トラックに跳ねられて、吹っ飛ぶ瞬間。
ものすごくスローモーションになった。
１秒が10秒になった感じの遅さ。
人間は死を直前にすると今までの思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡るって聞いてた。
でも僕の頭ん中で駆け巡ったことは…
お母さんとこたつの中に入って、みかんを食べてる思い出だけだった。
………………………。
なんて、つまらない人生なんだ。
自分で自分の頭に呆れてしまった。
やっぱり死んで当然なんだよ僕は…。
スローモーションで、思いっきり地面に頭を叩きつけられた。
強烈な痛さを感じる前に僕の視界は真っ白になった。
でも、これだけは言えるよ。
絶対に死んだ。
昔から僕は、変に運が良かった。
あれは小学三年生の夏の日。
喉が渇いたので、自販機でジュースを買った。
120円しか入れてないのにジュースが、たくさん出てきた。
きっと自販機が故障していたのだろう。
ただ残念なのはボタンを押し間違えて、コーラがたくさん出てきたこと。
僕が飲みたいのはアクエリアスだったのに…。
こんな感じで、変に運が良いんだよね。
中学生の時、席替えはくじ引きだった。
みんなが狙うは、やはり一番うしろの席。
うしろの席は、先生から離れてて安心出来るし、居眠りなど出来るから人気だ。
僕は別に、うしろの席なんか狙ってないのに
奇跡的に三年間ずっと、うしろの席だった。
だからクラスのみんなから嫌われてた。
『インチキ根暗』『横取りニート』など悪口も言われてた。
何も僕は悪いことなんかしてないのに…。
極めつけは、通ってる高校の受験の時の話だ。
僕の通ってる高校は地元の中で三本の指に入るくらいのバカ高だ。
名字を書いただけで入学出来ると言う噂もあるくらいだ。
僕は別に頭良いほうじゃない。どちらかと言うと、少し悪いほうだ。
入試の内容は二択のマークシート。
テキトーに書いた。
だけど五教科、試験を受けたところ、不正解が一問だけだったと奇跡。
そのせいで僕は受験生の中でトップの成績で入学することになった。
だから高校の先生たちは僕を良い大学に進学させようと張り切ってる。
毎日毎日、僕だけ特別課題を出してきて、翌日、解答して提出しなければいけない。
僕は進学する気なんて全くないのに。
それに頭なんて良くないのに…。
だから本当に僕は、変に運だけは良いんだよね。
…………………………。
部屋の明かりが眩しくて、ゆっくり目を開く。
【………………？】
理解するのに時間がかかった。
ここは病院。そして僕は病室のベッドの上で寝ている。
僕は自分の死を受け入れたのに…。
僕は奇跡的に助かったみたいだ。
でも、こんなのを望んでる訳じゃない。
僕は思わず泣いてしまった。
つづく
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