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市野川容孝コミュの論潮(9月)

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市野川容孝「論潮〈9月〉」『週刊読書人』2005年9月9日号

なぜ郵政民営化なのか──ごまかしに嵌められずに自分の選択を

 8月8日、郵政民営化法案の参議院での否決を理由に、小泉首相は衆議院を解散し、来る9月11日に総選挙が実施されることとなった。ありえないことではなかったとは言え、この間、政局は大きく揺らぎ、93年の時と同じような地殻変動が起きる可能性が強まった。だが、選挙はもとより民主主義に備わる、変革のための重要な回路であり、また選挙によって政治が変わる、いや政治を変えることこそ、民主主義の本義である以上、解散総選挙それ自体は、有権者にとってむしろ望ましいことだ。重要なのは、有権者が偽りやごまかしに嵌められることなく、然るべき選択をおこなえるようにすることである。
 小泉自民党は、その選挙公約(マニフエスト)で「郵政民営化こそ、すべての改革の本丸」と息巻いているが、各種の世論調査がはっきり示しているように、有権者は、郵政改革にさほど関心を示していない。例えば、日経リサーチが8月20日から22日にかけて実施した調査(有効回答数988)では、今度の衆院選で重視する政策課題として、「年金・福祉などの社会保障問題」が57%でトップであり、大きく開いて「景気対策」「郵政改革」(ともに29%)、税制改革(26%)、財政再建(23%)と続く。また、共同通信社のアンケートでも、衆院選立候補予定者が選挙後の優先課題として挙げた第1位は「年金や医療などの社会保障改革」(87.5%)であり、「郵政民営化」は13.7%で第7位、しかも自公所属者でさえトップではなく第3位なのであるである(東京新聞、8月23日付)。
 つまり、投票する側も、される側も、社会保障が最大の関心事であり、しかも自公でさえそうなのに、小泉自民党はこれを正面きって出さず、「郵政民営化こそが」云々と話をずらしているのである。
 まあ、それでもよい。だが、なぜ郵政民営化なのか。1994年以来、アメリカ政府は毎年、日本政府に対し、内政干渉とも言えなくはない『年次改革要望書』を提出してきたが、簡保の廃止は、この要望書で九五年以来、要求され続けてきたのであり、アメリカ生保協会は、郵政民営化を「米国の生保業界にとって最も重要な通商問題」として圧力をかけ続けているのである(関岡英之「郵政民営化の背後にある真実」『世界』)。アメリカの圧力がすべてではないにしても、小泉自民党はその存在とこれに関する自らの見解を、有権者にきちんと知らせるべきだ。
 アメリカの生保業界が標的にしてきたのは、簡保だけではない。テレビで毎日、流れる「アリコ」(アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー)や「アフラック」(アメリカンファミリー生命保険会社)のコマーシャルを見ても分かるように、医療もまた標的になってきた。小泉政権下で健康保険の患者自己負担は三割にまで引き上げられたが、今や巨大スポンサーとして民放各局にも影響力をもつこれらの外資系企業は、引き上げられた自己負担を狙って、私的医療保険の枠を押し広げている。
 従来の日本の社会的な医療保険は、保険料徴収に際して労使折半を原則とし、また保険料率を設定して、所得の多い者からはより多く、少ない者からはより少なく徴収しながら、一定の再分配機能を果たし、病気の際には拠出額とは無関係に、その人の必要に応じて支払ってきた。しかし、アメリカ型の私的医療保険は、良くて、所得の大小に関係ない一律の保険料徴収が関の山で、これでは所得の再分配機能は全く働かないし、場合によっては、既往症等のリスクを理由にした加入拒否や、拠出金額に応じた支払いもありうる。格差は当然、広がるが、それが果たして、あるべき社会保障の姿なのか。社会保障を第一の関心事とする有権者に、テレビはこういうことをきちんと伝えているのか。
 安倍晋三は、国連の常任理事国を6ヶ国に増やす日本やドイツの案にアメリカが否定的であることについて、「日本は米国との関係において、相当やるべきことはやって」おり、アメリカに対しても「ノーと言うべきことは、そう伝えるべきです」と述べる(「中国にも米国にも『ノー』を」『文藝春秋』)。聞き手の宮崎哲哉は問いをそこで止めているが、有権者が本当に聞くべきなのは、安倍の言う、日本がアメリカに対して「やってきたこと」が具体的に何であり、そのことで日本がどう変わりつつあるのかである。右のアメリカ政府の『年次改革要望書』に照らしても、郵政民営化が小泉政権において、アメリカに対して「やるべきこと」の一つに数えられていることは間違いなかろうし、アメリカの保険業界に対しては、健康保険における自己負担のつり上げによって参入の機会を広げるというおまけもすでに付けている。だが、私にはそうしたことが社会保障のあるべき「改革」だとは思えない。
 自衛隊のイラク派兵もまた、安倍の言う、アメリカに対して「やってきたこと」の一つだろう。靖国問題も当然このイラク派兵とセットで考えなければならない。イラクのみならず、憲法九条の改正によって今後、拡大しようと考えている派兵によって死者が出たとき、何らかの「顕彰」を再び可能にするために、小泉首相は靖国参拝にこだわるのだろう。だが、そもそもアメリカのイラク攻撃に正当かつ十分な理由などなかった。これについて小泉政権はきちんと答弁したか。していない。
 靖国に対する小泉首相の姿勢は、かつてはYKKの仲だった加藤紘一や古賀誠からも今では批判されている(「親中派と呼ばば呼べ──郵政、靖国、対中外交の大間違い」『現代』)。靖国は「日本固有の精神文化」として残すべきと考える古賀でさえ、「近隣諸国への配慮も必要」と言い、「平和を乱すようなことは何一つしてはならない」と言う。しかし、そこまで言うなら、加藤も古賀も小泉自民党を離れるか、少なくとも小泉純一郎を自民党総裁から降ろすべきだ。
 来る選挙で、民主党の単独過半数は難しい。マス・メディアが煽る自民対民主の二大政党制という図式も、私には幻に見える。選挙の分け目は、小泉自民党と公明党が過半数をとるのか、それとも過半数を下回るかだろう。過半数を下回れば、少なくとも「小泉」自民党はなくなり、政界再編と別の改革の可能性が生まれるだろう。上回れば、小泉自民党には、さらに歯止めが効かなくなる。小泉自民党の支持率は高いが、少なくとも有権者は、偽りやごまかしに嵌められることなく、自分の選択をすべきだ。

