ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

小説家版 アートマンコミュのてとせ?

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「母さん、お茶入れてくれよ」
「あ、コーヒーにしません? ミコさんがケーキを買ってきてくれたのよ」
 慎二の母はケーキの入っている箱を開けた。ミコは少しドキドキしていた。
「まー、美味しそうなケーキ」
 慎二の母はそう言うとケーキを小皿に別けて持ってきた。ミコは既に嘘を見破っていて話しを合わせているのか疑問に思ったが、あの店員が言った通りの言葉を話した事には驚いていた。そして、慎二の母はひとくちケーキを口に入れた。
「美味しいわ。やっぱり都会のケーキは味が違うわよね、父さん」
「そうか? いつも食べているのとあまり変わらないな」
「父さんは味音痴なのよ。たまに高いお肉買って来っても全然違いが分からないんだから、嫌ね」
 イヤイヤ、味音痴はお母さんの方だとミコは言いたかった。あの店員の言う通りに事が運んで行った。
「ミコさん、何処で買ってきたの? 近くだったら、教えてよ」
 完璧だった。余りにびっくりしてミコは愛想笑いしか出来なかった。
「で、ミコさん、さっきの話しを俺達に教えてくれるかい。不思議な体験をしたって話」
 ミコはケーキのフォークをおいて、背をのばした。ついつい二人ともミコにつられて、フォークをおいた。そして少し間をあけてからミコが口を開いた。
「慎二の幽霊に会ったんです」
『えぇぇ!、慎二の幽霊に会った!』
 慎二の両親が声を合わせて大きな声をだした。ミコは今まであった事を包み隠さず二人に話した。二人は話の途中何度も声を揃えて大きな声を上げた。

「母さん、昨日のミコさんの話だけど信じられないな。慎二と反対の人間を探し出して、その人に謝るだなんて。話の初めの頃に聞いた慎二の幽霊に会った事なんか普通に思えてきちゃうもんな。ミコさんの頭が変になったにしては、考えが高度だしな。母さん、黙ってばっかりいないでさ、母さんの意見も聞かせてよ」
 慎二の父は一晩たっても、ミコの話した不思議な体験に半信半疑だった。
「あ〜、うるさいわね。男ってグジグジしていて嫌だわ。ミコさんが慎二の反対側の人を探したいって言うのなら、協力したらいいじゃないのよ」
「そうだけど、俺が聞いているのは、ミコさんの話だよ。母さんは信じるのかって聞いているんだよ」
「そんな事分かるわけないじゃないの。私、高校しか卒業してないのよ。分からないから、ミコさんを信じるの。父さんもいらない事考えずに、黙ってミコさんの事を信じたら良いの!」
 慎二の母は一括した。慎二の父はそれから何も言わなくなったが、納得はしていないみたいだった。そこに、ミコが2階の慎二の部屋から出て来た。
「あ、ミコさん。ゆっくり寝られた?」
「はい、お母さん。慎二のアルバム見ながら寝ちゃいました」
 ミコは言葉通りスッキリした顔で答えた。
「さあ、お味噌汁作ったから、一緒に朝御飯食べましょう」
「はい、私が御飯をよそいましょうか?」
「ありがとう、それじゃあ、お願いします」
 慎二のいた時には一度もなかった風景だった。それも不思議だと慎二の父は客観的に見ていた。一人どしんと座っている慎二の父の前に、ミコが味噌汁と御飯と漬け物を持ってきた。いつもの貧相な朝食が美味しそうに見えたが、決して口にはしなかった。
「美味しいです。久しぶりに食べました。赤味噌のお味噌汁」
「ミコさんは、白味噌つかっているの?」
「いいえ、合わせ味噌です」
 他愛のない会話だったが、慎二の家でも慎二が死んでからは会話が少なくなっていた。
