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コメント(27)
「僕らのポシェットの中には、失われた文明の見る夢がつまっている。」
そんな言葉が口癖のｷｯﾁｪ君。ポシェットなんて、見たことも聞いたこともないくせにね。
ひとり神の教えを実践しているとでもいった顔で、今日もハゲを三つ編みにする妄想に取り付かれている。
それは他人の親指を一晩中しゃぶる行為に等しいのだけれど、そんなこと、ｷｯﾁｪ君に言ってはいけないよ。だって、それが背伸びしたいお年頃というものだから。
トントン。
ｷｯﾁｪ君はある家のドアを叩く。
その家の住人は、人々から「空手家ボウヤ」と呼ばれる高齢の男性だ。
そもそもはカポエラをその源流にもち、様々に派生した中で築かれたマスターベーションの一体系なのだけど、精神的にはもはや空手といって過言なのだ。
「空ボウ！今日もあなたの本質的部分を損ないにきたよ！」
そう声をかけると、みすぼらしい老人が糸こんにゃくでできた暖簾を掻き分け扉から顔を出した。
そんな言葉が口癖のｷｯﾁｪ君。ポシェットなんて、見たことも聞いたこともないくせにね。
ひとり神の教えを実践しているとでもいった顔で、今日もハゲを三つ編みにする妄想に取り付かれている。
それは他人の親指を一晩中しゃぶる行為に等しいのだけれど、そんなこと、ｷｯﾁｪ君に言ってはいけないよ。だって、それが背伸びしたいお年頃というものだから。
トントン。
ｷｯﾁｪ君はある家のドアを叩く。
その家の住人は、人々から「空手家ボウヤ」と呼ばれる高齢の男性だ。
そもそもはカポエラをその源流にもち、様々に派生した中で築かれたマスターベーションの一体系なのだけど、精神的にはもはや空手といって過言なのだ。
「空ボウ！今日もあなたの本質的部分を損ないにきたよ！」
そう声をかけると、みすぼらしい老人が糸こんにゃくでできた暖簾を掻き分け扉から顔を出した。
「むしゃむしゃむしゃ。よくきたねｷｯﾁｪ君。さぁ、お上がんなさいむしゃむしゃむしゃ。」
空ボウは糸こんにゃくに食らいつきながら僕を出迎えた。
いつもの通り、ｷｯﾁｪ君はテーブルにつく。テーブルと言っても、四つん這いになったシロクマの剥製なわけだけれども。
空ボウはカチャカチャいわせながらティーセットを持ってきた。ポットもカップも空っぽだけど、それとなく振る舞うのがｷｯﾁｪ君なりのマナーなのです。
「さてと、何の話だったかな。そうそう、石ころとベルギーキャベツの相互不干渉な有機的連結についてだったね。
私見としてはあいつ等はﾐﾝﾅシネ！シネ死ねしねしね！PTAとはいわばソウルメイトです。
三時のおやつはマカロニサラダ！おかーさーん！喉がカラカラです！ピスタチオ持ってきて！青色と黄色い目をしたあいつ等に、ブチマケテヤルンダ！
そのころ北の国では力士30人が添い寝をしておりました。ピストル持ってきて早く！
絶好調だね！コッペパン先生！所詮生きる価値なんて商品に張られた値札同様の紙屑なんだよ！」
ｷｯﾁｪ君は空ボウのゆうことにニコニコしながらうなずいた。
空ボウは、簡単に言えばきちがいで、球形の四角い八面体だったのです。元々は立派な学者先生だったけど、おばあさんが死んでおかしくなったとか。
『真実は求めるものを避け、求めないものを好む。さて、君は真実を見つけられるだろうか？』ｷｯﾁｪ君は空ボウのその問いかけの答えが知りたくて何度も通っているが、なかなか目標が達成されない。
今日も無理かもしれないな。空っぽのカップに入れたスプーンが、からんと鳴った。
空ボウは糸こんにゃくに食らいつきながら僕を出迎えた。
いつもの通り、ｷｯﾁｪ君はテーブルにつく。テーブルと言っても、四つん這いになったシロクマの剥製なわけだけれども。
空ボウはカチャカチャいわせながらティーセットを持ってきた。ポットもカップも空っぽだけど、それとなく振る舞うのがｷｯﾁｪ君なりのマナーなのです。
「さてと、何の話だったかな。そうそう、石ころとベルギーキャベツの相互不干渉な有機的連結についてだったね。
私見としてはあいつ等はﾐﾝﾅシネ！シネ死ねしねしね！PTAとはいわばソウルメイトです。
三時のおやつはマカロニサラダ！おかーさーん！喉がカラカラです！ピスタチオ持ってきて！青色と黄色い目をしたあいつ等に、ブチマケテヤルンダ！
そのころ北の国では力士30人が添い寝をしておりました。ピストル持ってきて早く！
絶好調だね！コッペパン先生！所詮生きる価値なんて商品に張られた値札同様の紙屑なんだよ！」
ｷｯﾁｪ君は空ボウのゆうことにニコニコしながらうなずいた。
空ボウは、簡単に言えばきちがいで、球形の四角い八面体だったのです。元々は立派な学者先生だったけど、おばあさんが死んでおかしくなったとか。
『真実は求めるものを避け、求めないものを好む。さて、君は真実を見つけられるだろうか？』ｷｯﾁｪ君は空ボウのその問いかけの答えが知りたくて何度も通っているが、なかなか目標が達成されない。
今日も無理かもしれないな。空っぽのカップに入れたスプーンが、からんと鳴った。
ｷｯﾁｪくんはいつも通り夕方まで空ボウの演説を聞いて、
暗くなり始めた窓の外を見つめた。
横では空ボウが一生懸命土にコーンフレークを埋めている。
その鉢植えには「納豆」と書かれた名札が立っていた。
空ボウによると、納豆がなって、納豆の実が割れて、
そこから納豆が流れ出るらしい。
それを口で受け止めるのがお父さんの夢だったんだ。
ｷｯﾁｪ君は空ボウの最後の一言を蔑むことで、
今日も彼の本質的部分を損なうことが出来た。
具体的には、空ボウの
「秋田美人と渋谷のギャルは対極に位置するだろうか、
という議論の根拠はなんだろう」
という一言に、ｷｯﾁｪ君が
「がばぃばあちゃんと和○アキ子が戦った時に起こる力��を宇宙に解き放ったときに起こるビックバンによって出来たブラックホールの中には何があるのか、という論議の答えによるものだと思うよ！」
と元気よく答えた。
がばぃばあちゃんは捕食はしても戦いはしないのにね。
ｷｯﾁｪくんは今日も上手に蔑むことが出来ました。
「また明日、あなたの本質的部分を損ないに来るよ。」
ｷｯﾁｪ君は空ボウに見送られて外に出た。
「むしゃむしゃむしゃ、またねｷｯﾁｪく･･･んんんんん!!!!!!」
もうほとんど無くなった糸こんにゃくを
クチャクチャさせていた空ボウが、喉を詰まらせて倒れた。
白目を剥く空ボウ。
ｷｯﾁｪ君は空ボウの両手を胸の前に組ませ、目を閉じさせ、合掌した。
今日もｷｯﾁｪ君は大人の階段を一歩のぼり、
天国への階段を駆け上げていった空ボウにニコリと笑顔を向けた。
空ボウに背を向けて歩き出すと、後ろから声が聞こえた。
「人生ってなんですか？
人生を道に例えないで下さい
例えないで下さい例えないで下さい
夏の終りの少女の秘め事
ちょっとでいいから内臓掴ませて
ネットに絶体UPしないから
丸刈りにして西を目指しなさい
そしてあなたは伝説になるでしょう
ごめん猫アレルギー、ネットにU･･･P･･･しちゃ･･･た･･･ｶﾞｸｯ」
後ろでは空ボウが何か唱えた後、改めて気絶した。
ｷｯﾁｪ君は目の前が真っ白になった。
同じだ･･･あの時と･･･。
ｷｯﾁｪ君と空ボウが始めて出会った日、
糸こんにゃくで喉を詰まらせた空ボウに
一通り蹴りを入れて帰ろうとした時。
『真実は求めるものを避け、求めないものを好む。さて、君は真実を見つけられるだろうか？』
空ボウのその一言を聞いてしまったのだ。
今の一言は、何かのヒントになるかもしれない。
ｷｯﾁｪくんはようやくスタート地点に立つことが出来た。
暗くなり始めた窓の外を見つめた。
横では空ボウが一生懸命土にコーンフレークを埋めている。
その鉢植えには「納豆」と書かれた名札が立っていた。
空ボウによると、納豆がなって、納豆の実が割れて、
そこから納豆が流れ出るらしい。
それを口で受け止めるのがお父さんの夢だったんだ。
ｷｯﾁｪ君は空ボウの最後の一言を蔑むことで、
今日も彼の本質的部分を損なうことが出来た。
具体的には、空ボウの
「秋田美人と渋谷のギャルは対極に位置するだろうか、
という議論の根拠はなんだろう」
という一言に、ｷｯﾁｪ君が
「がばぃばあちゃんと和○アキ子が戦った時に起こる力��を宇宙に解き放ったときに起こるビックバンによって出来たブラックホールの中には何があるのか、という論議の答えによるものだと思うよ！」
と元気よく答えた。
がばぃばあちゃんは捕食はしても戦いはしないのにね。
ｷｯﾁｪくんは今日も上手に蔑むことが出来ました。
「また明日、あなたの本質的部分を損ないに来るよ。」
ｷｯﾁｪ君は空ボウに見送られて外に出た。
「むしゃむしゃむしゃ、またねｷｯﾁｪく･･･んんんんん!!!!!!」
もうほとんど無くなった糸こんにゃくを
クチャクチャさせていた空ボウが、喉を詰まらせて倒れた。
白目を剥く空ボウ。
ｷｯﾁｪ君は空ボウの両手を胸の前に組ませ、目を閉じさせ、合掌した。
今日もｷｯﾁｪ君は大人の階段を一歩のぼり、
天国への階段を駆け上げていった空ボウにニコリと笑顔を向けた。
空ボウに背を向けて歩き出すと、後ろから声が聞こえた。
「人生ってなんですか？
人生を道に例えないで下さい
例えないで下さい例えないで下さい
夏の終りの少女の秘め事
ちょっとでいいから内臓掴ませて
ネットに絶体UPしないから
丸刈りにして西を目指しなさい
そしてあなたは伝説になるでしょう
ごめん猫アレルギー、ネットにU･･･P･･･しちゃ･･･た･･･ｶﾞｸｯ」
後ろでは空ボウが何か唱えた後、改めて気絶した。
ｷｯﾁｪ君は目の前が真っ白になった。
同じだ･･･あの時と･･･。
ｷｯﾁｪ君と空ボウが始めて出会った日、
糸こんにゃくで喉を詰まらせた空ボウに
一通り蹴りを入れて帰ろうとした時。
『真実は求めるものを避け、求めないものを好む。さて、君は真実を見つけられるだろうか？』
空ボウのその一言を聞いてしまったのだ。
今の一言は、何かのヒントになるかもしれない。
ｷｯﾁｪくんはようやくスタート地点に立つことが出来た。
空ボウ、空ボウ、空ボウ。
あなたにはどんなに感謝してもしたりない。僕は今、狂気と理性の狭間に、自我という境界線を引くことができた。
カーンカーンカーン
教会の鐘が鳴り響く。
さあ、舞台は整った。後はほんの少しのきっかけで、運命の歯車は廻り出す。
世界は孤独を許容するだけの容量を持ち合わせているのか？真実とは？否、世界を包み込むパラダイムは、神と呼ばれる存在を肯定するのか？人類の原罪はけして許されることなく、破滅への宿命へと我々を誘うのか？
よーい
どん！
ｷｯﾁｪ君はクラウチングスタートの姿勢から、爆発的に加速をつけ始めた。
音よりも、光よりも、時の流れよりも、もっと、もっと早く。
頬を伝う、暖かいもの。これは、涙？それとも、これが、時の源？
どれだけ走り続けたのだろうか。ｷｯﾁｪ君が我に還ったころには、とうの昔に人類は絶滅していた。
湖の畔に立つｷｯﾁｪ君。ふと、ｷｯﾁｪ君を心地よい何かが包み込んだ。
これは・・・歌？
よく見ると、同じく湖の畔に少女がたっていた。
「きみは・・・人間かい？それとも、僕の、幻想かい？」
ｷｯﾁｪ君の問に答えることなく、少女は歌い続けた。それはほんのりと悲しく、それでいて、優しかった。
急に歌声が止んだ。すたすたと少女がｷｯﾁｪ君に歩み寄ってきた。
「あなたは真実を求める者？それとも、避ける者？」
僕は・・・僕は・・・ただ、愛されたいだけだった・・・
「可哀想な、『人』。目を閉じてみて。あなたにもう一度選択肢という希望を与えるわ。もう一度、やり直すといいわ。もうこの運命を選択しちゃだめよ。」
にっこりと少女は微笑んだ。それをきっかけに、目の前の世界がぐにゃぐにゃとふやけだした。
まって！君の名は・・・！？
「わたしの名前・・・？名前なんて知りたいなんて、変わった人ね。ﾏﾙﾁﾀﾞ。それがわたしの名前よ。」
君は、「名前なんて」そういった。
でも、それがどれだけ僕にとっての救いであるのか、君は想像できたのだろうか？
少女の淋しそうな笑顔が、ぐにゅぐにゅした視界のシワに、はさまれきえていった。
少しづつ、母の母体にいたあのころへと遡っていくｷｯﾁｪ君。
例えトイレの使い方を忘れても。ﾏﾁﾙﾀﾞ、君のことだけは忘れない。
あなたにはどんなに感謝してもしたりない。僕は今、狂気と理性の狭間に、自我という境界線を引くことができた。
カーンカーンカーン
教会の鐘が鳴り響く。
さあ、舞台は整った。後はほんの少しのきっかけで、運命の歯車は廻り出す。
世界は孤独を許容するだけの容量を持ち合わせているのか？真実とは？否、世界を包み込むパラダイムは、神と呼ばれる存在を肯定するのか？人類の原罪はけして許されることなく、破滅への宿命へと我々を誘うのか？
よーい
どん！
ｷｯﾁｪ君はクラウチングスタートの姿勢から、爆発的に加速をつけ始めた。
音よりも、光よりも、時の流れよりも、もっと、もっと早く。
頬を伝う、暖かいもの。これは、涙？それとも、これが、時の源？
どれだけ走り続けたのだろうか。ｷｯﾁｪ君が我に還ったころには、とうの昔に人類は絶滅していた。
湖の畔に立つｷｯﾁｪ君。ふと、ｷｯﾁｪ君を心地よい何かが包み込んだ。
これは・・・歌？
よく見ると、同じく湖の畔に少女がたっていた。
「きみは・・・人間かい？それとも、僕の、幻想かい？」
ｷｯﾁｪ君の問に答えることなく、少女は歌い続けた。それはほんのりと悲しく、それでいて、優しかった。
急に歌声が止んだ。すたすたと少女がｷｯﾁｪ君に歩み寄ってきた。
「あなたは真実を求める者？それとも、避ける者？」
僕は・・・僕は・・・ただ、愛されたいだけだった・・・
「可哀想な、『人』。目を閉じてみて。あなたにもう一度選択肢という希望を与えるわ。もう一度、やり直すといいわ。もうこの運命を選択しちゃだめよ。」
にっこりと少女は微笑んだ。それをきっかけに、目の前の世界がぐにゃぐにゃとふやけだした。
まって！君の名は・・・！？
「わたしの名前・・・？名前なんて知りたいなんて、変わった人ね。ﾏﾙﾁﾀﾞ。それがわたしの名前よ。」
君は、「名前なんて」そういった。
でも、それがどれだけ僕にとっての救いであるのか、君は想像できたのだろうか？
少女の淋しそうな笑顔が、ぐにゅぐにゅした視界のシワに、はさまれきえていった。
少しづつ、母の母体にいたあのころへと遡っていくｷｯﾁｪ君。
例えトイレの使い方を忘れても。ﾏﾁﾙﾀﾞ、君のことだけは忘れない。
唐突に目が覚めた。
ここでの「目が覚めた」とは睡眠から覚めたことではない。
なんと表現すればいいだろうか。
記憶の一番深いところ、一番最初の記憶。
生まれて初めて自分を自分と認識した瞬間。
自我を持たず、世話だけされて生きてきた、
閉じ込められて時を抜け出した瞬間。
自分を認識し、自分の人生が始まった瞬間。
彼は自宅で親と一緒にご飯を食べていた。
「ｷｯﾁｪ君、おかわりいる？」
目の前の人間が手を差し伸べています。
この人は誰だろう。自分は誰だろう。
今僕は自分の人生を進み始めた。
じゃあ自分の事は自分で決められるはずだし、自分を閉じ込める人なんて知らないはずだ。
「僕はﾏﾁﾙﾀﾞ、あなたは誰？」
「え？」
僕は手早く手に持っていたナイフを横に薙いだ。
赤く染まる世界。
そうだ、僕は今チャンスをこの手の内に秘めているんだ。
僕は行かなければいけない。
この世界の最果てに住む人のところに。
そして答えを手に入れて、あの人に会わなければならない。
ﾏﾁﾙﾀﾞは外に出た。
家の外は大きな穴が見渡す限り広がっていた。
そう、地面は今この家だけなのだ。
ﾏﾁﾙﾀﾞは、大きく真っ黒なこの世界に飛び込んだ。
ここでの「目が覚めた」とは睡眠から覚めたことではない。
なんと表現すればいいだろうか。
記憶の一番深いところ、一番最初の記憶。
生まれて初めて自分を自分と認識した瞬間。
自我を持たず、世話だけされて生きてきた、
閉じ込められて時を抜け出した瞬間。
自分を認識し、自分の人生が始まった瞬間。
彼は自宅で親と一緒にご飯を食べていた。
「ｷｯﾁｪ君、おかわりいる？」
目の前の人間が手を差し伸べています。
この人は誰だろう。自分は誰だろう。
今僕は自分の人生を進み始めた。
じゃあ自分の事は自分で決められるはずだし、自分を閉じ込める人なんて知らないはずだ。
「僕はﾏﾁﾙﾀﾞ、あなたは誰？」
「え？」
僕は手早く手に持っていたナイフを横に薙いだ。
赤く染まる世界。
そうだ、僕は今チャンスをこの手の内に秘めているんだ。
僕は行かなければいけない。
この世界の最果てに住む人のところに。
そして答えを手に入れて、あの人に会わなければならない。
ﾏﾁﾙﾀﾞは外に出た。
家の外は大きな穴が見渡す限り広がっていた。
そう、地面は今この家だけなのだ。
ﾏﾁﾙﾀﾞは、大きく真っ黒なこの世界に飛び込んだ。
♪寿色に手を染めて 感じる温度に頬染める
かち割りたいな あなたの肋骨 握りつぶしたいな あなたの臓器を
赤いプロペラ五つつ持ち 八つの箱には三つの言葉
殺戮！
破壊！
みなごろし！♪
薄暗い洞窟内に、楽しげな唄声が響いている。その脇からは低い男の声と、甲高い電子音のような声が聞こえる。
「おい、例の奴、アクセスしたぞ。」
「分かってる。指示は？」
「完全消去。」
「久しぶりだな。」
「以前の奴は中途半端な状態で逃してしまった。」
「ふん。あの学者か。どうせ今頃気でも狂ってキチガイになってるさ。」
「失敗は失敗でしょ。今回はあたいがいくわ！」
そう言ったのは先ほど唄っていた人物だった。
「名前。」
「は？」
「すっとぼけてんぢゃないよ。そいつの名前は？」
「ｷｯﾁｪだ。」
「ｷｯﾁｪね。うふふ・・・」
「少し前にレーダー上から消滅した・・・ってもう聞いてないか」
うふふ・・・・美味ｼｿｳ
だらだら涎を垂らし、ギラギラした眼は明後日の方向を向いていた。ｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪ殺す！
象と蝶が合成されたかのような奇怪な生き物の背に飛び乗り、その人物は洞窟内から飛び立った。
かくして神話の世界にその名を刻む殺戮モンスター『屍喰いのアルル』が世界に解き放たれた。
そのころﾏﾁﾙﾀﾞは行列に並んでいた。
わくわく。何の行列か分からないけど、わくわく。
「スミマセンお客様・・・前のお客様で麺がきれてしまいました・・・」
営業終了を告げられるﾏﾁﾙﾀﾞ。
ﾏﾁﾙﾀﾞは携帯を真っ二つにへし折って、アンテナがごとく店員の脳天に突き立てた。
「はわはわはわはわ・・・お客様・・・お客様が・・・」
ほおぅらぁ、こうすればよく聞こえるだろう・・・耳を澄ましてご覧・・・僕の心臓、プログレッシブだろぅ？
店員を抱き締めるﾏﾁﾙﾀﾞ。その眼は慈愛の精神が満ち溢れている。
三十分ほどのグループディスカッションを挟んだ後、ﾏﾁﾙﾀﾞは店員をドブに突き飛ばした。
ﾏﾁﾙﾀﾞはリストカットしてはわはわ言う店員の顔面に血の雨を降らせ、言った。
「初めっから、クライマックス突入だぜ・・・」
かち割りたいな あなたの肋骨 握りつぶしたいな あなたの臓器を
赤いプロペラ五つつ持ち 八つの箱には三つの言葉
殺戮！
破壊！
みなごろし！♪
薄暗い洞窟内に、楽しげな唄声が響いている。その脇からは低い男の声と、甲高い電子音のような声が聞こえる。
「おい、例の奴、アクセスしたぞ。」
「分かってる。指示は？」
「完全消去。」
「久しぶりだな。」
「以前の奴は中途半端な状態で逃してしまった。」
「ふん。あの学者か。どうせ今頃気でも狂ってキチガイになってるさ。」
「失敗は失敗でしょ。今回はあたいがいくわ！」
そう言ったのは先ほど唄っていた人物だった。
「名前。」
「は？」
「すっとぼけてんぢゃないよ。そいつの名前は？」
「ｷｯﾁｪだ。」
「ｷｯﾁｪね。うふふ・・・」
「少し前にレーダー上から消滅した・・・ってもう聞いてないか」
うふふ・・・・美味ｼｿｳ
だらだら涎を垂らし、ギラギラした眼は明後日の方向を向いていた。ｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪｷｯﾁｪ殺す！
象と蝶が合成されたかのような奇怪な生き物の背に飛び乗り、その人物は洞窟内から飛び立った。
かくして神話の世界にその名を刻む殺戮モンスター『屍喰いのアルル』が世界に解き放たれた。
そのころﾏﾁﾙﾀﾞは行列に並んでいた。
わくわく。何の行列か分からないけど、わくわく。
「スミマセンお客様・・・前のお客様で麺がきれてしまいました・・・」
営業終了を告げられるﾏﾁﾙﾀﾞ。
ﾏﾁﾙﾀﾞは携帯を真っ二つにへし折って、アンテナがごとく店員の脳天に突き立てた。
「はわはわはわはわ・・・お客様・・・お客様が・・・」
ほおぅらぁ、こうすればよく聞こえるだろう・・・耳を澄ましてご覧・・・僕の心臓、プログレッシブだろぅ？
店員を抱き締めるﾏﾁﾙﾀﾞ。その眼は慈愛の精神が満ち溢れている。
三十分ほどのグループディスカッションを挟んだ後、ﾏﾁﾙﾀﾞは店員をドブに突き飛ばした。
ﾏﾁﾙﾀﾞはリストカットしてはわはわ言う店員の顔面に血の雨を降らせ、言った。
「初めっから、クライマックス突入だぜ・・・」
店員はひたすら混乱していた。
だって普通は被害者＝怪我人でしょ？
なのに今被害者の自分はドブに落とされただけで、加害者の子供は
リストカットして血が抜けて顔が白くなりかけてるんだもの。
死んじゃうよ？
「はわはわはわはわ･･･」
どうすればいい？どうすればいいんだろう？
目の前では止め処なく赤いシャワー。
なんとかして止めなきゃ、でもどうやって？
あ、そうだ、心臓を止めればいいんだ。
「ﾊｯﾊｰ!!俺の人生クライマックスだぜぇ!!」
目の前の子供はもう目が危ない。
ここは必殺技を使うしかないね!!
店員は立ち上がり、声高々に技名を叫んだ。
「国家権力ッ!!粉ッ!!砕ッ!!」
なんらかの必殺技で吹っ飛ぶﾏﾁﾙﾀﾞ。
彼の心臓は間違いなく止まった。
赤いシャワーも止まった。
しかし･･･
猛烈に血を出して吹っ飛ばされる少年と、なんかした店員。
状況だけ見ると、どうみても店員が加害者です。
本当にありがとうございました。
店員は粉砕したはずの国家権力に連れて行かれました。
「くそっ離せ権力の犬め!!税金泥棒!!なめくじ!!醤油!!6弦!!もうゆるさねぇ。
国家権力･･･
粉ッ!!砕ッ!!」
店員は国家権力を粉砕してﾏﾁﾙﾀﾞを掴むと猛然と自宅まで走り出した。
だって普通は被害者＝怪我人でしょ？
なのに今被害者の自分はドブに落とされただけで、加害者の子供は
リストカットして血が抜けて顔が白くなりかけてるんだもの。
死んじゃうよ？
「はわはわはわはわ･･･」
どうすればいい？どうすればいいんだろう？
目の前では止め処なく赤いシャワー。
なんとかして止めなきゃ、でもどうやって？
あ、そうだ、心臓を止めればいいんだ。
「ﾊｯﾊｰ!!俺の人生クライマックスだぜぇ!!」
目の前の子供はもう目が危ない。
ここは必殺技を使うしかないね!!
店員は立ち上がり、声高々に技名を叫んだ。
「国家権力ッ!!粉ッ!!砕ッ!!」
なんらかの必殺技で吹っ飛ぶﾏﾁﾙﾀﾞ。
彼の心臓は間違いなく止まった。
赤いシャワーも止まった。
しかし･･･
猛烈に血を出して吹っ飛ばされる少年と、なんかした店員。
状況だけ見ると、どうみても店員が加害者です。
本当にありがとうございました。
店員は粉砕したはずの国家権力に連れて行かれました。
「くそっ離せ権力の犬め!!税金泥棒!!なめくじ!!醤油!!6弦!!もうゆるさねぇ。
国家権力･･･
粉ッ!!砕ッ!!」
店員は国家権力を粉砕してﾏﾁﾙﾀﾞを掴むと猛然と自宅まで走り出した。
『咀嚼シティー50km』
大ざっぱに殴り書きされたでかい看板が、中央分離帯のど真ん中に立っていた。道を走る車のいくつかは、ﾌﾐｬｯｾと大きな音を立てて走り抜ける。
咀嚼シティー、原子配列を無視した超非科学主義の車・・・
さては大陸に入ったな。
ハツカネズミ301匹を動力源としたﾏﾁﾙﾀﾞの生体コンピューターが出した解に、総司令であるミーアキャットが羨ましいほど気の触れた笑顔でゴーサインをだした。
世界で唯一の大陸。すなわちﾊﾞｾﾙﾆｱ共和国だ。
店員（26）は考えていた。なぜ私はこんなに一生懸命走っているのだろう。何かから逃げるため？待ち合わせに遅れるから？
いや、違う。そうじゃない。
私は・・・そう、思い出した・・・
その刹那、店員のアナルが大爆発した。ﾏﾁﾙﾀﾞはその爆風で吹き飛ばされた。
「おい！クソやろう！しっかりしろ！」店員に駆けより激しく揺さぶるﾏﾁﾙﾀﾞ。店員は真っ赤な泡を口からはいてﾋﾞｸﾋﾞｸと痙攣した。
「てめえ死ぬのか！なあ死ぬのか！お前みたいに24時間力士の真似するｹﾞｽ野郎にはお似合いの最後だなオイ！
死ぬなボケ！お前は俺がお前の家族の目の前でばらばらにして殺してやるんだから死ぬな！」
白い靄が視界を端から奪っていく。店員は自らの最後を悟りメールを一斉送信した。その一通がﾏﾁﾙﾀﾞにも届いた。
大ざっぱに殴り書きされたでかい看板が、中央分離帯のど真ん中に立っていた。道を走る車のいくつかは、ﾌﾐｬｯｾと大きな音を立てて走り抜ける。
咀嚼シティー、原子配列を無視した超非科学主義の車・・・
さては大陸に入ったな。
ハツカネズミ301匹を動力源としたﾏﾁﾙﾀﾞの生体コンピューターが出した解に、総司令であるミーアキャットが羨ましいほど気の触れた笑顔でゴーサインをだした。
世界で唯一の大陸。すなわちﾊﾞｾﾙﾆｱ共和国だ。
店員（26）は考えていた。なぜ私はこんなに一生懸命走っているのだろう。何かから逃げるため？待ち合わせに遅れるから？
いや、違う。そうじゃない。
私は・・・そう、思い出した・・・
その刹那、店員のアナルが大爆発した。ﾏﾁﾙﾀﾞはその爆風で吹き飛ばされた。
「おい！クソやろう！しっかりしろ！」店員に駆けより激しく揺さぶるﾏﾁﾙﾀﾞ。店員は真っ赤な泡を口からはいてﾋﾞｸﾋﾞｸと痙攣した。
「てめえ死ぬのか！なあ死ぬのか！お前みたいに24時間力士の真似するｹﾞｽ野郎にはお似合いの最後だなオイ！
死ぬなボケ！お前は俺がお前の家族の目の前でばらばらにして殺してやるんだから死ぬな！」
白い靄が視界を端から奪っていく。店員は自らの最後を悟りメールを一斉送信した。その一通がﾏﾁﾙﾀﾞにも届いた。
ﾏﾁﾙﾀﾞは目の前で送信されたメールが、世界のどこかの発信機を経由して自分の
元に届いた事にうんざりしながら内容を読んだ。
"たすけて"
「たすけて欲しいんかい!!」
ﾏﾁﾙﾀﾞはとりあえずツッコミと共に蹴りを入れた。
街の人間は2人の行動の一部始終を見ていた。
この街の人間の信念は一つ。
"奇人であれ”
この街の人間は変である事を追及するゆえに、変である方向が同じになってしまったのだ。
しかしこの見知らぬ2人は自分達にはない変わった部分を持っている。
この2人が居ると自分達の存在意義が危ない。
共通の答えに行きついた街の人間は、やっぱり同じ方向に物事を考えたらしく、
皆同じようにあの2人の教えを請おうと思った。
まずは軽くスキンシップ。
2人と同じ動きをして敵でない事をアピールする。
街の人間は皆同じように前かがみになると、全員肛門を爆発させて
頭からﾏﾁﾙﾀﾞと店員に突っ込んむと同時に決め台詞を吐いた。
「お願いがあるんです。僕らと一緒にトレビア〜ン？
3時のおやつはシャケとばとゆで卵!!
オネガイダカラそれだけはヤメテ!!
力いっぱいメレンゲと僕と握手、す〜る〜？」
元に届いた事にうんざりしながら内容を読んだ。
"たすけて"
「たすけて欲しいんかい!!」
ﾏﾁﾙﾀﾞはとりあえずツッコミと共に蹴りを入れた。
街の人間は2人の行動の一部始終を見ていた。
この街の人間の信念は一つ。
"奇人であれ”
この街の人間は変である事を追及するゆえに、変である方向が同じになってしまったのだ。
しかしこの見知らぬ2人は自分達にはない変わった部分を持っている。
この2人が居ると自分達の存在意義が危ない。
共通の答えに行きついた街の人間は、やっぱり同じ方向に物事を考えたらしく、
皆同じようにあの2人の教えを請おうと思った。
まずは軽くスキンシップ。
2人と同じ動きをして敵でない事をアピールする。
街の人間は皆同じように前かがみになると、全員肛門を爆発させて
頭からﾏﾁﾙﾀﾞと店員に突っ込んむと同時に決め台詞を吐いた。
「お願いがあるんです。僕らと一緒にトレビア〜ン？
3時のおやつはシャケとばとゆで卵!!
オネガイダカラそれだけはヤメテ!!
力いっぱいメレンゲと僕と握手、す〜る〜？」
「奇人とは。」
そう言ってマチルダは黒板に大きく『黒板』と書いた。力任せにたたきつけたチョークの粉が宙を舞い、まるで雪のように人々の頭上に降り注ぐ。少し早いけど、ホワイトクリスマスだね。誰かがそんなことをつぶやいた。
「まあね、僕にはあなた方のおっしゃる意味がさっぱり分かりませんが（笑いが起こる）、取り敢えず丸坊主にしなさい。ね。雰囲気が出るから。（おおという歓声が上がる）そしたらね、家財道具を棄てて、西を目指しなさいよ。そうすればあなたたちは伝説になるでしょうよ。（スタンディングオベーション）」
目から鱗だった。まさに青天の霹靂。空前絶後。五里霧中。群雄割拠。有象無象、有形無形のものどもであった。人々は一斉にまだ見ぬ西の果てを仰ぎ見た。そこは金色の巨大な塊が、広大な大地にその身を横たえようとしていた。
人々はお互いの顔を見合わせ、確信した。いける。我々は、本物の奇人へと近づける。俺たちは隣国より、よっぽど変だ。いいや、もはや変ですらない。この気持ち、限りなく恋に近い。先輩。大好き。
香ばしい薫りと共に盛り上がる人々の中で、ただ一人、異臭を放っている人物があった。その人物こそが、後に『バタフライ女子高生』と呼ばれる少女、鈴木・マチコ・アブラヒモビッチ、その人であった。
鈴木は、側転を繰り返しながらマチルダの周りを回った。ポケットの小銭が吹っ飛び、店員にビシビシ命中し、店員に高校時代の悪夢を思い起こさせた。
「あなたすごいね。なんていうか、見るからにもてなそうって言うか。鼻毛の処理を諦めてる辺りなんか、大分秀逸だと思うわ。」
マチルダは驚愕していた。この少女は、この歳にしてすでにぬりかべの殺し方を心得ている。それは超一流の学者集団によって提示された、常人には理解不能の高次元のイデオロギーであった。
「あいつらはそろいもそろって偽者さ。奇人というのは、自ら望んでなる者ではない。すでにそうある者なんだ。ただ、けして努力を認めないわけじゃない。自分で考えるか、他人に考えてもらうか。そこに違いがあるんだ。奴らはそのスタートラインを間違えているのにも気がつかない、なれあい身をすり減らしていく烏合の衆さ。さあ、僕らは北に向かうんだ。そこに、きっと真実がある。」
マチルダの言葉に、鈴木はしずしずと涙を流した。わたしたちは、奇人に何を求めていたのかな。鈴木がふとつぶやいた。マチルダはうるせえといって鈴木を睨み付けた。鈴木はごめんといって俯きがちに後に続いた。店員は鼻くそをおいしそうに食べていた。
「ハッピー・ニュー・イヤー！」街の住民の一人がそう叫んびマチルダの背中に「お母さん大好き」と書かれた紙を貼り付けた。この事が、後々彼らの命運を左右する出来事とかかわりを持つことになるのだが、その時の彼らには知る由もなかった。その時はただただ、滴る鼻血をタッパーにつめ一晩寝かせることしか思いつかなかったのだ。
喜び勇んで髪を刈り始める人々を横目に、マチルダ・鈴木・元店員の一行は北へと向かった。バセルニア共和国北部、通称『おかっぱちゃんパラダイス』へと。
そう言ってマチルダは黒板に大きく『黒板』と書いた。力任せにたたきつけたチョークの粉が宙を舞い、まるで雪のように人々の頭上に降り注ぐ。少し早いけど、ホワイトクリスマスだね。誰かがそんなことをつぶやいた。
「まあね、僕にはあなた方のおっしゃる意味がさっぱり分かりませんが（笑いが起こる）、取り敢えず丸坊主にしなさい。ね。雰囲気が出るから。（おおという歓声が上がる）そしたらね、家財道具を棄てて、西を目指しなさいよ。そうすればあなたたちは伝説になるでしょうよ。（スタンディングオベーション）」
目から鱗だった。まさに青天の霹靂。空前絶後。五里霧中。群雄割拠。有象無象、有形無形のものどもであった。人々は一斉にまだ見ぬ西の果てを仰ぎ見た。そこは金色の巨大な塊が、広大な大地にその身を横たえようとしていた。
人々はお互いの顔を見合わせ、確信した。いける。我々は、本物の奇人へと近づける。俺たちは隣国より、よっぽど変だ。いいや、もはや変ですらない。この気持ち、限りなく恋に近い。先輩。大好き。
香ばしい薫りと共に盛り上がる人々の中で、ただ一人、異臭を放っている人物があった。その人物こそが、後に『バタフライ女子高生』と呼ばれる少女、鈴木・マチコ・アブラヒモビッチ、その人であった。
鈴木は、側転を繰り返しながらマチルダの周りを回った。ポケットの小銭が吹っ飛び、店員にビシビシ命中し、店員に高校時代の悪夢を思い起こさせた。
「あなたすごいね。なんていうか、見るからにもてなそうって言うか。鼻毛の処理を諦めてる辺りなんか、大分秀逸だと思うわ。」
マチルダは驚愕していた。この少女は、この歳にしてすでにぬりかべの殺し方を心得ている。それは超一流の学者集団によって提示された、常人には理解不能の高次元のイデオロギーであった。
「あいつらはそろいもそろって偽者さ。奇人というのは、自ら望んでなる者ではない。すでにそうある者なんだ。ただ、けして努力を認めないわけじゃない。自分で考えるか、他人に考えてもらうか。そこに違いがあるんだ。奴らはそのスタートラインを間違えているのにも気がつかない、なれあい身をすり減らしていく烏合の衆さ。さあ、僕らは北に向かうんだ。そこに、きっと真実がある。」
マチルダの言葉に、鈴木はしずしずと涙を流した。わたしたちは、奇人に何を求めていたのかな。鈴木がふとつぶやいた。マチルダはうるせえといって鈴木を睨み付けた。鈴木はごめんといって俯きがちに後に続いた。店員は鼻くそをおいしそうに食べていた。
「ハッピー・ニュー・イヤー！」街の住民の一人がそう叫んびマチルダの背中に「お母さん大好き」と書かれた紙を貼り付けた。この事が、後々彼らの命運を左右する出来事とかかわりを持つことになるのだが、その時の彼らには知る由もなかった。その時はただただ、滴る鼻血をタッパーにつめ一晩寝かせることしか思いつかなかったのだ。
喜び勇んで髪を刈り始める人々を横目に、マチルダ・鈴木・元店員の一行は北へと向かった。バセルニア共和国北部、通称『おかっぱちゃんパラダイス』へと。
「咀嚼シティーから出るにはぷるへみゃーが必要だよ。」
つぶやいた鈴木・マチコ・アブラヒモビッチの格好は上にはＴシャツ、
下はポロシャツを履いていた。
ﾏﾁﾙﾀﾞは上下逆なら良かったのにと思った。
「咀嚼シティーから出るにはぷるへみゃーが必要だよ。」
ﾏﾁﾙﾀﾞはにっこり笑って鈴木を蹴り飛ばした。
「余計な口を叩く暇があったら水を使わないで稲を育ててみやがれ。」
鈴木は従順に従った。
店員は悲しそうに屁をこいた。
咀嚼シティーの端っこに着いた時にはすでに、右斜め下の空の元に
パラゴウス座が輝き始めた頃だった。
「俺の人生クライマックスだぜぇ･･･クライマックスだぜぇ･･･だぜぇ･･･」
ﾏﾁﾙﾀﾞはぶつぶつつぶやきながら、その一線を越えかかった。
気がつくと、3人の立ち位置は境界線から少し戻ったところだった。
「あぁ･･･どうしても育たない。」
嬉しそうにうなだれた鈴木が持っていた稲の蜂を、ﾏﾁﾙﾀﾞは蹴り飛ばした。
「ありがとうございます、ありがとうございます。」
鈴木の顔は鼻水で一杯になった。
店員は一人感動していた。
これが原子配列を無視した超非科学主義の国。
一線を越えてはいけないなんて、越えてはいけない一線があるなんて!!
なんていたいけなんだろう!!
店員はせっせとﾏﾁﾙﾀﾞの鼻の奥の方まで白いチョークを詰め込んだ。
ﾏﾁﾙﾀﾞはこれも悪くないと思った。
「咀嚼シティーから出るにはぷるへみゃーが必要だよ!!」
ﾏﾁﾙﾀﾞは激しくヘドバンしながら韻を踏んだ。
横では鈴木が指示を受けるまでもなく作業を始めていた。
ここは原子配列を無視した超非科学主義の国。
鈴木は地面に手を突き刺し、そのまま持ち上げた。
「これがぷるへみゃーだよ!!どこまで耐えられるかな!?」
店員は今日は自分の番とばかりに鼻血をタッパーにつめこんだ。
つぶやいた鈴木・マチコ・アブラヒモビッチの格好は上にはＴシャツ、
下はポロシャツを履いていた。
ﾏﾁﾙﾀﾞは上下逆なら良かったのにと思った。
「咀嚼シティーから出るにはぷるへみゃーが必要だよ。」
ﾏﾁﾙﾀﾞはにっこり笑って鈴木を蹴り飛ばした。
「余計な口を叩く暇があったら水を使わないで稲を育ててみやがれ。」
鈴木は従順に従った。
店員は悲しそうに屁をこいた。
咀嚼シティーの端っこに着いた時にはすでに、右斜め下の空の元に
パラゴウス座が輝き始めた頃だった。
「俺の人生クライマックスだぜぇ･･･クライマックスだぜぇ･･･だぜぇ･･･」
ﾏﾁﾙﾀﾞはぶつぶつつぶやきながら、その一線を越えかかった。
気がつくと、3人の立ち位置は境界線から少し戻ったところだった。
「あぁ･･･どうしても育たない。」
嬉しそうにうなだれた鈴木が持っていた稲の蜂を、ﾏﾁﾙﾀﾞは蹴り飛ばした。
「ありがとうございます、ありがとうございます。」
鈴木の顔は鼻水で一杯になった。
店員は一人感動していた。
これが原子配列を無視した超非科学主義の国。
一線を越えてはいけないなんて、越えてはいけない一線があるなんて!!
なんていたいけなんだろう!!
店員はせっせとﾏﾁﾙﾀﾞの鼻の奥の方まで白いチョークを詰め込んだ。
ﾏﾁﾙﾀﾞはこれも悪くないと思った。
「咀嚼シティーから出るにはぷるへみゃーが必要だよ!!」
ﾏﾁﾙﾀﾞは激しくヘドバンしながら韻を踏んだ。
横では鈴木が指示を受けるまでもなく作業を始めていた。
ここは原子配列を無視した超非科学主義の国。
鈴木は地面に手を突き刺し、そのまま持ち上げた。
「これがぷるへみゃーだよ!!どこまで耐えられるかな!?」
店員は今日は自分の番とばかりに鼻血をタッパーにつめこんだ。
ついに白日の下にさらされたぷるへみゃー。マチルダと店員はそれに熱い視線を送った。
「ぷるへみゃー！ぷるへみゃー！」
鈴木は天高くぷるへみゃーを掲げた。うっとりとした様子で尻で曼荼羅を描き出した店員をマチルダは蹴り上げた。
マチルダは耐えた。必死に耐えた。3秒で飽きた。そして体育座りでふさぎこんだ。
鈴木はタイミングを見計らっていた。ぷるへみゃーにさっと下味をつけて、あらかじめ刻んでおいたオラゴリと混ぜ合わせる。フライパンに油を引き、べヘリモに火を通したら、先ほど混ぜ合わせたぷるへみゃ―をそこに入れる。キツネ色の焦げ目がついてきたら、フライパンごと遠くに放り投げ、自転車に乗ってそれを引く。メランコリックな気分になってきたらもう一踏ん張り。自分以外のクラスのタイムカプセルを掘り返して隅田川に放り投げよう。それからミソソヌグラの肝を・・・・・・・・・・・
【閑話休題。
おひつじ座のあなた！全裸で大妻女子大に突入すると金運UP！
ラッキーアイテムは『プルトニウム』だよ！寿命が3年くらい延びるカモ？！】
・・・・・・・・・・・・して出来たものがコレである。
鈴木はまるで召し上がれとでも言わんばかりの顔で二人を見た。召しただけでは飽き足らず、言うに事欠いて上がれなどといわれる日が来ようとは！鈴木は私も食べたこと無いからどうなるか分からないけど、コレで境界線を越えられるよ。といった。
恐る恐る口をつける三人。気がついたときには皿まで舐めていた。
世界がグルグル回りだした。お日様はニコニコ微笑んで、虹色のカブトムシを沢山持っている。雲さんは中指を突き立ててお月様に娯楽を提供している。なんかイイ気分☆Wooooooooooooooow！！大臣殿そこにおられましたか！
♪ポケモンいえるかな？
ぽけもん言えねえよ！ 無理難題押し付けんな糞ゴリラ
んはあああああああ めそおおおおおおおおおおお
卒業アルバム 私の写真だけ 黒く塗りつぶされている
やったね これって 幸運のKI・ZA・SHI？
ヤッホー もりもり ピープルカムズアゲイン
さあ 手を伸ばして それを握って
つかんだそれが 私の母の遺骨です☆ カ・ル・シ・ウ・ム♪
すでに三人は境界線を越えていたが、今のハイになった彼らにとってそんなことは些細なことだった。ぷるへみゃーのもたらした高揚感に乗って、彼らは突っ走った。
「ぷるへみゃー！ぷるへみゃー！」
鈴木は天高くぷるへみゃーを掲げた。うっとりとした様子で尻で曼荼羅を描き出した店員をマチルダは蹴り上げた。
マチルダは耐えた。必死に耐えた。3秒で飽きた。そして体育座りでふさぎこんだ。
鈴木はタイミングを見計らっていた。ぷるへみゃーにさっと下味をつけて、あらかじめ刻んでおいたオラゴリと混ぜ合わせる。フライパンに油を引き、べヘリモに火を通したら、先ほど混ぜ合わせたぷるへみゃ―をそこに入れる。キツネ色の焦げ目がついてきたら、フライパンごと遠くに放り投げ、自転車に乗ってそれを引く。メランコリックな気分になってきたらもう一踏ん張り。自分以外のクラスのタイムカプセルを掘り返して隅田川に放り投げよう。それからミソソヌグラの肝を・・・・・・・・・・・
【閑話休題。
おひつじ座のあなた！全裸で大妻女子大に突入すると金運UP！
ラッキーアイテムは『プルトニウム』だよ！寿命が3年くらい延びるカモ？！】
・・・・・・・・・・・・して出来たものがコレである。
鈴木はまるで召し上がれとでも言わんばかりの顔で二人を見た。召しただけでは飽き足らず、言うに事欠いて上がれなどといわれる日が来ようとは！鈴木は私も食べたこと無いからどうなるか分からないけど、コレで境界線を越えられるよ。といった。
恐る恐る口をつける三人。気がついたときには皿まで舐めていた。
世界がグルグル回りだした。お日様はニコニコ微笑んで、虹色のカブトムシを沢山持っている。雲さんは中指を突き立ててお月様に娯楽を提供している。なんかイイ気分☆Wooooooooooooooow！！大臣殿そこにおられましたか！
♪ポケモンいえるかな？
ぽけもん言えねえよ！ 無理難題押し付けんな糞ゴリラ
んはあああああああ めそおおおおおおおおおおお
卒業アルバム 私の写真だけ 黒く塗りつぶされている
やったね これって 幸運のKI・ZA・SHI？
ヤッホー もりもり ピープルカムズアゲイン
さあ 手を伸ばして それを握って
つかんだそれが 私の母の遺骨です☆ カ・ル・シ・ウ・ム♪
すでに三人は境界線を越えていたが、今のハイになった彼らにとってそんなことは些細なことだった。ぷるへみゃーのもたらした高揚感に乗って、彼らは突っ走った。
「泣かぬなｒ･･･」
ピンポン!!
「殺してしまえ!!」
「ですが、たくわんを･･･」
ピンポン!!
「殺してしまえ!!」
「いいえ、ケフィアです。」
「いいえ、プラクです。」
咀嚼シティーを出た一行。
気がつくと人数は5人に増え、ぷるへみゃーによる高揚感によって、
愛人砂漠の真ん中でクイズ大会をしていた。
愛人砂漠。様々な、主に愛人による
「プラクのバックが欲し〜のぉ〜」
という誘惑をかけられる危険地帯である。
そもそもぷるへみゃーは、愛人砂漠の誘惑を高揚感でごまかし、
境界線を越えるためと２つの意味で効果があった。
愛人砂漠に入った瞬間一行を取り囲む愛人。
口々に猛烈な誘惑をするも、そこはジェントルなﾏﾁﾙﾀﾞのこと。
彼は一人しか選ばないよ。
だってそれが彼の精一杯だからさ。
愛人の一人を選んでクイズ大会をすると、周りの愛人が口々に
「この鯖味噌猫!!」
と鯖味噌を投げつける。
これがここのお客様に対する最高級の流儀。
店員が自分から鯖味噌をくらいに行っているころ、選ばれた愛人は
周りの愛人にどこかにつれていかれ、二度と見る事はなかった。
ありがとう愛人。さようなら愛人。
その頃鈴木は今日の分の鼻血をタッパーに詰めた。
ピンポン!!
「殺してしまえ!!」
「ですが、たくわんを･･･」
ピンポン!!
「殺してしまえ!!」
「いいえ、ケフィアです。」
「いいえ、プラクです。」
咀嚼シティーを出た一行。
気がつくと人数は5人に増え、ぷるへみゃーによる高揚感によって、
愛人砂漠の真ん中でクイズ大会をしていた。
愛人砂漠。様々な、主に愛人による
「プラクのバックが欲し〜のぉ〜」
という誘惑をかけられる危険地帯である。
そもそもぷるへみゃーは、愛人砂漠の誘惑を高揚感でごまかし、
境界線を越えるためと２つの意味で効果があった。
愛人砂漠に入った瞬間一行を取り囲む愛人。
口々に猛烈な誘惑をするも、そこはジェントルなﾏﾁﾙﾀﾞのこと。
彼は一人しか選ばないよ。
だってそれが彼の精一杯だからさ。
愛人の一人を選んでクイズ大会をすると、周りの愛人が口々に
「この鯖味噌猫!!」
と鯖味噌を投げつける。
これがここのお客様に対する最高級の流儀。
店員が自分から鯖味噌をくらいに行っているころ、選ばれた愛人は
周りの愛人にどこかにつれていかれ、二度と見る事はなかった。
ありがとう愛人。さようなら愛人。
その頃鈴木は今日の分の鼻血をタッパーに詰めた。
『愛人砂漠は恋の砂漠。ありとあらゆる恋があり、たった一つの愛がない。
死して屍拾う者なし。ただ朽ち果てて風に舞うだけ。後に残るは愛人砂漠。』
オフィシャルガイド『バセルニア共和国にようこそ！ 第5版』の314P、「我大陸で長い歴史を持つ愛人砂漠！」の項目の写真の横には、小さくそう記されている。愛人砂漠は、恋に生きる女達のゆりかごであり、戦場であり、墓場だった。
マチルダは高揚した頭の中でも気づいていた。「ヴィトンのバッグかってへぇぇぇぇ〜」そう言ってしなだれかかる愛人が欲しいのは、もっと別の物であることをその目が物語っていることに。鯖味噌を投げつける時、そっとアンダースローで投げていることに。
「ヴィトン買って〜プラダ買って〜マンションかって〜BMW買って〜」
愛人の目をじっと見つめるマチルダ。愛人の目から見る見る涙が溢れ出してきた。
「グッチ買って〜シャネルか・・買って〜ぇ・・・うっ・・・ディ・・・ディズニーリャンドに・・・ひっく・・・つれてぇって〜」
すたすた歩き出すマチルダの背中を見て、愛人は泣き崩れた。マチルダの背中には「お母さん大好き」と書かれた紙が貼り付けられていた。
それを見て愛人は悟った。こいつは知っている。愛ってものの、何たるかを。私たちでは一生手に入れることの出来ない、愛ってもんを知っている。恐ろしい。なんて恐ろしい。恐ろしくて、愛おしい。
マチルダは猛烈な勢いで砂を掘り出した。見る見るうちに砂の山が高く聳え立っていく。鈴木は歯茎むき出しの100点満点の笑顔でタッパーの鼻血をぶちまけた。サラサラとした砂の山が、大量の血液で固められていく。マチルダはすっかり固まった砂山にむしゃぶりついた。次第に砂山が形を変えていく。その様子を見ようと、あたりに愛人達がわらわらと集まってきた。
マチルダの作業は続いた。玉のような汗が頬をつたっても、まったく意に介する様子は無かった。日が日も暮れ始めた頃、そこに出現した、夕日に照らされた巨大なモニュメントを、愛人達が見上げていた。大きな大きな真っ赤なハート。巨大なLOVE。人の血の通った、愛の形。
愛人達のブランド物がボトボトと砂漠の上に落ちていく。そしてただただ、真っ赤なハートを見つめつつけた。こうして大陸において長く続いた歴史の一つに、静かに幕が下りた。
マチルダは鈴木に言った。
「それはね、形作ることが出来ても、本来形の無いものなのさ。西暦ゼロ年に死んだあいつが言ったよ。隣人にそれを与えてやれってさ。そしたらそのまた隣人そのまた隣人・・・世界をつなぐ、巨大な輪をつくれってさ。でもさ、それってさ、いつになったら自分に帰ってくるんだろうね。そんな巨大な輪ががさ、完成して自分に帰ってくるのってどれだけかかるんだって言うね。ずっと目をつぶって寒さと暗闇に耐え続けろって言う、非効率極まりない循環のシステムね。はは。笑っちゃうよ。裸で北極に放り出された時の事を想像してみなよ。あたり一面氷の世界。体を温めてくれるものなんてありゃしない。その時自分を包み込むものってなんだろうね。なあに、簡単なことさ。自分の手だよ。そして、血と肉さ。結局自分自身なんだよ。自分を暖めてくれるのは。」
鈴木は気持ちがよかった。ただただ、快楽に身を任せていた。だからマチルダを全力でぶっ飛した時も、何の感想も持たなかった。
死して屍拾う者なし。ただ朽ち果てて風に舞うだけ。後に残るは愛人砂漠。』
オフィシャルガイド『バセルニア共和国にようこそ！ 第5版』の314P、「我大陸で長い歴史を持つ愛人砂漠！」の項目の写真の横には、小さくそう記されている。愛人砂漠は、恋に生きる女達のゆりかごであり、戦場であり、墓場だった。
マチルダは高揚した頭の中でも気づいていた。「ヴィトンのバッグかってへぇぇぇぇ〜」そう言ってしなだれかかる愛人が欲しいのは、もっと別の物であることをその目が物語っていることに。鯖味噌を投げつける時、そっとアンダースローで投げていることに。
「ヴィトン買って〜プラダ買って〜マンションかって〜BMW買って〜」
愛人の目をじっと見つめるマチルダ。愛人の目から見る見る涙が溢れ出してきた。
「グッチ買って〜シャネルか・・買って〜ぇ・・・うっ・・・ディ・・・ディズニーリャンドに・・・ひっく・・・つれてぇって〜」
すたすた歩き出すマチルダの背中を見て、愛人は泣き崩れた。マチルダの背中には「お母さん大好き」と書かれた紙が貼り付けられていた。
それを見て愛人は悟った。こいつは知っている。愛ってものの、何たるかを。私たちでは一生手に入れることの出来ない、愛ってもんを知っている。恐ろしい。なんて恐ろしい。恐ろしくて、愛おしい。
マチルダは猛烈な勢いで砂を掘り出した。見る見るうちに砂の山が高く聳え立っていく。鈴木は歯茎むき出しの100点満点の笑顔でタッパーの鼻血をぶちまけた。サラサラとした砂の山が、大量の血液で固められていく。マチルダはすっかり固まった砂山にむしゃぶりついた。次第に砂山が形を変えていく。その様子を見ようと、あたりに愛人達がわらわらと集まってきた。
マチルダの作業は続いた。玉のような汗が頬をつたっても、まったく意に介する様子は無かった。日が日も暮れ始めた頃、そこに出現した、夕日に照らされた巨大なモニュメントを、愛人達が見上げていた。大きな大きな真っ赤なハート。巨大なLOVE。人の血の通った、愛の形。
愛人達のブランド物がボトボトと砂漠の上に落ちていく。そしてただただ、真っ赤なハートを見つめつつけた。こうして大陸において長く続いた歴史の一つに、静かに幕が下りた。
マチルダは鈴木に言った。
「それはね、形作ることが出来ても、本来形の無いものなのさ。西暦ゼロ年に死んだあいつが言ったよ。隣人にそれを与えてやれってさ。そしたらそのまた隣人そのまた隣人・・・世界をつなぐ、巨大な輪をつくれってさ。でもさ、それってさ、いつになったら自分に帰ってくるんだろうね。そんな巨大な輪ががさ、完成して自分に帰ってくるのってどれだけかかるんだって言うね。ずっと目をつぶって寒さと暗闇に耐え続けろって言う、非効率極まりない循環のシステムね。はは。笑っちゃうよ。裸で北極に放り出された時の事を想像してみなよ。あたり一面氷の世界。体を温めてくれるものなんてありゃしない。その時自分を包み込むものってなんだろうね。なあに、簡単なことさ。自分の手だよ。そして、血と肉さ。結局自分自身なんだよ。自分を暖めてくれるのは。」
鈴木は気持ちがよかった。ただただ、快楽に身を任せていた。だからマチルダを全力でぶっ飛した時も、何の感想も持たなかった。
新しい愛人砂漠のシンボルを背にし、3人は進み始めた。
彼らを愛し、彼らが愛した愛人達に今後災難が降るとも知らず。
愛人砂漠ももう真ん中を越えたとは言え、通り抜けるにはまだ先は長かった。
愛人達は幸せだった。
まだ本当の愛は知らないものの、恋しい人が出来たんだから。
切ない気持ちの形が、そのまま目の前にあるのだから。
血の通った愛の形。
夜中、突然大切な人が居なくなるような不安に駆られ目を開けば、
目の前には月夜に聳える愛の形。
朝起きて、膨大な孤独の時間に唖然としたとき、朝日に輝く真っ赤なハート。
この愛にどれだけ救われただろう。
愛人達は朝起きてはハートを拝み、夜寝る時もハートを拝んだ。
夜皆が寝静まった頃。
爆音が轟き、愛人達は目を覚ました。
酷い砂煙が立ちこめて視界が悪くても、愛人達の心にハートがある限り
地面に足を踏ん張り、何が起きたかを見届ける覚悟が出来ていた。
愛人達が目を凝らし、一瞬晴れた視界に納まったものは･･･。
愛人達は膝を着いて、必死に何が起きたか理解しようとして、
とうとう理解する事は出来なかった。
今心の中にあるのは、目の前にある現実ではなく、恋しい人への思いだけであった。
愛人達はﾏﾁﾙﾀﾞ達が去って行った方向を睨み、飛び出した。
「オ願いダから!!オネガイダカラ愛シテ!!」
「ちっ、どこ探しても見つからないと思ったら、下の世界に居たのか」
空飛ぶ化け物は尾を翻し、その背に乗った少女の目には愛人砂漠が映っていた。
「ふん、名前にどれだけの意味と価値があるかも知らないで変えたのか。
ｷｯﾁｪだったらどれだけおいしそうだったことか。ﾏﾁﾙﾀﾞなんて名前･･･。」
少女は流れ出る涎を止める事が出来なかった。
「ここからじゃすぐには追いつけない。足止めが必要だわ。」
少女がパチンと指を鳴らすと、象と蝶が合成されたかのような奇怪な生き物は
口に火球を創り上げて吐き出した。
見事に命中したのは血の通った真っ赤なハートだった。
「待ってなさい、ﾏﾁﾙﾀﾞ。ﾏﾁﾙﾀﾞﾏﾁﾙﾀﾞﾏﾁﾙﾀﾞﾏﾁﾙﾀﾞ!!!!!!」
彼らを愛し、彼らが愛した愛人達に今後災難が降るとも知らず。
愛人砂漠ももう真ん中を越えたとは言え、通り抜けるにはまだ先は長かった。
愛人達は幸せだった。
まだ本当の愛は知らないものの、恋しい人が出来たんだから。
切ない気持ちの形が、そのまま目の前にあるのだから。
血の通った愛の形。
夜中、突然大切な人が居なくなるような不安に駆られ目を開けば、
目の前には月夜に聳える愛の形。
朝起きて、膨大な孤独の時間に唖然としたとき、朝日に輝く真っ赤なハート。
この愛にどれだけ救われただろう。
愛人達は朝起きてはハートを拝み、夜寝る時もハートを拝んだ。
夜皆が寝静まった頃。
爆音が轟き、愛人達は目を覚ました。
酷い砂煙が立ちこめて視界が悪くても、愛人達の心にハートがある限り
地面に足を踏ん張り、何が起きたかを見届ける覚悟が出来ていた。
愛人達が目を凝らし、一瞬晴れた視界に納まったものは･･･。
愛人達は膝を着いて、必死に何が起きたか理解しようとして、
とうとう理解する事は出来なかった。
今心の中にあるのは、目の前にある現実ではなく、恋しい人への思いだけであった。
愛人達はﾏﾁﾙﾀﾞ達が去って行った方向を睨み、飛び出した。
「オ願いダから!!オネガイダカラ愛シテ!!」
「ちっ、どこ探しても見つからないと思ったら、下の世界に居たのか」
空飛ぶ化け物は尾を翻し、その背に乗った少女の目には愛人砂漠が映っていた。
「ふん、名前にどれだけの意味と価値があるかも知らないで変えたのか。
ｷｯﾁｪだったらどれだけおいしそうだったことか。ﾏﾁﾙﾀﾞなんて名前･･･。」
少女は流れ出る涎を止める事が出来なかった。
「ここからじゃすぐには追いつけない。足止めが必要だわ。」
少女がパチンと指を鳴らすと、象と蝶が合成されたかのような奇怪な生き物は
口に火球を創り上げて吐き出した。
見事に命中したのは血の通った真っ赤なハートだった。
「待ってなさい、ﾏﾁﾙﾀﾞ。ﾏﾁﾙﾀﾞﾏﾁﾙﾀﾞﾏﾁﾙﾀﾞﾏﾁﾙﾀﾞ!!!!!!」
愛人砂漠から遠く離れた高山地帯、ヂヂド山脈にいた一行は、遥か下界で炸裂する火炎を見た。それが何を意味するものか、到底確認することはできなかったが、ひどく悲しい出来事のように思えた。
三人は空腹だった。そして疲労していた。頂上付近では申し訳程度に植物が生える程度であるし、もちろん人なんていやしない。ただ歩き、疲れると適当な場所を見つけ、身を寄せ合い浅い眠りをむさぼった。
そこから遠く離れた場所で、少女は強烈な憎悪を彼らに向けて放ち続けていた。それは何か特別な力を持ち、現実世界に具現化されていく、一種の呪いであった。じんわりと、そして確実に彼らの精神は呪いに蝕まれていったが、心身ともにつかれきった彼らは気づくはずもなく、また気づいたところでどうしようもなかった。
その呪いは彼らを足止めすべく働き、奇怪な夢を見せた。
三人は空腹だった。そして疲労していた。頂上付近では申し訳程度に植物が生える程度であるし、もちろん人なんていやしない。ただ歩き、疲れると適当な場所を見つけ、身を寄せ合い浅い眠りをむさぼった。
そこから遠く離れた場所で、少女は強烈な憎悪を彼らに向けて放ち続けていた。それは何か特別な力を持ち、現実世界に具現化されていく、一種の呪いであった。じんわりと、そして確実に彼らの精神は呪いに蝕まれていったが、心身ともにつかれきった彼らは気づくはずもなく、また気づいたところでどうしようもなかった。
その呪いは彼らを足止めすべく働き、奇怪な夢を見せた。
〜鈴木の場合 「ぬりかべを殺す夢」〜
私が始めてぬりかべを殺したときですか？はい、もうずっと昔のことになります。そのころの私はただの少女で、それ以上でも以下でもない人間でした。ある日私の村に一人の男性がやってきたんです。はい。酷くやつれていて、息も絶え絶えでした。私はその男性を看病したんです。
もちろんまわりは反対しました。そんな得体の知れないやつ、さっさと追い出してしまえって。でも、なんだかほっておくことができなかったんです。村から少し離れた、誰も使っていない納屋でこっそりとかくまっていたんです。
男性は見る見るうちに元気を取り戻していきました。もとからタフな方だったんだと思います。その男性こそが、私のぬりかべ殺しの師匠になるんです。
ある日、いつものように私が水と食料を持って納屋に行くと、男性は珍しく体を起こし、何かを熱心に眺めていました。それはなんだか今でも上手に説明できません。とてもきれいで、透き通っていて、思わず目を奪われました。
「君はこれが見えるのかい？」
男性は驚いた様子でした。私は「はい」とうなずきました。すると男性は悲しそうな顔で私を見ました。そして彼はいいました。この世界には、人類史上で二回目の危機が迫っている、と。そして彼はその危機と戦っているのだそうです。
「今、まだ人が人として存在し始めたときに起こった、大きな危機が再び起きようとしている。そのときは助けてくれる神と呼ばれるものが存在した。しかし、今度はわれわれ自身が立ち向かっていかなければいけない」
私は、もう一度神様にお願いして何とか救ってもらうことはできないのでしょうかとたずねました。
「神か･･･神はこの世と人を作った。それは全知全能といえることかもしれない。
しかし、それはただの役割でしかなかった。農民が農作物を作り、商人がそれを仕入れ、生活者がそれを使う。そんな役割のうちの、ひとつなんだ。だから役目を終えた神は死んだ。もう、神はいないんだ。」
私はそれを聞いて悲しい気持ちになりました。神様は、この世にもういらっしゃ
らないのです。そうであるならば、私たちは誰に祈りをささげればいいのでしょう。誰が願いをかなえてくれるというのでしょう。
「神が願いをかなえる。なるほど。そうかもしれない。ならば、願いをかなえる
ものは神であるといえる。そうだろう？そうしたら、神は君であり、俺でもある。だから祈りは自分自身にささげればいい。俺の言うことが分かるかい？」
私には彼が何を言おうとしているのかよく分かりませんでした。それから彼は私には資質があるといいました。君ならこの世界を救うための戦士になれると。
それから私は彼と一緒に村を出ました。私はただの少女でした。でも、そんな私にもできることがあるならば、それが人の役に立つならば、と。もしかしたら、退屈で平凡な毎日から逃げ出したかっただけなのかもしれません。時々不安になることもありました。私は、とんでもない勘違いをしているんじゃないだろうかと。悪い男にだまされ、のこのこと着いてきたただのバカな女なんじゃないだろうかって。そんなことを考え始めたころ、私は始めてぬりかべと遭遇したのです。
私が始めてぬりかべを殺したときですか？はい、もうずっと昔のことになります。そのころの私はただの少女で、それ以上でも以下でもない人間でした。ある日私の村に一人の男性がやってきたんです。はい。酷くやつれていて、息も絶え絶えでした。私はその男性を看病したんです。
もちろんまわりは反対しました。そんな得体の知れないやつ、さっさと追い出してしまえって。でも、なんだかほっておくことができなかったんです。村から少し離れた、誰も使っていない納屋でこっそりとかくまっていたんです。
男性は見る見るうちに元気を取り戻していきました。もとからタフな方だったんだと思います。その男性こそが、私のぬりかべ殺しの師匠になるんです。
ある日、いつものように私が水と食料を持って納屋に行くと、男性は珍しく体を起こし、何かを熱心に眺めていました。それはなんだか今でも上手に説明できません。とてもきれいで、透き通っていて、思わず目を奪われました。
「君はこれが見えるのかい？」
男性は驚いた様子でした。私は「はい」とうなずきました。すると男性は悲しそうな顔で私を見ました。そして彼はいいました。この世界には、人類史上で二回目の危機が迫っている、と。そして彼はその危機と戦っているのだそうです。
「今、まだ人が人として存在し始めたときに起こった、大きな危機が再び起きようとしている。そのときは助けてくれる神と呼ばれるものが存在した。しかし、今度はわれわれ自身が立ち向かっていかなければいけない」
私は、もう一度神様にお願いして何とか救ってもらうことはできないのでしょうかとたずねました。
「神か･･･神はこの世と人を作った。それは全知全能といえることかもしれない。
しかし、それはただの役割でしかなかった。農民が農作物を作り、商人がそれを仕入れ、生活者がそれを使う。そんな役割のうちの、ひとつなんだ。だから役目を終えた神は死んだ。もう、神はいないんだ。」
私はそれを聞いて悲しい気持ちになりました。神様は、この世にもういらっしゃ
らないのです。そうであるならば、私たちは誰に祈りをささげればいいのでしょう。誰が願いをかなえてくれるというのでしょう。
「神が願いをかなえる。なるほど。そうかもしれない。ならば、願いをかなえる
ものは神であるといえる。そうだろう？そうしたら、神は君であり、俺でもある。だから祈りは自分自身にささげればいい。俺の言うことが分かるかい？」
私には彼が何を言おうとしているのかよく分かりませんでした。それから彼は私には資質があるといいました。君ならこの世界を救うための戦士になれると。
それから私は彼と一緒に村を出ました。私はただの少女でした。でも、そんな私にもできることがあるならば、それが人の役に立つならば、と。もしかしたら、退屈で平凡な毎日から逃げ出したかっただけなのかもしれません。時々不安になることもありました。私は、とんでもない勘違いをしているんじゃないだろうかと。悪い男にだまされ、のこのこと着いてきたただのバカな女なんじゃないだろうかって。そんなことを考え始めたころ、私は始めてぬりかべと遭遇したのです。
森の中でであったそれは、私にはただのおばあさんに見えました。ただのおばあさんが、木陰で少し休憩しているだけのように見えました。それなのに、ひどく禍々しい気配を感じました。まるで、人でないものが無理にその形を変えて、人に成りすましているかのような。
「分かるか。あれが俺達の敵だ。」
私は口も利けないほどおびえていました。ただのおばあさんなのに、どうして･･･がくがくと振るえ、正直に言うのも恥ずかしいんですが、ほんの少しだけお漏らしまでしてしまいました。師匠は、あの時納屋で見せたきらきらとした何かをどこからともなく取り出し、逆手に構えて、じりじりとおばあさんににじりよりました。
おばあさんが顔を上げました。それを見て私は失神してしまいました。おばあさんの顔は先ほど見たそれとは違い、顔の輪郭だけが肥大し、その中心にとても小さな血走った目がギラギラと光っていました。それは人間としか言い用がありませんでしたが、とても人には見えませんでした。
その後のことはよく覚えていません。気がつくとあたりは夜になっていて、横では師匠が焚き火をつつきながらうつむいていました。
「気がついたか。君が見たあれはぬりかべだ。」
「ぬりかべ？」
「正式な名はない。ただ便宜上そう呼んでいる。」
「ぬりかべっていったい何なんですか？」
「あれは神でも削除できなかったバグだ。人間になり損ねた人間だ。そして、強く俺たちを憎悪している。神は最後の仕上げとして、作るのに失敗した人間を削除した。しかし、失敗品と入ってもそれらにも意思があり、理性があり、神に強く反発した。そして、神が成功と認めた人間に取って代わってこの世を支配しようとした。」
一度は姿を消したぬりかべたちは、神の目を逃れ、ひそかに増殖し続けた。そして今、再び活動を始めた。師匠は私にそういいました。そして、唯一の対抗手段が、師匠や私の持つ能力だというのです。その能力とは、言ってみれば数学のようなものです。
A=B、B=Cであるならば、A=Cである。しかし、A=Cが否定されたとき、その証明に全力を尽くした人の心は、いったいどうして満たされることがありましょう。その人の心は、きっと傷ついてしまいます。数学としてはそれが正しいことでしょう。しかし、私たちは数字でできているわけではありません。数字のルールでそれをつかう人が傷つくことがあっていいのでしょうか。これが師匠から教わった感情数学の基礎的な理論です。数学はこの世を構成する際に神が使用したプログラミング言語ですが、一般に伝わる数学はある状況下ではところどころが論理的に破綻してしまいます。未完成であるといわざるを得ません。一般的な数学は、それを使う人間の意志が欠如しているし、受動的な姿勢という特徴を持ちます。感情数学は、反対に積極的な姿勢を持つ数学です。むしろ生物学ともいえるかも知れません。
数学は報告書のようなものです。すでにあったことを、あったようにつたえます。感情数学は予定表のようなものです。これから起こることを、形作ります。それは万能ではありません。なされるべきことがなされる、ということなんです。師匠が持つキラキラしたそれは、感情数学を高度に密集させた、言ってみるならば人のタナトスの塊です。それはぬりかべの存在を根本から消し去れます。理由は分かりませんが、それを使える人物というのはこの世にほんの少ししかいません。きっと、世界を形図くる均衡がそう定めているんだと思います。
すべて後になって理解したことです。そのとき私の頭の中には大量の？が渦巻いていました。そんな私を見て、師匠は少しだけ口を上げて笑顔を作りました。そして、君はきっと、俺なんかよりずっとずっと強くなる。といい、頭をなでてくれました。
そういったことを学びながら、師匠と私は旅を続けました。そしてぬりかべの巣窟ともいえる村を見つけたのです。
「分かるか。あれが俺達の敵だ。」
私は口も利けないほどおびえていました。ただのおばあさんなのに、どうして･･･がくがくと振るえ、正直に言うのも恥ずかしいんですが、ほんの少しだけお漏らしまでしてしまいました。師匠は、あの時納屋で見せたきらきらとした何かをどこからともなく取り出し、逆手に構えて、じりじりとおばあさんににじりよりました。
おばあさんが顔を上げました。それを見て私は失神してしまいました。おばあさんの顔は先ほど見たそれとは違い、顔の輪郭だけが肥大し、その中心にとても小さな血走った目がギラギラと光っていました。それは人間としか言い用がありませんでしたが、とても人には見えませんでした。
その後のことはよく覚えていません。気がつくとあたりは夜になっていて、横では師匠が焚き火をつつきながらうつむいていました。
「気がついたか。君が見たあれはぬりかべだ。」
「ぬりかべ？」
「正式な名はない。ただ便宜上そう呼んでいる。」
「ぬりかべっていったい何なんですか？」
「あれは神でも削除できなかったバグだ。人間になり損ねた人間だ。そして、強く俺たちを憎悪している。神は最後の仕上げとして、作るのに失敗した人間を削除した。しかし、失敗品と入ってもそれらにも意思があり、理性があり、神に強く反発した。そして、神が成功と認めた人間に取って代わってこの世を支配しようとした。」
一度は姿を消したぬりかべたちは、神の目を逃れ、ひそかに増殖し続けた。そして今、再び活動を始めた。師匠は私にそういいました。そして、唯一の対抗手段が、師匠や私の持つ能力だというのです。その能力とは、言ってみれば数学のようなものです。
A=B、B=Cであるならば、A=Cである。しかし、A=Cが否定されたとき、その証明に全力を尽くした人の心は、いったいどうして満たされることがありましょう。その人の心は、きっと傷ついてしまいます。数学としてはそれが正しいことでしょう。しかし、私たちは数字でできているわけではありません。数字のルールでそれをつかう人が傷つくことがあっていいのでしょうか。これが師匠から教わった感情数学の基礎的な理論です。数学はこの世を構成する際に神が使用したプログラミング言語ですが、一般に伝わる数学はある状況下ではところどころが論理的に破綻してしまいます。未完成であるといわざるを得ません。一般的な数学は、それを使う人間の意志が欠如しているし、受動的な姿勢という特徴を持ちます。感情数学は、反対に積極的な姿勢を持つ数学です。むしろ生物学ともいえるかも知れません。
数学は報告書のようなものです。すでにあったことを、あったようにつたえます。感情数学は予定表のようなものです。これから起こることを、形作ります。それは万能ではありません。なされるべきことがなされる、ということなんです。師匠が持つキラキラしたそれは、感情数学を高度に密集させた、言ってみるならば人のタナトスの塊です。それはぬりかべの存在を根本から消し去れます。理由は分かりませんが、それを使える人物というのはこの世にほんの少ししかいません。きっと、世界を形図くる均衡がそう定めているんだと思います。
すべて後になって理解したことです。そのとき私の頭の中には大量の？が渦巻いていました。そんな私を見て、師匠は少しだけ口を上げて笑顔を作りました。そして、君はきっと、俺なんかよりずっとずっと強くなる。といい、頭をなでてくれました。
そういったことを学びながら、師匠と私は旅を続けました。そしてぬりかべの巣窟ともいえる村を見つけたのです。
そこでは、世界中のあらゆる村がそうであるように、人間が暮らしていました。食事をし、洗濯をし、仕事をし、夜にはきっと夢を見ていました。しかし、そのどれもが人ではなく、ぬりかべでした。師匠が感情数学を密集させた塊を出現させると、森でであったおばあさんのように、ぬりかべ達は人であることをやめて襲い掛かってきました。師匠はとてつもなく強かった。しかし、あまりに相手の数が多すぎました。師匠は取り押さえられ、首をはねられ、殺されました。私には何もできませんでした。ただ恐ろしくて、隠れてみていることしかできませんでした。
その夜、村から離れた森の中で眠りに着いた私は夢を見ました。夢の中には師匠が出てきました。師匠は言いました。
「お前に伝えるべきことはすべて伝えました。」「私は夢を見ました。」「世界を俺が救う夢です。」「暗い闇の中は、とても暖かだけれど、お前にはまだ海で泳ぐことが必要とされます。」「お前は、私の夢を受け継いでくれますか？」「私の死をもって。」「最後に。」「これだけは覚えておいてください。」「そしてすぐに忘れてください。」「『あなたの人生の物語』」「そして、それは私の人生の物語でもあるんだよ。」
目が覚めると、体はすっかりと冷え切ってました。ブルブルと震える体は、寒さからなのか、恐怖からなのか、私は静々と涙を流しました。ふと顔をあげると、ポツポツと火が揺らめいているのに気がつきました。ぬりかべたちです。仲間がいることに気がついたぬりかべたちが、私を殺そうと村から追いかけてきたのです。私はがむしゃらに走り出しました。森の奥へと、もっと奥へと、ここではない、どこか遠いところへと。
森のはずれにたどり着き、ついに体力を使い果たした私は、仰向けに倒れこみました。ぐしゃぐしゃの水溜りに何度となく頭から突っ込み体中どろどろ。体中は傷だらけで、靴の片方は無くなっていました。ぜいぜいと荒い息は、真っ黒な空へとのぼり、やがて拡散され散っていきました。空には多くの星が輝いていました。そのどれもが私に対して無関心であるように思えて、とても心細くなりました。私はまた涙を流しました。怖くて怖くてたまらない、恐怖の涙でした。
少し冷静になってきたとき、私は驚愕しました。私のいるところから見下ろすかたちで、師匠の殺されたあの村がみえましたのです。知らず知らずのうちに、私は村へと戻ってきてしまったのです。ここにいてはいけないと、何度も立ち上がろうと努力しましたが、体が言うことをききません。そして、私はぬりかべたちに捕らえられました。
その夜、村から離れた森の中で眠りに着いた私は夢を見ました。夢の中には師匠が出てきました。師匠は言いました。
「お前に伝えるべきことはすべて伝えました。」「私は夢を見ました。」「世界を俺が救う夢です。」「暗い闇の中は、とても暖かだけれど、お前にはまだ海で泳ぐことが必要とされます。」「お前は、私の夢を受け継いでくれますか？」「私の死をもって。」「最後に。」「これだけは覚えておいてください。」「そしてすぐに忘れてください。」「『あなたの人生の物語』」「そして、それは私の人生の物語でもあるんだよ。」
目が覚めると、体はすっかりと冷え切ってました。ブルブルと震える体は、寒さからなのか、恐怖からなのか、私は静々と涙を流しました。ふと顔をあげると、ポツポツと火が揺らめいているのに気がつきました。ぬりかべたちです。仲間がいることに気がついたぬりかべたちが、私を殺そうと村から追いかけてきたのです。私はがむしゃらに走り出しました。森の奥へと、もっと奥へと、ここではない、どこか遠いところへと。
森のはずれにたどり着き、ついに体力を使い果たした私は、仰向けに倒れこみました。ぐしゃぐしゃの水溜りに何度となく頭から突っ込み体中どろどろ。体中は傷だらけで、靴の片方は無くなっていました。ぜいぜいと荒い息は、真っ黒な空へとのぼり、やがて拡散され散っていきました。空には多くの星が輝いていました。そのどれもが私に対して無関心であるように思えて、とても心細くなりました。私はまた涙を流しました。怖くて怖くてたまらない、恐怖の涙でした。
少し冷静になってきたとき、私は驚愕しました。私のいるところから見下ろすかたちで、師匠の殺されたあの村がみえましたのです。知らず知らずのうちに、私は村へと戻ってきてしまったのです。ここにいてはいけないと、何度も立ち上がろうと努力しましたが、体が言うことをききません。そして、私はぬりかべたちに捕らえられました。
私は十字に組まれた丸太に両手両足を五寸釘で打ち付け貼り付けられ、村の中央の広場に高々と掲げられました。まわりのぬりかべたちは、何か分からない言葉で私を怒号し、石を投げつけました。手も、足も、石がぶつけられた全身も、痛いよ痛いよと脳に信号を送っていましたが、そのどれもがなんだかよそよそしく、自分の痛みではないようにに感じました。私は、自分がしに瀕していることが分かりました。でも、どうしてもそれが現実のこととは思えませんでした。
足元では男性のぬりかべ達がもくもくと作業を続けていました。あたりを見渡すと、実にさまざまなぬりかべたちがいることに気がつきました。男のぬりかべも、女のぬりかべも、大人のぬりかべもいれば子供のぬりかべもいました。どれもが人間の形をしていましたが、やはり人には見えませんでした。私は不思議な気持ちになりました。なぜ、私達は戦わなければいけないんだろう。どっちも同じ、人間の形をしているのに。
作業していた男性のぬりかべたちが、周りの群集の中に帰って行きました。代わりに、なにやら重々しい雰囲気の飾りたてをして、司祭のようなぬりかべが出てきて、わたしの正面にたちました。そのぬりかべが右手を上げると、あたりはしんと静かになりました。そして何か儀式めいたことを始めました。
夢に現れた師匠は、私にすべてを伝えたといいました。確かに、そのときの私は感情数学についてはかなりの知識を持っていました。でも、私にはまだ師匠のように武器を作り出すことができませんでした。まだ、戦うことなんてできなかったんです。
気がつくと儀式は終わっていたようで、司祭のぬりかべが火の着いた灯篭を片手に近づいてきました。私の足元には山のように詰まれた細かなまきやら木の枝やらが見えました。このとき、私はぬりかべたちが私を焼き殺そうとしていることに気がつきました。
火はすぐに燃え移りました。大量の煙が私を包み込み、涙やら鼻水やらありとあらゆる液体を出しながら、私は激しく咳き込みました。死を痛烈に感じました。そして叫びました。助けて！お願い！誰か助けて！そんなあたしをぬりかべたちはニヤニヤと見上げていました。炎が私の足を焼き、股を焼き、いやらしい蛇のように徐々に徐々に体を這い上がってきます。熱くて、痛くて、つらくて、怖くて、悲しくて、いろんな感情と痛みが爆発して、私は半狂乱になりました。
そんな無駄な抵抗は、何の意味も持ちませんでした。そして司祭のぬりかべが、複雑にうねった先端を持つ槍で、私の体を突き刺し、私はついにトドメを刺されました。ぐるんと大きな動きで世界が裏返り、深い深い闇が顔を覗かせました。頭のてっぺんからから少しずつ魂が抜けていってるような気がしました。
私は、自分が、自分自身の人生を少しずつさかのぼって思い出していることに気がつきました。それはまさに、私の人生の物語でした。ひとつの話が次の話への道筋を作り、そのまた次の話がと、無限の数珠繋ぎ。私が生まれてから再び無に変えるまで続く、ひとつの長い物語です。その中には実に多くの人が登場し、その中には師匠もいました。物語は、ついにはこうやって貼り付けにされている私の「今」を追い越しました。まるで誰かが雄弁に語るかのように、これから先に起こる私の人生が次々に私の中に流れ込んできます。
その時でした。私の感情数学は完成されました。目の前に、師匠が使っていたものによく似た、感情数学の密集体が出現していました。私は最後の力を振り絞り、それを手にしました。
私の意識は再び現実の世界を捉えました。私は右手を五寸釘から引き抜き、密集対をつかんでいました。そして唖然とした表情のぬりかべたちを見ました。瞬間、世界は私を中心に回り始めました。残りの部分を無理やり引っぺがし、私の足は再び地面をつかみました。苦痛も恐怖も、どこかかなたへ飛んでいきました。傷すらも完全に治癒していました。最後におなかから槍を引き抜き、放り投げました。その槍は司祭を捉え、勢いあまって他のぬりかべも串刺しにし、２階建ての家のテラスに突き刺さりました。
その様子を見たぬりかべ達は、小さな瞳に燃える憎悪を宿し、次々に私に襲い掛かってきました。すべてが流れるように行われました。ぬりかべの斧の一撃を回転しながら身を返して感情数学の塊を打ちつけ、その勢いをいかしブーメランのように投げつけ、いっせいになぎ払いました。なされるべきことがなされるということが、ようやく身をもって知ることができたと思いました。私は、そうしてぬりかべを次々消去していきました。
足元では男性のぬりかべ達がもくもくと作業を続けていました。あたりを見渡すと、実にさまざまなぬりかべたちがいることに気がつきました。男のぬりかべも、女のぬりかべも、大人のぬりかべもいれば子供のぬりかべもいました。どれもが人間の形をしていましたが、やはり人には見えませんでした。私は不思議な気持ちになりました。なぜ、私達は戦わなければいけないんだろう。どっちも同じ、人間の形をしているのに。
作業していた男性のぬりかべたちが、周りの群集の中に帰って行きました。代わりに、なにやら重々しい雰囲気の飾りたてをして、司祭のようなぬりかべが出てきて、わたしの正面にたちました。そのぬりかべが右手を上げると、あたりはしんと静かになりました。そして何か儀式めいたことを始めました。
夢に現れた師匠は、私にすべてを伝えたといいました。確かに、そのときの私は感情数学についてはかなりの知識を持っていました。でも、私にはまだ師匠のように武器を作り出すことができませんでした。まだ、戦うことなんてできなかったんです。
気がつくと儀式は終わっていたようで、司祭のぬりかべが火の着いた灯篭を片手に近づいてきました。私の足元には山のように詰まれた細かなまきやら木の枝やらが見えました。このとき、私はぬりかべたちが私を焼き殺そうとしていることに気がつきました。
火はすぐに燃え移りました。大量の煙が私を包み込み、涙やら鼻水やらありとあらゆる液体を出しながら、私は激しく咳き込みました。死を痛烈に感じました。そして叫びました。助けて！お願い！誰か助けて！そんなあたしをぬりかべたちはニヤニヤと見上げていました。炎が私の足を焼き、股を焼き、いやらしい蛇のように徐々に徐々に体を這い上がってきます。熱くて、痛くて、つらくて、怖くて、悲しくて、いろんな感情と痛みが爆発して、私は半狂乱になりました。
そんな無駄な抵抗は、何の意味も持ちませんでした。そして司祭のぬりかべが、複雑にうねった先端を持つ槍で、私の体を突き刺し、私はついにトドメを刺されました。ぐるんと大きな動きで世界が裏返り、深い深い闇が顔を覗かせました。頭のてっぺんからから少しずつ魂が抜けていってるような気がしました。
私は、自分が、自分自身の人生を少しずつさかのぼって思い出していることに気がつきました。それはまさに、私の人生の物語でした。ひとつの話が次の話への道筋を作り、そのまた次の話がと、無限の数珠繋ぎ。私が生まれてから再び無に変えるまで続く、ひとつの長い物語です。その中には実に多くの人が登場し、その中には師匠もいました。物語は、ついにはこうやって貼り付けにされている私の「今」を追い越しました。まるで誰かが雄弁に語るかのように、これから先に起こる私の人生が次々に私の中に流れ込んできます。
その時でした。私の感情数学は完成されました。目の前に、師匠が使っていたものによく似た、感情数学の密集体が出現していました。私は最後の力を振り絞り、それを手にしました。
私の意識は再び現実の世界を捉えました。私は右手を五寸釘から引き抜き、密集対をつかんでいました。そして唖然とした表情のぬりかべたちを見ました。瞬間、世界は私を中心に回り始めました。残りの部分を無理やり引っぺがし、私の足は再び地面をつかみました。苦痛も恐怖も、どこかかなたへ飛んでいきました。傷すらも完全に治癒していました。最後におなかから槍を引き抜き、放り投げました。その槍は司祭を捉え、勢いあまって他のぬりかべも串刺しにし、２階建ての家のテラスに突き刺さりました。
その様子を見たぬりかべ達は、小さな瞳に燃える憎悪を宿し、次々に私に襲い掛かってきました。すべてが流れるように行われました。ぬりかべの斧の一撃を回転しながら身を返して感情数学の塊を打ちつけ、その勢いをいかしブーメランのように投げつけ、いっせいになぎ払いました。なされるべきことがなされるということが、ようやく身をもって知ることができたと思いました。私は、そうしてぬりかべを次々消去していきました。
気がついたときには夜は明けかかっていました。私に流れ込んできた私の物語は、すっかり忘れてしまったいました。すっかりと、元通りの自分に戻っていたんです。村にいたぬりかべ達は、すべて私が消去したのでしょう。あたりにはぬりかべが身に着けていた服だけが散らばっていました。巨大な朝日が、顔を出しました。風のような光に、すべてが赤く照らされていきます。その様子を見ながら、私は泣きました。とてもとても、悲しい気持ちだったんです。
それからも私は旅を続けました。幾度となくぬりかべと遭遇し、そして消去してきました。そんな、生活の中で、私は気づいてしまいました。鏡をのぞいたとき、向こう側から私の形をしたぬりかべがこちらを同じような表情をしてみていることに。初めてそれに気がついたとき、私はおびえ、手にしていたビンを投げつけました。割れた鏡には、同じくおびえた表情をしたぬりかべがたくさんうつっていました。私は部屋を飛び出しました。するとそこには、人に混じって多くのぬりかべがいることに気がつきました。何で今まで気がつかなかったのかというほどに。おそらく、戦いを続け私の能力は飛躍的に上がっていったんだと思います。そして、師匠をも超えたんだと思います。そうして得た能力は、私にぬりかべと人が同時にくらす景色を見せました。そして、私自身が･･･
え、あなたが私から見るとどう見えるか？そんなことどうでもいいじゃないですか。私は、もうぬりかべを消去することはないし、ただ、ここでこうして穏やかに暮らしたいだけなんです。ぬりかべか、人かなんてもうどうでもいいことなんです。
こうやって話していると、やはり私はなにか勘違いを延々と続ける、ただのバカな女のように思えて、仕方がないのです。人と笑顔で話すぬりかべを見て、私はいつも不安な気持ちになります。それがどうしてだかは、今でもよく分かりません。ぬりかべが何なのか、感情数学が何なのか、何もかもわかりません。最近、私はよくお祈りをします。無駄とは分かっていても、そうせずにはいられないのです。毎日決まった時間に、私は手を合わせます。そしてこう願うんです。
「神様、どうか、私をお救いください」
それからも私は旅を続けました。幾度となくぬりかべと遭遇し、そして消去してきました。そんな、生活の中で、私は気づいてしまいました。鏡をのぞいたとき、向こう側から私の形をしたぬりかべがこちらを同じような表情をしてみていることに。初めてそれに気がついたとき、私はおびえ、手にしていたビンを投げつけました。割れた鏡には、同じくおびえた表情をしたぬりかべがたくさんうつっていました。私は部屋を飛び出しました。するとそこには、人に混じって多くのぬりかべがいることに気がつきました。何で今まで気がつかなかったのかというほどに。おそらく、戦いを続け私の能力は飛躍的に上がっていったんだと思います。そして、師匠をも超えたんだと思います。そうして得た能力は、私にぬりかべと人が同時にくらす景色を見せました。そして、私自身が･･･
え、あなたが私から見るとどう見えるか？そんなことどうでもいいじゃないですか。私は、もうぬりかべを消去することはないし、ただ、ここでこうして穏やかに暮らしたいだけなんです。ぬりかべか、人かなんてもうどうでもいいことなんです。
こうやって話していると、やはり私はなにか勘違いを延々と続ける、ただのバカな女のように思えて、仕方がないのです。人と笑顔で話すぬりかべを見て、私はいつも不安な気持ちになります。それがどうしてだかは、今でもよく分かりません。ぬりかべが何なのか、感情数学が何なのか、何もかもわかりません。最近、私はよくお祈りをします。無駄とは分かっていても、そうせずにはいられないのです。毎日決まった時間に、私は手を合わせます。そしてこう願うんです。
「神様、どうか、私をお救いください」
〜店員の場合「働くことの意味とは」〜
自分の生きる世界とはなんだろう？
意識、主観とはなんだろう。
自分が知っている事、経験したこと、
見る・聞く・触る・味わう・嗅ぐ。
それは自分がこの世に存在した証であり、
この世というものが、所詮はちっぽけな存在である
自分からしか確認できないのだという証でもある。
現に、「自分が存在しなくても世界は回る」が、
自分がそれを知覚出来なくなった時点で世界は終わっているのだ。
ではなんの為に世界は存在し、自分は存在するのか。
世界は自分を許容するためだけに存在し、
自分は存在するためだけに存在するのだ。
それ以上のことは何も無い。
存在するためだけに存在する。
この異常性が解るだろうか。
誰の意思とも無く、「1人の人」としてこの世に生を受ける。
気をつけなければならないのは、
必要なのは「自分」ではなく「1人の人」なのだ。
すでに存在する、何を考えて生きているかもわからない人間に
子供が欲しいなんて理由で創られるのだ。
では自分の意思とはなんだろうか。
何を経験してきたかも分からない人間に世話をされ、
気付いた時には世話をされることが当たり前になる。
ちょっとでも抜けたところを発見しては文句を言い
当り散らし、創造主が自分をいらないと認識した時点で
自分は世界で一つの点となる。
今まで線で繋がっていた世界と切り離されるのだ。
自分の意思なんて存在しない。
許容してくれているはずの世界の意思によって自分は生きていたのだ。
しかし、自殺をしない限り、この生を止める事は出来ない。
ここに意思と意義が生まれる。
生きなければならない、という意思と、
生きるために、という意義である。
なんのために生きなければならないのか。
それは、今までの年月では考えられないと思う。
でも、何かをしなければ生きてはいけないのだ。
具体的には、働かなければならない。
私は働こう。
そして私はやらなければならない。
知らなければならない。
自分が生きる理由を。
なんのために生まれたかを。
何をして生きるのかを。
自分の生きる世界とはなんだろう？
意識、主観とはなんだろう。
自分が知っている事、経験したこと、
見る・聞く・触る・味わう・嗅ぐ。
それは自分がこの世に存在した証であり、
この世というものが、所詮はちっぽけな存在である
自分からしか確認できないのだという証でもある。
現に、「自分が存在しなくても世界は回る」が、
自分がそれを知覚出来なくなった時点で世界は終わっているのだ。
ではなんの為に世界は存在し、自分は存在するのか。
世界は自分を許容するためだけに存在し、
自分は存在するためだけに存在するのだ。
それ以上のことは何も無い。
存在するためだけに存在する。
この異常性が解るだろうか。
誰の意思とも無く、「1人の人」としてこの世に生を受ける。
気をつけなければならないのは、
必要なのは「自分」ではなく「1人の人」なのだ。
すでに存在する、何を考えて生きているかもわからない人間に
子供が欲しいなんて理由で創られるのだ。
では自分の意思とはなんだろうか。
何を経験してきたかも分からない人間に世話をされ、
気付いた時には世話をされることが当たり前になる。
ちょっとでも抜けたところを発見しては文句を言い
当り散らし、創造主が自分をいらないと認識した時点で
自分は世界で一つの点となる。
今まで線で繋がっていた世界と切り離されるのだ。
自分の意思なんて存在しない。
許容してくれているはずの世界の意思によって自分は生きていたのだ。
しかし、自殺をしない限り、この生を止める事は出来ない。
ここに意思と意義が生まれる。
生きなければならない、という意思と、
生きるために、という意義である。
なんのために生きなければならないのか。
それは、今までの年月では考えられないと思う。
でも、何かをしなければ生きてはいけないのだ。
具体的には、働かなければならない。
私は働こう。
そして私はやらなければならない。
知らなければならない。
自分が生きる理由を。
なんのために生まれたかを。
何をして生きるのかを。
ある人が言ったんです。
それをすることに意味があると。
それってなんですかと尋ねると、
その人は笑って
「創ることだよ」
と言った。
私は気付かされた。
この世は全部「創られて」いたんだ。
街も、人も、気も、石も、川も、
そして自分も、その行動や意思も。
なんでこんなことを今思いだしたんだろう。
生きるための意思と意義。
働かないとならない、今この時に。
でも私は創りあげなければならない。
もう言い訳する事は出来ない。
気付いてしまったから。
自分を創るのは自分であると。
私は村中の人に
「創りあげたい」
と話して回った。
街の人は、
「××××が狂った！！」
「××××に近づくとうつる！！」
「××××は○○○だ！！」
と私を罵った。
それは声にすらならない罵詈雑言。
恨み、怨み、憾み、妬み、嫉み、怒り、悲しみ。
ありとあらゆる負の感情であった。
それはすでに憎悪と呼べるレベルでは
なかったのかもしれない。
「何かを作り上げるですって！？」
「自分で何かを成し遂げる！？」
「この村にそんな人間はいない！！居てはいけない！！」
村の人間はみんなして目を血走らせていた。
口々に、異端者に死を、と唱えた。
それでも私は生きなければならない。
自分を創りあげるために。
私は走った。
逃げに逃げた。
それを恥ずかしいだなんて微塵も思わなかった。
ただ、その行動すらも自分を作り上げる要因になってしまうことだけが
悔しかった。
それでも走った。
自分が無くなること以上に悔しい事はないからだ。
村の入り口を越えると、彼らは追ってこなかった。
彼らはあそこから出る事が出来なかったのだ。
いや、そんな発想すらなかったのだろう。
そこで「生きる」ことが全てだったのだ。
私は自分の村を捨てるのが急に悲しくなった。
ここは私を創ってくれた村だから。
私は振り返って、ありったけの感謝の気持ちを叫んだ。
「ありがとう、そこから追わないでくれて！！
でも一つだけ言いたいんだ！！
君達は創りあげることは何一つしないって言ったけど、
ちゃんと創り上げているんだ、自分達の考えを！！
そ こ か ら 出 れ な い と い う 考 え を ！ ！」
それは呪いの言葉だった。
存在意義を片っ端からカチ割る言葉だった。
彼の創りあげた一言は、その一言をもって
村一つ分の人間を消し去るのには十分だった。
彼は村がどうなったか、知らない。
知らなくていい。
だって結局、分かることなんて自分が知れる範囲のことだもの。
これから知ることだけで、自分の人生は目一杯なのだ。
それをすることに意味があると。
それってなんですかと尋ねると、
その人は笑って
「創ることだよ」
と言った。
私は気付かされた。
この世は全部「創られて」いたんだ。
街も、人も、気も、石も、川も、
そして自分も、その行動や意思も。
なんでこんなことを今思いだしたんだろう。
生きるための意思と意義。
働かないとならない、今この時に。
でも私は創りあげなければならない。
もう言い訳する事は出来ない。
気付いてしまったから。
自分を創るのは自分であると。
私は村中の人に
「創りあげたい」
と話して回った。
街の人は、
「××××が狂った！！」
「××××に近づくとうつる！！」
「××××は○○○だ！！」
と私を罵った。
それは声にすらならない罵詈雑言。
恨み、怨み、憾み、妬み、嫉み、怒り、悲しみ。
ありとあらゆる負の感情であった。
それはすでに憎悪と呼べるレベルでは
なかったのかもしれない。
「何かを作り上げるですって！？」
「自分で何かを成し遂げる！？」
「この村にそんな人間はいない！！居てはいけない！！」
村の人間はみんなして目を血走らせていた。
口々に、異端者に死を、と唱えた。
それでも私は生きなければならない。
自分を創りあげるために。
私は走った。
逃げに逃げた。
それを恥ずかしいだなんて微塵も思わなかった。
ただ、その行動すらも自分を作り上げる要因になってしまうことだけが
悔しかった。
それでも走った。
自分が無くなること以上に悔しい事はないからだ。
村の入り口を越えると、彼らは追ってこなかった。
彼らはあそこから出る事が出来なかったのだ。
いや、そんな発想すらなかったのだろう。
そこで「生きる」ことが全てだったのだ。
私は自分の村を捨てるのが急に悲しくなった。
ここは私を創ってくれた村だから。
私は振り返って、ありったけの感謝の気持ちを叫んだ。
「ありがとう、そこから追わないでくれて！！
でも一つだけ言いたいんだ！！
君達は創りあげることは何一つしないって言ったけど、
ちゃんと創り上げているんだ、自分達の考えを！！
そ こ か ら 出 れ な い と い う 考 え を ！ ！」
それは呪いの言葉だった。
存在意義を片っ端からカチ割る言葉だった。
彼の創りあげた一言は、その一言をもって
村一つ分の人間を消し去るのには十分だった。
彼は村がどうなったか、知らない。
知らなくていい。
だって結局、分かることなんて自分が知れる範囲のことだもの。
これから知ることだけで、自分の人生は目一杯なのだ。
私はひたすら歩いて、
村からある程度離れた街に腰を据えることに決めた。
自分で決めた。
この街には、私が言うことに頷いてくれる人が
居たのだ。
私はその人の元で働くことに決めた。
その人はパン屋だった。
その人は自分のことを親方を呼べと言った。
周りの人がそう呼んでいるらしい。
親方はパン屋でありながら、何でも屋だった。
むしろパンなんてあんまり売れてなかった。
それでも親方の朝は早い。
売れないパンを作るためだ。
しかし、親方はそれを作る事に意味があると言った。
私もその通りだと思った。
私が親方に注意されたのは、
最近ここら辺にぬりかべという化け物が出るから気をつけろ、
というそっけないものだけであった。
でも私にはそれでも多すぎた。
まだ私は守られる存在なのだ。
それに私は知っていた。
ぬりかべなんて化け物が居ようが、
人間にだって化け物のような人は存在するのだ。
私がパンを焼けるようになると、親方は
私に簡単に店を私にくれた。
私がくれとせびった訳じゃない。
勝手にくれたのだ。
「いいか、俺は決していい人間じゃない。
俺は俺のやるべきことをお前に押し付けるんだ。
お前の自由や意思と関係なくな。
それで、お前に押し付けた仕事分、
俺には時間が生まれる。
俺はその時間でしたいように生きるんだ。
お前もしたいように生きろ。
ただし、この店を無くすことはしてはいけない。
この店はもう生まれちまったんだ。
そして、お前も何かを生め。
そして、それを未来永劫保ち続けろ。」
親方はそう言って店から出て行った。
そしてそのまま帰ってくることはなかった。
しばらくはこの街で何でも屋をしていたが、
気付いたら居なくなっていた。
他の街に行ったのか、
ぬりかべとかいうものに襲われたか、
私の知ったことではない。
彼は彼の人生を生きるのだ。
それで、もし私の人生と改めて会い見えることがあれば、
その時また彼について知ればいい。
私はパンを焼き続けた。
それには、生きるために儲けるという意味があった。
そして私は、ついに、自分から生み出すことが出来たのだ。
パンで出来た麺類、プレーノである。
粉の配分、焼き時間、温度、湿度、汁、多くの研究が必要だった。
その達成感は、作り上げた感覚は、人生で初めてだった。
小さいけど、自分で生んだ作品だった。
プレーノはバカ売れして行列が出来るようになった。
連日連夜の材料切れで、クレームもついた。
仕方ないので従業員も雇うようになった。
そして常々、自分はいつか居なくなる。
この店とこの商品を絶やすな、と言い含めてきた。
あとは、私が自分の生きる道を見つけ出し、
造り上げるだけである。
そして、その道は唐突に目の前に広がることになる。
麺切れ、携帯電話、血。
私は何をすればいいのかわからない。
それでも造り上げるんだ。
何かはわからない。
どれだけもわからない。
それでも、造る端から片っ端から壊されるなら、
私は造るしかないのだろう。
自分を、世界を創りあげるために。
村からある程度離れた街に腰を据えることに決めた。
自分で決めた。
この街には、私が言うことに頷いてくれる人が
居たのだ。
私はその人の元で働くことに決めた。
その人はパン屋だった。
その人は自分のことを親方を呼べと言った。
周りの人がそう呼んでいるらしい。
親方はパン屋でありながら、何でも屋だった。
むしろパンなんてあんまり売れてなかった。
それでも親方の朝は早い。
売れないパンを作るためだ。
しかし、親方はそれを作る事に意味があると言った。
私もその通りだと思った。
私が親方に注意されたのは、
最近ここら辺にぬりかべという化け物が出るから気をつけろ、
というそっけないものだけであった。
でも私にはそれでも多すぎた。
まだ私は守られる存在なのだ。
それに私は知っていた。
ぬりかべなんて化け物が居ようが、
人間にだって化け物のような人は存在するのだ。
私がパンを焼けるようになると、親方は
私に簡単に店を私にくれた。
私がくれとせびった訳じゃない。
勝手にくれたのだ。
「いいか、俺は決していい人間じゃない。
俺は俺のやるべきことをお前に押し付けるんだ。
お前の自由や意思と関係なくな。
それで、お前に押し付けた仕事分、
俺には時間が生まれる。
俺はその時間でしたいように生きるんだ。
お前もしたいように生きろ。
ただし、この店を無くすことはしてはいけない。
この店はもう生まれちまったんだ。
そして、お前も何かを生め。
そして、それを未来永劫保ち続けろ。」
親方はそう言って店から出て行った。
そしてそのまま帰ってくることはなかった。
しばらくはこの街で何でも屋をしていたが、
気付いたら居なくなっていた。
他の街に行ったのか、
ぬりかべとかいうものに襲われたか、
私の知ったことではない。
彼は彼の人生を生きるのだ。
それで、もし私の人生と改めて会い見えることがあれば、
その時また彼について知ればいい。
私はパンを焼き続けた。
それには、生きるために儲けるという意味があった。
そして私は、ついに、自分から生み出すことが出来たのだ。
パンで出来た麺類、プレーノである。
粉の配分、焼き時間、温度、湿度、汁、多くの研究が必要だった。
その達成感は、作り上げた感覚は、人生で初めてだった。
小さいけど、自分で生んだ作品だった。
プレーノはバカ売れして行列が出来るようになった。
連日連夜の材料切れで、クレームもついた。
仕方ないので従業員も雇うようになった。
そして常々、自分はいつか居なくなる。
この店とこの商品を絶やすな、と言い含めてきた。
あとは、私が自分の生きる道を見つけ出し、
造り上げるだけである。
そして、その道は唐突に目の前に広がることになる。
麺切れ、携帯電話、血。
私は何をすればいいのかわからない。
それでも造り上げるんだ。
何かはわからない。
どれだけもわからない。
それでも、造る端から片っ端から壊されるなら、
私は造るしかないのだろう。
自分を、世界を創りあげるために。
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