山　都　町コミュの新町の歴史について

新町と言っても山都町浜町字新町のことです。新町の道路美装化工事が完成したことを祝って、去る１１月２５日に「新町祭」が催されました。

その際に、「新町祭」案内折り込みチラシに新町のことを書いてくれと主催者から頼まれました。書くのはいいけど、おそらくスペースの関係で字数は限られると思い、全部は記載されないことを見越して書き留めておきました。

新町建設

　慶長１７年（１６１２）愛藤寺城が取り毀された後に、愛藤寺町から商人が仲町に移り住んで商店を構えたのが浜町の起こりであると伝えられています。時を経るにつれ浜町は発展し、元禄１３年（１７００）惣庄屋矢部勘右衛門重政は新しい町（新町）造りを藩に願い出て、同１４年（１７０１）に許可され、翌元禄１５年（１７０２）に新町ができました。ちなみに、忠臣蔵「元禄赤穂事件」の討ち入りが行われたのが元禄１５年１２月１４日です。

金比羅さん

　新町の中央北側の丘の上に金比羅さんが祀られています。金比羅さんと云えば、海の神様です。何で、こんな山地に海の神様である金比羅さんが祀られているのでしょう。それには次のような訳があります。

　今から遡ること２６５年前、第６代藩主の地位についた細川重賢は、後の世で云う「宝暦の改革」という藩政大改革を行いました。特に、矢部地方に大きな影響を与えたのが、「地引合せ」と呼ばれた検地です。これにより、太閤検地以来少しずつ増加した隠し田等がもれなく摘発され年貢の対象とされました。従来この隠し田からの収穫が百姓の余録となっていたものが根こそぎ摘発され百姓の生活は疲弊しました。それと連動して在町である浜町の購買力もたちまち低下しました。

　そこで、浜町の商人たちはときの惣庄屋間部忠兵公豊を中心に新しい産業の開発を行いました。それが養蚕であり製糸業でした。これが成功し、下市に設けられた物産会所には常時商家の娘たちが２、３０人ほど家内手工業の製糸を行っていたと伝えられています。

　ここで生産された絹織物は、藩主から「丹後縞」と命名され、天明２年（１７８２）には、備前屋（通潤酒造の前身）の野尻清九郎が五百石の船を買い求め、これに「小一丸」と名付けて矢部のこれら物産品を川尻の支店から船で京阪神方面に輸出しました。

　このように、貿易を行った関係で海の神様である金比羅さんが祀られることとなりました。しかも、この金比羅さんが祀られている位置は、備前屋から見て北東の位置即ち丑寅鬼門の方向です。昔から、鬼門から鬼が出入りすると云われています。この備前屋の鬼門の方向を守護しているのが金比羅さんなのです。

　先ほど、船の名前を「小一丸」と付けたと言いましたが、この「小一丸」と云う船名は、「小一領神社」の社名から名付けられました。そこで、野尻清九郎はそのお礼に狛犬２体を大坂からはるばる取り寄せて小一領神社に奉納しました。現在小一領神社の社前にある狛犬はその時の狛犬です。「寛政元年（１７８９）酉五月吉日奉献　願主野尻清九郎」と彫ってあります。

極楽寺地蔵

　例年７月２４日は、新町の地蔵祭です。新町の金比羅さんへ登る中腹に安養山極楽寺地蔵が祀られています。このお地蔵さんは、今から３０８年前の宝永元年（１７０４）第６代矢部惣庄屋矢部勘右衛門重政が延命無病息災、諸難削除を祈念して自らノミを振って彫刻したものであると伝えられています。このお地蔵さんは別名「火伏地蔵」とも呼ばれています。

　それは、享保１６年（１７３１）１２月８日、浜町に大火があって、下町、本町、横町、新町が焼失しました。その後、新町の人たちは、このお地蔵さんを祀って火難消滅の結願を行いました。そのためか、宝暦４年（１７５４）の大火の時は、新町は火難から逃れたと云います。その言い伝えから「火伏地蔵」と呼ばれています。

