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Ryo Murakamiコミュのライナーノーツ Mirko Loko / Seventynine(Cadenza)

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ライナーノーツ
Mirko Loko / Seventynine(Cadenza)

text by Ryo Murakami


最初に断っておかなくてはいけないが、僕はカデンツァの熱心なファンではないし、歴史も知らない。それにどの曲がどこそこの誰のミックスCDに収録されたなんてもってのほかで本当に何も知らない。”カデンツァ"読み方だってこの仕事が来るまで"カデンザ"だと思っていた。もちろん素晴らしい楽曲がリリースされていて、それが誰の手によって作られたか、そしてそれが後世において尊敬を集めることができる領域にあるということは知っているけど、だからといって、そのアーティストの生い立ちや、背景などを調べる理由にはならないから、多分その知識はこのCDを購入した人と同じくらいかそれ以下のレベルかもしれない。だってSolomon's Playerを作ったのがThomas Melchior&Lucianoではなくて、12歳やそこらの可愛い女の子だったとしてもSolomon's Playerのあの呪術的なチャームポイントは変わらない。そんな理由でこのライナーノーツが果たしてライナーノーツ的な役割を担う事ができるのか少々不安ではあるが、ライナーノーツというものがレーベルやアーティストの選手名鑑ではないと思ってくれる人がいることを信じて、1アーティストととしての視点から筆を持ちます。


ソロ・アルバム。アーティストにとって、それは自分自身を映した鏡であり、それはやはり通常の単一の楽曲リリースのために行うプロダクションとは違うものだ。どう違うかと問われれば、それはもちろん明快に単一のために楽曲をプロデュースするのか、それとも複数をまとめる事を目的として楽曲をプロデュースするか。という違いになるだろう。文章にしてしまえば物悲しいほど簡潔な差ではあるのだが、プロダクションにおいてはたくさんの思考と緊張が必要となりその差は歴然としている。何しろそれは自分を映す鏡なのだから。制作過程では、何度もその鏡の前に立って、右手で自分の頬をさわり、そして左手でタバコをふかしたりなんやして、それがしっかりと同じ動きをするかどうか、自分自身を正直に映したものであるかどうかを確かめなければならない。ソロ・アルバムのために楽曲を作ることとは、そういった確認作業を要するものだと僕は思う。もちろん僕が言いたいのは単一のリリース用の楽曲だから簡単とか、アルバム用の楽曲だから一生懸命になるとかそういうことじゃなくて、例えばスパゲティを作るときもおせちを作るときもどちらも美味しく食べたいと思う気持ちは一緒である。そういうことだ。

そして、そのソロ・アルバムがLucianoが船頭に立ち新たらしい時代を航行しているカデンツァからのリリースされるとあればなおのこと斬新なアイデアを中世に喜ばれたような美しい細工が施された枠ぐみとして具現化し、そこに培ってきた経験や才能をはめ込み、磨き上げられた大鏡を作りあげなければならない。
そして僕は今作Seventynineを聴いて、Mirko Lokoが勤勉な努力の土台の上にある才能を用いて、それを完全に成し遂げたと思う。

スイスという当時はダンスミュージック発展途上であろう土地でデトロイトテクノとシカゴハウスを聴いて育ち、そしてスイス国営のラジオ番組のプログラマーから地元ローザンヌのクラブLoft Electroclubでのブッキングコーディネーター、レジデントDJとして90年代後半から活動を行い、のちにRaphael Rippertonとともに結成されたスタジオプロジェクトLazy Fat PeopleとしてCarl CraigやMathew Jonson等に評価されるトップアーティストとなる。その経緯を読み解くならば、彼は自分の立ち位置を理解できていて、それを活かし、プロダクションに繋げていく才を持っているのであろうと思う。それは僕がTimothy Really meets Cadenza Showcaseという東京で行われたカデンツァのレーベルショーケースにて彼と共演したときにも感じることができた。物腰柔らかく、周囲をしっかりと見て、どのタイミングにおいても最良の行動をとる。DJにおいても、前にプレイしたRebootのテンションを壊すことなく、ゆっくりと時間をかけヒートダウンしていき自分の世界を作り上げていった。

ブッキングコーディネーターとして、その彼の人柄は彼の恩師であるCarl CraigやDerrick May、Laurent Garnier達と地元スイスを繋ぐハブとなり、そしてその恩師達のセンスを吸収し、オリジナルのエッセンスを注入し、Carl Craig主宰Planet EからリリースされたLazy Fat Peopleの大ヒットシングルPixelgirlのような、デトロイトではないがデトロイトのDJが好みそうなトラックを制作するに至るのであろう。

