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一緒にお話を作ろうよコミュの世界

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いつも哀しいか辛いかばかりのお話しなので
今回はちょっと楽しいやつを載せます
『思い想いの小説群』の中から『世界』を
お披露目です
どこかの世界の中のお話です




    世界

いつもの朝がやってきた。
ただいつもとは違う朝の状態だった。
「今日のオーナー遅いな」
この中では古参である銀さんが口を開いた。
「きっと寝坊でもしているのさ」
お人よしな芥子君が、オーナーの性格を読んでそう返事をした。
「まさか今日、休みって訳ではないよな」
「平日だよ、それはないでしょ」
銀さんは「そうだな」と納得しながら自分たちが暮らしている建物を見上げた。
「いつも思うのだが、ここの住居人たちもずいぶん顔ぶれが変わったよな」
「まあね、それもこれもオーナー次第じゃないの?」
ふたりの話に気がついたのか、茜さんが目を覚ました。
「おはよう・・」
この茜さんはオーナーのお気に入りの一人で、夜遅くまで引っ張りまわされるのだ。
「おはよう茜さん。今日も眠そうだね」
芥子君はおおよそ毎日、オーナーの相手をしている茜さんに一目置いていた。
「ああ、芥子君。おはよう」
「昨日も遅かったの?」
「そんなこと聞くまでもないだろう」
芥子君のわかりきった質問に、銀さんは横槍を入れた。
「遅かったよ、最近特に遅い気がする」
「何事にも真剣だな、オーナーはああ見えても芯が強いんだ」
「ああ見えてもは余分じゃない?」
芥子君はいつも茜さんをまともに見られない。
それは常に茜さんがスケスケの服を着ているからだ。
「茜さん」
「わかっているわよ」
「だったらもっと違う服を着てください」
「仕方ないでしょ、オーナーが選んだのだから」
ここのオーナーは女の人に受けがいい。
そしてオーナーは若い女の子なのだ。
「俺はその服でいいと思うがな」
銀さんは鼻の下を伸ばしながら茜さんを見た。
「銀さんの目、いやらしいわよ」
茜さんは大笑いをして銀さんの肩を叩いた。
茜さんの笑顔につられて芥子君も銀さんも笑った。
「芥子君はここに来た当初に比べるとずいぶん丸くなったわね」
「そういわれるとそうだな」
銀さんは芥子君の見て妙に納得していた。
「まあ確かにここに来た時は角張っていて、とっつきにくかっただろうね」
「そうでもなかったけどさ、がんばっているのがよくわかったよ」
「角っていうのはちょっとしたことで壊れるからな」
何かを思い出すように銀さんが話した。
「そうだね、銀さんが失敗した時、芥子君ががんばったから助かったんだよね」
「芥子がいなかったら大変だったけど、あの時に角が壊れたんだよな」
銀さんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「銀さん気にしないで、僕の仕事なんだから全く問題ないよ」
「でもさ、角が壊れてからオーナーが新しい子つれて来ただろ?」
「そうそう」
茜さんはうんうんと頷いていた。
「芥子に悪くてさ」
「気にしなくていいよ銀さん」
「でもあの新しい子って、すぐにいなくなったよね」
「名前覚える暇もなかった」
この三人にとって、その子と仲良くできなかったことを残念に思っていた。
「なんでも隣のオーナーに譲ったと聞いたよ」
「元気なのかな」
「きっと元気だと思うなぁ」
芥子君はふたりを励ますように言った。
「なんで?」
「だってさ、彼女は僕よりも綺麗だったし女の子受けすると思うよ」
「ノーマルが一番いいんじゃないのか?」
銀さんはお返しとばかりにフォローする。
「それはそうとして、定さんとかみどりさん起きてこないね」
建物の中を覗き込むように茜さんが呟いた。
「それにシンさんとサンちゃんもね」
「これだけ小さい中に七人もいるなんて思えないな」
「オーナーは小さい方がいいって言ってたよ」
茜さんはとりあえずオーナーを庇う。
「俺もこれくらいがいいと思うぞ」
何だかんだといっていても、結構気にいっているのがここの住人たちだった。
「みどりさんとこのふたりの妹さんたちってどうしたのかな」
「桃子さんと檸檬さんか?」
「名前と着ているもの意外はそっくりだったよね」
芥子君と銀さんの話に茜さんが口を挟んだ。
「檸檬さんも桃子さんもここを出て行ったきり帰ってこないよ」
「あの三人がいると華やかで賑やかだったのに」
芥子君は寂しそうにしていた。
「檸檬さんは結構早く出て行ったよね」
「美人だったから、お嫁にでもいったのかもね」
「桃子さんもそのあとすぐだった」
「桃子さんも負けず劣らず美人だった」
銀さんは美人が好みみたいだ。
「みどりさんは?」
「一番の美人だ」
「もう、ふたりとも飢えた野獣みたいになってるわよ」
茜さんは笑いながらも呆れていた。
「僕は茜さん派ですからね」
「なにも出ないわよ」
芥子君は思い切って言ってはみたが、あっさりあしらわれて意気消沈した。

「おはようございます」
その三人にもうひとり加わった。
「噂をすればなんとやらだ」
「おはよう」
みどりさんはきょとんとした顔をして茜さんを見た。
「みどりさんが美人だって噂してたんだよ」
「え・・」
いきなりの言葉に、みどりさんは顔が真っ赤になったまま三人の顔を見渡していた。
「ほら、そんなこと言うから、みどりさんが困っているでしょうに」
「・・・」
しかし、茜さんの言葉も届いていないようだ。
「みどりさん、実はご姉妹の話をね」
「そうそう、美人の姉妹だって」
みどりさんは真っ赤になりながら、うんうんと頷いていたが、恐らく話の内容は飲み込めていないだろう。
茜さんはみどりさんの背中をポンッと叩くと、
「ところで妹さんたちはどこへいったの?」
と話を変えてきた。
こういうところは、銀さんや芥子君にはない気の使い方だ。
「・・妹ですか・・」
「あ、いや。話し辛かったらいらないよ」
「いえ、大丈夫ですよ」
茜さんの心使いに、みどりさんは本来の優しさがあふれた笑顔で答えた。
「桃子も檸檬も自分に与えられた仕事を終えて帰りました」
銀さんも芥子君も自分のことのように胸が痛くなった。
「そうだったの?・・」
茜さんもその気持ちは同じだった。
「私も、もう少しで自分の仕事が終わるから」
茜さんは「帰らなくてはならない」と言おうと思って言葉に詰まった。
その言葉に銀さんたち三人は頷くしかなかった。
三人はいずれ訪れる別れの日が、そこまで来ていることを今更のように考えていた。
「私は桃子たちのように仕事ができないから、もうちょっとお相手してくださいね」
みどりさんのちょっとずれた会話が、その場を暖かくしたことはいうまでもなかった。
「去っていく方も、見送る方も辛いものだな」
しみじみと銀さんが話すと、
「管理人の定さんは見送る方にばかりまわってしまうね」
芥子君も同じようにしみじみとしている。
「定さんは曲がったことが嫌いな性分で頑固だけど、住居人を見送ったあとはいつも寂しそうにしているんだよ。きっと寂しがりやなんだね」
「マジですか?」
茜さんの話に芥子君は「信じられない」と、いわんばかりの噛み付きようだった。
それを見たみどりさんも口を揃えた。
「本当です。定さんって面倒見がいいだけでなくて、本当に皆さんのことを大切に思っておられます」
「俺は前からそんな事はわかっているつもりだ」
古参に入る銀さんは見送る方が多いのだ。
ここにいる四人をあえて分けるとするならば、銀さん以外はみな見送られる立場にあった。
「お〜〜い。芥子君」
建物の中から管理人の定さんが呼ぶ声が聞こえてきた。
「はい、なんですか?」
そう言いながら芥子君は建物の中に消えて行った。
「それじゃあ俺らも戻るとしますか」
「そうだね、オーナーもそのうちに来るでしょうから」
「そうですね」
残りの三人もそれぞれ建物の中に入っていった。

「芥子君、君は前からシンさんに言われているだろう」
「はぁ・・」
「共同で暮らす建物だから、あとの者が気持ちよく使えるよう心掛けてくれなくちゃ」
「はぁ・・」
どうも芥子君は苦情を貰っているようだ。
「管理人さん、どうかしたのかい?」
茜さんが管理人さんに話しかける。
定さんは振り向いて、茜さんに説明を始めた。
「実はね、芥子君の部屋がゴミだらけで、シンさんが同じ部屋にいたくないと言ってきたんだよ」
「そうなのか?」
茜さんは芥子君を見た。
「悪気はないんだ。僕は仕事をするとみんなと違ってゴミが出るんだ」
茜さんは頷いてはみるが遠く解決策には及ばない。
「芥子君と銀さんが仕事のパートナーである事は周知のことだが、問題はそのあとにあるんだ」
定さんは住人同士のいざこざにあまり関与したくない様子で去っていった。
この建物の中の造りは二階建てになっており、各人だいたい場所が決まっている。
だがオーナーの気分により入れ替えが頻繁に行われ、前後左右に入れ替わることが多い。
ただ芥子君の場合、二階の一番端ということが決まっているようだ。
さらにその二階の一番端の場所は狭くて他の人は入れないが、シンさんだけは押し込まれることがあるのだ。
このシンさんも銀さんにとって、切っても切れないパートナーのひとりであった。
「今後気をつけます・・」
半ば気落ちしたように頭を垂れる芥子君に、茜さんが言葉をかけた。
「あんまり気にするなよ」
「うん」
「掃除くらいだったら俺が手伝うぞ」
傍らで聞いていた銀さんが声をかけてくれた。
「銀さんは背が高いから入れないよ」
芥子君はふて腐れたように口を尖らせていた。
「入れなくても掃除くらいなら上からでもできる」
あくまで銀さんは優しく芥子君に気を使っていた。
「定さんとサンちゃんは見送る派だから、仲間に波風が立つのが嫌なのよ。みんな大切な仲間だと思っているからね」
「うん・・・・、本当にこれからはちゃんと片付けるようにするよ」
「そうだな、その方が自分のためにもなるな」
笑顔を取り戻した芥子君は銀さんと茜さんに心の中で感謝していた。
しばらくすると、みどりさんが息を切らして走ってきた。
「はあはあ・・・」
「どうした?」
それを見た銀さんが駆け寄ると、
「オーナーが・・、帰って・・、来ました」
息もきれぎれに話した。
「やっとお出ましか、さあみんな支度しろよ」
銀さんが建物中に聞こえるように大声を出すと、中からその返事が代わる代わる聞こえた。
「じゃあまたあとで」
芥子君も自分の部屋に戻っていった。
すると建物の中は誰もいなくなったように静かになった。

玄関を勢いよく開くと女の子は大声を張り上げた。
「お母さん、忘れ物しちゃったぁ。・・・・・お母さんってばぁ」
朝の喧騒の中、台所からお母さんらしき人物がエプロンの裾で手を拭きながらやってきた。
「なに、なに忘れたの?」
「机の上に筆箱忘れたの。取ってきてぇ」
お母さんは、「何、この子は」と言いたげに踵を返して二階にあがる。
「早く、早く。遅れちゃうじゃない」
「もう、自分がちゃんと支度しておかないからでしょ」
二階から声がする。
当然文句も言いたくなるというものだ。
「それにたまには筆箱の消しゴムのカスを捨てなさい」
「はいはい」
「あ、それから」
「なに?、早くしてよぉ」
「頼まれていた赤ペンの換え芯、入れておいたわよ」
鬱陶しそうにしていた女の子の顔は、百八十度変化して嬉しそうな笑顔になった。
「ありがとうお母さん。あの赤ペンお気に入りなの。捨てたくないのよね」
女の子の元へ走りよって来たお母さんは、筆箱を渡しながら言った。
「物は大切にしないとね。大切にすると物は心を持つのよ」
「うん」
満面の笑顔で女の子は返事をした。
「いってきまぁす」
玄関を出て行く女の子の手にはその筆箱が握られていた。

                 朧 楊季

コメント(2)

筆箱の中の世界だったんですね(´∀`)
最初、犬さんなのかな?とかいろいろ悩みながら読んで最後に納得でしたw
世界観がわかったところでもう一回読んでみるとまた面白かった(´∀`)
最近PCばかりで字を書いてないですが、お手紙でも書いてみようかな〜
と思ったσ(・ω・アキラ)さんです。
手紙っていいですよね
昔は月に10通ほど書いてましたね

中学高校のときは
文通が流行っていました

今思えばよくもまぁ
はづかしくもなくと思います

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