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ジュリエット・アドベンチャーコミュのミッドナイト・ジャングルのモーツァルト

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ムシムシした夜が続いていますね。

眠れないので、エアコンや扇風機をつけてしまう時もついついあります。

私は過去に幾度も幾度もアフリカに行き、そのような家電がいっさい無い「蒸し風呂のような夜」を過ごしたことが多々あります。汗ばかりかいて眠れない夜。

そんな夜の中から飛びっきりの思い出となった一夜のお話をしましょう。

私はカメルーンのコーラップという場所に来ていました。

そこはアフリカ最古の熱帯雨林。

赤道直下にある「コーラップ国立公園」は、氷河期から続いている森です。

そこには原生の森が残っています。高さ50mを超える巨樹が林立する森には、太古から続く、植物と動物や昆虫との摩訶不思議な共存関係が存在します。巨大な板のような木の根、50メートルの巨樹を絞め殺してしまう恐ろしい生命力のツタ…。枝も葉も無くいきなり花を咲かせる植物や、幹にいきなり実を成らす木。
別世界のような森なのです。

この森は特別な許可をもらった者意外は立ち入り禁止です。地元住民でさえ入ってはいけません。野生を守るために厳しいルールが敷かれていました。

有名な環境保護団体WWFと政府が森の入り口に管理事務所を作っていました。研究室と研究者が寝泊りする施設も近くにありました。

エイズの治療薬がこの森の植物から精製できそうだ、と研究する学者や、アリと木の共生関係の研究をしている人などが泊まっていました。

森の管理事務所兼研究所の所長をしていたのは、まるでサンタクロースのような丸々とした、白い髪に白髭のおじ様でした。ドイツ人の学者さんで今年で引退するというご年配の方です。ジャングルを生涯渡り歩き、その自然のからくりの解明と保護運動に人生を費やした人です。

私は取材の下見で日本から一人でこの森の研究所に来ていました。所長さんは一番優秀な地元ガイドを私につけて、森に入らせてくれました。

森に入るのは日中しか許されません。大型のサルもいれば、気性の荒い、マルミミアフリカゾウもいるのです。夜行性なので、昼間は安全です。危ない出会いも避けられます。

すばらしいガイドのおかげで私は見たこともないような不思議な植物やジャングルの風景を堪能し、そしていろんな虫や小動物を観察することもでき、大満足でした。もっと見たい、という気持ちになったものの、日がくれる前に森から出て行かなくてはいけません。
森の外には流れの速い川があって、高く吊り上げられている縄のつり橋を渡って出入りするようになっていました。日がくれる前につり橋に戻り、私はそこから振り返り最後の視線を向け、森にお別れをしました。

下見を終えて、翌朝は早朝に出て、東京に戻る予定になっていたのです。

その夜は、ひどい暑さでした。ジャングルのそばのロッジで、テラスに集まった所長さんと他の学者たちと一緒に夕食をとりながら、みんな汗だくになっていました。
所長さんは食事中も食後のコーヒータイムにも、たくさんの素晴らしい体験談を我々客人にユーモアたっぷりで話して聞かせてくれました。

しばらく会話が続きましたがやがて一人ずつ、部屋に戻っていきました。

私はジャングルのそばで過ごす夜に酔いしれ、これで最後だと思うと、目が冴えてしまって眠たくありません。

暑苦しさで眠れそうにも無かったというのも事実ですが・・・私は部屋に戻るのは後に後にしようとしていました。

最後まで、私と一緒にテラスに残ったのは所長さんでした。二人して汗をかきかき、並んでおしゃべりしていました。彼の語る思い出話は夢中になるものばかり。自然の奥深さを明かすお話は脱帽するものでした。

でも、でも、暑い!蒸し暑い夜です。

二人は汗でベタベタ、気持ち悪い感じがひどくなってきました。夕食前にシャワーを浴びてさっぱりして食事に参加したものの、もう、その効果は消えダクダクです。

突然、所長さんが黙ってしまいました。ずっとおしゃべりを続けていた彼でしたので、少し妙でしたが、一緒にだまって風景を見ていました。

するとぽつりと「モーツァルトはお好きですか?」と聞いてきました。

私は「ええ」と一言言うと即座に「泳げますか?水着ありますか?」と聞いてきました。私は水泳には特に自信があるし、旅には必ず水着を持っていきます、と答えたものの、この近所にはプールはなさそうだし、川は暗くて流れは速いし、どうしてそんなことを聞くのかと不思議に思いました。

所長さんはいたずらっぽい目をして、振り向き、「こんな暑苦しい夜にぴったりの秘密の場所へご案内いたしましょう!秘密は守れますか?」とにんまり。

えええ?どこなの?こんな真夜中にどこにいくのかしら。

秘密の場所って何?わくわく。

部屋に戻って水着になり、ズボンではなく、サマードレスに着替え、タオルを持ってテラスに戻ると、

サンタみたいな所長さん、ニコニコ。

「静かにね。ついてきなさい」。

そして敷地の門のそばにある駐車場まで行き、所長さん専用のジープに乗らされエンジンをブルルとかけると施設の外へ出てしまいました。

コーラップの森に入るためのつり橋のあるところまで連れられて行ったのです。

でも、つり橋のところでジープは止まらず、川沿いどんどん進んで行きます。道はなくなっていて、他の車の通った後もなく、草を踏み潰し、ヘッドライトの明かりだけを頼りに進んでいます。結構岸辺のふちを走っていて、川に落ちてしまわないのかハラハラです。

所長さんずっと黙っています。どれくらい走ったときでしょう。

土地が下がり川とほとんど同じ高さの岸辺になったところで、ジープが止まりました。

所長さんは強力なサーチライトで川を照らし、対岸を照らし、何かを探しているようです。

そして、「あった!」というような満足の笑みがこぼれました。

「ちょっと荒い運転になるけど心配しないでね」と言うと、

いきなりジープで川の中へと突っ込みました。周りはまっくらです。

水の流れがジープを押し流しそうですが、ジープは着実に進んでいます。

パワー全開で対岸の岸に上がりました。そこでストップ!

