東海道本線沿線観光コミュの勝部神社

　主祭神は物部布津命(ﾓﾉﾉﾍﾞﾉﾌﾂﾉﾐｺﾄ)・火明命(ﾎｱｶﾘﾉﾐｺﾄ)・宇麻志間知命(ｳﾏｼﾏｼﾞﾉﾐｺﾄ)、相殿神の住吉神・猿田彦神を合わせて祀ります。物部布津命とは、神日本磐余彦尊(ｶﾑﾔﾏﾄｲﾜﾚﾋｺﾉﾐｺﾄ；神武天皇)が東征の際、熊野山中で危機に陥った時に天照大神が高倉下(ﾀｶｸﾗｼﾞ)を通じて授けた布都御魂剣(ﾌﾂﾉﾐﾀﾏﾉﾂﾙｷﾞ)の事です。火明命とは、瓊瓊杵尊(ﾆﾆｷﾞﾉﾐｺﾄ)の兄で物部氏の祖となった饒速日命(ﾆｷﾞﾊﾔﾋﾉﾐｺﾄ)の別名で、宇麻志間知命はその子です。
　社伝によれば、大化５(649)年８月13日に物部宿禰広国(ﾓﾉﾉﾍﾞﾉｽｸﾈﾋﾛｸﾆ)が近江国物部郷勝部村の現在地に祖神を祀り、物部大明神と称したのが起源とされます。
　広国は、当時勝部村一帯の土地を領有しており、当社は勝部・千代・蜂屋・野尻・出庭の各村から成る物部郷の惣社として信仰を集める事となりました。
　人皇第55代文徳天皇の仁寿元(851)年正月には物部布津神に対し正六位上が、続いて人皇第57代陽成天皇の元慶６(882)年10月には同神に対し従五位以下が神位階として授けられています。
　鎌倉・室町時代に近江守護を務めた佐々木六角氏は、軍事で神威を示した物部布津命を祭る当社を深く信仰し、出陣の旗竿は決まって当社林の竹を使用していました。明応６(1497)年には佐々木六角高頼氏が大願成就祈願のため本殿〔重要文化財〕を再建しています。
　元亀年間(1570～73)には、織田信長が野洲・栗太二郡の起請文60通を当社に納め、文禄３(1594)年８月には関白豊臣秀次が神田の寄付と本殿の修理を行なっています。江戸時代には中山道守山宿を利用する旅人の参詣も多かったようです。
　明治時代には物部神社・物部大明神・勝部大明神等と呼ばれ郷社に列してていましたが、大東亜戦争後に現社名へ改められました。
　本殿は檜皮葺三間社流造(ﾋﾜﾀﾞﾌﾞｷｻﾝｹﾞﾝｼｬﾅｶﾞﾚﾂﾞｸﾘ)で、桁行三間（5.13ｍ）・梁間三間（4.40ｍ）の前室付きです。前室とは、外陣の前にもう一室付加するもので、鎌倉時代の後期から近江国で流行し、当社の場合、奥行一間の前室が外陣に当たり、その奥二間が内陣です。前室の正面三間は古式の蔀戸(ｼﾄﾐﾄﾞ)であり、両側面は各々一間の板唐戸となっています。
　組物は、向拝には出三斗(ﾃﾞﾐﾂﾄﾞ)を用い、身舎と前室には柱の上に大形の舟肘木(ﾌﾅﾋｼﾞｷ)を正面・背面共に四つ置いているだけの簡素な構造ですが、重厚な雰囲気を醸し出しています。彫りものは向拝に優れた手挟(tﾊﾞｻﾐ)があるだけで、蛙股も木鼻もありません。
　本殿には三方廻縁(ﾏﾜﾘｴﾝ)があり、そこに乞欄(ｺｳﾗﾝ)が設けられていて、奥に脇障子が立ちます。基壇は浜縁(ﾊﾏｴﾝ)なっています。軒廻は二軒(ﾌﾀﾉｷ)繁垂木(ｼｹﾞﾀﾙｷ)で化粧屋根裏を成し、妻は豕扠首(ｲﾉｺｻｽ)で、妻飾の懸魚(ｹﾞｷﾞｮ)は全て片方に５個ある猪目(ｲﾘﾒ)懸魚です。
　柱は身舎が円柱、前室と向拝は面取方柱で、棟は瓦積みとなっており、下方に甍唐草(ｲﾗｶｶﾗｸｻ)と甍巴(ｲﾗｶﾄﾓｴ)を置き、その上に熨斗(ﾉｼ)と雁振(ｶﾞﾝﾌﾞﾘ)の各瓦を積み上げています。棟の端は鰭(ﾋﾚ)付き鬼瓦と鳥衾(ﾄﾘﾌﾞｽﾏ)です。
　毎年１月第２土曜日に行われる祭礼の松明祭〔滋賀県指定選択無形民俗文化財〕は、800年の歴史を持ち、通称「勝部の火祭り」と呼ばれて滋賀県の三大火祭りの一つに数えられています。