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天野珠美公式ファンコミュニティコミュの珠美さんの友人による文学作品

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「錯覚」



「君は妻殺しの夫の気持ちがわかるかい?」
雰囲気の落ち着いた和食系のオシャレな居酒屋。彼は注文してすぐに運ばれてきたサラダの上にのった牛の生肉を頬張りながら私にそう尋ねた。
「え?」
突然の突拍子もない質問に私はすぐにこたえることができなかった。
「君はお芝居をしているのだろう?演技する時にその役柄の気持ちになって考えないの?」
 意図のよくわからない問いに彼が補足する。しばらく沈黙した後、以前に私が話したシェイクスピアの『オセロー』の事を言っているのだと気づいた。
「うーん……。妻殺しの夫の気持ちはまだ分からないけれど、殺された妻の心情ならわかる気がする」
一瞬思考が停止したのち、戸惑いながら応えた。本当は殺された妻の心情も妻殺しの夫の気持ちも何もわかっていない。役柄の気持ちの事すらよく考えたこともなかった。ただ、なんとなく話のリズムを崩してはいけないという焦りからよく考えずに応えただけだ。
彼はそんな私の心情を見透かしたような笑い、緑茶の焼酎割りに軽く口をつける。
「心理分析っていうのはその人の気持ちになりきる事なんだ」
彼はそう言ってグラスを回した。
「俺が君の好きな彼氏の気持ちがわかるのも、その彼氏になりきってるからなんだ。彼の行動から価値観や今何を考えているかを想像する。本来なら行動だけじゃよくわからないんだけどね。それでもかなりの事は考えられる」
「ふむふむ。そしたら、私も徹平さんになってみる。」
私は眼を閉じて徹平さんの事を考えた。目の裏側に、徹平さんの顔や声が浮かぶ。
徹平さんは最近私が一目惚れした人の事だ。東京の大学の院生らしく、精悍な顔立ちのスポーツマンでかっこいい。体型も私好みの太りすぎず痩せすぎずそれでいて筋肉がほどよくついている。徹平さんが私のバイト先である居酒屋に飲みにきていたのを見て、思わず連絡先を書いた紙を渡してしまったのだ。その突然の私の行動にもかかわらず徹平さんは快く連絡先を教えてくれてメールのやり取りも何度かするようになった。
「…………。」
「…………。」
 彼は気を利かせて沈黙をつくってくれた。店内にいる他の客の声が遠くに聞こえる。
「うーん……」
「…………。」
 私は薄目をあけた。彼はこちらを微笑みながら見ている。
「どう?徹平さんになれたかい?」
「無理……。なんかできないよ。」
「そりゃあね。簡単にされてもらっても困る。俺だってそれなりの苦労はしたんだ。」
少し自慢げに笑いながら彼はまたお酒を飲む。
「ねぇ、君には妻を殺しオセローの気持ちがわかるの?」
私はその仕草に少しムカついて話をオセローにすりかえた。彼はオセローを読んでいない。私からその小説の簡単なあらすじを聞いただけだ。たぶんわかりっこない。
「わかるよ。」
 彼はすぐさま自信満々にそう言って、また生肉を食べる。
「えー。どんな気持ち?」
「簡単だよ。嫉妬。」
「何それ。たったそれだけ?そんなの当たり前じゃん。」
 もっとすごい考察を聞かせてくれるのかと期待していたのに拍子抜けした。やっぱりよくわかっていないだけなんだ。
「人によっては十分な動機になるんだよ。少々思慮にかける突発的な犯行ではあるけどね。人が人を殺す理由なんて実はすごく単純なものなんだよ。結局のところ金か愛か性衝動に集約されるんだ。」
彼はしてやったりな顔をしている。面長の顔に似合わない大きな黒ぶちに妙な違和感を覚える。何を考えているのかわからない顔。クールなようで怯えていて、笑っているように見えて無関心。なんかむかつく。
「じゃあ徹平さんの気持ちを教えてよ。」
「やだ……」
「どうして?」
「なんとなく……ね。宿題にしようか。」
「え?」
「明日までに徹平くんの気持ちを考えてみてよ」
「えー……」
 私は正直面倒くさいと思った。今すんなり教えてくれたっていいじゃないか。徹平さんの気持ちを今すぐ知りたい。私はたぶんムスっとした表情を浮かべた。
「別にいいじゃない。なんでもちょっとは考えてみるのも面白いものだよ。」
 彼は優しく諭すように言う。
「わかったわよ」