「今日は、どうするんだい」
 慎二の父がミコに今日の予定を聞いた。
「えっと、慎二が通っていた学校に行ってみます。何か手がかりがあるかも知れないから。お父さんにお願いがあるんですけど、学校までの地図を書いて貰えませんか?」
「もちろん、任しておいて。ミコさん、協力できる事があったら何でもするから、遠慮なく言ってよね。な、母さん」
(返事は良い事言うのよね)
 母は小さい声で、慎二の父の態度を皮肉った。
「何か楽しいな。な、母さん」

「お早うございます。慎二さん。良く眠れました? 早速、ウッシーとウーマから連絡がありましたよ。どうやら、完成して今から衛生を打ち上げるって言っていましたよ。時間があったら、慎二さんもどうかって」
 ヤマさんが合鍵を使って、慎二の部屋に入って来て慎二を起こした。
「行くよ。今直ぐ行く」
 慎二は飛び起きた。ヤマさんのいる前で浴衣から服に着替えた。
「それにしても、作るの早いんだね。」
「そりゃあ、あの二人は気合いが入っていましたからね。特別に気合いが乗ると、背中から4本手が生えてくるんですよ。6本の手で仕事をするんで、まさに神技ですよ。一度見ると恐いですよ」
「ヤマさんも一緒に行くんでしょ」
「宿屋の朝は忙しいんですよ。只でさえ人手がなくて大変なのに、僕がいなくなっちゃったら、タツエばあさんはパニックになっちゃいますよ」
「そりゃそうですね。また、あの政治家が騒ぎ出したら大変ですしね」
 慎二は、一人でウッシーとウーマの所に行く事になった。慎二は宿の外に出てみると、死後の世界の朝が妙に暗い事に気がついた。昼間でも薄ぐらいのだから、朝が明るい訳なかったが空気は澄んでいて気持ちが良かった。そう言えば、慎二はヤマさんの宿屋を独りで外出するのは初めてだった。昨日、ウッシー達の所に行った時はヤマさんの後をついて行っただけだったので、道沿いに沢山の柳の木があるのに昨日は気付かなかった。よく目をこらして柳の木の下を見てみると若い綺麗な女の子が慎二に手招きしていた。慎二も経験したが、この薄暗い道を一人で歩いている時に若い女の子じゃなくたって、人恋しくなるのは当たり前だ。悪い宿屋は死んだ人の心理を掴むのが上手いななんて事を考えているうちに、慎二はウッシーとウーマの洞窟にたどり着いた。
「おい、慎二。丁度良い時に来たな。急いで上がってこいよ。入り口の右脇に梯子があるから、それを使ってのぼってこいよ」
 ウッシーが洞窟の上から声をかけた。
「何をやっているんですか?」
「今から、人間界に衛生アンテナを打ち込むんだよ」
 ウーマがひょいと顔を出して慎二の質問に答えた。慎二は急いで入り口の脇にある梯子に手をかけた。この梯子は二人の体にあわせて作られていたので、慎二には梯子の間隔が広すぎて、登るのに一苦労した。洞窟の上に来ると沢山の装置がセットしてあった。地面に延びているパイプには引き金がついていて、その引き金をウッシーが持っていて、ウーマは大きなレーダーとラジコンのコントローラーみたいな物を手にしていた。
「お、上がってきたな。今から、この衛生アンテナ『センイチジュ』をこのパイプを通じて打ち込むんだけど、詳しい事をウーマ説明してやってくれ」
 ウッシーは慎二にこの『センイチジュ』の説明をしようとしたのだが、上手に話せそうになかったのでウーマにバトンを渡した。
「おう、分ったよ。今いる死後の世界は人間の世界の上空にあるんだが、ここから下に向かって落とせば人間界に行くみたいな単純な事ではないんだ。この世界にも重力があって普通に物を投げれば、地面に戻ってくる。だから重力が無効になる所まで打ち込まなくてはいけないんだ。と、いっても、打ち込みすぎると人間界の重力に捕まってしまって落下してしまうんだ。だから、両方の重力が引きある場所にこの『センイチジュ』をおいてこないといけないんだ。
