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文芸・創作コミュのなにはともあれ最近書いたの読ませてください

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 文芸、という言葉が好きです。
 文学、という言葉より。

 創作、といってもつぶやき型エッセイもあれば、小説なら長編も短編もある。
 ジャンルの区別などつかないのだってある。

 もう文章の時代なんかじゃない、と言われたと思ったら、これからは新しいカタチの文章の時代だとも言われたりしている。ワカラナ。

 分からないけど、とにかく書きたい人が多いことはたしか。
 あなたも、私も、そう。

 じゃあ、なにはともあれ最近書いたの読ませてください

 言い出しっぺの私のは、長くて済みませんが・・

      −*−

ワンダフルライフ


 ワンダフルライフ、という日本映画を観た。
 観たといっても、映画館での鑑賞ではないのが残念。
 今文章を書いているこのスクリーンでDVD版を鑑賞。

 たしか発表の年に、似たようなタイトルのイタリア映画があった。
 話題がそちらに行っていたなと思い出した。
 そういう経緯もあってか邦画とはいえ、知らない人が多いだろう。
 たまたま私はある映画を観たときに予告編案内で知った。
 そのとき、考えられた企画だなぁ、と気にとめたのだった。

 映画は、アメリカ、イギリス、フランス、イタリアはもちろん、中国も韓国もイランも、と各国に目を惹く作品があるのは嬉しい。
 もちろん日本ものも、新旧とりまぜ偏らず観ることで何か得たいと考えている。


 この「ワンダフルライフ」のこの映画を創った是枝という監督作品は、後年「誰も知らない」があり、フランスのカンヌ映画祭で若年の最優秀男優賞をとったことは各方面で報じられた。
 今年の夏休みに、そのドキュメンタリータッチ作品も観た。現代社会の片隅の、特異な親子風景に呆然としたばかりだった。実際にあった事件が元にあるという。

「ワンダフルライフ」はあの作品とは違って、ドラマ、それも空想世界のお話である。
 “ あなたの人生で一番思い出に残るシーンは何んですか? ” という問いがテーマである。

 死の先(天国)へもって行きたいほどのひとときを思い出して欲しい、と言われれる。
 誰が言われるか?
 つい先ほど亡くなった人たちが、である。

 今し方、生前の世界を去って、あの世への玄関先に立った人たちが、ある建物の玄関をくぐる。そしてそれぞれが、担当者にこの質問を受ける。

 おとずれる者は必ずしも長寿をまっとうした人ばかりではない。
 十代二十代も、男も女もいる。
 様々な生活を終えて、あるいは人生半ばで、来た。

 そこでは、各自が回想する思い出のシーンをドラマにして、撮ってくれる。
 それを胸に、一週間後の初七日に、永遠の安住の地天国に向かう。
 だから3日間のうちに、ワンダフルな自分の人生の1シーンを是非思い出すようにと言われる。

 一方、問いながら記憶をたどらせ、ドラマとして創作してくれる側の者たちはといえば、死者皆にあるはずの思い出のシーンを思い出せない、あるいは思い出したくないで何十年も、天国に行けぬ居残りの死者だという。

 しかしそれらの者たちも、誠心誠意他人の思い出記憶を共有しながら、毎週毎週ドラマを創りあげるなかで、自身の過去を精算する機会にめぐり会う。魂の安らぎにより自らも天国へ去るのだ。


 この映画を観ていると、おそらくたいがいの人が、さて自分のここまでの人生最高のシーンって、いつの何んだったろうか、と自問したくなるはずだ。

 なかである会社員の男が、「ごく平凡な生活だったものですから別にありませんなぁ」とつぶやく。
 観ている私は、まさか自分はそんな何も無いなどと情けないことは言わないはずだと、一瞬思う。
 だが、生きている今の自分は日頃一番何が楽しいか? と自問してみると、さてどうだろう。意外にも即答できないことに気付く。これは私だけだろうか。

 日頃、冷静にかつ仔細に世の中の物事を見極めようとして知識情報をあさっている。
 でも、と言うべきか、それだから、か。印象とか、思いや感じを、自分自身の心の内面の活動として自覚、つかみ取ることは少ない。つい見聞きの他人言葉をならべては、「と私も思う、考える」などとしたり顔で済ませてしまう。
 そんなわけで、部分的に見て正しいか間違っているかを問題にしては、言葉で立証しようとする。思えば、何と意味の無い、つまらないことか。

 楽しい、面白い、素晴らしい、美しい、というようなきわめて単純で率直な自分だけの思いが無い。浮き浮きする気持ちなどを体感できないで終わる。
 だからいつも自分だけの思いが噴き上がってこない。つまり「楽しいこと」が自覚できていない。

 それは、どうも左右の脳の働きのアン・バランスから来ている気がする。
 左脳は理論的で理性的な言動を司り、右脳は見たまま感じたままの印象や思いを抱く働きをするの、俗に言われる左脳右脳の話だ。
 左脳が幼い頃からの教育という訓練によって、活発に役をこなす。
 その割に、右脳が鈍っていて、感情感性が退化、乾燥してしまって、潤いがないような気がするわけだ。

 この状態を文学ふうに喩えれば、正しいことは分かるが美しいことが分からない、となろうか。
 また、かくあるべきと知ってるのにそれはなぜ楽しいか感じとれない。
 または、理解することは出来るが愛せない。
 理論的でないから面白くない。
 整い具合は分かるが好きにはなれない・・などなど。

 こういう人間としてできあがるのか。
 自分を思うに、理性のブレーキが効きすぎて、感情はでのめり込めない、という気がする。
 このブレーキが一般的に「大人になる」と言われていることではないだろうか。
 子どもの頃は誰でも感性豊かな芸術家だ。それを大人になっても持ち続けているいることが難しい。とはピカソの言葉だった気がする。
 たしかに、子どもの頃は、恥も外聞もなく、いいものはいい、と叫ぶことが出来た。

 だのに、そんなことをしても儲からない。何の意味もない。はしたない。損をするだけだ。時間の無駄。幼稚だ。ばかばかしい。気恥ずかしい。失礼だ。ヒマがない、忙しい。だから・・つまらないことで、関心をもつことはないまま、次々に通過してしまう。

 こうした声をあびながら、あるいはあびせながら、ここまで来てしまったのだと思う。となると、正しいけれどつまらない人生、の方向に偏ってしまう。
 そうなれば、楽しいことは「別にありませんでしたなぁ」と成るも仕方なし。

 そういえばあるとき、「他人に迷惑をかけない人間になるのが人生目標」であり、子ども教育の第一方針だと言う人の多いのに驚いたことがある。

 私などの世代は、どちらかというと無駄なことほど面白いものだと育った。
 心のどこかに悪戯っ子居て、茶目っ気に育つことがまだ許されるおおらかな時代だったのかも知れない。
 だからまずは自分の人生は満足や充実を求めるべきものと実感してきた。
 自分でそういう思いがきちっとあってはじめて他人にも共感できる。また分けあうことも出来ると。無いものは、感じるも分けるもない。

 そういう生き方のための「方法の一つ」として、ハメを外しすぎて他人に有害な行動に及ぶことは結局損になるから覚悟せよ。あるいは自己責任であるぞ。という躾があった。
 つまり注意事項ではあるが人生の主目的ではない。主と副が入れ替わってはまさに本末転倒、つまらない注意事項人生になってしまう。
 人は迷惑をかけないために生きているわけではない。
 自分の思うことを精一杯成すために人生があるのだ。
 だから夢や希望を持て、ということだろう。

