ロットン、彼こそピストルズコミュのLIVE AT CHELMSFORD TOP SECURITY PRISON／レビュー

1976年9月、オリジナルメンバーにて、ケルムスフォードという刑務所で行われたモノ珍しいライブ。刑務所というハコ選びにマルコムの興行師的な一面が感じられる。これはピストルズのほとんどのライブ音源に対して言えることだが、録音状態が良くない。が、囚人達の野次をふてぶてしくかき消すように轟き渡る短いイントロダクションと、その後間髪を入れずに始まる“サテライト(これは編集上の曲順で実際のオープニングは「アナーキー〜」)”の演奏を聴けば分かるのがマトロックのベースのカッコ良さ、である。つまり、録音状態が良くなく(というかミキシングの問題なのか…)低音が強調され過ぎ、ベースの音が際立ってしまい、結果としてマトロックのベースの推進力にスポットが当たっているのだ。パンク的な半音上げ下げ奏法ではなく、メロディックでありながらも充分にパワフルなマトロックのベースラインは素晴らしい、ということに、お恥ずかしながら僕はこのライブ盤で初めて気付いた。というか、有名なラスト・ライブでのシドが弾く、風呂の中で屁をこいたような“ゴッセイ”のイントロと聴き比べて欲しい(こっちは正式なCDはないので、ライブビデオで確認すべし)。天と地程の差がある。まあ、低音の出過ぎはともかく、ロットンの声にエコーが掛かりすぎていたり、声がほとんど聴こえない部分があったりと、音質の良くなさに加えて、全体的なミキシングの不安定感は否めない。加えてギターの雑さも目立つが、ジョーンズのタイム感は、そのジャスト性においてはすごい、と思う。キース・リチャーズの下手ウマはノリの、つまりジャストじゃなさ、ズレズレの妙であるが、ジョーンズはその逆である。彼のギターはよく戦闘機の爆撃に例えられるが、リズムに対するピンポイント爆撃がすごい。クックのドラムスもまたジャストであり、この二つが組み合わさり、マトロックのベースを背骨に持つことでピストルズ独特の、凶暴でありながらも、しなやかなロックンロールの屋台骨が完成されている。ジャケは2〜3種類が存在すると思われるが、僕の持っているものは盲人用の小さなサングラスを掛けたロットンや演奏風景がモノクロ・コラージュされたデザイン(適当な感じ)で、このライナーノーツには、ライブに同行した、このアルバムのプロデューサーでもあるデイヴ・グッドマンによる演奏風景の描写の訳が掲載されていて、これがかなり面白いので一部抜粋してみよう。〜「私はホールの後方でミキシングをやった。両脇には警棒を振り回す看守が立っていた。囚人達が集まってきて私の側を通り過ぎる時に“よぉ、仕事をくれよ”とか“外にメッセージを持って行ってくれよ”と騒いだ。“野次をとばされても気にするなよ、囚人達を喜ばせるのは難しいんだからな”と私の側にいる看守が言った。」「ジョニー・ロットンはマスターベーションの仕草をしながらステージに上がり“よう、マスカキ坊や達、女王陛下がヨロシクだってよ”とカマし、オープニングの“アナーキー〜”に突入した」「曲が終わると激しいブーイングと絶叫の嵐となったが、ジョニーはおかまいなしに侮辱を続けた。“おい、お前ら面白くないんだったら、とっととお家に帰りな”。私の側にいる看守が“あいつ本気で言ってるのか? これ以上あんなことを続けるとリンチに合うぜ”と忠告して来た。その時、囚人の中の黒人グループのリーダーが立ち上がって“もう充分だ、檻の中に戻りたい”と看守に申し出た」「ロットンはステージから“お前ら、なんで誰も立ち上がって踊らないんだよ”と問い掛け、囚人達は口々に“規則だからダメなんだ”と叫んだ。ロットンは“そんなルールなんて知ったこっちゃないぜ、こんな腐ったところなんかブチ壊せ、暴動だ”と、さらに囚人達を煽った」「保安官達が警棒を振り回して“座らないとギグは中止だ”と脅して一旦囚人達を席に座らせたが、バンドはそのまま演奏を続け、次の曲の途中で囚人達の中のボスが看守をモノともせずに立ち上がって踊り始めた」「懇意になった保安官は私に“ピストルズは囚人達にウケがいいようだ”と語った」「バンド自身も充分に演奏を愉しみ、ロットンは囚人達を煽り続けた。ピストルズは大喝采を浴びて演奏を終えた」〜 囚人達に対して“マスカキ坊や達”だの“とっととお家に帰りな”などと言ってのけるロットンのセンスには凄みがあると言わざるを得ない。また、曲名の「アナーキー・イン・ザ・UK」を「アナーキー・イン・ザ・プリズン(刑務所)」とクレジットするなど、ちょっぴり笑わしてくれる。