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小説家版 アートマンコミュの黒いアルマジロと金色のヤマアラシ 第21話〜最終話

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二一

 泣いてはダメだって自分に言い聞かせながら歩いた。
 でも無理だった。
 視点がぼやけている。
 夢にまで見た武クンのヤマアラシの頭もぼやけてしまう。

 私は涙を拭った。
 しっかりしなくちゃいけない。
 武クンはその為に残された時間を使ってくれた。
 私ができる事は武クンに成長した姿を見せる事だ。
 だから、しっかりしなくちゃダメだ。だけど、拭いても拭いても涙があふれてくる。
 私の手の届く距離に武クンは居る。
 彼は身動き一つしない。
 私から声をかけなきゃダメなのは分かっているけど、口を開いても言葉にならない。
 大きく息を吸い込んだ。
「武クン……、たけしクン」
 それ以上何も言えない。
 ただ、声を殺して泣くだけだった。
 私の呼び掛けで武クンは振り向いた。
 私の目に飛び込んで来たのは、三ヶ月前と少しも変わっていない武クンの姿だった。
「真理」
 武クンの表情に戸惑いが見えた。私が居る事が信じられないみたいだった。
 私は目を閉じて唾を飲んだ。
 喉に詰まった何を飲みこむように涙をお腹の底へ閉じ込めた。
「武クン」声は震えていたが言葉になった「私を側において下さい。武クンの側に居させて下さい」
「でも……」
「分かっている。武クンがどんな病気に侵されているのかも分かっている。今井先生に詳しく聞きました。意思の疎通も出来なくなる事も聞きました」
「だったら……」
「そんな大変な事になるから、余計に武クンの側に居たいの。もし武クンが側に居てはダメだって言うんだったら、私はここで働かせてもらいます」
 武クンは何も答えなかった。
 暫く、見つめあった後、武クンはただニコニコ笑った。
「そんな事が言えるようになったんだな。はっきりと自分の思っている事を俺に伝える事ができるようになったんだな。頑張ったんだな」
「こんな私にしてくれたのは……全部武クンのおかげ。だから、私を側にいさせてください。それに……それに」
 私は躊躇した。
 今から口にする事は狡い事かもしれないと思ったから。
「それに何だ」
「今の私は武クンと他人じゃないの」
「どう言う事だ? 他人じゃない?」
 私は少し大きくなったお腹に手をあてた。
「武クンの分身がいるの。私の中に」
「分身って、まさか」
「子供を授かったの。後数カ月は血をわけた兄弟以上の繋がりが私と武クンにはあるんだから」
 武クンは視線を私のお腹に移し、手を伸ばした。
 感じている。武クンは新しい生命を感じている。
 武クンを操っていた見えない糸が切れたように見えた。
 直ぐに私から顔を伏せたが、武クンのズボンの上に涙が落ちた。振り出した雨がアスファルトを濡らしているように小さな痕を作った。その痕がどんどん増えて行った。
 武クンの背中が揺れていた。その揺れはどんどん激しくなって行った。
 武クンはまだ独りで涙を押し殺そうとしていた。
『助けてあげなくちゃ』
 私は武クンの隣に座り、抱きしめた。
 押し殺していた武クンの感情が爆発した。
 彼は私の胸で大きな声を出して泣いた。
 まるで小さな子供のように声をだして泣いた。
 その心の叫びは私にも伝わった。
 初めて武クンが孤独に包まれていた事を知った。
 そして、一人で孤独と戦っていた事を。
 自分の病気、宿命、全て独りで背負って生きていたんだ。
 寂しいに決まっている。
「武クンはもう一人じゃないんだよ。私達には家族が出来たんだよ。辛くて苦しい戦いは終わったんだよ」
 武クンは戦いの中で手に入れた。
 本当に血の通った仲間を手に入れた。
 これから辛くて苦しい闘病だって楽しく過ごす事のできる最高の仲間を手に入れたんだ。
 だから、嬉しくて涙が止まらないんだと思う。
 私も嬉しくて涙が止まらなかった。
「私は武クンに何かをしてもらうだけの存在じゃないんだよ」
 武クンに聞こえないくらい小さな声で呟いた。
 私の胸で涙する武クンのヤマアラシヘアーが崩れていた。
 それは武クンの背負っていたヤマアラシの刺が抜け落ちて行くようだった。

二二

 俺は泣いていた。涙を止められなかった。そんな事はどうでもよかった。

 昔の事が急に頭に浮かんだ。それは子供の頃通っていた塾。授業が終わるのが夜十時頃だった。友達と一緒に親が迎えに来るのを待っていた。一人、二人と親が迎えに来る。沢山いた友達の数もどんどん減って行く。そして、俺は独りになった。
 塾の明かりも消えて、火災報知器の赤い光が塾の校舎から怪しくもれだしていた。恐かった。心細かった。俺はただ一人で親を待ち続けた。
 暗闇から車のヘッドライトが見えた。
 とても明るかった。
 その車は俺の前で止まった。出て来たのは親じゃなかった。俺が苦手にしていた祖父だった。
 祖父に飛びついて泣き出した。祖父が俺を暗闇から救い出しに来てくれたヒーローに思えた。祖父は優しく頭を撫でて『好きなだけ泣くがいい』と言ってくれた。初めてだった。泣く事を許されたのは。あの時が初めてだった。

 俺は今、泣いている。
 俺は長い間、暗闇を一人で歩いていた気がする。得体のしれない憎しみに取り付かれていた。
 今気がついた。俺がチャップリンを演じているのではなかった。俺が演じていたのは盲目の少女の方だった。俺は真理に救って欲しかったのだ。
 人の前で全てをさらけ出すのは恥ずかしい事でも情けない事でもない。相手が真理なのだから。
 俺が歩む道はイバラの道。

 真理には悪いが付き合ってもらうかぁ

二三 

 その後、私達は将来について真剣に語り合った。
 最後まで一緒に居て欲しいとは武クンは言わなかった。
 でも、武クンは私の手を握って放さなかった。それが彼の出した答えなんだと思う。
 ヤマアラシの刺がなくなっても素直じゃないのは変わらなかったみたいだ。
 十年以上も意地をはりつづけてきたのだから、仕方ないな。
 
 正直、未来に不安はいっぱいある。
 動けなくなっていく武クンと産まれてくる赤ちゃんを私が守るのだから。
 でも、未来なんて誰にも分からない。
 占師だって、FBIの超能力捜査官だって予測を外す事がある。
 だから、不安がっていてはいけないと思う。
 誰だって真剣に考えれば未来は不安だらけなんだから。
 
 目を閉じて考えてみた。
 一人だったら出来ない事も二人だったら何でも出来る気がした。
 三人だったら辛い事も楽しめる気がした。

 もしかしたら、私達は本当の愛に出会えたのかもしれません。
 

エピローグ

ヤマアラシは誰からも好かれていないと思っていました。
だから毎日が悲しかった。
でもある時仲良しのアルマジロが質問しました。
「ヤマアラシ君は好かれようとしているの?」
ヤマアラシは言われてやっと気がつきました。
自分は人から好かれようとしてなかったのです。

次の日、ヤマアラシは自分から挨拶してみました。
ちゃんと挨拶をかえしてくれました。
自分は嫌われていない事に気がついたのです。
それを教えてくれたアルマジロをヤマアラシは大切にしました。
ヤマアラシはアルマジロの喜ぶ事がしたくなりました。
綺麗な花があれば花を持って行き、
美味しい果物を探しては届けました。

もっともっと喜ぶ事がしたかった。
だから、何日もかかる遠くの山にある世界に一番綺麗な宝石を見つける旅に出かけました。
しかし、なかなかなその宝石は見つけられません。
鉄で出来た林の中、火のように熱い川のほとり。
ヤマアラシは必死に探しました。
やっぱり見つけられませんでした。

ヤマアラシは仕方ないので何も持たずに帰りました。

帰って来た時のヤマアラシの姿を見てアルマジロは驚きました。
自慢の背中の刺が全て折れてしまっていたのです。
宝石を持ち帰られなかったと誤るヤマアラシの頬にアルマジロはキスをしました。
「あなたが側に居てくれるのが一番の宝よ」
アルマジロにとってヤマアラシこそが大切な宝だったのだ。

ヤマアラシは冒険で失った刺のおかげで、他のものを手にする事が出来た。
刺がじゃまで近づいて来られなかった他の動物と遊べるようになった。
アルマジロの他にも友達が出来たのだ。
新しい友達がヤマアラシとアルマジロに内緒で集まっていた。
また仲間外れにされたと二匹は落ち込んだ。

次ぎの日、二匹の所に神様がやってきました。
「お前達はいい友達をもったな」
そう言って、ヤマアラシとアルマジロを仲間の所へ連れて行った。
そこはパーティ会場。
ヤマアラシとアルマジロの結婚式の会場だった。
二匹は沢山の仲間に祝福されて楽しい結婚式を行ったそうだ。

 私は海辺の部屋でイラストを仕上げている。
 机の上には小さな写真立てを飾ってある。
 少し豪華な白色の服でピースサインをする私と武クンの写真が入っている。

 そして私の右側で武クンはベッドで横になっている。
 一日中武クンと一緒。
 私の左側には小さなベッドがある。
 その中で私達の妖精の小さな寝息が聞こえている。

 やっぱり、私達は本当の愛に出会っていました。

                                  (終)

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