コメント(1)

いっちーさんへ

 郵政民営化とは、まさに、いっちーさん、ご指摘
のようなものです。米国の要求を呑んだに過ぎない。
竹中平蔵は、実際にも、米国の保険会社の幹部たちと
会談してたというではありませんか。

 また、今回の郵政選挙において、大新聞社や大手
民放会社は、郵政民営化法案の内容を詳細には
報道していません。そりゃそうです、今やテレビ
のCFで米国系保険会社のCFの流れない日は
ありまえん。新聞にも、一面でかでかと広告を
載せています。そんな大スポンサーを気にすれば
簡易保険の利便性など報道できません。

 簡易保険は、誰でも、職業等の差別なく、簡単に
入れ、それも上限は1000万円までです。
何千万円もかけられる民間の保険とは違います。
それは確かに、日本最大の日本生命よりも
巨大な国営保険会社である点は、問題ありかも
しれません。しかし、民間の保険は、職業や他の
事情で入れない場合があります。

 米国の郵便局(保険や貯金業務はしていない)は、
依然として国営です。自分の国は国営なのに、日本
へは民営化しろ、とは本末転倒です。確かに、切手
代は、米国の方が安いかもしれません。しかし、
なぜに、他国の郵便局まで、民営化しろという権利が
米国政府にあるのでしょうか?

 今回の郵政選挙では、自民党の中で、法案に反対
した議員たちに刺客が送り込まれ、郵政民営化法案
以外では、自民党的政策やもっと右的政策を掲げる
人々まで「敵」扱いでした。
 まるで、カール・シュミットの政治における「友・
敵」関係のように。小泉は、ただ「法案反対者=敵」
であれば、良ったのです。ただ、それだけです。
そして、その「敵」と闘う「改革者」刺客を正義の
味方のように演出した、という感じがします。

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