 もっとも、迷惑、という基準も、時代と共にかなり変化してきている。
 昨今の様に、何事にも敏感で神経質で、皮膚の皮がきわめて薄くデリケートな、リスク(危険)回避第一主義の時代では、他人の目線視線はもちろん、咳払いもくすくす笑いも、ましてパロディーやジョークなどでも、心に傷を負う人が居る。

 ところで、誰にでも遊び心というものがある。
 だが、遊びはどれもみなよくよく考えれば、さほど勉強になり為に成る有効だというものはない。
 逆にまた、勉強になるからと言われる遊びに、さほど面白いものはない。
 栄養になるから食べなさい、と言われる健康食に美味しいものは少ないのと同じに。

 自分自身が、面白い、楽しい、嬉しい、美しい、心が打ち震える感じなどを味わうのと、有意義で役立つどこかの他人の知識情報を実は自分以外の誰かの為に修得するのと、どちらを優先させられて育って来たか。
 それは案外今どきの、電子掲示板環境に並ぶ文章になどよく現れてる気がする。
 自身の心の充足感や開放感の受け方や記憶する対象にも、かなり違いがあるのではないだろうか。
 左脳がかくかくしかじかの意味があるからと承認したことを、素晴らしいとか感動とする人も多く、とにかく最高だと叫ぶ何かを感受しえていなかったりしている様なのだ。さて自分はどうなのだろうかと考えてしまう。
 思うに、人間の心は経験すべき年齢には、感じて思って笑って泣いて、怒って憂えてを、ちゃんと済ませ卒業すべきだなのではなかろうか。
 つまり右脳をしっかり発育させておくべきなのだろう。

 面白いこと、楽しいことを経験すると、この世の中には自分が楽しめそうなことがけっこうあるものだと気付く。それは意外にもその辺にころがっている、という能動的なエンジョイ型の身のこなしが身につく気がする。
 私などでも、ちょっと工夫すれば石ころひとつでも、何かかにか面白いことが出来る(書ける)と今でも信じていて、けっこう夢中になれる。


 むかし読んだ本に、戦時中のある国に反体制派の政治犯が囚われていたときの話があった。
 彼らは収容された刑務所で毎日労働を強いられ続けた。
 ところが終戦とともに解放された彼らの様子を見ると、ある一角のグループだけは少しもくたびれた様子がなかった。目までが輝いて、しゃんとした足取りで出てきた。
 解放した側の者が、不思議に思って留めて問いただした。
 すると、彼らは囚われていたことも終戦の事実も、ほとんど意識になく、そうか終わったのか、というありさま。

 いったいどういう生活をしていたのかと調べた。
 すると、彼らは毎晩食後のわずかな時間に、宿題課題を出し合ったという。
 それを翌晩に意見として交換した。
 その場で疑問が出れば、互いにまた課題にする。
 苦役労働のさなかでも、頭のなかは自分の課題の練り上げに夢中。
 労働で肉体の苦しみを感じている余裕が無かったらしい。
 課題を解決して今夜の話し合いに説くと、論敵はどんな意見で攻めてくるか。
 自分はどの点が考え及ばないとそうなるか。
 などということばかりを考えめぐっていたという。
 そうした日々を送ってきて、ふと気付いたらここを出ろと言われたのだと。

 というわけで、これなどは何も無いでも夢中になれることの驚異ではなかろうか。
 思えば、人生は気の持ちよう、という言葉もある。まさにこれなど最高の例である。
 彼らを端から見れば、なんとつまらないことで時間をロスっているのだろう。さっさと寝て、きちっと起きて、しっかり働け。と言われそうだ。

 私たちは大人になるということを、深刻に、もったいぶって鷹揚に、難しく、礼儀だ道徳だと、複雑に、かつ周囲への配慮を二重三重に考えるくせが付いてしまっている。
 だから理屈抜きで楽しいとか面白いなどと口にするチャンスはほとんど無いのかも知れない。

 ワンダフルな人生のシーンを自覚するには、あまり小利口に先を読まず、小賢しく振る舞って通過することなく。
 ワンダフルライフとは、右脳の楽しさ指向の人生へ、左脳が協力する程度のことではなかろうか。
 好奇な心のおもむくままに、寄り道も道草もしながら見つけだし、心が弾けるほどにエンジョイしたいと思うのだが、いかがだろう。

 さてここで、人生で一番楽しかった瞬間は?

コメント(50)

   みやんさんこんにちは


☆東京ベイサイド・ミッドナイト☆
序章 俺のジコショ
一章 ? 海の側じゃないと
一章 ? カリョウ

 −−読ませていただきました。
 こういうミッドナイトの「濤音(なみおと)公園」の気分をどうイメージしてお書きになるのでしょうか。なかなかムード派なんだなあ。
 私的な年齢世代の者にもこうした気分に浸りたい孤独の楽しみはなんとなく分かる。
 と同時に、共感型のJ-POPのなかの気だるい音楽のつぶやきも分かるような気がする。
 夜、海、月、星。そして自分好みの女のコ。
 このアイテムを俗に墜ちずにいかに輝かすか。乞う期待!
   歪さん こんにちは

「唇重なるその前に」から「類義語」まで、読みました。
 歪を、ひずみ、ゆがみ、どう読むのか。
 いずれにせよこの歪の意味が、作品を読んで少し分かった気がします。
 末尾の一言。
 あれって、醒めているのか、それとも演じきれない照れ隠しなのか。
 その辺りがビミョウでおもしろい。
   無明さんこんにちは


 凶事にあらず、 新雪の後、 日常の狼、の3作を拝読いたしました。
 かなりご自分のカラーをお持ちのように感じますが、ご本人としてはいかがでしょう。
 幸福な気分にはなれないけれど、知的な脳細胞をもって書かれたどこか満たされない抑圧感が漂い、それがまた作品を引き締めているのか。
 油断ならない興味をもって読みました。
http://ameblo.jp/sumishi/entry-10004679813.html

短いですが。
「背伸びをしたことがなかった少年」
みなさん初めまして。宣伝させて下さい。

ミクシの日記機能で細々と創作を続けている者です。
まもなく、1年越し(単に途中サボってただけ)の作品が完結するので、良かったら名前をクリックして遊びに来て下さい。

タイトル:
「マジカル戦隊M.O.G.」

タイトルからは想像もできない物になってしまって、書いた本人もびっくりしています…
(^〜^;)
 読んでます。しばらくお待ちを・・
楽々さん、こんにちは。
偉そうなことばかり言って自分の創作物を見せないのもアレなんで、10月一杯、ブログで小説の連載を始めました。

「ゴーレム」というタイトルです。
肩の凝らない馬鹿小説なんで、もしよろしければ見に来てやってください。

→ http://plaza.rakuten.co.jp/monjudoh2000/
  真中ケイさん こんにちは

「背伸びをしたことがなかった少年」読ませていただきました。

 ジャンルとか形式という枠などどうでもいいのでしょうね。
 とにかく、切なる思い、それはどうもうまく言葉にならないけれど確かに有る。
 そういう実感がこもっている様な気がしました。
 書き始めた青年、ということかもしれませんね。

 
  みゅんひはうぜんさんこんにちは


 マジカル戦隊M.O.G.を読ませていただきました。
 長編ですね。まづはその根気に感服です。
 正直まだ読み終えておりません。
 この先何かコトが起こるのか、と思いながらでした。
 SFというだけではない何かがあるのでしょうね。
   冬寂庵さんこんにちは

「連載小説「ゴーレム」-プロローグ- (3) 」を読ませていただきました。
 アメ車、トラック野郎、演歌、ひじき、の流れの雰囲気がとても興味をひきつづけるかな、というところまでですが、この先どこかビジネス系事務所系へだが・・・この先どおうなるんやろか。

 
>楽々サマ こんにちは。

どうも〜!読んでいただけてまず感謝!無意味に長くて申し訳ないです。
(^〜^;)

おかげさまで最終回をやっとこさアップできました。これで続きが気になって夜も眠れないなんてこともないはずです(もともとそんなことはないですかな…ホホホホホ)。

自分で読み返してもげっそりするような量と内容なので、おひまなときにでもお付き合いくだされば幸いです。ホンマにありがとうございました〜。
(^〜^ )
最近書いたものは出版社との約束で見せられませんが、現在鮎川賞最終候補に残った作品を連載中です。名前をクリックして見にきてくださいませ。
 じゃこれー。よろしくー。
http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&key=20060126000111
はじめまして。
いつもは仕事で企画書ばかり書いています。
しかし次第に私的な文章への思いがつのり、一昨年からブログをはじめました。
ビジネス系のつれづれや雑文中心ですが、どうぞご覧ください。

ブログURL
http://p-style.ameblo.jp/

「雑多な霧」カテゴリー
http://ameblo.jp/p-style/theme-10000255808.html



「・・・で、フゥ・・・

私に記憶を消して欲しい、と言うわけですね。」



目の前に腰掛けている男に私は言う。


「はい・・・もう辛い思い・・想いはもっていたくないんです。」



男が膝の上でこぶしを作りながらそう、小さく言った。





場所は、場末の暗い、私の部屋。

私と、一人の男。




部屋には小さな鳥かごに九官鳥と、子犬が一匹いる。


男は、私の『患者』にあたる。




私は「記憶」を買う。

男は「記憶」を売りに来た。




人には、”抱えきれない記憶”というものが誰にでもあるようだ。

需要は、まぁ・・・多い。


売りに来られる記憶は様々である。


楽しい記憶を一端自分から消して、もう一度新鮮な気持ちを味わうためにここを訪れる人間もいる。

秘密を知ってしまい、それを消されに連れられて来る者もいる。しかし、



そのほとんどが哀しい、辛い記憶ばかりである。






「・・で、フゥ。どんな記憶を消したいかもう一度教えていただけますか。」



「あ・・・言わなきゃ、、駄目、でしょうか・・・?」



「そうですね、私が『記憶の検索』をしなければならないので。」



これは本当である。


私がその記憶を把握することで、消す対象を特定するためだ。

私であっても辛い記憶を見せられる事は、正直、気が重い。

しかし他人の楽しい記憶を延々と語られることも辛かったりするのが事実でもある。


そして、消された記憶、正しくは、
私に『売られた記憶』は、私によってまた他へ売られることになる。

他人の記憶を見たがる、まぁ、よろしくないご趣味をお持ちのお客様は、皆そろって権力と財力もお持ちである。


   おかげさまで私は生きている。


たまに、病院から要請があり、記憶障害を持った患者にこれを与え、自らの記憶と混ぜ、リハビリのための捏造を行うことも出来る。


おおっぴらに立派とはいえないにしろ、
社会貢献も、、、まぁできているのではなかろうか。



「で・・・フゥ〜・・。ではお願いします。」



「・・・はい。私の、恋人であった人の、記憶です。」


男は語り出した。
















男には想っている女性がいた。

心の底から愛したいと思える女性が。

やがてその女性も男と共にすることが多くなっていった。


しかし、男の家系は由緒ある血筋で構成されるためにと、婚約者を政略的に決められてしまっていた。

婚約者は男を愛していた。
許婚で、学生時代を共にし、男を慕っていた。

しかし、男は、決められた気持ちなど、理解できず、
掟に耐えられずに、
家を、婚約者を、捨てて、想っている女性と逃げいった。


しかし、この女性は

男と生活を共にするや否や、素行の悪さが目立ち、他の男と出て行ってしまった。


男は落胆し、家へと戻った。




そこで待っていた家の者が言うに、

分かったことは、

婚約者は最期まで男を愛しており、帰りを待っていたこと。

来る日も来る日も連絡を待って、独り泣いていたということ。

そして男の帰りをついぞ待てずに、

どこかへと消息を絶ってしまったこと。



そこで男は気づいてしまったと言う。



当たり前であった心に反発していた自分と、

本当に想っていてくれたのは誰かということに。


男は婚約者を待った、もう帰ってこないと解りながら。

そしてついにその苦しみに辛くなったと言う。









私はそこまで聞くと


「・・で。わかりました。ではその女性の記憶を消しましょう。よろしいですね。」


と言った。

「・・・お願いします。。」


と男は静かに立ちながら言った。




また別の椅子に男を座らせて、機械を頭に取り付ける。

私は言った。

「フゥ・・・。では記憶の削除吸収にかかります。先ほどもお伝えしましたが、一度消しますと、もう本人には拒絶反応が出ますので同じ記憶は戻せませんが、それでもかまいませんね?」


「・・・はい。わかっています。」



「・・・では・・フゥ。。始めます。」

と言い、スイッチを押す。




「30秒後に完全に削除します。」


と男に伝えた。


男は目を閉じて言った。



「・・・低血圧っぽい話し方は変わっていないね。」



そして私の眼を見て続けた。






「君が僕の記憶を消してしまったと聞いたときは、哀しかったよ、ごめんよ。君のこと、気づけなくて、ごめんね。

もう一度、今度は本当に忘れてしまうけど、記憶があるうちに会えて、嬉しいよ。

もうすぐ、他人だね・・・。」




そうアタシに言った。



機械は止まらずに、彼の記憶を吸い取ってしまった。


彼はぼんやりとしたまま、此処にいる理由も忘れてしまった。




私はこの男の記憶など無いが、理解できなかったがなぜか

涙が止まらなかった。


昔から飼っている九官鳥が

男の名前を言いながら鳴いた。




                         
                         』
タイトル:「消えない名前」



 「それでは、あなたが思い出すものを話してください」
 彼の問いかけには、人間身より無機質な硬さを感じさせた。
 白い壁。白い天井。
 赤い机
 黒いイス
 そして、自分
「・・・それは、どこまで話せばよろしいでしょうか?」
 一番に出てきた疑問を問いかける。
 気になったから?確かに気になった。
 とりあえず時間を稼ぐことを。
「最初はあなたの判断に任せましょう。ここはとりあえず、思い出した事を一つ一つ」


「そう言われましても」
 自分には言う気がない。
 

 彼の言葉を遮断させだが、自分の言葉は最後まで言わなかった。

 彼の目線が軽く左へ流れる。
 彼の感情が少し表に。
「ここでは嘘は付けません。そう言った決まりがあります。」

 そして改めて自分のことを見つめ返してきた。それには機械的な視線を送る彼に戻っていた。目というより、単純な視覚センサーのような。

 見るというより、検知しているような。

「ここでは、あなたが感じたこと、覚えている事を話していただく義務及び責任があります。話したくない。覚えていない。そうおっしゃる方は大勢居ます。しかし、過去には例外なく全員がその思いのうち全てを語り、そして立ち去って行きました。あなたがここを訪れた以上、ここはあなたに質問をし、あなたはここの質問を答える。ここは、それを記録する。」

 

