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創作恐怖話〜新感覚恐怖へ〜コミュのカウンセリング 彼女の場合

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『実は私、とても幸せな子供時代を送ったんです』

そういう彼女は解離性障害、つまりは多重人格と診断されてこのカウンセリングを受けている。

プロフィールを見るとその人生はとても悲惨と一言で言い表せない。

北関東の田舎町で産まれるが、母親が生来メンタルが弱く父親によるDVが耐えない家庭で育つ。

12歳のときに父親にレイプされ以降中学2年の時までそれは続く。
DVと娘への性的暴行に耐えかねて母親は14歳のときに離婚。
その半年に母親は自殺。

以降は母親の実家に引き取られて育つ、大学は東京の大学に進学。
そのまま東京で就職し、現在24歳独身。

プロフィール的には悲惨な過去を背負いながら懸命に生きてきた人生なんだが、彼女を見るとどうもそのプロフィールにそぐわない印象を受ける。

愛情をたくさん受けて育ってきた人間にありがちな自然な思いやりとでもいうんだろうか、そんなものが言葉や所作の端々に感じられる彼女の姿を見ると、本当に多重人格なのかと思うときがしばしばだ。

しかし記憶障害が重篤な証拠として中学生時代、同じ小学校に通っていた同級生を父親のレイプ事件の後遺症かある日に一度に失ったとある。

彼女は今でも今は亡き祖父母のある自らが育った田舎町の記憶がないといい、代わりに東京のとある住宅街で父と母に囲まれた幸せな日々を懐かしげに口にするときがある。

これが彼女が解離性障害と診断された原因なのだが、その語り口や内容はどうも私には本物にしか見えなかった。

そんな彼女と一度だけ偶然外で会った事がある。
彼女は私のマンションの近くの公園からある家をじっと見ていた。

そこは少し古いがしっかりした作りの1軒家で、しかし今は空き家となっており、昔はよく整えられたであろう玄関先の花壇も荒れている様子が伺えた。

声をかけると少しはずかしそうなそぶりをしながら、家の説明をする彼女はこの家に住んでいたとしか思えない記憶を出してくる。

しかしこの家に住んでいたのは確か生きていればこの子と同じ年頃の娘さんと夫婦のはず、そして娘さんは中学生になってしばらくして突然引きこもりとなり、後に母親と自殺、残された父親はその後家を売り払い引っ越したと聞いている。

だが彼女の通っていたという小学校は自殺したというあの家の娘さんと同じ小学校、そしてなにより彼女はその家にまだ残っている表札を懐かしげに撫でながらこう言ったのだ。

『私の本当の名前は・・・・・』

後日調べてみると、その名前はあの家の自殺した娘さんの名前。

彼女がいうにはある日、突然目の前に幸せだった母親が見も知らない田舎町の桜の木で首をくくって自殺していたという。

それまではこの家で家族3人での平凡で幸せな家庭の思い出しかなかった。
しかしそれをまわりに語るたびにおかしいと言われ、多重神格と診断されれてからはほとんどその幸せな日々を語ることはなかったという。

そんな彼女が本音をもらしてくれている相手が私だけという事実と、クライアントとは言え一回りの年が違う美人な若い子に慕われている事は私にとってはある意味悪い気はしなかった。

しかししばらくして彼女はカウンセリングに通う間隔が長くなり、やがてこなくなってしまった。

それから数年後、私は近所を子供と散歩していてふとあの家の前を通りかかった。あの空き家にもようやく住人が入ったようで、玄関先の花壇にもきれいな花が咲き乱れている。

ふと見ると表札はあの昔のままだ。
その時に玄関に人が立っているのに気がついた。

20代後半であろう女性は秀麗な顔に満面の笑みを浮かべてこちらに向かって深々と会釈した。

彼女だった。

お互いに挨拶を交わしていると、奥から彼女とは二まわりは年齢が離れているであろう初老の男性が出てきた。

主人ですと紹介された男性が名前を名乗った時、思わず耳を疑った。

あの昔の表札と同じ姓だったからだ。

そしてそれは彼女が本当の名前と言ったときの姓とも同じだった。

まさか・・・・とは思うが、昔彼女が語っていた言葉を思い出した。

『私はあの家と幸せな家庭を取り戻したいんです』

この家を見つめながら語っていた彼女。

まさか・・・彼女のご主人は・・・彼女の幸福な思い出の中にある父・・・・

そう思いながらも子供がそろそろ行きたいとぐずり始めたのでその場を離れる。

立ち去りながら、彼女のお腹が大きいことに今気がついた。

彼女は取り戻したのか・・・・しかし・・・

そんな私の複雑な心境をよそに平和な住宅街の幸せな一風景として収まりながら
視界から小さくなるあの家。

今でも時々思うときがある、もしかしたら彼女は・・・・・本当に・・・・
あの家の住人だった・・・心だけが・・・と



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