「ジャン・ルノワールは世界最大の映画作家だ─これは客観的な分析や研究による結論ではなく、わたしの─わたしもまた映画を作る人間としての─個人的な直感である。しかしながら、これはわたしだけの偏見ではなく、他の多くの映画作家がいだいている直感でもある。ところで、直感といえば、ジャン・ルノワールこそ、直感の映画作家ではなかろうか?」以下は『素晴らしき放浪者』とミシェル・シモンについて「ミシェル・シモンは、おそらく、最もジャン・ルノワール好みの俳優であった。「ミシェル・シモンの顔はギリシャ悲劇の仮面のようにすばらしい」とルノワールは言った。『牝犬』を見れば、まさにそのとおりであることが確認できるだろう。だが『素晴らしき放浪者』では、このミシェル・シモンが喜劇を演じ、しかもふつうならば単にちょっと滑稽でしかないものが、ひとたび彼によって演じられると、見事に、神話的な典型にまで高められるのである。『素晴らしき放浪者』には、およそ笑いを巻き起こすものについてのありとあらゆる形容詞があてはまる─滑稽、お道化、オトボケ、ひょうきん、ドタバタ、奇妙奇天烈。放浪の詩─それがこの映画だ。一つの階級にだけ安住することなく、もうひとつの階級に自由に移り住みたいというこころの昂揚、自然の、あるがままの、気儘な生き方をすること。この映画の主人公のブーデュという放浪者は、いうなればヒッピーという言葉が生まれる以前のヒッピーであったのだ。ルネ・フォーショワの原作がありきたりの卑属なヴォードヴィル芝居であったので、それだけいっそう、この映画のできばえにはおどろくべきものがある。」
フランソワ・トリュフォー
「アタラント号」L'Atalante 1934/France/89min
製作●J・L・ヌーネズ/ゴーモン 監督●ジャン・ヴィゴ 撮影●ボリス・カウフマン
音楽●モーリス・ジョベール 撮影助手●ルイ・ベルジェ、ジャン・ポール・オルフェン
原案●ジャン・ギネー 脚本・台詞●ジャン・ヴィゴ、アルベール・レイラ
唄・作詞●シャルル・ゴールドブラット 美術●フランス・ジュールダン
編集●ルイ・シャヴァンス
出演●ジャン・ダステ(ジャン)、ディタ・パルロ(ジュリエット)、ミシェル・シモン(ジュール親爺) ルイ・ルフェーブル(少年水夫)、ルネ・ブレッシュ、プレヴェール兄弟
■ジャン・ヴィゴの4作目で長編第1作にして遺作でもある。船を舞台にした映画の中でも『キートンの蒸気船』やジョン・フォードの『周遊する蒸気船』とともに映画史上の最高傑作の一本。ジャン・ルノワールの処女作『水の娘』の影響も強く見られる。この映画史上の傑作は日本ではながらく未公開のままであったがシネクラブでの上映は時々行われていた。
■主演は『新学期・操行ゼロ』で生徒たちに愛されていたあのユゲ先生役のジャン・ダステ。そしてジャン・ルノワールの『素晴らしき放浪者』でのブーデュ役の延長にあるようなジュールを演じるミシェル・シモンに加えルノワールの『大いなる幻影』でジャン・ギャバンを助けるドイツの女を演じるディタ・パルロ。加えて『新学期・操行ゼロ』のコーサを演じたルイ・ルフェーブルが少年水夫として登場するのは見逃せない。
■製作当時は配給会社ゴーモンの要請で当時ヒットしていたC・A・Bixioのシャンソン「LE CHALAND QUI PASSE」を挿入し同タイトルで1934年4月24日に初上映、同年9月に公開されたが、その後忘れられ、「呪われた映画」の一本となっていた。
しかし1990年にカットされていた合計12分のシーンを加え、ヴィゴの意思に近い形に修復されカンヌ映画祭で上映された。
■本作撮影中すでにヴィゴの肺結核はかなり悪化いた。そして本作の撮影を終え1934年の10月5日に「Lourdes」「Lignes de la Main」「Chauvinisme」「Au Caf(カフェにて)」という4本のオリジナル脚本と他の脚本家によって書かれた8本の企画「L'Evad du Bagne」「L'Execution de Marin縦he 」「Le Timide Qui Prend Feu」「Matine(昼興行)」「La D仔sse」「L'Inventeur」「M.Evariste」「Si On Paritait」を残して亡くなった。