　このお地蔵さんで、何よりも忘れてならないことは、このお地蔵さんを彫った矢部勘右衛門重政が前述の新町を造った惣庄屋であるということです。

柳本大明神

　小一領神社は以前は、柳本大明神と呼ばれ新町の「川万屋」の裏庭にありました。現在そこには、南天の木が植えられています。

　柳本大明神は、寛仁２年（１０１８）阿蘇大宮司友仲によって創立されたと伝えられています。その神域は、現在の新町、下市および仲町に及ぶ広大な区域でした。神名が示すとおりこの地には、柳の大木が立っていたと云われています。柳は水辺樹木の一つでありますので、この一帯が湿地帯であったことが窺われます。

　小一領神社への社号変更の由来は、天文５年（１５３６）御船城主本郷安房守房行の叛逆を誅するため、当時の大宮司阿蘇惟豊の長子千寿丸が初陣大将として柳本大明神に小具足１領を奉納し戦勝祈願を行ったことに因みます。

　時代は下り矢部が小西行長の領地となった折り、神社仏閣はことごとく破壊され小一領神社（柳本大明神）もその被害にあい、記録、宝物、奉納の小具足、太刀等も灰燼となり、その後数十年は社殿は荒れ果てていました。元和７年（１６２１）井手玄蕃允豊治によって、現在地である仲町に移転再建されました。

妙見の大ケヤキ

　柳本大明神が新町に在った頃、この辺一帯を「宮原」と呼んでいました。この「宮原」という地名も柳本大明神の存在から名付けられた地名だと思われます。その柳本大明神の西の御手洗が下馬尾の塩井手ケヤキが有ったところ（現在の正福寺正門東隣）です。そして東の御手洗が、現在妙見のケヤキがあるところです。塩井手のケヤキは、残念ながら火事で焼失しました。妙見のケヤキも、平成１５年１月１２日に倒木しましたが、横倒しの状態で今でも毎年新芽が出ています。

　この大ケヤキの根本近くを通る道が、日向往還と呼ばれる道です。長田から下馬尾へ下りた日向往還は矢部広域病院の前へ出て、堂上建設の裏を通り通潤酒造の裏からこの妙見の大ケヤキへと出ます。この後、役場の前を通り赤禿旅館の前を通り矢部高校正門前を横断して五老ヶ滝川を渡り畑の地蔵坂へと通じます。妙見の大ケヤキの近くには、当時を偲ばせる猿田彦塔（万延元年（１８６０））が建っています。

　

元禄井手

　矢部葬儀社さんの前から旧「山水」そして水道町を経て下市交差点角、さらには坂本クリニック裏を抜けライフライト横を通り小一領神社地下を抜け旧会所へと通じている井手のことを「元禄井手」と称します。

　元々この井手の用水は、桐原の堰から取り入れていましたが、現在は片平井手や大川堰井手のあまり水が利用されています。昔の桐原付近に於ける轟川は、中村倉庫寄りを流れており現在の町立図書館の台地を迂回していました。よって、この辺を今でも古川町と呼びます。赤橋が架かっている川は、後年人工的に掘られたものです。

　旧「山水」まで流れて来た井手は、さらに水道町に築かれた塘を伝って下市へと流れていきました。この塘が在ったことから水道町という地名が名付けられたと言われています。ところが、交通事情の変化に伴い、その塘も邪魔になり昭和８年に取り壊されて水路は地下に埋設されました。

　水路地下埋設に当たりましては、通潤橋の原理がそのまま利用されています。

すなわち、旧「山水」から用水を地下水路に落とし下市の交差点近くの吹上口に吹き上げさせるという連通管の原理が用いられています。途中、中ほどに当たる東渡辺病院の裏手には吹上（砂出し）塔が建っています。水路に溜まった砂はここから轟川に排出されます。　