 それじゃあ、これから、打ち込むから一応、慎二も眼鏡と耳当てをしておいてくれよ」
 ウーマは慎二にサングラスとオレンジの耳当てを渡した。慎二はすぐにそれを身に付けた。それを確認したウッシーがウーマにカウントダウンを要求した。
「3、2、1、0、発射」
 ウーマの合図とともにウッシーが引き金を弾いた。鈍い爆発音と振動が回りに轟いた。
「ウーマ、『センイチジュ』の進行状況は?」
「今の所順調だ。あと10秒で目標地点に到達するぞ」
 ウーマはレーダーを見ながら、コントローラーを両手で持った。ウーマの後ろからニョキニョキと4本の手がはえてきた。そのうちの一本が置いてあったレーダーを持って、ウーマの目の前で固定した。
「後、3、2、1、ここだ」
 ウーマはコントローラーで、衛生を目標地点にとどめるのに成功した。
「大丈夫。成功だ。早速モニターとつないでみよう。ウッシー、完成した仏壇を持ってきてくれよ」
「おう!」
 ウッシーはウーマの所に自分の造りたての仏壇を持ってきた。その仏壇は人間界の物とは形が違っていた。高さは60cmくらい、幅は90cmくらいの横長のものだった。それを高さが80cm程の専用の5本足の台にのせ、その仏壇の上に埃よけを置き、その上に長い銀色のアンテナが取り付けてあった。襖みたいになっている仏壇の扉をあけると内部に大きな四角の水晶が入っていた。特に内部は金でキラキラしていたが、外観はどちらかと言えば地味だった。
 暫くすると、その水晶に衛生から見た日本の国土が写し出された。
「じゃあ、慎二、このコントローラーで自分の家を探しだしてくれないか?」
 ウーマは慎二にコントローラーを渡した。コントローラーはカーナビをセットする要領で操作が出来た。日本地図から県の地図、街の地図と範囲を狭めていった。そして、慎二は自分の事故現場になった道を発見して、その道沿いにある自分達のアパートを見つけだした。
「このアパートの2階の204の部屋なんだ。この後、どうやって設定するの?」
「よっし、それじゃあ、ココからは俺がセットする。一緒にこの水晶を見ていてくれよ」
 ウーマは慎二からコントローラーを受け取って、最後の設定をし始めた。ウーマの操縦で慎二のアパートの壁が透けて、慎二の部屋の内部が水晶に写し出された。
「結構荒んでいるな。お前の部屋。おっとゴメン」
 ウッシーが慎二の隣から顔を出して、水晶に写る慎二の部屋の散らかり方を見て声を出したが、ウーマにジロッと睨まれた。ウーマは何かを探すように操縦したので、水晶の中の映像が揺れていた。
「何か、この画面ばっかり見ていると酔いそうだな」
「静かにしてろよ、ウッシー。あ、あった、結構オシャレな仏壇で気がつかなかったな。よし、この仏壇に映像を固定するぞ」
 ウーマはコントローラーの中央にあったボタンを押した。すると急に画面が暗くなった。
「おい、故障じゃねーのか? 画面が真っ暗だぞ」
「大丈夫だ。コレが仏壇の内部からの映像だからな。今はまだ扉を閉めたままなんだろう。その内、扉を開けてくれるさ」
「おーい。ウーマ、ウッシー。いないのかな?」
 下の方で声がした。3人が洞窟の上から覗き込むとヤマさんが下の入り口でウロウロしていた。
「おう、ヤマさん! こっちだ」
 ウッシーがヤマさんに手を振った。ヤマさんもそれに気付いて手を振り替えした。ヤマさんは梯子のある所を知っていたので、そこから登り皆の所にやってきた。ヤマさんの所に慎二が近付いていって、無事に慎二の家の仏壇と接続できた事を報告した。
「へー。慎二さん、良かったですね。で、これがウッシーが作った仏壇。オシャレだね。何かレトロでモダンだね。不思議なデザインだ」 
