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荒野に生きるチームコミュの吉良 Change the worlD vol.51

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【第50話】http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=29708010


「やめたまえ、由美子くん」

 由美子の肩に手を置いたのは、奥平だった。別荘でのやりとりで怪我でもしていたのだろうか、頭に包帯を巻いている。表情も、どこかぎこちない。

「奥平先輩」

 由美子は、ハッとしたように希美を見た。

「うん。だからホントはね、お兄ちゃんのお嫁さんには、なれないの。お嫁さんになれるのは、16歳からでしょう?」

 希美は舌を出して、明るく答えた。
 何を言っている。何を言っているんだ。

「知っていたのか」

 奥平の顔が歪む。うまく表情を出せないのだろうが、吉良には泣き出しそうに見えた。

「うん、おじさん。聞いちゃった」

 知っている?何をだ。希美がもうすぐ死ぬ?

 死、その一文字を思い浮かべた時、吉良は怖気に身を震わせた。何のことだ。理解できない。いや、理解することを拒んでいた。

「ごめんね、お兄ちゃん」

 なんで謝った。そんな必要はない。6年経てば、希美はきっと、美しい女性になるだろう。女子高生になって、セーラー服を着て、24歳になった俺の横を歩くのだ。今は子供にしか見ることはできないが、歳の差はわずか8歳だ。俺の気だって、変わるかも知れないじゃないか。いや、むしろ変えて欲しい。変えてくれよ。いや、その時には俺などアウトオブ眼中で、同年代の男子とデートでもしているかも知れない。それならそれでもいい。それでもいいんだ。

 だが、希美が一瞬浮かべた沈痛な面持ちを、吉良の優れた動体視力は見逃してくれなかった。

「希美ね、テロメアが短いんだって。テロメアっていうのはね。」

 やめろ、そんなこと、

「テロメアは末梢小りゅーとも呼ばれるせんしょく体末端である。しんかく生物のせんしょく体は線状であるため末端が存在し、この部位はDNA分解こーそや不適切なDNAしゅーふくから保護される必要がある」

 聞きたくない。

「テロメアはその特異なこーぞーにより、せんしょく体の安定性を保つ働きをする。テロメアを欠いたせんしょく体は不安定になり、分解や末端どうしの異常なゆーごーがおこる。このようなせんしょく体の不安定化は発ガンの原因となる。テロメアの伸長はテロメラーゼと呼ばれるこーそによって行われる。このこーそはヒトの体さいぼーではハツゲンしていないか、弱い活性しかもたない。そのため、ヒトの体さいぼーを取り出してばいよーすると、さいぼー分れつのたびにテロメアが短くなる。つまりさいぼーの分れつ回数には制限があり、一定数の分れつを行うとさいぼーしゅーきが停止してさいぼーはそれ以上は分れつできなくなる」

 やめてくれよ、

「このげんしょーは発見者の名前をとってヘイフリック限界と呼ばれる。また、さいぼー分れつが停止したこの状態を、個体のろーかになぞらえ、さいぼーろーかと呼ぶようになった」

 お願いだから。

「その後の研究で、さいぼーろーか状態にあるさいぼーではテロメアが短くなっていることが観察され、テロメアの長さがさいぼーの分れつ回数を制限している可能性がシサされている」

 希美は、覚えたのだろう論文の一節を、一気に喋った。

「‥‥難しいことはわからないけど、希美ね、もうすぐさいぼー分れつが止まって死ぬの」

 絶望感が、吉良を包んだ。だが、まだ信じられない。希美はこんなに元気いっぱいで、照れたように微笑んでいるではないか。

「希美ね、お星様になるんだ」

 希美は死ぬということを理解できているのだろうか。希美の世界の、全ての終わりだということを。

「吉良くん、少し話をしないか」

 ああ、俺も話したい。希美には聞かせられない話をしよう。

【第52話】http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=29708085

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