなるが、内心だけに留めておく。
 梓先輩の船に揺られる私。
 体温の高い私の膝の上がお気に入りなのか、アリア社長は専ら私にぴったり付いてくるようになった。
 これくらい、アリシアさんにも好かれてみたいものだわ。
 梓先輩の漕ぐゴンドラは、良く評価するなら揺れない。
 大きな船が通っても揺れは最小限に留まる。
 梓先輩は自分では気付いてないようだけど、そのバランス感覚は天才的。
 確かに真似のできる芸当じゃない。
 それ以外は、まだまだ散々なレベルだ。
 スピードが遅い。
 集中力もないようで、気が漫ろ。
 案内そっちのけで、やけにうまい鼻歌。
「あちらに見えますのは、さんみゃるこ、あぴゃあ!」
 声が綺麗なのだが、舌足らずというか呂律が回らないのか、早めに案内をすれば、必ずといっていいほど噛む。
 なにか舌に障害でもあるんじゃないだろうか?
 まだ、漕ぐ技術は私のほうが、上。
 でも、確実にその差は縮まって来てる。
「ぷぷ〜ぃ、ぷぷ〜ぃ」
 ゴンドラの上で踊るアリア社長。
 ご機嫌のようだ。
「梓先輩、そろそろ変わるわ」
「あ、はいはい」
 私が漕ぎ始めると、アリア社長は踊りをやめて、しっかりと梓先輩の胸にしがみ付く。
「アリア社長は、大きなおっぱいが好きなのかな?」
「……失礼だわ」
「あぁっ、そういう意味じゃないのっ!」
 アリア社長は、大きな胸が好きだから、なんて理由じゃない。
 そう、梓先輩に比べると私のゴンドラは揺れるのだ。
 梓先輩は、自分が漕いでも揺れているんだろうと思っているようだけど、実際は…そう、揺れだけに特化すれば、アリシアさんと同じレベル。
「あ、あ、亜夢ちゃん、早いよー!!」
 無意識に力が入っていたのか。
 ゴンドラは少し早いスピードになっていた。
「力を入れすぎだ、馬鹿者っ!!」
「え?」
 突然横から叱咤の声。
 制服は姫屋。
 なによりも目を引いたのが風に揺れる長い黒髪だった。
「おい、アリシア!お前が付いておきながらどういうことだ!?」
 いそいそと乗っていたゴンドラを岸につけて、その女性はゴンドラに乗り込んでくる。
「ちょ、ちょっと」
 私の抗議は寝耳に水。
 それ以前にアリシアさんじゃないしっ!
「アリシア!ちゃんと指導しないか!」
「あらあら、うふふ」
 って、モノマネ!?
 しかも似てるしっ!
 乗り込んできた女性は、どかっとアリシ…梓さんのとなりに腰を下ろし、厳しい視線を私にぶつけてきた。
「言っておくが、私はアリシアと違って甘くないぞ!」
「あらあら」
 どうやら、この女性、私を指導するつもりらしい。
 アリシアさんとはどういう関係なんだろうか?
「ゴンドラには運行速度が決まっているんだ。アリシアから聞いているか?」
「い、いえ」
だから、アリシアさんじゃないし…
「アリシア、ちゃんと教えないとダメだろう?」
「うふふ」
 いったいいつまでモノマネを続けるつもりなんだろうか、梓さん。
「ゴンドラを早く漕げば、その分波が起きる。波が建物に打ちつけば、建物が傷むのが早くなる。だから運行速度に制限が設けられているんだ。それは大型・中型船舶にも同様の制限が設けられている」
「落ち着いて、ね?亜夢ちゃん」
 梓さんのモノマネは止まる気配がない。
「本来教えないといけないのはアリシア、お前だろう?ゴンドラ協会に栄転してウンディーネの勘が鈍ったんじゃないか?……ん?というか、なんでARIAカンパニーの制服をきてるんだ?そういえば、なんで両手袋?」
「あらあら、うふふ」
「…あの、その人、アリシアさんじゃないです」
 耐え切れず私はネタバラシをする。
「は?私はアリシアとは幼馴染なんだ、間違えるわけな……アリシア…だよな?」
「いえ、アリシアさんじゃないですよ。私は青海梓といいます、晃さん」
「すわっ!」
 なんでゴンドラの上で漫才が繰り広げられているんだろう?
「ごほん、冗談はそれくらいにしてだ」
 絶対、冗談じゃない…。
「亜夢ちゃんと言ったか。お前は藍華に似てるな」
「……そう」
 私は勤めて冷静に応えた。
 メール交換を始めて、自分でも自覚がある。
 私は藍華さんに似てる。
 そして、藍華さんもそれを知ってる。
 でも、藍華さんはそれを口にしない。
 それは私が憧れているのは藍華さんではなく、アリシアさんだから。
「性格は藍華にそっくりだ。意地っ張りで、強くて、そして弱い。だが…」
 晃さんと言ったか。
 姫屋のウンディーネは「にやっ」と口元を歪めた。
「漕ぎ方は灯里ちゃんにそっくりだ。さすが師弟だな」
「え?」
 予想だにしない名前だった。
「ぷぅい」
「ほら、アリア社長もそう言っているぞ」
「ぷぃぷぅい!」
 灯里さんに似ている?
「はっ!冗談でしょ?私はアリシアさんに憧れてるんです。灯里さんに似てると言われても嬉しくなんてないんだから」
「あらあら、顔、嬉しそうよ、亜夢ちゃん」
「似てるから、やめろ、梓ちゃん」
 灯里さんに……。
 私、灯里さんは嫌いだった。
 アリシアさんのいるべき場所にいたあの人が嫌いだった。
 あの人は私に絶望をくれた。
 アリシアさんを慕ってARIAカンパニーに来たというのに、あの人はアリシアさんの代わりに居座ってた。
「おい?手がとまってるぞ?」
「じゃあ、私が代わりますね」
 でも、なんでだろう。
 私は灯里さんが嫌いなはずなのに。
 なんでだろう。
 私、なんでこんなに……
 なんでこんなに嬉しいんだろう……
「梓ちゃんは顔だけじゃなく、漕ぎ方まで腹が立つくらいアリシアに似てるな」
「そう何度も言わないでくださいよ。アリシアさんの漕ぎ方なんて見たことないんですよ、私」
 なんでだろう。
 私もアリシアさんに似てるって言われたいのに。
 どうして、こんなに穏やかな気持ちでいられるんだろう。
「……あれ?亜夢ちゃん?どうして泣いてるの?さては晃さんに虐められましたね?」
「すわっ!わ、私は虐めてなんてないぞ!?」
「…違う、私……」
 そうだったんだ…。
 私、知らない間に…。
 いつの間にか…。
「……私、嬉しいみたいだ。灯里さんに似てると言われて」
 こんなにも、こんなにも灯里さんのことが大好きになっていたなんて。

