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☆ 銀河英雄伝奇 ☆コミュの銀河英雄伝奇 第七巻 怒濤編 第八章 前途望遠。

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(※この項の初出は
 http://mixi.jp/view_community.pl?id=976834
『銀河英雄伝説ごっこ』コミュトピック
「かなり楽をして敵に勝てる方法を考えつきました。
 ためさせていただけませんか」(〜 陰謀家の要望 〜)
 @2006年08月05日 03:09 です。
 要塞事務総監殿のセリフ考案は、Dohun氏によるものです。)
 
 
 某月某日。
 ヤン不正規部隊の首脳陣の中でも最も多忙を極めるうちの一人アレックス・キャゼルヌが、日々山積していく難題の隆起速度に対抗するべく早朝から彼の勤務地である執務室に足を運ぶと、彼の執務室の彼の執務机であるところの整然と片付けられた……少なくとも昨夜もしくは今朝未明に彼が退勤するまでは、合理的に整理整頓がなされていたはずの……資料が山脈となった巨大なデスクの片隅に、来客用の椅子を引き寄せてだらしなく浅く腰掛け、片方の肘を机に載せた上にさらにその中味だけは稀有な貴重品であるはずの頭蓋骨を重ねて、彼の唯一の上官(であるはずの)ヤン・ウェンリーが、前後不覚、といった態で睡眠に没入している姿を、発見するというあまり有難くない体験をする運びとなった。
「……あ、おはようございます。すいませんが、僕もう行かなくちゃならないので、あとをお願いできますでしょうか。5分後には起こしてくれって言われてて、もう8分ほど経ってしまったんですが……」
 小声で、いかにも申し訳なさそうに断ってくる上官の被保護者には了承の旨を伝えて、その走り去っていく姿を見届けると、彼は軽いため息をついて、
後ろでにドアを閉めた。
 
「ふう……お前さん、俺が暗殺者だったら永遠に銀河を彷徨うことになっていたぞ。そうなると俺達全員は路頭に迷っちまう、もっと自覚して欲しいものだな、自分の命の値段という物を。それにしても被保護者に感謝するんだな、ユリアンが目を光らせていれば本物も近づけん。
 えーと何々、補充艦艇の弾薬・燃料の手配書に新参者の宿舎とその家族に対する危険手当申請書。また増えたなー。
 ……おい、おきろ。こんな朝早くから昼寝されるとこっちの労働意欲が損なわれる。何か用があったんだろ?朝一で資料より先にお前さんの顔を見るなんざそうは無いからな。」
 
 キャゼルヌが軽く揺り起こしたくらいで目を覚ます状態のヤンではなかった。「……頼む、あと3分25秒……」などと未練がましい寝言を呟いているところを見ると、起きなくてはならないという義務感だけは残っているらしかったが。
 ため息をついた部屋の主がふと気がつくと、ユリアンが用意したらしい保温瓶と紅茶用の茶碗が、ヤンの肘が間違って当たったりしない距離を慎重に計算して、さりげなく配置されていた。
 しかたなく保温瓶の中味をカップに注いでやると、眠気覚ましのためなのか、ヤンがふだん愛飲しているものよりはるかに濃い色合いの液体が流れ出た。これにはなにかの歴史的ないわくがあるらしく、ヤンが「うなぎ」とかいう地球原産の魚類の名前で呼んでいる特殊な調味法で煮出した紅茶で、こうなると「紅」とか「茶」だとはすでに言いがたく、たんに「黒」とか「漆黒」等と呼ぶべきではないかと思える。そしてその効果のほどはと言えば、すでに一種の立派な覚醒剤とも呼べるような「シロモノ」だというのが、以前にヤン本人からキャゼルヌが聞き及んでいたところであった。
 その独特の香りがようやく脳細胞に伝達されたのか、「うー」とも「むー」ともつかぬ呻き声を発しながら、軍服を着た若年無宿者か、はたまた食い詰めた脱走兵のようなていたらくの要塞司令官殿は、ようやく上体を起こした。
 
 「あぁ……。先輩、すいません。寝過ごしてしまったみたいで……。ユリアンは? もう行きましたか? あ、その辺の申請書類の山は、シュークリームフリッターからです……」

