■Introduction 〜再結成ツアーの最初のリハから、約1年後までを克明に描くドキュメンタリー〜「あれはつらい解散だったから、再結成はおよそ有り得ない出来事だった」と監督のマシュー・ガルキンは語る。「ドキュメンタリーのフィルムメイカーとして、我々は再結成を果たしたこのバンドには語られるべき要素、探求する要素があると確信した。当時の音を取り戻せるのか、彼らはうまくやっていけるのか、あのテンションと創造的論争は甦るのか」。通常あまり取材に応じないピクシーズだが、この映画のために、撮影を承諾。スタッフはアーティストとしての彼らと、彼らの家族、ファン、友人との関係性、そしてステージでの4人による化学反応とも言えるダイナミックさを描くことに成功した。その映像にはメンバー間のテンション、ツアーバンドの生活などが詳細に記録されている。 〜結成と熱狂と解散〜 “ピクシーズは1986年ボストンで結成され、パンクとギターロック、ポップとサーフロックのリフにメロディックなフックをミックスしたサウンドと、フロントマンのブラック・フランシス(旧チャールズ・トンプソン、別名フランク・ブラック)が書く宗教、UFO、形而上学を題材にした奇妙な歌詞で、瞬く間にカルト的な人気と評論家の賛辞を獲得した。6年間の活動の中、イギリスの4ADレーベルにて5枚のアルバム(1枚はミニ・アルバム)を発表、小さなクラブからヨーロッパの巨大なフェスティバルまで絶え間ないツアーを展開し、ファン、ミュージシャン仲間、評論家と信奉者を増やしていった。しかし終りは突然やってくる。衝突を避けたブラック・フランシスはファックスでバンドを解散させたのだった。 その頃にはピクシーズの人気、影響は否定のしようのないほど広がっていた。U2のボノは”史上最高のアメリカのバンド”と語り、デヴィッド・ボウイは”80年代を通しての最高の音楽”と語った。ニルヴァーナのカート・コバーンはピクシーズの1stアルバム『サーファー・ローザ』が80年代で一番好きなアルバムと語り、そしてニルヴァーナの大ヒット曲”Smells Like Teen Spirit”を書いた時、”ピクシーズの真似をしたんだ”と告白した。 〜再結成と静寂と現在〜 その後12年間の空白期間も、ピクシーズの伝説と神話は衰えるどころかさらに膨れ上がり、2004年初頭に再結成ツアーが発表された際には、ツアーのチケットは即完売となった。ファンの馬鹿騒ぎとメディアの熱狂(ニューズウィーク誌はバンドのウォーム・アップ・ツァーの初日について“これぞピクシーズの音……すべての人を圧倒……1日とて手を抜くことのないバンドの完璧なプレイ。”と記している)をよそに、ブラック、ベーシストのキム・ディール、ギターのジョーイ・サンティアゴ、ドラムのデヴィッド・ラヴァリングは冷静を装っているように見えた。 「バンドは撮影中我々にすべてをさらけだしてくれた。この映画を観てくれる観客は同じフィーリングを持ってもらえると思う」監督は語った。 〜化学反応を媒介するダニエル・ラノワの音響〜 U2、ピーター・ゲイブリエル、ボブ・ディラン、ウィリー・ネルソン、エミルー・ハリスなどを手掛けたプロデューサー、ダニエル・ラノワが本作のオリジナル・スコアを担当する。80年代、ブライアン・イーノに見出されたラノワは、数々のビッグネームたちとの仕事を通して、フランス系カナダ人という自らのルーツとその広がりを、独自のアンビエント・サウンドの中に発酵させてきた。その静かで濃厚な音楽の持つ時の流れが、決して口数が多いわけではないメンバーたちのプライヴェートな静かな佇まいを雄弁に物語っている。まさに「クァイエット」であるが故の「ラウド」なサウンド。そしてそれは、メンバー間の微妙な緊張と愛と憎悪を融合させ、ステージ上での彼らの化学反応に向けての土壌を、見事に作りあげている。
