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創作恐怖話〜新感覚恐怖へ〜コミュの人面鬼

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人面鬼




                 とみき ウィズ








  納品



 私は病院勤務の合間を縫って描き上げた一枚の色鉛筆画を持って五反田駅に程近い、値段が安い事で有名な、チェーン展開をしている喫茶店の喫煙席に座っていた。
 絶望的に給料が安い病院での当直の仕事だけでは食べて行けないので人や犬や猫の肖像画を時折入ってくる注文で描いている。
 先月、都内の商店街で十数年振りにばったり会った人物から貰った注文で描いた犬の肖像画の納品に来たのだ。

私は千円札が一枚とささやかな小銭しか入っていない財布をポケットに入れて、今日の入る絵の代金で支払う物のリストを頭の中に書き出していた。
 
(旨くすれば支払いすべき所をすべて済ましても、ささやかに飲みに行けるかも知れない。)

 いつも給料日一週間ほど前になると貧弱なおかずで食事を作らなければならない、場合によっては炊く米の量などをぎりぎりに切り詰めて給料日まで持たせなければならなくなる私にとって、臨時収入が入る絵の納品日は幸せな気分になれるのだ。
 私はニヤニヤしながら初夏の週末の午後、空席が目立つ喫茶店の喫煙席に座っていた。

 小柄で小太り、ピンクのシャツにサスペンダー、派手な柄のネクタイを締めた60代の男が汗を拭き拭き店内に入って来て喫煙席を見まわし、私を見つけるとにこにこしながら歩いてきた。

「よう、真田君。」

「惟任(これとう)教授、こんにちわ。」

 私が席を立って手を差し出すと惟任教授が私の手を握った。
 彼は体格に合わせたような指が短い、しかし肉厚の手で力を込めて握手をしながら言った。

「真田君、教授はやめてくれよ。
 もう、とっくに退官したんだからさ。」

 惟任は額に汗を光らせながら笑った。
 普段の話し声も笑い声も少し大きめで、彼が話すといつもその場の何人かが注目する。
 私は惟任の圧倒的な存在感が少し疎ましく感じるのだった。
 彼と最初にあった時も、彼は小柄で小太りな体をエネルギッシュに動かしてイラクの戦車隊の行進を止めていた。
 当時私は俗に言う戦場カメラマンの仕事をしていて、イラン・イラク戦争の取材中だった。
 惟任は発掘調査中の遺跡のそばを戦車の大群などが通ったら調査が台無しになってしまうと、かんかんに怒って戦車隊の先頭で大手を広げて騒ぎ、何事かと戦車を降りた将校に顔を真っ赤にして食って掛かっていたのだ。

 惟任と同行していたイラク文化局員のとりなしと、戦車隊の取材で戦車の砲塔にしがみついていた私の戦車将校へのささやかな贈り物で戦車隊は惟任に敬礼をして進路を変えて荒野を進んでいった。

 私は戦車隊においてけぼりを食らい、一晩惟任のテントに泊まったのが、彼と知り合うきっかけだった。
 その晩、彼と痛飲しながら色々な事を語った。
 私は始め、彼を考古学教授だと思ったのだが、実は電子工学が専門で少し毛色が変わった研究をしている事もその時に知った。
 彼はつばを飛ばして熱心に色々と説明してくれたのだが、当時の私には、もっとも今でもだが、ちんぷんかんぷんで荒唐無稽な研究だと言う事は覚えている。

「真田君は何を飲むのかい?」

「いいえ、私はもう頼みましたから。」

 私が自分のコーヒーカップを指さすと惟任は、わははと笑って私の腕を叩いた。

「君の体だともう位一杯飲めるだろう?」

 そして、惟任は声をひそめて千円札を出しながら私に言った。

「悪いけど、私の分も注文して来てくれないか?
 どうもこういう所で注文するの苦手なんだよ。
 配給を受けてるみたいでさ。
 私はアメリカンコーヒーの中ぐらいの奴をブラックで頼むよ。
 お釣りはいらないからさ。
 よろしくね。」

「ああ、判りました。
 じゃあ、出来上がった絵を見ていて下さいよ。」

 私がスケッチブックを拡げて置くと、カウンターにコーヒーを注文しに行った。
 ちらりと見ると惟任は体を丸めてじっと私の絵を見ていた。





続く




凄く長く、しかも今、やっと第2部の前半ですがお時間がある時にでも読んで頂ければ幸いです。

以下のお話のURL
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1390376957&owner_id=484737

コメント(3)

この話をデジタルブックと言うか、往年のラジオドラマみたいな物を作ろうと言う話が出て、コミュまで作ってしまいました(汗)
興味がある方、力を貸して頂けたら助かります。
プロフィールにある「人面鬼デジタルブック製作委員会」です。

管理人様、不適切と思われたら削除願います(汗)

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