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25夜物語コミュの25夜物語 12

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どうやら母校は廃校になるらしい

同窓会事務局から頻繁に手紙が届いていたが・・・
もう私には関係ないこと



ある日懐かしい方から手紙が届いた
教授からだった
病気という噂を聞いたけど・・・


文面は最後の研究論文を作成している
ついては現場の君の感想を聞かせてくれないか
美味しいコーヒーも飲み納めと思ってきて欲しい
5月○日午後5時に私の研究室にどうぞ・・・



母校に遊びに行ってきます

上司は怪訝な顔をし、その後笑って言った
君の学校はもう取り壊されてしまったじゃないか



教授にお茶を誘われたんです
美味しいコーヒーを頂きに行くんです

上司はいぶかしげな顔のまま休暇願いを承諾し判を押した



母校は私鉄沿線の小さな駅からバスに乗る
バス停を降りると懐かしい丘
母校の建物は遅い午後の光の中で飄然とたっていた



工事間近なのだろう
正門には立ち入り禁止の看板が張り付いている

私は通用門から敷地内に入り込み教授のいる西棟3号館4階に向かった
建物の中は薄暗く人の気配はない



エレベータは使用禁止の張り紙

・・・ったくもう



階段を駆け上り4階についた頃は息があがりうっすら汗ばんでいた
教授の部屋は一番奥の突き当たり
長い廊下は薄暗く冷たい風がどこからか入ってくる



教授室のドアの前に立ちノックする
ドアは静かに開き教授の懐かしいお顔が
卒業の頃と変わらぬお姿



長身痩躯、髪の毛に白いものが混じって入るが相変わらずの蝶ネクタイ
懐かしさとこわさを漂わせて
先生はドアを開け招じ入れてくれた



論文の原稿を見せていただいた
少し古めかしい印象
もちろん口に出して言わなかったが



先生の淹れてくださるコーヒーはいつも美味しかった
それ以上に魅力的なものを私は知っている
先生ご自慢の銀のアンティークスプーン
ご自分のカップにお砂糖を入れゆっくり優雅にかき回す



やけに静か・・・

スプーンとカップの音

コーヒーの香り

窓の外はいつの間にか夕闇

そろそろお暇しなくちゃ・・・



教授は疲れているのかしら
髪の色がさっきより白く見える
頬の色が蒼く感じる
お加減悪いのかしら?



今日は来てくれてありがとう

君にこのスプーンを記念にあげよう

え?

有無を言わさず教授は私の手にその美しい銀色の細工物を握らせた

その手の冷たさといったら・・・



スプーンをバッグに仕舞うのを見届けると
ご自分のデスクに向かい椅子に深々と座る
それは学生時代の頃からの合図

出て行きなさい、だった



教授室のドアを閉めると私は階段を降りた
不思議なことに外はまだ午後の光が残っていた
教授室の窓から見た夕闇は勘違いだったのかしら



バス停まで振り返らず歩いた
バスに乗り私はゆっくり母校を振り返る



そこに建物はなく

正門だけが夕焼けの茜に染まっていた




25の短編  第12作 .正門




『  茜  』 という題で書き上げたものの再掲

少しだけ修正しました(汗

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