私のほうもあっさり折れる。肩肘をついて手の平にあごを乗せて彼を睨みつけては見たけど、彼は料理を食べてるだけで意に介さない。どうせ考えたところで私にはわからないというあきらめ。彼は徹平さんの気持ちを考えるように促したけれど、私はもとより深く考えるつもりはなかった。というより考え方を知らない。何を材料にどういうふうな方向性で考えていいかすらわからない。まるで習った事のない数学の問題をやらされている感じだ。数学者でもない私は何もない状態から考えを出発させる事などできないのだから考えたってしょうがない。
すぐに徹平さんの気持ちが聞けないのは残念だけれど、それほど急を要するわけでもなかった。のんびり待つだけで答えがきけるのはそれほど悪いことではない。
 私もウーロン茶で唇を濡らし、先ほど運ばれてきた料理にとりかかる。豚の軟骨部分をよく煮込んであるその料理は、もっちりとしていてとても美味しい。付け合せの車麩も肉汁をよく吸っていて、噛めばジューシーな汁が染み出てくる。
 「徹平さんと付き合ったら何してあげたい?」
 「そうだなぁ。徹平さんの精子飲んであげるかなぁ」
 「下ネタ?」
 彼は予想外の答えに苦笑いしている。
 「私好きな人のは飲んであげたいんだ」
 「なるほどね。悪くない愛情表現だ」
 彼のほうからよくわからない同意をもらう。私はおかしくなって笑った。
 そんなやりとりをしつつ、とりとめのないままに時間が流れ、お店を出てそのまま彼とは別れた。
―――――――
 彼の事はサトウとよんでいる。
サトウは私よりも少し年上なのだが呼び捨てにしている。彼もそれをなんら気にもとめていないし、なんか年上と話している気がしないから今さら『さん』づけでよぶのも逆に照れくさい。
サトウはとても話しやすい存在だ。大概のことでは怒らないだろうし、わがままもすんなりと受け入れてくれるような雰囲気がある。何でも言えてしまうという雰囲気をつくるのがうまい。
 その名前は日本で一番多い苗字という事は多く知られている。名前は個人を表すもののはずなのにその名前はとても無個性で何かの記号のようだ。
 彼が自身をそう名乗ったとき、私はたぶん嘘だなっと思った。本当になんとなくではあるけれどそう思った。彼のすべてが嘘……というより謎だ。中背で痩せ型の体型。服装も無難なユニクロあたりでそろえたものばかりを着ている。仲良くなってよく話すようになっても彼の素性は未だによくわからない。
 「このバンド好きなの?」
 私が好きなバンドのライブにいったとき、突然彼のほうから声をかけてきた。
 いわゆるナンパなのかなと思ったが、彼はとてもナンパをするようなチャラチャラした感じではなくむしろ真面目で冴えない学生か新社会人といったふうないでたちだった。
身振り手振りが大きくやたらに私の目の前で手を動かしたりして、忙しない人だなという印象だったか、不思議と好感がもてた。
そのバンドの話や音楽の話、軽い世間話から私が音楽活動をしているという事を知り、彼は私に特別な興味を示した。私もその一連の会話に特に嫌な気はしなかったので、連絡先を交換した。
 それからメールのやり取りを何度かした後、たまに会ってご飯を食べる仲になった。
 いつも話すときは私が話して、彼はそれを聞くことが多い。しかし、ただ話を聞いているだけではなく、時たま説教のようなものをする。いつの間にか彼は私の人生相談の相手みたいな位置づけになっていた。
ある日、私が占いの話をしている時、彼は言った。
「占いっていうのは心理分析なんだよね。その人がどのような人か。あるいは相手がどんな人か。その上でどうしたいのか。自分にはどんな解決方法が望ましいか。そういうのをアドバイスするのが占いでしょ?」
「そういわれてみれば確かに……」
 占い好きの私だけれど占いというものに関してよく考えたことのない私は、それでも話の腰をおらないように曖昧な相槌をうった。
「でも彼らはその指針を運みたいなものに頼っているんだよね。実際はそういう指針をちゃんと考えていかなくちゃいけないんだけど彼らはその方法がわからないから変わりに星座やタロット、誕生日なんかに頼ったりする。そこは俺と彼らの違いかな。」
「え?どういうこと?」
「俺が占い師よりもまともな助言をできるって事。占いっていくらぐらいするものなの?」
 「1時間で8000円くらいかなぁ」
「そんなにかかるのかぁ。俺も占い師になろうかなぁ。でも水晶玉もないし何も考えてないような女の子を騙すための不可思議な知識もないから無理か」
「サトウならなれるよ。よくわかんないけど」