 彼の出力装置「口」が、改めて設定されていた情報「言葉」を空気を媒体とし送られて「聞こえて」くる。

そして、私は応答「返事」する。


「ここがどんな場所なのかがよくわかりました。ご丁寧な説明ありがとう。だけど、私には目的がわかりません。そう、あなたは何故私が記憶することを聞き、そして記録をするのですか?一体、何の目的があって」

「この場所に、その質問を答える義務はありません。」
 彼は私がやったように私を遮断してきて、
「しかし、答えない義務もありません。」
 ここから少し優しい口調で、
「この場所が、それを欲しているのです。」

 真剣な口調で、その言葉を放った。

「欲している?」
 そう、気になった。


「この場所はそういうところなのです。」
 それ以上は言わない彼。
「答えになっていないような気がします。少なくとも、私には理解から遠ざかっています。」

 彼の抽象的な表現。
 ここまでは機械的であった彼の言葉から信用できない程、
 人のぬくもりがあった。

ぬくもりがあるからこそ、

 あいまい過ぎて、分かりづらくて、
 適当で。


 それでも、気になって。



 私は、質問した。



 彼は答えた。
「話した通り、答える義務は無いのです。」
 その答えで、私は安心した。どうやら彼は人間のようだ。
 いくら機械的なふりをしても、人臭さのあるセリフをしゃべる。

 人がするような、嘘を隠すようなしぐさも見せる。

 それがあまりにも懐かしくて、私は急に居心地がよくなる。

 少し、肩の力が抜けた。


「・・・あなたにも、答える気がないのですね?」
「なぜ笑うのですか?」
 そんな単純なことにも分からないのが、人。
「考えてみて。あなたはそれが出来る。」
「質問の意図が」
「分からないのはお互い様ですよ。」
 嬉しくて笑ったのはいつ以来なのだろう。











 死んでからというもの笑った記憶がないのは確かで。

「笑うのは本当久しぶりなんです。」
 顔の筋肉が緩む。これが笑うということか。
 懐かしすぎて忘れてしまっている。
「死んでしまえば、無意味なものとなってしまいますからね。」
 彼の視線がまた動いた。
 興味がないような視線。
「興味なさそうな顔したね?わかりますよ。あなたには感情がある。」
 彼は軽く戸惑いながら、、いや、戸惑うそぶりをあくまで隠しながら、
「死んだ人の記憶を記録する。こんなことをしていれば身についてしまいますよ」
「もともと、あなたのものではないの?」
 彼はうなづきながら、
「ええ。後で気づいたら付いていたものです。人の姿形してなくとも、人の感情は付くようです。」

 彼は言った。

 人の姿形がどれだけ人の感情に影響与えているなんて知らないけど、「人以外」が人の感情を持つことって、どんな影響があるのだろうか。

 私はゆっくり、しゃべった。
「一つ、質問していいですか?」
 私が気になった、一つのことを。
「人の感情を得ることが出来て、後悔してますか?喜んでいますか?」

 その質問に、彼は悩んだ。

「答える義務はなさそうですが」
 しかし、私が一つ付け加えると、彼はしゃべった。
「欲しい、そう思ったことがありません。いらないと思ったこともありません」
 「人」らしく、彼はしゃべった。
「興味がなかったと、、そういうことですか?」

 私がおそるおそる聞くと、

「でも、触れるだけじゃ分からなかった事がわかりました。人の感情で、理解できない所が」

「できたのかな?」

「できましたし、できませんでした」


 そんなあいまいでわかりづらい彼の返事。

 それが、人の返事

 機械や、他には真似くらいしか出来ない。


 ゆういつ、人が出来ること。

 しょうもない特技だけど、

 イエスかノーか以上の得るものがある、その答え。


 私は、人と触れあうことに、改めて価値観を見出した。

 人って素晴らしい。


 死んでから気づく私はバカ。


 私はここに来たときと全く違った感情になり、なれたからこそ、嬉しくなった。

「わかりました。質問に答えてくれてありがとう。とてもわかりやすかったよ。」

 わかりづらい答えを、好むのも人。

「最後に、これから私の身の上話を始まる前に、あなたの名前を聞いときたいわ」

 ”他人”に興味を持つのも、人。

 理解しようとする。そして、自分と同化しようとする。

 それが、人。

「私は、あくまで、”ここ”という存在です、それ以上でもそれ以下でも」

「わかった。では、あなたをこの話をする間だけこの名前で呼ばせていただくことにする。死ぬ直前まで、一緒に居た人の名前で。・・・もう呼ぶことが無いから、今のうちに声に出しときたいの」

 彼は笑いながらそのくだらない私の提案を受けてくれた。

 
「いいですよ。少しいつもより時間がかかりましたが、そろそろ始めましょうか。あなたの生きてきた人生の記録作りを。この場所でそれを記録することにより、絶対、その記録は無くなることがありません。永遠に残り続けます。制限も無ければ、それが脚色されるようなこともありません。残したいものを残すのです。それでは、あなたが思い出すものを話してください。」

 私は”彼”と話しているかのように彼と話した。
 楽しいその会話に、終始時間の進みを忘れた。


 ”彼”の笑顔は、とてもステキで。
 



(了)




初投稿となりましたが、興味持った方など感想をお願いいたします。

 日記の方にもコメントいただいても結構ですので。

 
初めまして!

↓を参照願います。

http://mixi.jp/view_event.pl?id=8461733&comm_id=774068
一発書きですみませんが、書き込ませてください。

[世界の果てまで]

 彼女のブーツが軽快にアスファルトを叩く。それをBGMに、僕は肩からずり落ちそうなリュックを背負いなおした。
 潮風が僕の頬を撫で、目の前を行く彼女の髪を攫った。ふわりと舞う細い糸のようなそれに眼を奪われる。綺麗だ、と純粋に思った。
「誰もいないね」
 吐き出した言葉は、温度を持っていた。いや、正確には言葉それ自体じゃない。言葉を紡ぐ自分の息が、だ。彼女が歩むアスファルトのはるか下方ではさざ波が鳴いている。冷たいなにかを伴ってさざ波が潮風を運んでくる。彼女はマフラーをしていない。寒くはないのだろうか。
「そりゃあね」
 彼女の背中が答えた。
「誰もいなくて当たり前よ。ここは世界の果てなんだから」
 バーバリーのコートに身を包んだ彼女は、コルト社製の危険な玩具の入ったコートのポケットに両手を放り込んで適当に歩いていく。
「寂しくないの?」
「どうして? アンタがいるのに」
「二人だけだよ」
「二人だけね」
 風が吹く。いくら生地が厚いといっても、黒のパーカーだけじゃ僕の身体は温まらない。
 僕はお腹にぶらさげた彼女のリュックを握り締めた。物騒な物が詰まっている彼女のリュックはゴツゴツしていてあまり抱き心地がよろしくない。
 ふふふと彼女が笑った。
「悲しいの?」
 言いながら振り返った拍子に彼女の髪の毛が舞う。僕が彼女を「綺麗だな」と思うのは、きまって彼女の髪が揺れたときだ。髪以外に彼女に魅力を感じられないなんて、僕はなんて酷い男なんだろう。
 彼女は口の端を持ち上げて、彼女のもっとも苦手とする笑顔を作ろうとして失敗していた。
「後悔してる? 私についてきたこと」
 僕は二歩歩いて立ち止まった。彼女との距離がさきほどより縮む。だけどどうやっても僕は彼女へ辿り着くことはないのだという。ゼノンのパラドックス。二分法。
 昔の人はよくこんな意味不明なことを考えつくものだ。
「今更訊かれたって、もう引き返すことはできないよ」
「だから"後悔"なんでしょ? 取り返しがつくことなら、悔いる前に取り返すべきだわ」
「戯言はいいよ。どちらにしろ、取り返しはつかない」
 僕がため息交じりに言えば。彼女はとても満足そうに笑って見せた。嬉しそうに頷く彼女に、僕は肺いっぱいに吸い込んだ冷たい空気をゆっくりと吐き出す。
「わかってるじゃない」
 カチャカチャと鳴く彼女の玩具。黒いフォルムは随分前に見慣れてしまったものだけれど、自分に向けられると思ったことはなかった。
「僕を殺すの?」
 嘘だ。僕はわかっていた。いつか自分にも銃口が向けられるかもしれないということを。さらに言ってしまえば、僕はそれを望んでいたんだろう。楽しそうな彼女の顔に、ちょっとだけ哀しさを見つけて、僕の心は少しだけ晴れやかだった。
「何故?」
 それだけは訊きたかった。どうして彼女に僕を殺す必要があるのか、僕が死ぬ意味を――必要性を、彼女に求めた。
「何故?」
 バーバリーのコートが揺れる。
 黒のパーカーはやっぱり寒い。
「戯言はいいわ。どちらにしろ、取り返しはつかない」
 彼女は僕の科白を奪って、セーフティを解除した。パクるなよ、と僕が文句を言うと、彼女は哀しそうに笑った。
「愛してるの」
 ドン、と破裂音が脳に響いた。
最近、小説とは別に「一言集」というものを私のHPで書いてるんですが、
一種の詩なんですけど、もっと表現が直接的というか。
それに、「一言」というだけに一つ一つが非常に短いです。
ひとまず、今まで書いてきたものをここに載せてみます。

