東海道本線沿線観光コミュの六波羅蜜寺

　真言宗智山派補陀洛山六波羅蜜寺は、浄土信仰の確立者で市聖(ｲﾁﾉﾋｼﾞﾘ)と呼ばれた空也(903～972)が天暦５(951)年に造立した木造十一面観音立像〔国宝〕を本尊とする道場に由来し、当初は西光寺と称していました。
　木造十一面観音立像は本堂中央の厨子に安置され、12年に一度辰年(ﾀﾂﾄﾞｼ)にのみ開帳される秘仏です。像高258cmの巨像でありながら、頭・体の根幹部を一材から彫り出す一木造(ｲﾁﾎﾞｸﾂﾞｸﾘ)で、表情は温和であり、平安前期彫刻から平安後期の和様彫刻に至る過渡期を代表する作例です。
　空也は疫病の蔓延する当時の平安京で、この観音像を車に乗せて引きながら歩き、念仏を唱え、病人に茶を振舞って多くの人を救ったとされています。空也は応和３(963)年に鴨川岸に僧600名を集めて大規模な大般若経(ﾀﾞｲﾊﾝﾆｬｷｮｳ)供養会(ｸﾖｳｴ)を行っていますので、この時が西光寺の創建だととする説もあります。当時、鴨川の河原は遺体捨て場であり、葬送の場でもあったのです。
　空也の死後、貞元２(977)年に比叡山延暦寺の中信が中興して大伽藍を連ねた天台別院とし、六波羅蜜寺と改称して天台宗に属する事となりました。名称は仏教の教義「六波羅蜜」、即ち、悟りを開くために必要な六つの修行である布施(ﾌｾ)・持戒(ｼﾞｶｲ)・忍辱(ﾆﾝﾆｸ)・精進(ｼｮｳｼﾞﾝ)・禅定(ｾﾞﾝｼﾞｮｳ)・智慧(ﾁｴ)のことを指します。に由来しますが、この地を古来「六原」と称した事に由来するとも考えられています。なお「六波羅密寺」とする表記が古今多く見られますが、勿論、誤字です。
　平安時代末期には、刑部卿(ｷﾞｮｳﾌﾞｷｮｳ)平忠盛が当寺境内に六波羅館を建設、太政大臣平清盛の時代には5200軒余もの平家の一族郎党の屋敷が一帯に軒を連ねましたが、寿永２(1183)年に源義仲が京都に突入すると当寺は焼き払われてしまいました。しかし。鎌倉時代に幕府が六波羅探題を当地に設置したため、六波羅蜜寺も復興したのです。
　六波羅蜜寺は元弘３(1333)年に足利高氏が六波羅探題を攻略した際に再び炎上してしまいましたが、足利幕府第２代将軍足利義詮(ﾖｼｱｷﾗ)によって再建、西国三十三所第17番札所となりました。その後、豊臣秀吉の時代に真言宗智山派に転向、智積院(ﾁｼｬｸｲﾝ)の末寺となっています。　江戸時代にも大寺院として栄えていましたが、明治元(1868)年の廃仏毀釈によって大幅に寺域が縮小してしまい、現在、寺の周囲は民家に囲まれて境内は狭く、主な建物は本堂・弁財天堂・宝物収蔵庫しかありません。
　貞治２(1363)年の再建の本堂〔重要文化財〕は、外陣を板敷きとし、蔀戸(ｼﾄﾐﾄﾞ)で仕切られた内陣を一段低い四半敷き土間とする天台式建築です。豊臣秀吉が補修して現在の向拝を附設しました。昭和44(1969)年に開創1000年を記念して解体修理が行われ、建立当時の丹の色の鮮やかな絢爛たる姿になりました。
　当寺は最古の七福神信仰である都七福神の一つで、弁財天女(ｻﾗｽｳﾞｧﾃｨｰ)を祀っています。
　宝物館で公開されている木造空也上人立像〔重要文化財〕は、鎌倉時代に運慶の四男である康勝が作った有名な像です。僧侶の肖像彫刻は坐像が大半ですが、本像は草鞋(ﾜﾗｼﾞ)履きで歩く空也の姿を表しています。疫病が蔓延していた京の街中を、空也が鉦(ｶﾈ)を鳴らし、念仏を唱えながら悪疫退散を祈りつつ歩くさまを迫真の描写力で表現しています。空也は首から鉦を下げ、右手には鉦を叩くための撞木(ｼｭﾓｸ)、左手には鹿の角の付いた杖を持っており、口からは六体の阿弥陀仏の小像が吐き出されている特異な形状をしています。六体の小像は針金で繋がっており、「南無阿弥陀仏」の六字を象徴して念仏を唱える様を視覚的に表現しています。
　宝物館では、太政大臣入道平清盛像と伝えられる経を持った木造僧形坐像〔重要文化財〕も展示されています。鎌倉時代の作です。
　宝物館では、木造薬師如来坐像〔重要文化財〕・木造地蔵菩薩立像〔重要文化財〕・木造四天王立像〔重要文化財〕・木造地蔵菩薩坐像〔重要文化財〕・木造伝運慶坐像〔重要文化財〕・木造伝湛慶(ﾀﾝｹｲ)坐像〔重要文化財〕・木造弘法大師坐像〔重要文化財〕・木造閻魔王坐像〔重要文化財〕・木造吉祥天立像〔重要文化財〕等も公開されています。
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　京都駅からバス「清水道」下車。