そこはジャングルの縁です。道もなければ、車が通るスペースのない茂みだらけの熱帯雨林の端っこです。Uターンするスペースすらありません。
こんな所にジープで来て立ち往生。野生の獣たちもいる危険な森でどうするつもりなのでしょう。

所長さん「ここからが楽しいのだよ」とナタを取り出し、ジープのまん前の茂みの中へ入って行きました。
ナタを振り回し10分もたたないうちに、なんと車が一台ほど通れる空間が切り取られ、車のヘッドライトをそこに向けると、その向こうには・・・・

ぽっかり開いた空間が!草木が茂っていないまっすぐなコースが続いているのです。

真夜中のジャングルのマジック・ロードです。

「ほらね、大丈夫。」
「この先に素敵な場所があるんだよ。」と車に乗せられました。

そして所長さんは手を伸ばし、取り出したカセットテープを差し込んでプレーヤーをON。

流れ出したのはモーツァルトです。

ボリュームを大にして、所長さんハンドルを握りながらニコニコ。

時々私を見てはウィンク。

広大なジャングルの中でモーツアルトが響きます。

異次元空間のような感覚に襲われます。

湿度たっぷりの夜の森の香り。昼間とは違っても独特の強い甘いような香りです。
全神経というか、感覚が鋭くなって敏感になっていく気がする。いろんなものが繊細に感じ取れるように自分が代わっていく気がしました。

モーツァルトのメロディの高鳴り、森の香り、暗闇とヘッドライトの踊る光・・・

めまいのような夢のような気分に浸ってきて、目を瞑りました。





そして、突然ストップ!

いきなりエンジンが止められ、音楽が止まり、ヘッドライトも消え、完全な暗闇になってしまいました。

隣に座っている大きなおなかの所長さんも、周りの森もすべて見えなくなりました。本当の暗闇。。。。







やさしい声が聞こえます。

「車から降りなさい、車の前に立ちなさい」

手探りしながらそこに立ちました。

空気が暑い!背中には車のエンジンの熱が伝わり、ますます暑いです。

ここで何が起こるのかな?

すると、すうううううっと涼しい風が吹いてきたのです。

えええ???どうして涼しい風があるの?

すると雲が途切れ、夜空に満月が現れ、周りが一気に明るくなりました。

目の前に・・・・美しい泉が現れました。

月明かりに、きらきら輝く泉です。


覗くと、底までくっきり見えるほど透明な、きれいな泉です。


「わああああ」と感動していると、

「どうぞ泳ぎなさい」と所長さん。

うれしさが込みあがってきて、涙まであふれてきました。

手を水に入れると、なんともいい冷たさ。

あわてて服を脱ごうとすると、紳士の所長さんは顔をそむけ、私が水の中に入るまで待ってくれました。

なんて気持ち良いのでしょう。潜って、潜って、全身で水のうねりを感じて体の芯から生き返ったような気分です。

満月の光で、水中で目を開けても、見えます。広い泉の中で私は人魚になってゆく・・・

そして聞こえてきました。水中で・・・・モーツアルトです!

所長さんが再び音楽をかけ、車を開けてよく聞こえるようにしたのです。

大天才が生んだ曲はまさしくこの幻想的な場所にふさわしい。

音楽に、水に、温度に、空気に自分は溶けてしまうような、すべてと一つになってゆくようなすばらしい気分に染まりました。

所長さんは私を邪魔しないように、車のそばでそっと水に入り、ぷかぷか浮いていました。

真夜中のジャングルと泉のモーツアルト。

それは暑苦しくて眠れなかった夜を、パラダイスに変えてくれました。







所長さんの秘密、初めて明かします。もう、15年以上経っています。
所長さんはその後、引退してドイツに戻り、妹と暮らしていましたが、妹さんからある時、彼が亡くなった知らせが届きました。

森の泉、所長さんが私に分けてくれた秘密、それはすばらしい贈り物でした。

きっとこの泉を発見したのは神様から所長さんへ人生のご褒美だったのではないのかなあと思えてきます。その生き方を忘れず、その精神を忘れずに私も生きていきたい。

忘れられない、暑くて眠れない夜の思い出でした。

コメント(3)

行ったことも無いアフリカ、彼の地を頭の中いっぱいに想像で満たしてくれる、
このお話大好きです。

何だか涼しくなってきた。
素敵ですね!!

私もカメルーンに3年くらい前に行きました。
ヤウンデとバンガンテに滞在したのですがとてもいごごちと音楽と
すべての事が嬉しくなる日々でした!!

このであいに感謝しています


>メグさんへ
コメントありがとうございます。
カメルーンは音楽も確かに素敵でした。そして、おっしゃる通りうれしくなる時間が流れるところですね。なつかしいです。

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