 アクアの太陽は明るく私たちを照らしてくれている。
 そう、まるで灯里さんの笑顔のように。

【14(E)】その鏡の中の少女は

 鏡に映る私。
 あまり女らしくなかった私の唯一の女性らしさとも言えた長い髪。
 それを失い、短くなってからかなりの月日を重ねた。
 アル君は似合ってると言ってくれた。
 嬉しかった。
 でも、それでも不安なの。
 自分はアル君にとって、ちゃんと女性に見えているのか。
 こう不安に思うのは、すれ違いの日々が続いているから。
 私は姫屋の支店長になり、日々は仕事一色に染められた。
 多忙を極めるスケジュールを縫うようにアル君と逢う日々。
 このままどんどんアル君と逢う時間が減っていくんじゃないか。
 不安だけが募っていく。
 逢えないだけじゃない。
 まだアル君から、『好き』という言葉を聞いていない。
 それ以前に正式に付き合ってすらない。
 募る不安は肥大化し、焦燥感が私の心を染めていく。
 私はアル君にとって魅力的な女性?
 私はアル君にとって釣り合う女性?
 考えれば考えるほど思考は混沌の海へと沈んでいく。
 鏡の中の自分のとなりに描くは彼の顔。
 私たち、お似合い?
 もしかして、私一人はしゃいでいるんじゃない?
 疑心暗鬼。
 すべてが灰色に染まるような感覚。
 恋って素敵だと数多の歌はいうけれど、こんなに不安にさせる想いだとは知らなかった。
 彼の笑顔が愛おしい。
 彼の声が愛おしい。
 彼の優しさが愛おしい。
 彼のすべてが愛おしい。
 その愛おしさは幸せな気分になせるものではなく。
 不安を培うだけ。
 こんな想いをするなら、恋なんてするんじゃなかった。
 不安に潰されるくらいなら、恋なんてするんじゃなかった。
 自然と涙が出てくる。
 せっかく今日は久しぶりにアル君に逢えるというのに。
 なんでこんなに不安なんだろう。
 なんでこんなに涙が溢れるんだろう。
 彼は私のことを好きじゃないのかもしれない。
 それでも私は彼のことを好きでいられるの?
 そんな疑問が脳裏をぐるぐる。
 鏡に映る涙の少女。
 そのとなりに彼の笑顔は釣り合うんだろうか?
 不安だよ、堪らないよ、アル君。
「おや、どうして泣かれてるんですか?」
「ひ!?」
 振り向けば、他でもない彼が立っていた。
「お店の前で待っていたら晃さんに中に案内されまして。あ、晃さんならゴンドラで気分転換に行かれましたよ」
「い、い、いつからそこにいたの?」
「鏡を見つめ始めたくらいからですかね?ノックもしたんですけど」
「の、ノックに反応してないのに、中に入らないでよ、アルくんっ!!」
「そうそう、藍華さんにプレゼントがあるんですよ」
「人の話を…え?」
 彼が右手を差し出す。
 そこに握られていたのは、ピンクゴールドのリング。
「…アル…くん?」
「はい、婚約指輪というやつです。受け取ってもらえますか?」
 私はなんて馬鹿だったんだろう。
 自分の思いを信じられないなんて。
 恋をしなければいいなんて。
 そうよ、きっと恋をしなければ、私、前に進めなかったんだ。
「うりゅうりゅうりゅうりゅうりゅ」
「な、泣かないでくださいよ、藍華さん」
 私はこんなに素敵な恋をしてるんだ。
 確かに恋は不安を呼ぶけど、恋に後悔をしちゃダメなんだ。
「私、アル君が好き」
 言えなかった言葉が。
 苦もなく口にできた。
「はい、僕も藍華さんのことが好きですよ」
 恋って最高だ。

