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奇想論外コミュの達磨の全次捕物控(4)【蝋筆屋】

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20090917/CK2009091702000120.html
【群馬】
「しんちゃん」作者 長野との県境に? 携帯電話の電波測定
2009年9月17日

 連絡がとれなくなっている人気漫画「クレヨンしんちゃん」の作者の臼井儀人さん(51)=本名・臼井義人=が、
十一日に埼玉県春日部市の自宅を出た後、少なくとも十四日まで、群馬、長野の両県境付近にいた可能性が高いことが
十六日、埼玉県警などへの取材で分かった。

 埼玉、群馬両県警によると、
臼井さんの携帯電話の電波から位置を測定したところ、
十四日まで長野県軽井沢町など群馬、長野の両県境付近を移動しているのが確認された。
それ以降は、携帯電話はつながらない状態だという。

また、臼井さんは下仁田町と長野県佐久市にまたがる
荒船山(一、四二二メートル)に向かったとみられ、
両県警が捜索したが、手掛かりはなく、入山届も出ていないという。

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ごめんよ
いらっしゃい
ずいぶん混んでんな
申し訳ありません、合い席でお願いいたします


ここ、いいかい
どうぞ、どうぞ
親分さん、いつものでよござんすか
ああ、いいぜ、あては適当に見繕ってくれ

親分さん、お近づきのしるしにまあ一杯どうぞ
お、有難とよ
親分さん、てダルマの親分さんですかい
ああそうだよ、おめえは
申し遅れました手前は彦十と申します
へい、お待ち
旨そうだな、なんだい
茄子のそぼろ餡かけ南蛮風味で
彦十さんもつつきな
ありがとうございます

親分さん
なんだよ、耳がくすぐってぇ
この彦十てのは酒癖がわるいから気をつけてくだせえよ
暴れんのか
いえ、ぐちの彦十といって酔うと延々とぐちるんで
暴れたり騒いだりしなきゃ気にしねえよ
ならいいんですがね

おう、彦十さんとやら、一杯いきねえ
あ、ありがとうぞんじやす
彦十さんのなりわいはなんだね
座付きの芝居作者で
彦十てな名は聞かないな
ほうぼうていこじゅうろうが台本作者名ですからね
「蜂虻亭虎十朗」と書きやす
あぶはち取らずの洒落か
そうで
うん、もう一杯どうでい
へい、どうも。
で、どんなの書いてんだい、人情物かい
いえいえ、瓦版をあちこちつないだり色づけしたりしてるだけで
ではご返杯


でね、親分。あっしゃね今度のあれが、殺しだったらなぁって
物騒だな、あれってどれだ
蝋筆屋慎之介、ご存知でしょう
ああ、三十年前の名子役だ。今でも人気だそうだが
その親父が死んじゃった
ああ、知ってるよ
あれがね、あれがね、ただ足を踏み違えたんじゃなくて
誰かに突き落とされたんだったらなあって
ねえ、親分。そうでしょう。

そうでしょうって、ありゃ事故だ。九分九厘間違えねえ。
じゃあ残りの一厘。ありゃ殺しだと言ってくださいよぉ、親父ぃ、も一本。

なんだって殺しにしたがるんだ
そりゃ、芝居にするからですよぉ「荒船山殺人事件」
はあ
蝋筆屋慎之介の親父が行き方知れずになって
荒船山の断崖下で死んでいたって瓦版、あれが出る前に、
座長に言っちまった
次は「荒船山殺人事件」ですぜって

いいじゃねえか、別の話にすりゃ
だって筋もできちゃいないのにチラシを撒くんだもの、ささ、親分、
もう一杯どうぞ。親父ぃ、食い物も持ってきてくれぃ
ね、親分、この彦十、いやさ蜂虻亭虎十朗の窮状を助けると思って
さっきも言ったけど
残りの一厘。ありゃ殺しだと言ってくださいよぉ

おや、親分じゃないか。
何だい。荒船山の話かい?
あれはびっくりしたけどさあ、だって、おりしも映画のオープンに合せてだしねえ。
だけど、前から思ってはいたんだよ。
よく中高年ハイカーって1人で山とかのぼっちまうじゃないか。
山歩いてると、良く見かけるんだよねえ。
誰かと一緒だと自分のペースで行けないしっていうのって、あるとは思うよ。
でも、危ないよ。

