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市野川容孝コミュの論潮(10月)

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市野川容孝「論潮〈10月〉」『週刊読書人』2005年10月7日号

日独の総選挙結果──社会的公平か新自由主義かのせめぎ合い

 「真の民主主義」と「偽の民主主義」。その違いについて、かつてJ・S・ミルはこう述べた。真の民主主義においては、全党派が「比例して代表される」のに対して、偽の民主主義においては「数的多数者に有利な、特権による統治」がまかり通る。「少数諸派が適切に代表されるということは、民主主主義の本質的な部分である。それなしに可能なのは、真の民主主義ではなく、虚偽の見せかけの民主主義にほかならない」(岩波文庫『代議制統治論』第七章)。ミルにとって、比例代表制こそがあるべき民主主義の姿だった。
 今回の衆院選結果を、私なりに分析してみた。全小選挙区で各候補者に投ぜられた票を、所属政党別に集計すると、自民党が全体の48.2%、公明1.5%、国民・日本0.8%、民主36.7%、社民1.5%、共産7.3%。小選挙区の三〇〇議席を、試しにこの得票率に応じて分配すると、自民144(実際は219、以下同)、公明4(8)、国民・日本2(2)、民主110(52)、社民4(1)、共産22(0)となり、これに各党の比例代表枠獲得議席(総数180)を結果どおりに加算すると、自民221、公明27、国民・日本4、民主171、社民10、共産31となる。実際の選挙結果は、自公で327議席だが、もし衆院選全体が完全な比例代表制だったなら、自公は248にとどまり、民主、社民、共産で計212議席をとれていたことになる。
 自民党の「歴史的勝利」と評される今回の衆院選だが、その一番の要因が、96年以降実施の小選挙区制にあることは明らかだ。と同時に、私たちが確認すべきなのは、小選挙区制ゆえに今回の衆院選で(も)いかに多くの死票が出たか、日本の国政がいかにJ・S・ミルの言う「偽の民主主義」に傾いているかである。確かに、完全比例代表制によっても自公は過半数の議席(右算出の248)をとれた。しかし、それは「辛勝」と評すべきものにすぎず、実際の民意もその程度にしか自公政権を評価していないと言うべきだろう。
 得票数と死票数を見ても、今回の衆院選で、小選挙区制の痛手を最も大きく被ったのは民主党だが、それは自業自得である。なぜなら、小選挙区制の旗を振ってきたのが民主党、なかんずく小沢一郎だからである。小沢は、90年代を振りかえりつつ、自分がいかに「地下茎でつながる」自民党と社会党に抗して、小選挙区制導入に奮闘したかを得々と語っているが(「証言──90年代」『論座』)、今回の衆院選で大きなしっぺ返しをくらったことなる。2000年の衆院選で比例代表枠を現行の180議席にまで縮め、逆に小選挙区制の比重を高めた小沢(当時は自由党)が、衆院選後の民主党新執行部に入らない、いや入れないのは当然である。
 小選挙区制のメリットとされるのは、小沢も言うとおり、「政権交代を実現しやすい」ことだ。この謳い文句におどらされて、マス・メディアも識者も、これまで小選挙区制に異を唱えることが極端に少なかったが、この制度の問題点は大きい。小選挙区制は、民意に実際以上のメリハリをつけるがゆえに政権交代を容易にするが、それは裏返せば、民意の反映を実際以上に歪めるということでもある。J・S・ミルに従うなら、性急な政権交代よりも、民意のより正確な反映こそ「民主政治の第一原理」である。
 今回の衆院選ではまた、民主党の存在理由(レゾン・デトル)そのものが不確かになった。小選挙区制による政権交代という掛け声とは裏腹に、民主党自身が小泉自民党とどう異なるのか、ますます分からなくなったからである。山口二郎は、田中角栄以来の自民党政治を「地方重視の再分配型政治」「日本型社会民主主義」と評しているが、それを小泉自民党が「ぶっ壊して」いることは明らかだ。その上で山口は、「再分配そのものを否定するのか」、それとも「新たな再分配の仕組み」を構築するのか、言い換えれば「適者生存のアメリカモデル」か、それとも「社会的公平のヨーロッパモデル」かを、政治の新たな争点に据える(「日本型社会民主主義の後にくるもの」『論座』)。また宮台真司は、「都市型リベラル」、すなわち従来のバラマキとは異なる形で、都市型弱者(非正規雇用者、シングルマザー、障害者等)を支援する政治を、民主党に期待しているが(「民主党が示すべき政策は都市型弱者支援だ」同)、前原民主党が、これらの提言にどれほど応えるかは、はなはだ心許ない。
 日本の衆院選のちょうど1週間後、9月18日にドイツの総選挙があった。ドイツの連邦議会選挙も、小選挙区制と比例代表制の複合だが、両者の議席枠はちょうど半々で、また基体は比例代表制にある。結果は、前政権の社民党(SPD)と緑の党/90年連合で273議席、新自由主義に傾くCDU/CSUおよびFDPで286議席、旧東独のSEDの流れをくむPDSとラフォンテーヌらSPD離反組が本年7月に結成した「左翼党(リンクスパルタイ)」が54議席である。
 山口は「社会的公平のヨーロッパモデル」と平板に語るけれども、ヨーロッパでも社会的公平か、それとも新自由主義かで、きびしいせめぎ合いがある。両陣営の軸となるSPDもCDU/CSUも、ともに過半数に届かず、次期政権をめぐって膠着状態が続いているが(9月25日現在)、ともかくも、山口が日本の政治に期待する争点枠組みがドイツにはあり、しかも両陣営が、がっぷり四つに組んでいることは確かだ。SPDよりもさらに強く社会的公平を望み、現SPDは新自由主義に妥協しすぎと批判する左翼党の躍進を考えれば、ドイツの民意は総体として「左」に傾いていると言えよう。可能性はゼロに近いが、左翼党がSPDおよび緑の党/90年連合と組めば、327議席で過半数を超える。
 社会民主党の「社会」という言葉。あるいは「左翼」という言葉。日本では死語と化しつつあるこれらの言葉は、しかし、ドイツの政治では今もなお生き生きとしている。日本の議会制民主主義において、これらの言葉を再生させる道を、真剣に考えるべきだと私は思う。