「…………誰だって…………??」
 
 要塞内の全人名と略歴を把握しているはずの事務責任者が怪訝な顔で尋ねかえすと、実務的な記憶力の面でははるかに劣ることを自覚しているその上官は、両目を両手でこすりながらバツの悪そうな半笑いをするという、器用な芸を披露した。

「おっと……。スープカリー煮込み氏だったかな……? ビュコック提督から勝手にお借りしている、あの "すぐにスルーする" とかなんとかいう名前の御仁ですよ」
 
 どうやら眠気覚ましのつもりの出来の悪い冗談らしいと判断して、長いつきあいの年長者の部下は、鼻にしわをよせて笑った。
 願わくば、直接本人をその名称で呼ぶほどの無分別ぶりを発揮することだけは、せめて遠慮してもらいたいものだ……。
 問題の人物はムライやパトリチェフらと共にイゼルローンに到着し、現在は、フレデリカの不測の事態による不在によって実務能力の極端な低下にみまわれ困窮し果てていたヤン・ウェンリーの、臨時の副官としてこき使われている。
 武人の鑑とも呼ぶべきビュコック元帥の副官から、このような軍人失格寸前、あるいは人間失格と呼んでもさしつかえないような人物の補佐へと、強制的な配置転換を余儀なくされたのでは、本人にとってはさぞかし不遇不満に満ちあふれた刺激的日々であろう。
 
「ちょっと顔を洗ってきます……。洗面所をお借りしますよ。」
 まだすこしふらふらしながら、その不運な副官の臨時の上官は、勝手知ったる他人の執務室の洗面所へと向かって行った。
「あぁ、15分ほど時間を下さい。主な用件は2つです。……帝国軍の侵攻が途中で止まった理由が判明しました、それと……」
 
 2つ目の用件を聞き取る前に声の主はドアの向こうへと消えてしまったが、一件目のタイトルを耳にしただけでも、今日の午前中の予定はすべて変更だと覚悟させるに十分なものがあった。
 
 遅滞させるわけには行かない緊急の用件のみを素早く選別して処理しながらキャゼルヌがしばらく待つ数分の後、洗面所の方角からゴン!という鈍い音が響いた。どうもヤン・ウェンリーという稀代の天才の脳をつつむ頭蓋骨と頭髪が、睡魔の沼に再び落ちかけて壁に挨拶をした、その音響のようだ。気絶でもしたのではないかと些かの不安にかられてその方角を見やるうちに危惧は杞憂に終わり、痛そうに額をさすりながら歩み出て来る要塞司令官の姿があった。
 顔を洗うついでに濡れたままの手で寝乱れ髪をなでつけるという作業もしたらしく、後ろ髪の先端から落ちる水滴が清潔な執務室の床に小さな染みの羅列を作ったが、部屋の主はあえてそれを無視する。
 「……で……?」
 簡潔に尋ねると、応答するべき者は、先ほどまで仮眠の場所と定めていた椅子に対して、先ほどまでと同程度に行儀の悪い姿勢で腰掛けなおし、すっかり冷めてしまったティーカップに口をつけ……、まずそうに顔をしかめた。
 
「……とにかくあっちこっちから好きな時間に勝手な情報が大量に流れ込んで来るもんですから、睡眠時間が細切れになっててですね……」
 ぼそぼそと言い訳じみた言葉を口にしてから、居住まいを正し、偉そうに言い切る。
「私の頭が少しでも起きていられる間に用件を全部言い切ってしまいますから、とにかく聞いてて下さい。質問は無しです。」
「無しかね?」
「無しです。」
 重々しく……は、彼の場合、見えないのだが……うなずくと、1枚の情報ディスクを机の上に置いた。
 
「最近、ミッキーだかミニーだかいう情報盗掘用のツールが民間人の情報屋の間に出回っているらしくて、バクダッシュの分析によると、これは本物と推定して間違いないそうです。ボリス・コーネフから紹介された情報屋が高額で持ち込んで来たそうですが……。銀河帝国皇帝陛下の首席秘書官ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ嬢の、個人用のパソコンから流出した、個人用に帝国内の情勢分析を記した日記というか覚え書きの、本物らしいんですが……。おそらく、彼女は民間人の出身で、軍人としての基礎教育を受けているわけではないので、情報戦に対するガードが甘かったんでしょう。もっとも、情報が入手できたのはこれ1回きりで、以後は無し。あるいは、誰かが故意にこの情報を盗み出して流通させた、という疑いも拭えませんが、とにかく……」
 ヤンは一旦言葉を切って、再び「黒」茶で舌と喉を湿らせた。極端な寝不足によって声がかなりかすれており、どうにも喋りにくいらしい。
 
「これの内容を信じるとすればですね。キルヒアイス卿が実はどこかで生きている……"らしい"、という情報が、帝国軍の中枢内部で出回っているそうです。そして、その真偽のほどを確認せんがために皇帝ラインハルト直々に、フェザーンで留守を守っているはずのオーベルシュタインを締め上げに、最前線を放り出して、急遽、単身、戻ってしまった、らしい……。今や我々イゼルローンに対する出撃命令を待つばかりになっていた全軍の指揮を放り出して、ということですね。で、現在、放り出された帝国軍の面倒は、ロイエンタール候が見ているらしい……です。」
 
 そうだ、と、らしい、とは、伝聞と推測と憶測ばかりの情報だなとキャゼルヌは思ったが、最初に質問は禁じられているので、慎重に沈黙を守る。
 
「追ってこの情報の再確認、再々確認と、各方面の情報部員は総出で分析収集に当たってますが……。とにかく、キルヒアイス卿存命!という噂話が流出している事と、その噂の裏打ちとして、 "なにしろメルカッツ卿だって生きていたんだし……" という情報が飛び交っているのは事実。そしてその "噂話" を皇帝陛下の耳には入れまいとしたオーベルシュタイン卿の真意を問い質しに、皇帝陛下が親征だったはずの最前線を離れて、フェザーンへ急行中、と。ここまでは恐らく事実です。ちなみに皇帝陛下の随行に間に合ったのは、 "疾風"のウォルフ卿だけという、急な展開らしい。」
 ふたたび「黒」を含むあいだのわずかな静寂。
 「とにかく、我々にとっては、帝国全軍に対する迎撃態勢を整えるための、いくばくかの時間的余裕が与えられたらしい、という事が要点ですね。個人的には、この情報それ自体と同じくらい、この情報を分析して記した人物の、ひととなりを知ることが出来たことが、大きな収穫なんですが……。
 まぁ、それはまた生き残っての後での事ですが……。
 
 それより今、当面の問題は、シャルロット・フィリス嬢の服の襟には、最近しばしば帝国印の盗聴器が付けられている、という事なんですが……。
 
 先輩、気付いてましたか?」
 
 
「……いや………………」
 あまりに意外な話題の飛躍に、シャルロット嬢の父親は、数瞬の間、呼吸をするのを忘れた。
 
「なぜ要塞という閉鎖空間にいると、こう安心し腐って注意が散漫になるものかな……。正直、晴天の霹靂だよ。どんな会話が記録されてしまったのかも重要だが、娘がどこかで帝国のスパイと接触してしまったという事実も心配でならない。相手は俺の娘と知って忍ばせたんだろうしな。その気になれば娘や艦隊中枢の人間までも手に掛ける事が出来たんだ。
 ま、幸い帝国からすればヤン以外は皆問題ではないらしいからな、俺なんぞにそんな危険はおかさんか。要塞にいればシャルロットが俺の娘だということぐらい、直ぐに分かるし、ここには数百万人規模の人間がいる。一度潜り込んでしまえば溶け込むことなんぞ雑作も無いことだ。……手を打つにしても骨が折れる仕事だな……。」
 
「ところでお前さん、どうして盗聴器の事を知った、専門家でもない限り知り得んだろ。」
「そこなんですよ……」
 無精にもヤンは首肯しながら同時に漆黒の茶?を喫しようとして喉を妙な具合に使用してしまったらしく、にわかに咳き込みはじめた。
「……失礼……。」
 



(業務連絡)
 すいませんが、キャゼルヌ先輩。
 ヤンの咳の発作がおさまるまで、
 しばらくお待ち下さい。_(_^_)_

コメント(1)

(業務連絡)
 
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