でもさあ、殺しって方が、おもしろそうじゃないか。
親分さんの見当、聞かしておくれよ。
あ、ちょっと、
あたしには、カシスオレンジ、たのむよ。

あー、びっくりした。いつ来たんだい、すずめの師匠。
だからぁ、九分九厘、ありゃあやまちだって言ってるじゃねえか。

それでよ、「荒船山殺人事件」てな題名だろよ
中身が違ってかまうこたない
蝋筆屋慎之介の親父を無理に持ってくるこたなかろう

そりゃね、一ト月前ならそれで良かったでがしょう
けれど、けれどですぜ
いま、荒船山って興行打ったら、みんな慎之介の親父と思っちまう
これからずっと、未来永劫、荒船山なら慎之介だ

おおげさな野郎だ

これがね東京広報座ならねこんな苦労はしやしない。
一枚看板の舟腰英一郎が出てくりゃね

舟腰英一郎と言や
親父が悶路屋のおいらん毬鈴太夫の腰を揉んだ

いえそれゃ違います

なにが違う、毬鈴太夫が横になるときゃ
斜寝の五番だけを身につけるだけとか
いい目みやがって

あの、舟腰英一郎の親父は英二郎で、腰を揉んだのは浪腰徳次郎
縁もゆかりもねえ赤の他人で

あぁ、そうなのか

へえ、そうですよ、この英一郎。またの名を崖っぷち英一郎
英一郎ってのはどんな山でもみんな伊豆の山にしちまう

あ、俺にもその樫酢蜜柑とやらくんな

そんでもって土田だか戸田か知らねえが漁村の近くの海っぺりの崖で

なんだぁ、酢だ蜜柑だってぇから酸っぱいのかと思ぇゃ

もう逃げられんぞ、とか、ばかな真似はするなとか

うん、こりゃなかなかいける。ちょっと弱いがな

いっつもおんなじ展開で

こりゃなんだ
桜桃よ、知らないの

あれじゃあ伊豆ってのは殺しの下手人の産地かぁ

こんなでかくて甘いのは知らねえぞ
産地って奥州は米沢藩あたりらしいわよ

ええぃ、親分。ちゃんと聞いてくださいよぉ

あんな台本ばっかりじゃ伊豆の女がかわいそうだ
おい、ねえちゃん。里はどこでぇ
あーいー、伊豆は天城の向こう戸田の湊にござりますぅ
なんだって江戸へ出てきたんだぇ
あーいー、父も母も亡くなってー、腹違いの姉さんをぉ
うむ、姉さんを
尋ねて江戸に出てきたものの、ところも顔もわからずに
なるほど、ここの旦那に拾われたと
あーいー
旦那がお前に色目を使い、
あーいー
ところが旦那の囲い者が生き別れの姉さんとわかった
あーいー
旦那が殺され姉さんは行き方知れず
あーいー
よーしわかった。亀さん伊豆にとぶぜ

なに、このひと
うん、ぐちの彦十といってな、芝居の台本書きだそうだ
ふーん

毎度毎度、下手人が伊豆の女で
ちったあ英一郎が来る前に身投げでもしてりゃいいものを
戸田の崖っぷちで泣いてばかりよ。あーつまんね

親分はなに呑んでんの
俺ゃ白浪の湯割り
芋焼酎かぁ、でも白浪なら似合ってるわよ

だから、うちじゃ伊豆じゃねえ別んところで出し物しようって

あたいももらおうかな
おっとすずめの師匠、そりゃいけねえ

銚子の湊のすぐそばの

なんでよ
女にゃちょっと強すぎら

その名も高き屏風ヶ浦は

こっちにしな、血まみれ毬屋。名前は恐ろしげだが
赤茄子絞り汁で割ってある、これなら大丈夫。

高さ百尺二百尺、すっぱり切り立つ断崖がぁ三里も続く名勝で
夜が明け朝日の射す時にゃ

なーにが大丈夫なんだか、うまいこといって、
血まみれくらい知ってるわよ

黄金に輝くその景色、天下に二つと無きところ

ふん、そうかぇ
もひとつの名前もね。し・た・ご・こ・ろ

なのによぉ、座長がそこはいけねえって

ちょいと親分、
呑みすぎじゃないかい?
おや、赤茄子
よっぱらったらボケ茄子になっちまいそうだねえ。
やっぱし、ピーチツリーフィズにしとくよ。

ねじ回しはどうよ、蜜柑の味だぜ

おまけに三角ブロック敷き詰めて波の浸食を抑えるってよ
景色をぶっ壊してるって言いやがった

だーめ、見え透いてるのとしつこいのは嫌われるわよ

だったら、荒船山ならどうだろと

わかったわかった。もう言わねえ

そこに降って湧いた慎之介の親父だ
いや降って落ちた親父か
ねえ親分、聞いてます?