 彼なら本当になれそうな気がする。少なくとも占い好きで、何人かの占い師を見てきた私から見ても彼の話のほうがよっぽどそれらしい助言をくれるし、何より話をしていて面白かった。それに不可思議な知識はないと彼はいうが、少しの質問で私の性格をぴたりと当てるし、やはり何かスピリチュアルなものを感じさせるものもある。彼に言わせればそんなのは単なる心理学なのだそうだが、それでも私は内心驚いた。
 「まぁ店舗をかまえるのはリスクが高いからやりたくないし、路上でやるのは今の季節だと寒いだろうからやらないけどね」
 ときたま彼はそういったお金儲けの話をする。そういう類の話は好きなくせに彼は自身をニートだというし、わけがわからない。心理学に長けているようなそぶりもみせるし、経営や経済、政治の話題もあげてくる。一般的には女の子に対してそういう話をするのはどうかと思うのだけれど彼の口から聞かされるとなぜか退屈ではない。
 そんな彼にどこの大学の何学部だったのかと聞くと中卒だというこたえが返ってくる。
どうして私はこんないい加減で怪しい嘘つきのサトウと話をしているのだろうと、ふと冷静になった時に思ったりする。しかし、その謎めいたものが逆に興味をそそり、彼とまた会おうという気にさせているようにも思う。人間隠し事をされると妙に気になったりするというやつなのかもしれない。
 ともあれそんな彼に恋の悩みを打ち明けたのは当然の成り行きだった。私はこの片思いの恋を正直なところもてあましていた。徹平さんと出会って一ヶ月もたっているのに数回メールしただけで何の進展もない。良い結果にしろ悪い結果にしろ何も変化がないのは私の性格上とても嫌だった。何かしら前に進めたい。
 12月に入って一層冷えてきた。乾燥した冷たい風が私の体を刺していく。
 駅から私の家までそんなに離れていないというのに自然と歩みは遅くなり、その距離が何倍もあるかのように感じる。ラーメンでも食べて暖まろう。夕食から数時間程度しかたっていなかったがラーメンぐらいなら食べられそうだ。それになにより暖かい空間に入りたかった。
 家族で経営しているのであろう小さなラーメン屋さんには私の他に誰もお客さんがいなかったけれど、私が望んだ暖かさが用意されていた。「いらっしゃい」と店主と奥さんの声が重なる。外気との温度差で少し涙が出てきてジーンとした。カウンターに座りメニューを一瞥したのち、シンプルな塩ラーメンを注文した。がっつり食べようという気分ではないし、これくらいがちょうどいい。
 お水を小分けにちびちびと飲んで退屈をしのいでいると、ほどなくして湯気のたつ塩ラーメンが運ばれてきた。ゆらゆらと立ち上る白い糸が頬をなでてて、乾燥した私の肌に潤いを与えてくれる。
熱いスープをレンゲで少しだけすくってすすった。あっさりめだが、よく味わうとじーんと旨みが口内に浸透してくる。近所にこんな美味しいラーメン屋があったことを知ってなんだか少し得した気分になった。体が徐々に温まってくるの感じる。
 「ごちそうさまでした」
700円を払って、また冷たい木枯らしが吹きすさむ外に出た。早足で家路に向かう。その歩みに先ほどのような淀みはなかった。

次の日の朝、私は携帯の震える音で目を覚ました。
東側に窓がある私の部屋は朝になると、カーテンの隙間から細く日光が差し込んでくる。電車がガタンゴトンと走る音が聞こえた。線路沿いの私のアパートには始発時刻からひっきりなしに電車の音が聞こえるがすでに4年近くここに住んでいるのでもう慣れた。慣れると不思議なもので携帯のバイブ音よりも大きいはずの電車の音もまったく気にならなくなる。
ぼんやりした頭で携帯に手を伸ばす。携帯のデジタル時計は8:33を示している。少し早く起きて得した気分。メールはあの徹平さんからだった。私は慌てて返信する。内容は世間話のようなもので、そんな何気ないやり取りが数回続いた後の次のメールが私を驚かせた。
『ところで今日ひま?一緒にご飯食べにいかない?』
今まで男性からの誘いは数多くあったが、片思いの人から誘われたのははじめてで格別に嬉しかった。唐突な食事への誘いに私は驚いたが、急いで徹平さんへ快諾の旨のメールを送信した。
パチンと威勢よく折りたたみ式の携帯を閉じて顔を洗おうとして、ふと思いとどまって携帯を見つめる。
サトウにもこの事を言っておこう。再び携帯を開いて小さなボタンをタイプする。
『さっき徹平さんからメールがあって食事に誘われた』