-------------------------------------------------

首輪を付けられない猫
首輪を付けられた人間




Always 第一印象最悪
しかし それを覆すことは出来る




失敗を恐れるな 失敗から学べないことを恐れろ




しらない しらない だれもしらない
ひそかな ささえを だれもしらない




やるべきことはある
なのに その切欠が見つからない
一歩を踏み出せない 臆病者




時々 分からなくなることがある
止まった時の中で 私だけが動いているのか
速すぎる時の流れに 私だけが取り残されているのか
時々 分からなくなることがある




震えが止まらない 私の体
興奮か 恐怖か それともただの病か




私はただ 人生という 長い長い階段を
押し黙ったまま 昇ってゆく
休日ともなれば家族連れで賑わうはずの特急列車は、水曜日の今日でさえまばらな人影を生んでいる。私は仕事の疲れをブランケットにして、通路側の一席を寝床にし、早々寝ようと思いついた。なにしろ昨日徹夜で原稿を仕上げたので、とても参っているのだ。今日ぐらいどこかに羽を休めに行かせろと思う。しかし学生の時分は一作でも登校雑誌に自分の作品が載ればいいほうだと思っていた。掲載というものがある限り私は骨身が消えても書き続けようと思う。

 箱根に向かう特急は白い車体におしゃれな線を二本引いて走っていくのだ。

 相模あたりでまどろもうと思ったが、売り子がうるさかったので終にお土産の饅頭を買ってしまった。はこね、と焼印を入れられているだけの十二個入りの簡素な白饅頭だったが、一個口に含んでみるとなるほど美味しかった。私は甘みについつい口をほころばせた。そうだ相模では人はあまり乗らないはずだった。旅に出るとしても私のように普通新宿から乗るはずである。こんなド田舎から温泉地に出るような人間など早々いないだろう。だから彼女がいきなり私の隣に立ち、軍刀を突きつけて退けといったときあまりに私が驚いたのは普通のことであって、驚くべきことではないのだ。

 現に私は完全に油断していた。

 相模で特急は止まり仕方がなくドアは開かれた。乗客はここで停車する不必要性について語り合ったり、箱根の素晴らしさについて楽しみを膨らませたりしていた。だからいきなり彼女がやってきたことに対して彼らもまた驚いたのはいたって自然である。

 彼女は正装のまま乗り込んできた。

 彼女は正真正銘の軍人であった。憲兵らしく、真っ黒な軍服を着込んで、腰に大仰な軍刀を差し、それと同じくらい目立つ量の徽章を軍服につけていた。あぁ、浅ましい美だなと思って私は目を伏せた。がつがつとえらそうに私の元へと歩く彼女を最大限無視しながら。

「おまえ、退け。」

 私はまっすぐに彼女を見据えた。そのこえはやはり彼女のものである。私は見紛えた。おお。我の席は彼の隣なり。何故こんな切符を買ってしまったんだろうと思いながら、私はその軍人を窓側の席に座らせるために席を立った。

「ありがとう。」

 彼女はまだ若い感じであった。そしておもったほどえらそうな体型でもなかった。男物の軍服を着込み、胸を布で潰して、そのために青ざめた顔をしている彼女は、他の種の男装と同じように、常その目をきりりと置いて、口は一文字に結び、白い歯が下の唇を噛んでいるのがわずかに見えるくらいであった。

「弁当を一つ。」

 彼女が売り子に弁当を頼んだ。

通路の幅に作ってある台車の中から、若い売り子が器用に弁当を出しその女軍人に売っていた。

 私はその頃何にも気づかない振りをしながら講演の案を練ったり、新作の考えを雑記帖にまとめたりしていた。私の前を赤い飾りのついた金ボタンのさらに着いた真っ黒な袖が、言ったり来たりしているのを見てみぬ振りでもしながら。すると袖は強引に弁当を選び、釣は要らないとわざと低くしたその声で売り子に言い放っていた。声でばれてしまった、彼女はまだ相当若い。

 でんぶのにおいがした。

 桃色のやわらかさを湛えたふかふかが、ご飯の上に敷き詰められているのが容易に想像できた。そしてきっと彼らの隣には、肉そぼろ。とどのつまりには、やはり卵であろう。なんとまぁ可愛らしいメニュウだろうか?幕の内弁当ぐらい頼むべきである。

 彼女はいそいで紙をはぐと、すぐにその弁当にがっつき始めた。

 そのよく食べることといえば面白すぎる。彼女はまるでむさぼるという言葉を具現化させたように激しく喰っていた。箸の持ち方は相当汚く私でも治してやりたいとおもうほどである。

「ねぇさん。君は何処に行こうとするのだね?」

 またイヤに低い声で今度は私に彼女は尋ねた。

「私は箱根に観光に行きます。」

 無視でもしたら切捨てごめんである。私は即座に答えた。

「そうかぃ。我輩は療養所に行って休めと上官に命令されてね。」

 我輩といったその言葉があまりにも若臭くて、思わず噴出してしまいそうになった。

「我輩はね、研究者なのだよ。とても偉い研究者なのだよ。だけれども研究の心労でいまや我輩は使い物にならなくなったらしい。」

 そういいながらも三色弁当を食べ続ける彼女の横顔には、一抹のはかなささえ感じられた。

「相当のご苦労ですねぇ。私たち平民には察しかねます。」

「ねぇさんはなんのおしごとですかい?」

 ほっぺたにご飯粒をつけたままで女軍人が私に尋ねた。

「私は…電話交換手をしております。」

 ここで小説家などという職業を言ってしまっては彼女にいやみを言われるのが落ちであろう。私はわざと世俗的な女の仕事というものを言ってやった。

「…そちらも気苦労が多い。」

 軍人は横柄な哀れみを私にかけた。さすがにここら辺はお役所の気質がでなさっている。

「私は死にたいのだがね。」

 唐突に彼女が言った。

「そんなこというものではありません。元気を出して。」

 私はちょっと驚いたが、すぐに冷静さを取り戻して言った。

「本当に死にたいのだがね。死にたくって死にたくって仕方がないのだよ。」

 私は彼女の虚空を見つめる瞳をきっと見つめた。

「そんなこと言うなんてあなたは病気です。」

 会話を終えて弁当をむさぼろうとした彼女に私は強く伝える。

「病気だなんて無礼な。」

 斬るぞ、とでも言ってみろという態度で、私は彼女をあしらう。

「いいですか、言葉は出された瞬間にそこで終わりです。もう意味を発言してしまう。しかし言うまではまだ仮定であり続ける。君がもしも心労から死にたいと思っても、言葉に出さないことで仮定であり続けさせることが可能だ!」