ん、あー、聞いてるよ、慎之介の親父だろ

だから、ありゃ殺しだと、親分さんならお見通しでしょっと

しつこいねぇ、嫌われるよ

嫌われたっていいんです、あたしゃ筋立てができりゃ

困ったやろうだ、しょうがないねえ

じゃ、やっぱり殺しで

うん。 そうこなくっちゃ。
それじゃ、親分さんの見当、聞かせておくれよ。
あたしゃ、自分で飛び降りたんだと思うがなあ

自死ってのはあるかもしんねえ、だが俺の見立てじゃ九分九厘

そこをなんとか、ねえ親分
うーん、えろうワクワクしまんな、続きはどんなんでしゃろな

あらら、雁金のご隠居まで聞いてたのかい
しょうがねえな、ホントに

いいかい、
くどいようだが俺っちは九分九厘、あやまって足滑らかした、だ
これから話すことはでたらめだと思ってくんねぇ

先月の十三日だったか、与力の大島さまから話があった
蝋筆屋の慎之介の親父の儀之介が行き方知れずだ
家族の話だと上野の国の山に向かったきりだから
まず、こっちには関係あるまいが、気にしておけ、とね

で、十六日には向こう、荒船山でおろくが見っかって
誰も落ちるとこは見ちゃいないが
履物をそろえて脱いでるわけじゃない
争ったような跡もない
刺し傷切り傷もない
おまけに、蝋筆絵の崖下の描き掛けが見つかった
で、こりゃ下を見ながら絵を描いていて
足を滑らかして落っこったに違いない、でチョン、よ

ところが・・でしょ

うむ、十一日には荒船山に、もう居たはずなんだが
十二日と十三日に軽井沢だか下仁田に居たらしいと噂がある
行き方知れずが届けられたのが十二日だから
ずいぶん気の早い届けかもしれん
これも噂のうちだが
ばばあとかかあが不仲で板ばさみになってたとか
すずめの師匠が言ったように
遺産は大きいから誰がそれを継ぐんだとか

まあ、煙の出そうな噂はいっぱいあるってことよ

さて、だ。十一日にゃ荒船山にいてそこで死んだはず
ところが、十二日、十三日に別のところに居たらしい
こりゃ関八州見回り役さまんとこの手下が言ってる話だ
本人を見かけたわけじゃねえが
墨硯、無地の紙なんぞの持ち物が置いてあったらしい
だがおろくの落ちてた近くから墨硯描きかけの絵が見っかった
十一日に荒船山で死んだやつが
次の日に軽井沢くんだりに出歩くわきゃ無え
そこがおかしな話よ

そやったら、親分さん。こーゆうことでっしゃろ
十三日か十四日に軽井沢で棒か石っころでガツーン
でよっこらよっこらと荒船山まで運んでってポイ

あー、やっと一厘が見えてきた
うれしいから、もう一杯どうぞ、親分

はは、雁金のとっつぁんは箱根の関の向こうの出だから
知らねえのも無理ねえが
荒船山は人ひとり背負って登れるとこじゃねえよ
もひとつ言っとくが
十一日に死んだのはまず間違えねえ
血の固まり具合、腐り具合、虫の湧き具合からよ

おっとすまねえ、酒がまずくなる
おおい、俺のおごりだからみんなに一杯ずつまわしてくんな

だからよ、突き落とされたか足踏み外したか、どっちにしろ
十一日にゃ儀之助は死んでんだ

じゃ、軽井沢にいたのは誰よ、偽者?替え玉?見間違い?

そう急かすない

見も知らねえ赤の他人を理由もなく殺すってのが
無え、とはいわねえが
大概、殺しってのは色金恨みだ

儀之介は近所の話じゃまじめ一辺倒。慎之介が奔放なのにくらべりゃ
これが親子かってくらいだそうだ
浮いた話ひとつありゃしない。
もっとも、まじめに見える奴ほど助平だってのもあるが
こっちの調べじゃ色恋沙汰は無え

律儀なやつでおとなしいから、ひとから恨みをかってそうなこともない

後は金だが、慎之介のおかげで大金持ちにはなってる
だが、出かける時に大金を持って出たわけじゃない
おまけに、ふところには財布が小判入りで残ってた
要するに、他人に命を狙われる理由がねえのよ