コメント(2)

ドイツのその後ですが、最終結果は、皆さんご存じのようにSPD(ドイツ社会民主党)とCDU/CSU(キリスト教民主/社会同盟)の「大連立」政権となり、CDUのアンゲラ・メルケル(写真左)がドイツ初の女性首相となりました。

アンゲラ・メルケルは、旧東独の出身です。
旧東独の人びとが支持する政党として、PDS(民主社会主義党)は確かに大きな存在ですが、メルケルの例を見ても、かなり分散もしています。
>いっちーさん

 民主党の姿勢には、はなはだ疑問をもたざるを得ません。
特に、今の前原代表になって、自民党と政策を競う、のは
いいけど、かつての55年体制みたいになってしまうので
はないかと恐れています。小沢一郎を民主党を受けいれた
ことは、後で考えれば、命取りになるのじゃ、ないかと。

 僕の立教大学時代の恩師である政治学者の故高畠道敏
教授は、亡くなる前の2006年11月のゼミのOBや
OGを前にした講演会で、「マニュフェスト選挙」その
ものを懐疑的だ、と述べてました。先生は、エドマンド・
バークを引き合いに出しながら、議員は国民代表であり、
地域代表ではない。本来、公約は、政党の基本姿勢や
基本精神を言うのみであり、マニュフェストが第一だ、と
なると「請負政治」になる恐れがでる。民主党は市民の
政党には、なれないだろうと予告されていたのが印象
です。

 確かに小選挙区政治は、政権交代を容易なものにするかも
しれません。でも、いっちーさんのご指摘通り、死票を大量
に出してしまいます。それと、小選挙区制度で、本当に
かつてのような地方の利益誘導政治をなくすことが出来る
のでしょうか?
 自民党を追い出された亀井静香が、しみじみと言ってまし
たが、自分の選挙区は中国山地の本当に田舎、農業が中心
で、人口が減り、高齢化・過疎化が進む地域が太宗を占めて
いる。こんな、地方で、郵便局がなくなったら、住民の
インフラはどうなるか!ってね。やはり、田舎にいけば、
不便なところも多い、過疎化も進む、若者はどんどん都会
に出ていく。そういう選挙区から出た議員たちは、やはり
自分の選挙区大事、地元の発展のためには、何かせねば
ならない、という訳です。
 僕のパートナーの友人で、今回、自民党から新人で当選
した若手の議員(3世)は、自分のホームページに日記
を更新していますが、地元からの陳情が多いの、少しびっくり
しているようなことを書いてます。
 まあ、政権与党だから、それも300議席も超えたのだから
陳情に行けば、「おらが先生は何でも聞いて、
実現してくれる」と思う支持者や選挙民は多いのです。
 小泉が言うような、「政策本位」の政治が、果たして、
大勝した自民党に可能か、どうか?逆に疑問です。

 そして、高畠さんは、ロックの抵抗権を引き合いにも出して
いました。まさに、先生は、自民党の大勝とネオリベラリズム
的政治を予言してたかのようです。 抵抗権こそ、市民が、
権力の横暴に対抗する正当な手段です。

 最近のフランスの移民たちの現政権への抵抗、アメリカ
で、ハリケーン・カトリーナで被災した貧困層の抗議など
は(ブッシュは支持率を大幅に落としましたね)
、自分たちを抑圧し、見捨てようとした為政者への反乱
とも受け取れます。
 日本の市民が、このように権力に抵抗する力をまだ、持ち
あわせているのか否か、いや保持し、行使しなければ、弱者
は、市民社会から排除されるだけでしょう。

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