挨拶もないただの報告の短い文章。そんなメールを送信して、携帯をゆっくり閉じて今度こそ顔を洗う。歯を磨きながら鏡をみた。すっぴんの自分の顔がうつっている。普通の表情をしているつもりなのだが、それはどこか楽しげにも見える。それもそうかもしれない。心の中は飛び跳ねているのだ
外ではまた次の電車がガタンゴトンと足っていた。
今日は早めに大学に出かけよう。
 私は音楽系の大学に通っている。もう卒業間近の4年生だ。
 しかし、就職っていうのもなんだか心の準備ができていない。自分が働くという事に対して意識がむいていない。就職活動を終えて後は卒業を待つのみという友達も少なくないなか私はふわふわと根無し草のような状態が続いている。大学に入学した当初からこのふわふわした気持ちは変わっておらず、むしろ遊び方を覚えたせいで加速しているように思う。まともに働ける気がしないし、まともに生きれる自信もあまりない。
ぬるま湯のような生活が楽でしかたなかった。学校という組織に属して学生という肩書きだけは手にいれ、特に熱心に何かを学ぶでもなく、遊ぶ金を飲食店のバイトで捻出し、それを刹那的な快楽に消費する。
 趣味の延長のようなバンド活動。音楽で食べていこうというには真剣さが足りていないと自分でも思う。
 将来につながるような事を何ひとつしていない自分がときどき不安になってくる。しかし、その不安とは裏腹に具体的な行動を起こさない自分が情けないし腹が立ってもくる。結局目先の快楽に逃げて、本当に大切な事をやっていない。いいや、本当に大切な事が何なのかすらもわかっていない。
 そんな事だから大学院試験を受けてあと二年の間この自堕落な自分を続けられる権利を得た。残されたその期間に果たして自分は変われるのだろうか。
 大学に入って、当時よりも今の私はかなり変わったと思う。バンド活動をして、実際に人前で歌った事もたくさんあるし、アルバイトでお金を稼ぐ経験もした。それなりに恋もしてきたし、セックスも覚えた。
 だからといってあと2年の猶予を得て私は買われるのだろうか。あるいは、それなりに変われるのかもしれない。その変化が良いのかどうかは別にしてだけれど……。
今の自分は何というか、人生の方向性とか指針みたいなものが見当たらないから、どんなふうに変わったらいいのかもわからない。何とかしないといけないという焦りだけが募って、行動できない理由はそういったところにあるのかもしれない。
 それなりに上手なピアノの音が遠くで聞こえる。
これを弾いている人ははたしてプロになれるのだろうか。きっとなれないんだろうな、と思いつつホットココアをすする。猫舌の私はおそるおそる飲んだのだが、かなり慎重になったのにもかかわらずそれでも舌の先を少しだけ火傷した。
喉の渇きを潤すために焦ってしまった。せっかちな自分が少し恨めしい。こんな事なら冷たいほうを買っておくんだった。自販機のつめた〜いと書かれているボタンを悔し紛れに2回押す。お金を入れていないので当然何もでないのだが、少し気は晴れた。
 午後の授業を終えた時、携帯を見てみるとサトウからメールが着ていた。
 『よかったね。でも向こうがホテルに誘ってきても着いていったらだめだよ』
 その文面を見て少しむっとした。私はそんな事今までしたことがないし、するつもりもない。徹平さんの事は好きだけど一回目のデートで体を許すなんて事はない。
 『大丈夫です』
 短くそう返信する。
 『なら楽しんできて』
 すぐに返事がきた。私はその短い文章に冷たさを感じて、ちょっとむかついた。もう少し気の利いたリアクションをしてくれてもいいのに……。
 これからやってくる楽しい出来事の前に水を挿された気がした。
 それでも徹平さんと食事ができるかと思うと顔が自然とほころんでくる。
 約束の時間までまだかなり余裕がある。私は池袋のTSUTAYAで暇を潰すことにした。
 
 徹平さんは待ち合わせの時間に少し遅れて池袋駅にやってきた。いかにも若者といった格好にダウンジャケットを着ていて、耳元のピアスがオシャレだ。服を着た上からでもわかる筋肉質な感じに私はドキっとした。
軽く笑いながら手をあげてこちらに近づいてくる。
 「ごめんごめん」
「ううん大丈夫」
私も自然と笑みがこぼれる。
「じゃあ行こうか」
挨拶もほどほどに彼は池袋駅近くの商店街に向かって歩き始めた。
今日も北風がスーッと流れてきて、白い息を散らす。
「どこへ行くんですか?」
私は徹平さんにいそいそとついて行き、そう質問する。