じゃあ、

じゃあ、家んなかだ。
妾なんぞいねえから、色の線はない
ばばあとかかあがひどい不仲で憎みあってるてえそうだが
それじゃ殺す相手が違うだろう
金がからむかっていゃあ、そりゃ大金はある
だが慎之介の芝居の台本や、あの奔放な言動も
儀之介が考えついて指図してたってことだ
つまり大金を稼いでるのは実は儀之介だ
そんな金づるを殺す奴ぁいねえよ

じゃ、じゃ、殺しじゃなくてやっぱり自分で飛び降りた

まあ、待ちねえ
行き方知れずの届けが出て、すぐ、姑と女房の不仲は知れた
おまけに大金を稼ぐ野郎だ、何が出てきてもおかしかねえから
姑と女房には張り込みをつけた
十五日にそれらしいおろくが見つかるまで家にこもりっぱなしよ

十二日に軽井沢、十三日に下仁田
死んでるはずの儀之介の墨硯紙なんかを見た奴がいる
本人を見た奴はいねえ
死んだ儀之介の持ち物を運んで置いた奴がいるのさ

誰、それ

今まで、長々としゃべったが、ひとりだけ
所在のわからねえ奴がいる。気がついたかい


し・ん・の・す・け

そうだ

ええーっ、だって、金づるを殺す奴はいないって言ったじゃない
慎之介が稼いでるんじゃなくて儀之介が稼いでるって

儀之介の墨硯紙を持ち歩けるのは慎之介だけよ
ばばあもかかあも監視つきだ、だから無理よ

墨硯、無地の紙が見られてるだろ、紙ってのは画帳よ
死んだ儀之介の近くに落ちてた画帳には崖下の描きかけがあった
だがそれは描かれた一番あとの絵さ
画帳の一枚目には別の絵が描いてある

慎之介はおやじの予備の墨硯、画帳を持っていったのさ
で行く先々でこれみよがしに置いておく
筆箱には誰でも知ってる慎之介の似姿がでっかく描いてあるが
しんのすけ、じゃなくて「ぎのすけ」と名前が書いてある
おやっ、と誰でも思うし忘れやしねえ

なんで、なんでそんなことをしなきゃならないのよ

そりゃ、十三日までは儀之介が生きてたことにしたいからさ
おっかあとばあさまに嫌疑がかからねえように

そんなぁ

慎之介の何からなにまで儀之介の指図だった、てのはさっき言ったな
その慎之介ももう三十越えた男だ
かといって、一本立ちするにゃあまりにも子役が身に染まってる
座長も慎之介に別の役を振るこたねえ
慎之介は子役だ、てのが、もう客も役者にも染みとおってんのさ

ところで、このごろの蝋筆屋の出し物はけっこう殺伐としてて
ばたばた死人がでる
芝居の中の慎之介の大事な古い友だちまで死んでやがる
このまま行きゃ常役は慎之介だけになるいきおいだ

親父の儀之介は、そろそろ芝居の「慎之介」をお仕舞にしたかったのさ
もちろん、親が子を見放すこたぁねえ
大人になった「慎之介」を考えてたんだろう

だが、当の慎之介にとっちゃそうじゃなかった
慎之介は「慎之介」でしかないし、他の自分を演じられるわけでもない
「慎之介」がお仕舞になったら生きてゆけないと思いつめたのさ

だから「慎之介」をお仕舞にしようとする儀之介を
先にお仕舞にしちまった、というわけさ
そうすりゃ、いつまでも「慎之介」でいられるもんな

そ、そんなぁ

だがね、証拠が無え

軽井沢や下仁田に慎之介が行ってたとしてもだ
おやじの行きそうなところを探していた
孝行な息子だってことよ

八州見回り役もこっちの与力の大島さまも
足を滑らせての事故だってことになったんだから
これ以上の詮索はしないのさ

彦十さんよ、話になったかい

だめですよぉ、そんなぁ、息子の慎之介が下手人なんて
うちの芝居にそんなのかけたら
向こうの座長や贔屓の客がおいらを殺しに来るにきまってる

ま、そういうことだから
みんな、この話は手前の胸んなかだけに収めて
内緒ってことにしといてくれ
おやじぃ、俺のおごりでみんなにもう一杯振舞ってくんな
口止め料だぜ

--完--

コメント(1)

ちょっとぉ、親分さん
なぁにが九分九厘、足を滑らかしたよ、嘘つき!

俺は別に嘘なんかついちゃいねえよ
九分九厘てのは一割にも足りねえだろ
九割は足を滑らしちゃいねえってことよ

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