 ヤマさんはそのアンテナのついている仏壇を見て、ウッシーをほめた。
「やっぱり、ヤマさんは見る目があるね。作る前に仏壇の事を調べたんだよ。懐かしいけど、新しいってイメージで絵を書いて、ウーマと相談して設計したんだ。ま、ウーマの趣味も入っているんだけどな。そんな事より、ヤマさんメッセージを送ってくれよ。」
「あ、そうだ。俺もヤマさんが一番適任だと思うぞ。俺達と違って顔も恐くないし、敬語も使えるしな。」
 ウッシーとウーマがヤマさんにメッセンジャーになるように勧めた。慎二も二人の意見に賛成だった。
「映像は送れないんだったら顔は関係ないと思うけどな。でも、分かった。慎二さんは僕の大切なお客さんだし、僕がメッセージを送るよ。でも、どうやって?」
 ウーマはヤマさんに水晶で出来た数珠を渡した。
「ココからのやってもらう事はかなりアナログな事だ。その数珠を額の所にかざして、メッセージを口にだして願いを込めるんだ。こんな感じでね。」
 ウーマは何も持っていない手を額に押しあてた。
「こんな感じで良いの?」
 ヤマさんがウーマの真似をしようとしたので、急いでウーマが止めた。
「だめだよ。メッセージが記録されちゃうじゃないか。でも、要領はそんな感じでオッケーだ。じゃあ、メッセージは考えたか?」
 ヤマさんはうなずいた。ヤマさんは慎二を見ると、優しく笑ってからその数珠を額にかざした。
「はじめまして、あの世で慎二さんの世話をしているヤマです。慎二さんから伝言があります。慎二さんと同じ手、同じ背中の人を探して下さい。あと、これだけははっきり言っておきます。慎二さんは愛……あっ! 何か音がした」
 ヤマさんは話の途中で大きな音がしたのでびっくりした。
「残念、そこまでしか送信する容量がないんだ」
 ウーマが残念そうに、ヤマさんに答えた。ヤマさんも慎二がミコの事を愛していると伝えようとしたのに、何か意味深な感じのするメッセージになってしまった。ウーマはヤマさんの数珠を受け取ると仏壇の本体の下の台の3つある引き出しの真ん中にその数珠を入れた。するとヤマさんが念じた声が再生された。ヤマさんが自分の声と中途半端なメッセージを聞いて顔を赤らめた。
「最初はこんなもんだよ、ヤマさん。とりあえず、送っておこうよ」
 ウーマが慎二を見ながら話した。
「はい、そうして下さい。ヤマさんありがとう」
 慎二の了解を得て、ウーマはメッセージを送る為に仏壇の扉を閉めた。仏壇の扉を閉めると仏壇の中から何かが回りだす音がした。それは仏壇の下の台、数珠を入れた引き出しから音がしていた。そして、パリンと数珠が割れる音がした。
「よし、送信完了だな」
 ウーマは真ん中の引き出しから砕け散って砂のようになっている水晶を手のひらに集めて、空にばらまいた。そして、おもむろに仏壇の扉を開いた。
「やっぱり、今ので水晶にダメージが来ちゃったな」
 皆が覗き込むと水晶に大きなひびが3つ入っていた。別に映像を見るのには見にくいだけで、支障はなかったが、ウーマが最初に説明したみたいに、あと1、2回でモニターは完全に破壊されてしまうだろう。
「で、今のメッセージは直ぐ届くの?」 
「慎二、そんなに上手くは行かないんだよ。河の流れを逆らうような物なんだよ。人間界からこっちに来るのは流れに身を任すだけなんだが、こっちの世界のものを人間界に送るのは何倍も時間がかかってしまうんだよ。だから、メッセージが届くのは2日後くらいじゃないかな」
 慎二はがっくりした。
「慎二さん、焦らずにいきましょうよ。当分、こちらの世界にいるんですし、僕がこっちの世界を案内しますよ。のんびりしていたら、2日なんて直ぐですよ。生まれ変わる事になったら、講習会や試験とかでゆっくりなんか出来ないんですよ。僕の宿屋にいる間くらいですよ、ゆっくりあの世ライフをエンジョイできるのは!」