「特に決めてないんだよね。何か食べたいものある?」
「うーん……」
徹平さんがすでに行くところを決めているものだとばかり思っていた私は困惑した。
「私はなんでもいいですよ」
お腹はかなり減っているので、正直がっつり食べたかったがそんな事は言えないので曖昧な返事をする。
「そう?じゃあ、あそこ入ろう」
徹平さんはそう言って近くのファミレスに入った。
暖房のきいた店内に入って私は頬が紅潮するのを感じる。
ウェイトレスさんに席へ案内され、二人用の若干手狭なイスに腰掛ける。私はバッグを隣において背筋を正す。
 徹平さんはメニューを広げて思案している。
 「…………」
 「…………」
 徹平さんが見ているメニューを覗き込んで私も何を食べるか考える。はじめてのデートという事もあって何を食べるか気を使う。
 「何食べるか決まった?」
 ひととおりメニューを見終わって徹平さんがそう聞いてくる。
 「うん。ホットケーキにする」
「それだけでいいの?」
「今ダイエットしてるから」
「そっか。じゃあ俺はオムライス」
徹平さんはそう言ってウェイトレスさんを呼び、注文をする。
本当はハンバーグやトマトソースのパスタを食べたかったが、可愛さをアピールするためにホットケーキを頼んだ。
ほどなくしてホットケーキが運ばれてくる。。クリームやチョコレートで飾りつけされていてとてもダイエットに適していそうになかったがしょうがない。
ホットケーキの左隅をナイフで一口サイズに切って食べる。美味しいのは美味しいのだが甘いものよりも塩気のあるものが食べたかった。
私のホットケーキが運ばれてきた後、すぐにオムライスが運ばれてきて徹平さんも食べ始める。デミグラスソースがたっぷりかかっていて美味しそうだ。
料理を食べつつ話が弾む。と言っても私が一方的に話している感じで、彼はうんうんと頷いている以外は料理を食べている。面白くないのかなぁと私は不安になってしゃべり続ける。
「この後どうしよっか?」
私もホットケーキを食べ終え、徹平さんもオムライスを大方食べ終えた時に、彼は言った。
「うーん……私は何やっても大丈夫ですよ」
なるべく愛想良くなるようにそう言った。彼と一緒ならけっこう何でもよかった。何をするかではなく彼と一緒であることが重要なのだ。
「そっかぁ。じゃあ君の部屋に行っても良い?」
彼は少し溜めた後でそう言った。

私はなぜかシャワーを浴びている。
徹平さんはバラエティ番組を見ているようで、お笑い芸人の笑い声がする。
髪や体をいつもよりも丁寧に洗う。体を綺麗にしたいというよりは時間稼ぎの意味が強い。
お風呂場に入って20分ぐらいたっただろうか。突然お風呂場のドアがあき、下半身を露わにした徹平さんが立っていた。徹平さんのそれはすでに隆起している。
「お風呂長いね」
徹平さんはにやにや笑ってそう言った。
「えっ…………」
私はびっくりして何も言えなかった。
徹平さんは狭い1ルームの私の部屋にあるさらに狭い風呂場に入ってきた。私は後ずさりしようとしたがすぐ後ろには壁がある。
徹平さんは左手で私の肩を触りながら、シャワーを取り上げて壁にかけた。そのまま強引に私に顔を近づけて私の唇をひと舐めすると、口内へ舌を入れてくる。
私の口で徹平さんの舌が踊る。私は舌を逃がすのだが、すぐに追いかけてきて絡みつく。
「舐めて」
いつの間にか私は膝をついていた。目の高さより少し上に徹平さんのものがあった。私が戸惑っていると彼は私の頭の後ろから引っ張り徹平さんのものに私の顔を押し付ける。
私はなんだかどうでもよくなった。あきらめて徹平さんのものを握り、舌を這わせる。彼のものを機械的にしごきあげた。徐々に加速させる。
「うっ……」
徹平さんが小さくうめき声をあげて、私の口の中を突き上げ欲望を放出する。
私はあわててそれを吐き出した。口の中をシャワーで洗いつつ、私はサトウとの会話を思い出していた。
『私好きな人のは飲んであげたいんだ』
自分の矛盾についてぼんやりと考える。
今の私は誰の精子なら飲めるんだろう……。私はなぜかサトウの事を考えていた。



コメント(5)

続きが気になります!連載を強く希望します!!
おにいさん
コメントありがとうございます。
友人の方に依頼してみますね。
まさかの例の小説(課題として学校に提出)がここにあるとはー!ww

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