 私は饅頭のビニルを開けた。もうこれで三個目だ。

「…」

 彼女は一瞬黙った。

「おまえにわかってもらって溜まるか!」

 いやあ、わかりたくもないのだけれど。

 しかし彼女は矢継ぎ早にかかっている悩み事を話し始めた。研究がうまくいかないだの、女を男に寝取られただの、親は早く婿を貰えとうるさいだの、同僚はみな自分に理解がないだの…。ごく自己中心的な叫びだったが、ここでそれを突っぱねても元も子もなくなってしまうだけなので、私はやんわりとそれを聴いて包んだ。でも何故死にたいというのだろう。酷いで済むはずだ。

 嗚咽をもらす彼女を私は何分あやしただろうか。

 もはやすでに涙に濡れた軍服の袖は何の威厳ももたらさなかった。死に装束として用意された彼女の正装は今では安い劇の衣装にさえ見えた。そして化粧も何も施されていないが、まっすぐに綺麗な瞳と肌は、ようよう少女のそれの色合いを帯びてきた。

「饅頭食べなさい。」

 私は老婆のように饅頭を差し出した。彼女は六個箱からとってまた獣のようにむさぼった。

 その話を友人にしたら彼は笑い転げていた。軍縮の此の世でさえその話は最高の笑い話にカテゴライズされる。なぜ笑い話かと聞かれたら、それは鬼瓦だよといわれた。

 なんのことだかわからない。

 彼が語るに鬼瓦とは狂言の一種で、鬼瓦を見て必死に泣く男に向かって、もう一人の男が何故泣くと尋ねると、おお悲しい。あれは鬼瓦が、俺の奥さんに似てどうしても悲しいと答えた。それでおしまい。何処で笑えというのだろうか。奥さんの醜さだろうか。そしたら泣く必要もないし、ただ奥さんが鬼瓦に似ている、あいつはとっても醜いからといってしまって終わりにすればいいのだ。

 しかし客は笑うらしい。彼は言った。

「大滝、あまり深く考えてはいけない。真実はあさく、ほんとうに羽毛が触れるくらいに浅く考えて、一番かんたんな感情で考えなければならない。」

 彼はそういうと私のお土産の饅頭をひょいっと一個奪った。

 数年経った。私は今度仕事で箱根をおとづれる事となった。今度は領収書で旅費を落とせるらしいので、もっといい台車にろうと思ったが、なかなか券も見つからずしぶしぶ前と同じ等級の、窓側の席に座った。窓側はやはりいい。なぜなら心洗う景色がより近いところで見れるからだ。

 私は車窓から流れる壮大な川の景色を見た。何故こんなに自然というのは心穏やかで居れるのだろうかと思いながら。そして緑がわずかずつ揺れるのをみてそう言えば余り最近森も見ていないなぁと感じた。都会で疲れるのみの人間である。

 私は箱根の精神病院に取材をしようと思い立ったわけである。

 そこであの友人が待っていた。もともと物書きの交わりである。かれは大きめのかばんを持って、その中にたくさんの何かが入っているらしくたいそう重そうであった。

「ああ、こちらが重症床です。」

 暗鬱な看護婦の表情を伺いながら、私は病室を見て回った。なんていやな顔をしているんだろうと思った。きっと此の世のいやなもの全部見ているんでしょう。

「ありゃひどい。」

 私は不謹慎にもそういう彼の視線の先を見た。

 格子の窓にしがみついてひんひん泣いている長髪の女を見ていた。ベッドの上にはおびただしい血がこびりついている。聞けば自傷癖だという、二人で興味深そうに見ているとそのうち彼女は振り返って頭を床に打ち出した。

 私はなぜかそこで笑ってしまった。

 腹を押さえてよじって笑ってしまった。それこそ病人だと思われるかのように。そのうち私のことを心配し始めた友人がなぜ私が笑うかを聞いてきた。私はまだ言わないで置こうと思ったので言わなかった。でも依然として私たちの視線の先には荒れ狂う女が居続ける。それは今度は頭から出た血を壁にこすりつけ始め、そのせいで額の肉がすこしむけてちびでていた。

 あまり深く考えなかった。きっとしんじつは浅く、本当にうもうが触れるくらいに浅く考えて、一番簡単な感情に身を任せて、ただただ呼吸を震わせている私が居た。

 ポケットには饅頭が入っている。もうすでに干からびて、あの日のように売り子の自尊心にはならない。しかし私はその小さく矮小になってしまった甘い、だがもうすでに食用にはならないまでものクオリティまで時が質を下げた彼に一念を託し、いや神様へのお願いを、差別と侮蔑のお願いを人差し指と親指に力いっぱいこめ老いた白い肌の下から変色した粒餡を滲み出させながら、その病室へぽおんと投げた。

 案の定 鬼瓦は喜んでそれに喰らい付いた。













 書いた後、自分も沿うかなって、思います。

 http://www.geocities.jp/gimickeel
『今日は冗談のように空が青い。』

ビルの屋上からオレはそう思った。
雲ひとつなく、まるで絵に描いたようにはっきりと青い。
まるで誰かが手抜きをして、青い絵の具チューブを1色だけ出して描いたみたいだ。

タバコの煙を思いっきり吐く。
何かこのごろタバコの時間が多くなったなあ。

まあ、そりゃ仕方ないか。

タバコの火を押し付け、仕事場に向かおうとしたが、
少し考え、オレはもう一本タバコを取り出した。

「なにやってるんだろうな、俺は。」

世の中なんてくだらないことばかりだ。
大きな達成感なんてかんじられないどうでもいいことばかりをする毎日。


就職活動では、「夢」とか「やりがい」とかいう言葉をたくさん聞いたが
それは詐欺だったと気づいた。

就職活動で色々な会社を受け、
とりあえず内定をもらった会社に入った。

しかし、入ってみれば受注、発注、お客の御用聞き、報告書など面倒でどうでもいいことばかりだった。
最初は会社の期待に応えようとがむしゃらに取り組んでいた。
でも、あるとき、気づいてしまったんだ。

何もかもがオレじゃなくてもできるってことに。

それならオレは何のためにいるんだろう。
オレじゃなくていいならどうしてオレがこの仕事をやっているんだろう。

毎日、大切なものが1つ1つ失われていっているような気がする。

このまま、10年も20年も生きていけるのかなあ…。
全然想像つかない。

とりあえず、戻るか…


「とりあえず…か」
オレは苦笑をした。

オレの人生はとりあえずばっかりだな。

「おし…」

タバコを潰し、ビルの手すりから吸殻を落とす。

その瞬間

ゆっくりと。

タバコが、落ちた。


ふと、


ひらめいた。


ここから、飛び降りたら何もかも忘れられるんじゃないか?

つまらない仕事も、上司からの罵倒も、うるさい取引先とも

すべておさらばだ。

このくだらない世の中から逃げられる。

オレは手すりに足を掛けた。

下を見る。

すごく高い。
心臓の音が聞こえる。
どくどく…。

上を見る。

空が高い。

これから死ぬってのに…オレって案外冷静だ。

でも、あそこまでどれくらい距離があるのだろう。
あそこまでは一生かかってもたどり着けないだろうなあ。

そんなことを考えていると

なんか地面までの距離がすごく小さく思えた。
簡単に「いけ」る気がした。

こんな日に死ねれば本望だ。

今日は、冗談のように空が青い。
   君が好き
____






ああ、いつもいってるさ、そんなことでもこんな世界じゃ、そんな言葉だってなんのたしにもなりゃしないさ。




 俺はデパートを回遊魚のようにまわってかごに食料品をいれていく。レトルトに、まだたべれる生もの。そのほかに野菜、とかいろいろ。そしてレジにまわってしたをあけ、適当なレジ袋をみつけると、俺はバスバスといれていく。



 金なんか払わない。もともと、もう受け取る奴なんかいないんだから。



 そのまま町に出た。普通に朝日に目がくらみ、チュんチュんと鳥がうるさい。



 しかし人はいない。日常の風景からすっぱり人を切り取った光景。それが俺の目の前に広がっている光景であり、憧憬だ。



 ふらふらと首都高速の高架橋の下を通り、渋滞のままでとまって物音1つしない幹線道路をよこぎり、そして俺のアパートについた。



 「おかえり」



 美沙が笑顔で出迎えてくれた。



 「おう、ただいま」



 俺も笑顔で答える。



 「お前、まだ寝てろよ。熱だってまだ39度あるんだろ?」



 俺が彼女のやせた背中を押しながら2LDKの居間を過ぎ、そのまま寝室にいく。美沙は少し困った顔で、



 「でも遼くん、すぐにインスタントとかでしょ?私がつくったほうが、」



 「はいはい、俺は料理下手ですよ。でも雑炊くらいはすぐに作れるさ。いいからねてろ」



 俺の台詞が終わる頃にはもう部屋についていた。



 美沙は、えーとか、んーとか、可愛らしい声を出しながらなんだかいいたげだったが結局にっこりと笑い、



 「じゃぁ、遼くんの手料理まってるね」



 そういって名残惜しそうにドアを閉めた。



 閉まった・・・。



 いつまでこうしていられるのだろうか?彼女はいつまで。



 わからない、わからないさ誰も。



 だからこうして俺も美沙も2人なんだ。



 




 一ヶ月前までは俺は都立高校の3年生だった。進学校で受験の真っ最中だった。家でも勉強ばっかりで、



 世の中に目を向けてなんかいられなかった。



 気づいたら1人だった。



 アメリカとEUでバイオハザードとかなんとか聞いたのが半年前。俺の情報はそれ以上でもなくそれ以下でもない。



 つまりそういうことなんだろう。父さんが仕事場からかえらなかったあの日も、ちょうど母さんも買い物に目黒まで言ったあの日。



 黒い大きな飛行機がユキを降らせた日。



 あのユキの日から。すべてが変わった。



 街中で宇宙服のような軍隊のような人をたくさん見かけたのは一週間前。ぐったりした人々をトラックに乗せた。



 あの中に俺の両親ものっていたのだろうか。



 美沙がいま住んでるアパートのまえで1人で倒れているのをみつけたのも一週間前だった。





 美沙に雑炊を作って部屋におくと俺は散歩にでた。何もない、灰色、白い世界。



 ためしに新幹線の非常用梯子から線路までのぼってみた。みためとりかなりしんどく、途中で何度も引き返そうと思ったが、なぜかそのままのぼった。



 左には長野、右には急停車したままの東北新幹線が止まっていた。



 僕は何気なく、運転席まで歩いていく。しかし、乗客はどうやってにげたのだろうか。



 運転席のドアを引っ張ると簡単にスライドして、



 「・・・・・!」



 人が、いた。



 いや人だったものだ。運転手のJRの制服をきたその「もの」は驚きと苦痛を顔にはりつかせそのままこちらに顔むけてかたまっていた。ハエが時折舞う。



 「・・・くそ」



 僕はそのまま通り過ぎ、一号車のドアを力であけると、



 「なんだこりゃ・・・・」



 まるで居住区だった。どこからもってきたのかベッドやのみもの、どうやって動かしているのか冷蔵庫まである。座席は全てはずされ、数人が寝て食べておきれるようになっていた。



 人が、いるのか・・?



 俺が中ほどまで来て、いきなり二号車とこちらをさえぎっていたカーテン、いや布切れがいきなり開いた。



 俺は驚き、運転車両の出口まで後退する。



 女性だった。20代前半。OLのようだがもうそのブラウスも黒いスーツもくすんでぼろぼろで、なにより長い髪を後ろにまとめている髪はぼさぼさで彼女の顔は疲れに満ち、頬がこけていた。



 そして目が、普通じゃなかった。



 「あなた・・・人よね?生きてるのよね?」



 俺はそのまま硬直する。



 「ねぇ?何があったの?みんな死んで、感染て、運転手さんが動かないでって」



 まるで、なにか助けるように、助けてほしいように俺に一歩一歩近づく。



 「会社にいかないと怒られちゃうの。わかるでしょ?嫌なの。もう限界なの。そうよ、みんなわかってるの。もう終わったって。「薬」がこればあんな服着て外に行かなくても」



 「くす、り?」



 俺は思わず声を出した。薬。美沙。助けたい。



 俺の反芻を聞くと女性は驚いたように立ち止まって、そして一気に俺に近づいてきた。



 「あなたもってるんでしょ!?だからそとからこれたんでしょ!!ワクチンはもうできるって!返して!私たちの生活!でもあのユキは、みんな」



 そこで俺は新幹線を飛び出した。



 人がいるなんて思わなかった。俺はきた線路を戻ってかなりの動悸にきづいたのは非常用梯子に手をかけたときで、振り返るが女性は追ってこず、




 「あーーーーーーーーーー!!!!」




 女性の絶叫が「車両の中」から聞こえた。それが最後だ。






 「どうしたの?なんか疲れてるよ?」



 美沙は僕の顔をなでるように手を上げた。



 「別に。ちょっと学校が懐かしくなってさ、いってみたんだ」



 へぇっと美沙は言った。



 「私の私立の女子高と少ししか離れてないんだよね。私も親に従わなかったら遼くんの高校にいってたなぁ」



 俺の顔をなでていた美沙の手を静かに握ると、俺は笑って、



 「ほかにも学校はあるだろ」



 「でも遼くんのいた高校に行ってた気がするなぁ」



 美沙は甘い声を出して、唇を尖らせる。



 「お前は将来何になるつもりだった?」

 

 「んー」



 美沙は熱のある赤い顔で笑いながら、



 「お父さんと同じお医者さん。だったけどいまはお嫁さん」



 俺が微笑むと美沙も微笑んでくれた。



 「遼くんは?」



 「アメリカ大統領」



 またーっと、美沙がむくれ、俺は知らん顔をする。もしかしたらアメリカは、なんて話はしない。そんなこと、もうとっくに過ぎた。



 「偶然だけど俺はうれしかったよ」



 「なにが?」







 答える前に、美沙の唇に自分のを重ね、







 「美沙に会えた事」



 唇を離してにっこりと俺が言う。



 うん、と俺から腕を離し、美沙は恥ずかしそうに毛布を顔半分まで寄せて、



 「私も遼くんと会えてよかったよ」



 そして少し考えたあと、



 「これからも、ずっと、ずっと、好きだよ」



 「うん、俺もずっとずっと好きだ」



 俺は同じ言葉を口にして笑いかけた。




 でも、そんな世界でも自然はやってくる。









 四日後、美沙は寝室で死んでいた。







 この世界で生きていた彼女。これから生きていく俺。あのユキの日から全て変わった。
久々に書きました。えらそうにによろしければ感想・批評を日記のコメントに残してみてくださいとかわがままに言っちゃいますw


 現在、マイミクが4人ととっても寂しい状況ですので、トピちがいですが、自分の作品に興味を持っていただけたらどうかよろしくお願いいたしますm(__)m

 それでは、以下が書いた作品であります。
 


タイトル:「雨」






 何でもないから、私をいつもまでも見てないでください。


 今の気持ちを真っ直ぐに表すとこんな感じだろうか。

 真夏の暑い日に、日差しだけの存在感で己の自制心が壊れていきそうな気分になる。

 ただただ汗だけをかいてそのことだけで頭の中が一杯になる。だけどスキマのようなところで、自分の今の本音がそれを語っている。

 何よりも素直な声で、今のあたしの気持ちを大きな音で発する。

 









 あたしは人を待っている。
 人には「考えすぎだよ」と言われるような理由で。


 夏の日差し照りつけるベンチの上。かつて公園だったその場所は今は何もなくなり、ただベンチだけが取り残されていた。

 理由など知るよしもなくただ自分の好きだった場所が消えた現状に、感慨にふけるというより単純に寂しさと憤慨を感じていた。

 なくなるということはこういうことなんだと感じさせた。
 例えば死んだらどうなるのだろうと考えにふけることも人生のうち何度も来ると思うけど、まず存在しなくなってしまうことを前提に考えるべきだと思った。

 来世に生まれ変わる。天国地獄に逝って一生暮らす。

 的を得ているようであたしには論点がずれていると思った。だって、これらの回答は「存在」していることが前提となっているのだから。

 …違う。一番否定したくないところを肯定しなくしゃいけないと思う。








 あたしは存在しなくなったこの公園でこれから存在しなくなってしまうかもしれない人間を待っている。

 


 無くなるということは一体どういうことなんだろうか。


 暑さを紛らわすかのように、くだらない妄想に浸ろうとする自分にあたしは気づいた。しかし、気付いてもやめたいとも思わない。

 曇って雨でも降ればいいのに。


 それだけ心から抜けきらない。

 




 ”私のペットは昨日死んだけど、今日からあたしの心で生き続けるの”


 こんな考えをドラマチックで妄想癖があると思うだろうか。あたしは逆に、ゆういつ”無くなっても存在し続ける”方法だと思うのだけれど。



 本当の「あなた」はもういないけど、あたしの「あなた」は居続けるの。



 例えば恋をした時、多分恋をしている最中はその相手自身に話しかけることより、自分の脳内に作った妄想上の相手ともっとも会話するんじゃないかと思う。あの人はきっとこう考えているはずよ。自信を作ったり崩したりする最中で、理想と妄想が多分に混じった相手とひたすら会話し続けて恋を成長させていく。



 多重人格なんかじゃなくて、こんな感じで人は自分の心の中に沢山の人を作り上げていくとあたしは思うの。現実の他人と己の中の他人の世界で、人は生きているんじゃないだろうか。

 そして、現実の世界で人が死ぬことを一緒で、その人のことを忘れてしまうことが”その世界”で死ぬと同意義語であると思う。


 そんな考えをあたしは己の中で主張して生きてきているから、あたしは沢山の人たちを生んできたし、沢山のひとを殺してきたと自覚している。




 





 くだらない妄想にも飽きが来る。



 待ち人は来ない。
 暑さは増す。
 それは心の中でも一緒だった。







 何でも肯定することがいいとは思わないから、時には間違った答えを出すこともあると思う。
 それもいいとは決して安易に答えたくないけど、あたしはあたしなりに出した答えだからいいじゃないと無責任に人にも言えない自分も居る。


 誰かを擁護すれば誰かを傷つける。誰かを傷つければ誰かが助かっている。


 誰かを好きになれば誰かを嫌いになるのだろうか。




 どれもこれも惰性には出来ない程度の自尊心がところどころで溢れるから、結局は中途半端なんだけどね。




 暑いと思う今の自分に、何も思わないのと一緒で。






 公園はないけど、人は来た。


 こんなに暑いのにも関わらず、長袖を着こんで。




 見てるだけで暑くなるから脱いで。とでも言ってしまおうか。





 そんなことが言えた頃に戻りたいなんて言えないよね。








 待ち人が来て早速あたしに言った言葉が一言。


「・・・もう公園じゃないんだね」


 何言ってんの?


「何言ってんの?」

 ここにあるよ。


 目線を自分の胸元に向けた。


 彼がとぼけ顔をしてきたのを見計らって、マイペースであたしのおもいのうちを語った。


 そう。これだけを言いたくて呼んだのだから、前置きはなしなのよ。


 何も飾らずにしゃべることで、こんな意味も踏まえているの。




 死んだからじゃないよ。

 ただ、そろそろ消えるかもだから。


 完全に消えてしまう前に、



 いい思い出として、出来るだけ長生きしていて欲しいから、



 今言うの。




 わかってくれとまで言わないから、



 理解ではなくて了解して欲しい。



 自己満足より身勝手で、




 身勝手より自己中。














 だけど許してなんて






 口が裂けてでも言いたいね。


 



 












 あたしを好きになってくれてありがとう。
 あたしを好きになってくれた場所であたしは言った。
 いいところなんて一つもないくせに好きになるなんてもの好きねとは言わないけど、
 色々と苦労をかけてしまったのは謝るね。
 どれを取っても過去類を見ないくらいいい思い出しかないことに、とても今でも感謝しています。
 そしてこれからも感謝し続けるのだろうけど、いつかはそんな気持ちも忘れます。

 そしてあなたという存在が居たことも、いつかは曇ガラスの向こうになってしまうでしょう。
 
 でもそれはあたしのあなたが死んだ時だから、決して怒らないでくださいな。

 
 それが来るのは多分きっと十何年後だろうし、つまりそれが来るまでこの先ずっとあなたはあたしの中で生き続けるのだから、


 今日、こうなってしまうことは決してすぐそうなる訳じゃないので安心してください。


 


 なんてね。あなたからすれば体のいい言い訳だね。







 ああ、自分がださい。


 ただ謝っても許してくれない気もしてね。




 あたしは・・・ううん。やっぱりいいの。




 とりあえず、






































・・・・・・・ばいばい。ありがとう。









 
 












「・・・ごめんなさい。ありがとう。」
 泣きじゃくりながらそれを繰り返す彼女は、心の自分と何を会話していたのだろうか。



 かつて公園だったその場所に、突然呼び出され、
 そして突然泣きじゃくり、
 何かをひたすら伝えようとして、僕に言葉を発するのだけれど、

 「ずっと居続けるから・・・」


 「あたしの中で・・・」


 それだけしか僕には届かず、そして


 ”ごめんなさい”と”ありがとう”

 

 謝罪と感謝の言葉を言われてやっと気付く僕。



 「それは何でかちゃんと説明して」
  かいつまむとまず彼女にこう質問した。













 真夏の太陽が少しかげる。




 雨でも降るのだろうか。











 (了)
毛の生える皮を纏ったヴィーナス

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