■ピクシーズ(THE PIXIES)Profile バンド結成は1986年。ボストンで、大学を中退したチャールズ・トンプソン(後にブラック・フランシス/Vo., G)が同級生でルームメイトでもあったジョーイ・サンチャゴ(G)を誘ったのがきっかけ。ふたりは地元紙に〈ハスカー・ドゥとピーター、ポール&マリーが好きなメンバー求む〉と募集広告を掲載。それに応募してきたのが、キム・ディール(B)とデヴィッド・ラヴァリング(Dr.)だった。 1987年、デモ・テープがイギリスの4ADレーベルの主宰者アイヴォの目にとまり、ミニ・アルバム『COME ON PILGRIM』をリリース。翌年にはフル・アルバム『サーファー・ローザ』を、ビッグ・ブラックやレイプマンのバンド・リーダーでもあり、ニルヴァーナの『イン・ユーテロ』やモグワイなどのプロデューサーとしても知られるスティーヴ・アルビニのプロデュースで発表した。同年、初のヨーロッパ・ツアーも行う。 1989年にリリースされたセカンド・アルバム『ドリトル』はイギリスのインディー・チャート、およびアメリカのカレッジ・チャートで1位を記録、アメリカでもようやく本国盤がリリースされる。翌年には、大ヒットシングル”Dig for Fire”を収録したサード・アルバム『ボサノバ』を発表、その後のツアーも大成功を収めるが、メンバー間の不和が噂され始める。キムがスローイング・ミュージズのタニヤ・ドネリーと結成したブリーダーズの活動を始めたのもこの頃である。 そして91年、第1期ピクシーズのラスト・アルバムとなる『トゥロンプ・ル・モンド』をリリース。オジー・オズボーンの影響を受けたとも伝えられるこのアルバムは、ピクシーズの中で最もハードなアルバムとなった。同年、彼らの音楽に魅了されていたU2のワールド・ツアーのオープニング・アクトを務め、バンドはさらに大きな飛躍を期待されたが、バンド内の不協和音は増幅して、翌年のラジオ番組での突然の解散発表となった。 解散後、フランシスはブラック・フランクとしてソロ活動、キムはブリーダーズ、Ampsでのバンド活動など、それぞれの道を進んでいたが、2004年2月に再結成を正式表明。すぐに国内ツアーを始め、初夏にはヨーロッパ・ツアー、そして夏にはフジロック・フェスティバルにも登場して、多くのファンを湧かせた。 2004年5月に行われたコーチェラ・フェスティバルで、ピクシーズと同じステージに立ったレディオヘッドのトム・ヨークは、そのステージで、「ピクシーズとR.E.M.が僕の人生を変えたんだ」と語ったという。
■本編使用楽曲: Where Is My Mind? / Hey, Here Comes Your Man / Umass / Caribou / Gouge Away / Nimrod's Son / In Heaven / Wave Of Mutilation / Something Against You / Bone Machine / Cactus, Vamos / Monkey Gone To Heaven / Iris
■スティーヴン・カンター(Steven Cantor)/監督 ニューヨークを拠点とするStick Figure Productionsの主宰者。監督、プロデュースを手がけた作品として”Bounce:Behind The Velvet Rope”, “Devil's Playground”, “Willie Nelson: Still is Still Moving”, “HBO’sFamily Bonds”、そしてまもなく公開される偉大な写真家、サリー・マンを題材としたHBO/BBC共同作品の”What Remains”(1994年のアカデミー賞短編部門にノミネートされた「血の絆:サリー・マン」の続編、)などがある。
■マシュー・ガルキン(Matthew Galkin)/監督 ガルキンのキャリアは、1995年ハンプトン・インターナショナル・フィルム・フェスティヴァルに出品したショート・ステューデント・フィルム、Man Downが最高賞を獲得した時にスタートした。2002年秋には、マーティン・スコセッシの”The Blues”シリーズの1本でアソシエイト・プロデューサーを務める。そしてStick FigureではHBOの”Family Bonds”を監督、またジョン・ランディスのIFC(インディペンデント・フィルム・チャンネル)用のTV映画、”Slasher” を 2003年に共同プロデュースした。 現在、マシュー・ガルキンは、カンターをプロデューサーに迎え、イングリッド・ニューカークと彼女の組織であるPETA(*People for the Ethical Treatment for Animals=国際的動物権利擁護団体)に関するドキュメンタリーを監督。最近ではジェイムズ・マーフィーと共にLCD Soundsystemの ”Disco Infiltrator”のミュージック・ヴィデオを制作している。
■ジャネット・ビリグ・リッチ(Janet Billig Rich)/共同製作 ジャネット・ビリグ・リッチは音楽業界で15年以上役職につく重要人物。最初の仕事はニューヨーク周辺のクラブや国内のコンサートツアーでの物販だったが、その後、キャロライン・レコードの広報兼A&Rとして、プライマス、ホワイト・ゾンビーズ、ホール&スマッシング・パンプキンズらを担当。やがてゴールド・マウンテン・エンターテインメントに加わり、ニルヴァーナ、ホール、ザ・ブリーダーズ、リサ・ローブ、ダイナソーJr.らのマネージメントを手掛ける。そしてアトランティック・レコードの最年少シニア・エグゼクティブに。アトランティック・レコードでは、A&R部門を任され、シュガー・レイ、マッチボックス20、ジュエルなどのアーティストと共に仕事をしてきた。後に、彼女は自分のマネージメント/プロダクション会社、Manage This! を起こし、様々なプロジェクトに関わる。80年代にインスパイアされたミュージカルで、今夏ラス・ヴェガスで上演された”Rock of Ages”、E!ネットワークのリサ・ローブのテレビ生番組”#1 Single”、アカデミー賞受賞映画『オー・ブラザー!』のサウンドトラックを歌ったアーティストのドキュメンタリー映画"Down from the Mountain”、ジーナ・ガーションのツアー及びテレビシリーズ”Rocked”など。現在彼女は、ルーク・ウィルソン主演の映画”Barry Munday”、マリ部のサーファー、ドリアン“ドック”パスコウィッツのドキュメンタリー・フィルム“Surfwise”他、複数のプロジェクトに関わっている。
■海外プレス評 「アンダーグラウンドの輝かしい瞬間」 Marrit Ingman, Austin Chronicle誌 「loudQUIETloudは、4人をあらゆる方向から見事に描いた。4時間心を奪われる作品」 Michael Corcoran, Austin American-Statesman誌 「そのユニークなサウンド同様、孤独と内紛で知られていた4人のミュージシャンをとらえた驚愕のドキュメンタリー」 Christy Lemire, Associated Press 「・・・必見」 Variety誌 「ロック・バンドの愛すべきポートレイト。密着したロードの場面が、90年代初期の超人気アンダーグラウンド・ロック・バンドのメンバー同士、ツアーの最中さえろくに会話もなく、またいかに彼らが成長し、もしくはしなかった、かを描いている」 The New Yorker誌 「ガルキンとカンターが描く英雄のロマンス、ピクシーズ・ストーリーは恋人達がよりを戻した冒頭からすでに運命的だ・・・結末はこのフィルムと同じく、劇的で悲しい。」 Karina Longworth, cinematical.com 「本作品のパワー、悲しみ、救い、傷。ロック・スターは成長する、彼らは成長することができる、私たちは彼らを成長させるべきだ、という最終的な真実を明らかにする」 Josh Frank, author of Fool the World:The Oral History of a Band Called Pixies 「スティーヴン・カンターとマシュー・ガルキンによる、伝説のオルタナ・ロック・バンド、ピクシーズの大成功を収めた2004年の再結成ツアーの裏を捉えたドキュメンタリー。監督のツールは、フランク・ブラックを最大限に活用し、バンドの繊細なダイナミズム、バックステージで全く人目を憚らないキム・ディールの姿、を切り取る。次々と流れるコンサートの映像は超一流」 New York Magazine誌 「・・・最も賞賛され、最も困惑するバンドの魅惑的なポートレイトに思わず引き込まれる」 Michelle Orange, The Hufflington Post誌 「爆発寸前のテンションが第一の嵐に変わる、そこでは最高の悲劇が最悪のコメディーと同時に進行し、ドラマーは正気を失い、ソロを取ることもできない。収拾のつかない小さなドキュメンタリー」 Xan Brooks, The Guardian誌(UK)