そしてMirko Loko名義では初となるソロ・アルバムSeventynineではLazy Fat Peopleの作品で聴くことができたエレクトリックで太いビートや過剰なサイケデリックテイストな上音は影を潜め、パーカッションや新世代SEに趣きを感じることができる。パーカッショントラックといえば、昨今はダンスフロアが太鼓だらけでダンススペースが無くなるようなトラックが本当にたくさんリリースされていて食傷気味になっていたのだが、Mirkoの扱う神聖なパーカッションはそういった飽きがこない。コンガやボンゴは元々、民族楽器というだけあり、どこぞの民族が神を崇拝したり、誰かに呪いをかけたり、雨乞いをしたりと、いわゆる儀式的に奏でられてきた。そういったルーツを理解し、聴くものの精神の奥深くに訴えるように鳴らされている。ただリズムを刻み、4ビートにどれだけフィットするかを考えて鳴らされているわけではないのだ。

それがどういうことなのかはまずM1であるSidoniaを聴けば理解できると思う。幻想的なシンセサイザーリフと、エフェクトが深くかけられたランダムに叩かれる数種類のパーカッションが絡み合うダウンテンポトラックはいやがおうにも深い精神世界を感じずにはいられない。この荘厳なトラックが儀式の始まりを告げ、躍動するコンガのリズムに女神が空を舞うM2 Around The AngelとM3 Love Harmonicのヒプノティックで美しい旋律へと紡がれる。そしてM4 On Fire、パーカッションとともに、このアルバムを語る上でかかせない第三世界的SEが登場する。クラウドを宇宙のさらに先にある空間へと連れ去るようなSEはダンスミュージックシーンで最も新しいテクニックと言えるだろう。そのSEを巧みに使いM5Astral Vacuumでは、牧歌的なストリングスやフルートによって創造された絵葉書にあるようなスイスアルプスの風景にぽっかりと大穴を空け、それらを全て吸い込ませてしまう。

M6 Bluebook、M8Tahktokで聴くことができるピッチが変化するベースについても飽和状態であるミニマルシーンにおいて変革をもたらすようなアイデアであると感じる。それぞれ中毒性の高い男女の声のかけあいや、民族調のコーラス、子供の声のサンプルが地震波となり屈折・反射を繰り返してベースラインに伝播し地面が盛り上がるようにベースのピッチが変化する瞬間は最高に気持ちよい。M9 Le Monologue d'Orfeuにもラテンフィメールが耳元で囁くフリーキーな音像処理が施されていて、そしてそれと相反する思想を持つはずの陽炎のようなシンセサウンドが不思議と同居している様は格別である。

そして今作では、それらの革新的で変態的なダンストラックに挟まれるようにビートダウン/アンビエントトラック、M7ShadowやM10Altroveが収録されている。M10Altroveの壮大なパッドと鳥の鳴き声のようなサンプルで表現されたサイケデリックな世界は、見事なまでに心理的恍惚状態を引き出してくれる。(余談だがMirkoは東京公演来日ときに原宿のとある楽器店で動物の鳴き声のサンプルCDを購入していたので、僕はこのときのCDが素材として使われたのではないかとふんでいる。)そしてこの恍惚状態こそが今作が送るサウンドジャーニーの到達地点であり、この到達こそがMirko Lokoが表現したかったと語る「内面にあるものを探求するために、心の隅に向かうようなこと」ということなのではないだろうか。

そして最後の曲となるM11 You Know Where。この祝祭的なシカゴ深化系トラックがアルバムの幕を潔ぎよく閉じる。疾走するビートとみずみずしい幸福な上音はそのタイトルが示すようにM10の到着で見つけた自身の内面にあるものを解放することだろう。

今作Seventynineは一枚のCDもしくはレコードというフォーマットを通さなければ完結しない芸術作品として多くの人に長きに渡り親しまれると思う。そして、それは音楽産業がデジタル化していく中で大きな意味を持つ偉業であり、僕はアーティストととしてMirko Lokoを讃えたい。僕はアルバムのフィードバックとして、「孔雀の翼と鷹の爪を持つ鳥のようだね。」と言った。Mirko Lokoは「thank you so much for your feedback!I'm very happy that you like it!」と言って満面の笑みを浮かべた。


Ryo Murakami (pan)

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