 ヤマさんが慎二の顔を見て機転をきかせた。慎二もどうにもならない事でくよくよしてもしょうがないとは頭で分かっていても、ミコの事を考えると少し複雑な気持ちになっていた。

「何よ、モモちゃんも一緒にいきたいの?」
 慎二の卒業した学校を見て回ろうと、家の玄関を出た所で犬のモモに捕まった。ミコの足にモモが近付いて、キューン、キューンと何かを訴えかけていた。
「おかしいな。俺が今朝散歩に連れていったのにな。」
 出勤する慎二の父も不思議そうに、モモの行動を眺めていた。
「もしかして、私と一緒に行きたいのかしら? 別に近所の学校に行くだけですから、モモちゃんと一緒に行きます」
 それを聞いてモモにも意味が分かったのか、飛び跳ねて喜んだ。
「そんなに俺との散歩がつまらないのか? じゃあ、電車の時間に遅れるからいってきます」
 慎二の父が寂しそうに肩を落として、とぼとぼ歩いていった。
「いってらっしゃい!」
 ミコは慎二の父の背中に向かって手を振った。ミコは玄関の下駄箱に中に無造作においてあった散歩用のヒモを持ってくると、モモの首輪に繋いだ。
「じゃあ、モモ、出発しようよ」
 モモはミコを引っぱりながら歩き出した。まるで、ミコの道案内をモモがしてくれているようだった。

「モモちゃん、ここは後から来るの! 先に慎二が卒業した幼稚園に行きたいの」
 モモは急に動かなくなった。そこは慎二が通っていた小学校の前だった。ミコはモモのヒモをいくら引っ張っても足に根が生えてしまったみたいに動かなかった。しょうがないのでミコは小学校の門の前で待ち合わせをしている人のようにその場に座り込んだ。ミコはコレも何かの縁だと思い、この小学校から慎二の事を聞いて回ろうかなと思っている矢先に、ミコに声をかける人がいた。
「あの、この学校に何か用件でもおありですか? もし良かったら、承りますが」
 ミコと同じ年くらいの綺麗な女性が声をかけてきた。
「もしかして、ここの先生ですか?」
「ええ、まあそうですが」
「丁度良かったわ。私、根岸ミコって言います。根岸慎二ってここの卒業生の妻だったんですが、その慎二の事を知っている先生っていませんか?」
 その女性は明らかにびっくりした表情をした。
「え、慎二君の奥さん。私、慎二君と小学校から高校まで同じ学校だったの。懐かしいわね。それで、慎二君って、ちょっと待って、今、妻だったって言いませんでした?」
 さすがは学校の先生、しっかりミコの言葉尻まで聞いていた。ミコは少し下を向きながら答えた。
「はい、つい2週間前に交通事故で亡くなったんです」
「え、慎二君が……」
 その女性は言葉を無くした。その態度に慎二と何か特別な関係があったのだとミコは女の直感で分かった。
「あの失礼ですが、名前を教えていただけませんか?」
「あ、山川 理香です。旧姓は境です」
 ミコは結婚しているのかと思うと何故かホッとした。別に慎二は既に死んでいるので、理香が結婚してなくても、していてもどちらでも構わないのだが、女性の心理は不思議な物だ。
「あの、よろしく」
 理香が右手を出してきた。一瞬この人が慎二の反対側の人かもと思ったので、恐る恐る手を出したが、ミコには何にも反応がなかった。
「良かった」
「へ、何が良かったんですか?」
 つい、慎二の反対側ではなくて良かったと口にしてしまった。ミコは一日でも早く慎二の反対側の人を見つけだしたいのだが、ついこの人は嫌だとか贅沢を言ってしまう。でも相手が女性だったら、きっとミコは誰でも嫉妬してしまうだろう。
「あ、こっちの事です。あの、人を探しているんです。でも、名前も顔も私には分からない人なんですよ。それで誰か心当たりがある人がいたら教えてほしいんですよ」
「別に良いですよ。あ、もし良かったら、職員室に来てゆっくり話しませんか? お茶ぐらいお出ししますよ。それにここよく日が当たって暑いしね。どうせ、今は子供達は夏休みで学校には来ませんから、ゆっくりしていって下さい」
 ミコは理香の好意をありがたく思った。悪い事した時以外に職員室に行くのはミコは始めてだった。

学校には扇風機が似合う。職員室に来る途中、庭の手入れをしていた用務員のおじさんが庭木に水を上げていたせいなのだろうか、窓がたくさんあるからなのだろうか、一般の家では夏に感じられない爽やかな風が職員室を通り抜けた。しかし、蝉の声が一番、暑苦しく聞こえるのも学校なのだ。廊下側だろうと外側だろうと職員室の窓と言う窓はすべて開いていたので、子供の頃感じた嫌なイメージはなく開放的だった。
「ごめんなさいね。エアコンがあるのは校長室だけなのよ」
 お盆に麦茶をのせて理香がミコの前の椅子に座った。
「で、探している人ってどんな人なのかしら?」 
「その人って、慎二と性格が反対なんだけど不思議と気が合った人をさがしているんですよ。普通、友達って何処か価値観が同じ人がなりますよね。なんでこの人と友達なんだろうって人が慎二にはいなかったでしょうか?」
「え、そんな子いたかしら?」
 理香は机に肘をつき、その手で頭を抱えた。リカは頭の中で記憶を遡って行った。
「高校の時は、あの子とあの子が友達だったんだよね。中学の時は、確かあのグループでつるんでいたんだっけ。小学校の時は、あの子達だったな。その中にあてはまりそうな子はいなかったな。あっちょっと、あの子、小学校の途中で隣の町に引っ越して行った子といつも慎二君が喧嘩していたわ。喧嘩ばっかりする癖にいつも一緒に遊んでいた子がいたわ」
 ミコの目の色が変わった。
「え、その人の名前と今の住所って分るんですか?」
「確か権田源次君だったわ。引っ越した先が変わってなかったら、昔慎二君達と源次君の所に遊びに行った事があるから知っているわ。でも、あの辺りも結構町並みが変わってしまったからな。ちょっと待っていてね、住宅地図を取って来るからね」
 理香は直ぐに戻ってきて、机の上に住宅地図を広げた。
「ゲンジ君の家は確かこの辺りだったんだけど、えーっと、えーっと、あ、あった。ほら、この権田っていう家がそうよ。これで正確な住所も分ったわね」
 リカは住宅地図にのっていた住所を他の紙にメモをして、ミコに渡した。
「えっと、ミコさんだったけ?」
 ミコは頭をうなずいた。
「この辺りは振興住宅地だから、分かりにくいのよ。きっとタクシーで行った方が良いわよ。もし分らない事があったら、電話してね。番号をさっきのメモの隅に書いておいたからね。あと、コレが小中高の卒業生の名簿、慎二の友達の所だけ印をつけてコピーしましょうか?」
「ありがとう理香さん。助かるわ」
 ミコは慎二の周りには親切な人が多いなと思っていた。この後、理香は余り慎二の事を聞いてきたりはしなかったが、ミコが質問する慎二の学生時代の事はほとんど包み隠さず話してあげた。理香が慎二の元彼女だというのをミコは勘付いていたのだが、隠そうとするのでミコはその嘘に最後までつきあった。別れ際、ミコは理香に自分の携帯電話の番号を教えた。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

小説家版 アートマン 更新情報

小説家版 アートマンのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング