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創作恐怖話〜新感覚恐怖へ〜コミュの【名曲】プラネタリウム (BUMP OF CHIKEN)

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授業で先生が言ってた。

人類全部が地下に作ったシティに引越した『大移住』が完了したのは、僕達が生まれるちょっと前の12年前。

だから僕達は『地上』というものを知らない。

『空』も
『雲』も
『太陽』も
『月』も
『星』も

全部、教科書でしか知らない。

あ、『雨』はちょっと知ってるかも。
この前、スプリンクラーが故障して12番通路が水浸しになった時、大人はみんな『雨』みたいだって言ってた。

でも他はみんな知らない。
知らないまま一生を終えるらしい。

そんな僕らを大人はみんなかわいそうって言う。
知らない事を知らないと言うのは恥ずかしい事じゃないって先生は言ってたのに。

そもそもシティに引っ越す事に決めたのも、地上にでたらお仕置きですって言ったのも偉い大人の人たちなのに。

「それって、なんかおかしくない?」
「俺も一応大人だから、なんとも言えねぇなぁ」

ダグラス叔父さんは髭でボーボーの顔をばりばり掻きながらそう言った。
ママの弟で26歳なんだけど、髭のせいでパパより年上に見える。

年上に見えるけど、配給にたまに入るキャラメルのラベルを集めたりして僕より子供っぽいところもある。
うちに来た時はいつも遊んでくれるし、僕が話している時パパやママみたいに『あとでね』って言ったりしないで最後まで聞いてくれるから大好きだ。

「もう、叔父さんまで大人って!」
「拗ねるなよアンディ。今度イイものみせてやるから」

一週間後、うちに来たダグラス叔父さんは妙なモノを作り始めた。

厚紙に何か図形を書いて、台所のアイスピックでぶすぶす穴を空けまくる。
細かい穴がいっぱい空いた厚紙を、鋏で切って糊で貼って筒みたいなのに組み立てる。
懐中電灯を分解して、電球をむき出しにして斜めに固定する。
そして筒みたいなのをマジックで真っ黒に塗って、電球に被せた。

「これ、何?」
「プラネタリウムだ」
「貯水タンクにわく微生物?」
「それはプランクトン」
「拡張工事に使うC4火薬?」
「それはプラスチック爆弾」
「いま叔父さんが作った奴?」
「それはプラネタリウムって……正解やないかい!」

地上時代にあったという会話技法『ノリツッコミ』
何が面白いのかよくわからないけど、叔父さんは上機嫌だった。

叔父さんは鼻歌を歌いながら、プラネタリウムとかいうモノを抱えて階段部屋に入った。
階段部屋は元物置だったのだけど、秘密基地に丁度いい大きさだったので、僕と叔父さんで色々と使わせてもらっている。
ちなみに最初からあったモノは、訓練学校の寮に入ったランディ兄さんの部屋に押し込んだ。
クリスマス休暇まではバレないはずだ。

階段部屋の灯りを消して真っ暗にすると、叔父さんはプラネタリウムのスイッチをいれた。

「ポチっとナ」
「うわぁ〜」

ものすごい数の光の粒が、暗闇に散らばった。
これと似たものを、教科書でみた事がある。

「すごい!これ星だよね?星!!」
「おう、ちゃんと星図を写して作ったんだぞ」

うちの天井よりずっと上の地上。
その地上よりもっと上の空。
その空よりもずっとずっと上の宇宙にあるもの。

写真でならいつもでも見れるもの。
それ以外では死んでもみれないもの。

それが、いま、僕の階段部屋にあった。

「あれが白鳥座で、あれがカシオペヤ座で…」
「すごい!すごいすごい!おじさんすごいよ!」
「えーと、天の川のこっちがわが琴座の……」
「本物そっくり!写真とおんなじ!すごい!」
「そっちにあるのが北斗七星で、ちゃんと死兆星も……って聞いてねぇや」

大きな星、小さな星、どれも手を伸ばすと掴み取れそうだった。
伸ばした手の中にいくつもの星が光った。

なんだかどこまでもどこまでも手が伸びそうで、不意にこつんと指先が壁にぶつかった。
真っ暗で、天井とか床とか壁とかの境目が全く見えない。
見えるのは星だけ。

「なんだかふわふわと浮かんでるみたい」
「知ってるか?宇宙ってのは無重力で、上も下もないって」
「へぇ〜叔父さん物知りー」
「これでも昔は天文学者を目指してたんだぞ」
「てんもん?」
「もう存在しない学問だけどな」

この時、僕は星を数えるのに夢中になっていて、その時叔父さんがどんな表情をしていたか全く知らなかった。


こうして僕はプラネタリウムにどっぷりはまった。
学校が終わるとまっすぐ家に帰って、階段部屋へ。
叔父さんも三日に一度は来た。
案外、僕以上にはまってるのかもね。

叔父さんは僕に天文学の本と、星座早見表というものをくれた。
シティでは何の役に立たないけどって言ってたけど、設定の細かい異世界モノのファンタジーみたいで結構面白かった。
星座早見表も綺麗な絵がたくさんあって、見ていて飽きない。
ただちょっと変な事があった。

二人並んでごろりと寝そべった時、それに気がついた。
天井の真ん中あたりに写る、一等星。

「あの星、本にも星座早見表にも載ってないんだけど」
「ああ、実在しないぞあれは」

叔父さんはさらりと言った。
だから僕もさらりと言う。

「なんて星?」
「ソフィア」
「それじゃ女の子の名前だよ」
「女の子の名前さ。ソフィアは昔の……友達でな」
あの叔父さんに女の子の友達がいたなんて。

「昔ってどんだけ昔?」
「お前が生まれるずっと前だ」
「叔父さんが髭面になる前?」
「おう、上も下もツルツル。あの頃俺はガキだった」

髭のない叔父さん……ちょっと想像できなかった。

「あいつも星が好きで、よく一緒に科学博物館のプラネタリウムを観に行ったっけ」
引越し前の地上には、色んな建物があったらしい。
「知ってるかアンディ、新しい星を見つけたら、見つけた奴がその星に名前をつけていいんだ」
「どんな名前でもいいの?」
「ああ、マスクドライダーって特撮ヒーローの名前をつけた奴もいるらしい。それでな、叔父さんソフィアに言っちまったんだ」

“新しい星を見つけたら、お前の名前をつけてやる”

「だから俺と……って何言わせんだよ、このおませさんめ」
「叔父さんが勝手に喋ったんじゃないか。それで、星は見つかったの?」
「いや、それから世の中ドンドン星どころじゃなくなってきてな……」

いつもは余計な事まで喋る叔父さんの語尾が濁った。

「ソフィアはいまどうしてるの?」
星をみつけられなかったみたいだから、フラれたんだろうな。

「星になった。だからあれはソフィアの星だ」

叔父さんはソフィアの星に手を伸ばした。
パパより大きな人なのに、なぜだか今にも消えてしまいそうに見えた。

この時の僕は子供で。
本当に子供で。
だから叔父さんが言ってる事の意味はさっぱりわからなかった。


それがちょっとわかったのは、学校の社会見学でリサイクル工場に行った時だった。


リサイクル工場は、シティの真ん中にある大きな施設で、酸素工場や食料工場と同じくらい大事な場所なんだ。
人が死んだら、エリアごとのローカルルールに沿ったお葬式をあげて、それからこの工場に運ばれる。

そして死んだ人は細かく丁寧に分解されて、貴重な天然素材や、燃料や配合飼料の材料になる。
人の命はこうして巡っていくだよって工場長さんは教えてくれた。

悪い事をたくさんして、生存権を剥奪された人は生きてるうちから解体ラインに乗せられるから、いつも良い子でいましょうとも言われた。
工場長さんの目は全然笑ってなかったので、ちょっと怖かった。

帰りに先生はとても不思議な事を話してくれた。

「昔は、人は死ぬと星になると言われてたんですよ」

一部の宗教とか文学とかそういう方面独特の言い回しなんだって。

「先生、質問!」
「はい、マイケル」
「星ってなんですか」

みんな笑っていたけれど、この時僕が思い浮かべていたのは階段部屋のプラネタリウムと、それに見入っている叔父さんだった。


――人は死んだら星になる。


それから僕はあまりプラネタリウムを見なくなった。
あんなにきれいだったのに、何だかとても怖いものにみえてしまって。

毎日授業が終わったら、マイケルやアーネスト達とキノコ蹴りや白ワニ投げをして遊んで帰るようになった。

反対に叔父さんはプラネタリウムにますますのめりこんでいるようだった。
三日に一度が毎日になり、一日一時間見ていたのが、四時間になった。

僕がキノコ蹴りの新記録を出してチャンピオンになった頃、叔父さんは一日中階段部屋に閉じこもるようになっていた。

叔父さんと話がしたくて階段部屋に入ろうとしたら、ドアを開けるなって、すごくたくさん怒られた。
陽気で髭の下はいつも笑顔で優しかった叔父さんにめちゃくちゃ怒鳴られて怖かった。
だけど元気で力持ちだった叔父さんが針金みたいに痩せ細っていたのはもっと怖かった。

そしてとうとう、ママが泣いても、パパが怒鳴っても叔父さんは階段部屋から出てこなくなった。 

もう元の叔父さんに戻らないのかなぁと思ったら、すごく悲しくなって、一人で泣いた。

やがて役所の人が来た。
叔父さんの生存権を剥奪するって。

「弟は…ダグラスは何も悪い事なんてしてませんわ!」
「ええ、彼は何もしていません。市民の義務である労働も。これが重罪である事はあなた方もご存知のはず」
「ですが、待ってください!更正の可能性は十分に……」

――叔父さんが、リサイクルされる。

ママ達が役所の人と話しているうちに僕は階段部屋に走った。

「叔父さん大変!!役所の人が……」

ドアを開けようとしてためらった。
また怒鳴られたらどうしよう。

それに、中に誰か、叔父さん以外の人がいた。

ごそごそ動く音や、何か喋る声。
ドア越しではっきりとは聞き取れないけど、確かにいる。

いるはずないのに。

叔父さんはずっとここから出てこない。
叔父さんはここに誰かが入って来る事を許さない。

じゃあ、なんでいるの?
誰が……何がいるの?

階段部屋にあるのは叔父さんとプラネタリウムだけなのに。

(いま思えば、僕はその答えを最初から知っていたんだと思う)

僕は台所からコップを持ってくるとドアにあてた。
普通だった頃の叔父さんが教えてくれた、盗み聞きの方法。

微かに聞こえたのは、別人のようにやつれた感じがする叔父さんの声。

『……ソフィア、許してくれるんだな、こんな俺を』
『……、…。………』

どうしても聞き取れない、誰かの声。

『ああ、ずっと一緒だ。もう離さない、二度と、決して』
『………。………………』
『これで、ようやく……違う!ソフィアじゃないッ!!』

ドスンと何かがぶつかる音。
ズルッと何かが滑る音

『………』
『…がっ…ぐあっ……ぃぎ』

ドスンドスンと何度もぶつかる音。
バリッと何か破れる音。
スプリンクラーが壊れた時みたいな、たくさんの水が撒き散らかされるような音。

内側からドアが叩かれる音は二度で止まり。
湿ったものを引き摺る音が長く、長く。
それにガムを噛むような音が延々と重なる。

僕の身体は指一本動かず、それらの音を最後まで聞いた。

しばらくして、こっちにきたママが悲鳴を上げ、パパが僕をひったくるように抱き上げた。

コップが落ちて割れた床は、ドアの下から染み出した真っ赤なインクに似たものでびしょ濡れになっていた。

役所の人がドアを開けた。

赤く雑に塗られた階段部屋の、どこにも叔父さんはいなくて。

ただプラネタリウムだけが光っていた。




その日、僕は熱を出して生まれて初めて学校を休んだ。

叔父さんを探す夢を何度も見た。
だけど、どこを探しても叔父さんはいなかった。

ママは遠い場所に行ったと言い。
パパはリサイクルされたと言った。

お見舞いに来てくれた先生は、周りに誰もいない事を確かめて、小さな声で言った。

『星になったのかもしれませんね』



それから五年経って、学校を出たり入ったり色々あって、僕は大人の仲間入りをした。
そして子供の間は決して教えてもらえない事を幾つか知った。

人類全てがシティに引っ越したと思ってた『大移住』
実際は全体の三割未満しかシティに入れなかった。
入る事を許されたのは、政府の高官や技術者や一部の高額納税者達。
それと抽選がほんのちょっと。

地上に残った人達がどうなったかを知る権利を得るには、あともうちょっと時間と功績がいるらしいけど、なんとなく想像はついた。

ママのパパがすごく高名な地質学者で、シティの建造に携わっていたおかげで、ママ達はシティに入れたらしい。
だけど叔父さんと仲が良かったソフィアの一家は……

『大移住』の時、14歳だった叔父さんは、最後の最後までソフィアの手を握っていた。
無理矢理引き離されるまでずっと。

ずっと髭面で通していたのは、ソフィア以外の手を握るつもりがなかったのかもね、とママは寂しそうに笑っていた。



人は死んだら星になる。

だけどプラネタリウムは作り物の星。

だからあの時、叔父さんといたソフィアはニセモノだったんだ。

……ニセモノだと、思う。

なのに何故だろう。

あの時、一番最後に聞こえた音。


『ダグラス、愛してるわ』


それはとても優しくて綺麗な音だった。


【終】

コメント(17)

ソフィアの偽物は悪霊だったんだろうな(゚д゚‖)

こんな未来にならないように自然は大切にしないと…たらーっ(汗)リサイクルされたくないしあせあせ(飛び散る汗)
いい意味でヤバイです!Σ( ̄□ ̄;
凄く引き込まれました…完成度が高さにびっくりです
はぴさんの作品、もっともっと読みたいです
全部叔父さんにしか
わからない夢だったらよかったのに…
見上げてごらん夜の星を…

手が届かないものに実体を求めては悲劇の元になるって事なのかなあ。
はぴさんはやっぱり文章がうまい。
楽しかったす。
いつか本当にこんな世界になるかもしれない泣き顔あせあせ(飛び散る汗)

叔父サンどうなっちゃったんだろう泣き顔泣き顔泣き顔あせあせ(飛び散る汗)あせあせ(飛び散る汗)あせあせ(飛び散る汗)
滅茶苦茶引き込まれました。
凄く綺麗で哀しい話を有り難うございました!
引き込まれましたexclamation ×2
こんな未来絶対嫌ぁ泣き顔
読ませる力がありました。

工場の人間リサイクルのくだりは氏賀Y太の『ゆめいろハンバーグ』を彷彿とさせてゾクッとしました。
とてつもなく怖くて、悲しくて、綺麗で

そして、ラストは何故か安らぎまで感じました。

一気に読まされました。
世界観から通して・・・寂しいですね。
夜空を見上げた寂しさと似ている気がします。
読みながら最後はおもわず、歌を口ずさんでいました。

♪一番眩しい あの星の名前は 僕しか知らない・・・

人類の未来を連想させる話ですね。
最後は(゚д゚;)コワーから(;ω;`)グスッ…になりました。
これはすごい!!
歌詞に沿っているし、設定もすごいし、ストーリー性も抜群!
言うことなしの話ですひよこ

あの曲ってこんな悲しい話になるんですね。
階段部屋はきっと4畳半の広さだったんでしょうね。
そして見上げれば星はなくて、地下にいる現実を思い知らされる…っていうのは深読みしすぎですかねたらーっ(汗)

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