【15】その笑顔咲く水面は

 アリシアさんのメールによく登場する晃さん。
 初めてなのに、一目でわかるそのお姿は、貫禄を持ったお人でした。
「さぁ、いきますよぉー」
 オールを握る手に力篭る。
「……良く知ってたわね、梓さん」
「うふふ、アリシアさんから色々聞いてますから」
 私がほくそ笑むと。
「すわっ!何を聞いたんだ!?まさか、あの時の…いや、あれはまだ…しかし、アレは…うむむ……」
「ぷ、あはははははっ!」
 動揺する晃さんのそのお姿に、クールな亜夢ちゃんも噴出し笑い声を上げる。
「ふっ、あははははははっ!」
 それを見て晃さんも笑い声を上げる。
 ゴンドラを埋める笑い声と笑顔。
 素敵な笑顔。
 私もあんな笑顔で笑えているのかな?
 笑顔を彩るのは木漏れ陽。
 笑い声とオールが生み出す水の音が周囲を包み。
 それは、とっても素敵な『素敵空間』。
 みんなにも味わってほしい、その空間。
 人がいるから、生まれる空間。
 この空間は、とっても素敵だけど。
 素敵なのに、その空間はとても儚くて。
 決して永遠には続かない素敵空間。
「…あれは、藍華じゃないか?」
 晃さんの声に思考から抜け出した私の視界に映るゴンドラには。
 藍華さんと黒尽くめの男の子。
 そこにもある、素敵空間。
 二人の柔らかい微笑みは眩しくて。
「…あちらの男性は誰かしら?」
 藍華さんと仲の良い亜夢ちゃんも興味津々のご様子。
「あれはアル君だ。藍華にとって大切な人だ」
「ふぇー」
「ほぉー」
 藍華さん……年下好みなのかな?
 ゴンドラは互いの顔をしっかりと認識しあうほど近づいた。
「晃さん!?なんで!?今日はお休みのはずでしょ!?」
「藍華…お休みだから、ここにいるんだ」
「くぅ〜!」
 藍華さんの視線は晃さんから私たちへ。
 …あら?
「うぅ〜…あんたたちには見られたくなかったわ…」
「藍華さん、ご婚約されたんですか?」
 私の声に明らかな動揺を見せる藍華さん。
「な、な、な、なんで!?」
「指に素敵なリングが♪」
「あはは、お嬢さん、鋭いですねぇ」
 アル君は笑顔を浮かべる。
「…な、なによ、悪い?」
 藍華さんは顔を真っ赤に染めて、そっぽむく。
 その姿がかわいくって。
私は思い切りの笑顔を浮かべるの。
「藍華ちゃん、おめでとう」
「「「アリシア(さん)の真似をするなー!!!」」」
 笑顔、神様が与えてくれた最高の宝物。
 儚くてもいい、小さな、ひとつひとつの笑顔を私は大切にしていきたい。

 それが過去から逃げた私への贖罪。

『へぇ〜、藍華さんがとうとう!私がアクアに行くときには結婚されちゃってるのかな?藍華さんの花嫁姿見たかったなぁ。私、梓お姉ちゃんの笑顔大好きだよ。だから、梓お姉ちゃんは、いつも笑顔でいてね』

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

深鏡椋の小説まとめ 更新情報

深鏡椋の小説まとめのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング