1987年発売。伊藤智恵理3枚目のシングル。…彼女に対しては、おそらく殆どのアイドルファンが特別な思いを抱いている筈だ。彼女については、最初から単刀直入に言わせていただく。…「何故売れなかったのだろう???」12年ほど前、80年代アイドルのデータブックを読んでいた時に彼女のページにこう書いてあった。…「10年に1人の逸材をここまで埋もれたままにしている芸能界に、私は何の未練もない。」同感である。元々子役で芸能界デビューした彼女だが、モデルと比べても何ら遜色ない容姿、そして一度聞いたら絶対忘れられない歌声。誰からも好かれる気さくな性格。ハウス「フルーツ in ゼリー」のCMで魅せた素晴らしい笑顔と歌声…今更データを羅列しても始まらないが、とにかく「売れない要素」が見つからないのだ。楽曲についてもまた然り。セカンドシングル「トキメキがいたくて」〜ファーストアルバム「ハロー」〜4thシングル「夢かもしれない」のラインナップは、あまりにも完璧過ぎてごちゃごちゃ御託を並べてレビューする気にもならない。そして、その中でも最高傑作と言われるのがこの「雨に消えたあいつ」だろう。片思いの女の子の内容のアイドルソング、と言ってしまえばそれまでだが、とにかく何でこんな歌が出来てしまったんだ!?と心の中で叫ばすにはいられない程の衝動だった。とにかく、この詞、このメロディー、そして伊藤智恵理の歌唱がとてつもなく素晴らしいのだ。慟哭の一歩手前で抑えた「泣き」の歌声…ただ「切ない」という感情だけでは終わらない彼女の歌声が、聴き手の全てを掴んで離さない。コンポーザーと歌い手がお互いに少しの妥協も許さず真剣勝負で作り上げた最高の「芸術」。片思いの女の子の気持ちがここまで鬼気迫ってきて苦しくて、切なくて、悲しくて…ここまで自分の感情をどうしょうもなく激しく突き動かした「歌」を、私は他に知らない。アイドルのカテゴリーなんかでとどまることなんて絶対に有り得ない、日本の歌謡史の中に残すべき名曲中の名曲である。