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Фaust foodコミュのФaust food 6話:絶対バランス?

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 電話の呼び出し音が鳴った後、ラビットはいつもの調子に戻って、陽気に話し始めた。

「―――」

 ミスターラビットは携帯電話に向かって何を話してるか、アキナにはあっぱりであった。

 おそらくはフランス語。外国語なら軽い中国語と英語、スペイン語の手ほどきを冬先生に教わったアキナだが、ラビットが使うハイスピードなフランス語まではまだマスターしていなかった。

 一通りの会話を済ましたのか、ラビットは電話の電源を足の親指で携帯電話をはさむように押して切り、高く上げた片足を地面に戻した。

「うちには、3人のバウンサー(用心棒)がいるんだ」

「用心棒?」

「一応、うちはナイトクラブだからな。しかも、非合法だ。どこのクラブにでもいるだろ? 酒に酔った客を止めるボディーガードだ。そのうちの一人が、リッチだ。奴は賞金稼ぎもやりながら、うちのバウンサーもやってたのさ」

 アキナはさも興味なさげに「ふーん」といった。

「そのうち、リッチの野郎はあんたにのされちまったから使えないとして、残った二人。ジャバウォックは最近うちに顔出してないから、ルナを呼ぶことにしたよ」

「ルナ……?」

 ルナとは、フランス語で「月」を意味する単語である。

 この男、ミスターラビットの母国語フランス語であるのと、さきほど連絡を取り合う際にフランス語を使っていたところから、おそらくはフランス人の確率が高いとアキナは予想した。

 それと同時に、アキナはある一つの出来事を思い出していた。

 リッチとの戦闘の後、現れたミスターラビットを護衛する巨漢二人。アロハシャツと背広姿の二人。頭部が天井に接触するほどの巨躯で、またその服の内側に蓄えられた「肉」は、ただスポーツをするだけに使用されるものならあまりに大げさに発達している。あの二人なら納得はいく。

 暴力を行使する為に鍛えられた「筋肉」を有し、また、暴力で主人を守る為に肉体に刻み込んだ「技術」をも有している可能性が高い。

 おそらくは、あの二人のどちらか。そう、アキナは考えた。

「そいつを、倒したら……チャンピオンと戦えるのだろ?」

 アキナはラビットに聞いた。先ほどのように凄みを入れていない。むしろ、これから会える相手に、楽しみすら持ってるように、声が少々弾んでいた。

「ああ、いいぜ。倒せたならな」

「わかった。で、いつやるんだ?」

「そいつはルナ本人に聞きな。オイラはただ、ルナに「オメェに挑戦したい奴がいるらしいけど、どうする?」って聞いただけさ。そしたらあいつ「こっちから連絡するから、お前は何も決めるな」ってよ」

「な?!」

 アキナは拍子抜けした。まさか、ラビットが何もかもの段取りを決めるはずではなかったのか? と。だが、一番困ったことがあったのをアキナは思い出した。

「お前、俺がフランス語を喋れないのを奴に言ったのか?」

「何で言う必要がある?」

「ば、バカ! コミュニケーションどうすんだよ!」

「スチューピッド(バカ)はどっちだ? おめぇまさかルナとお茶でもしに行くつもりかい?」

 ラビットの意見はもっともだった。確かに、相手はリッチ同様、アキナを殺害する気で挑んでくる。アキナもその相手に対し、殺す気で戦わなければ、待ってるのは「死」である。スポーツでの決着ならいざ知らず、決闘において、まともなルールは存在しない。

 ラビットが先ほど言った様に、殺し合いに「ルール」はない。

 ゆえに、相手とのコミュニケーションを取る必要など、皆無に近い。

 相手がそこにいたのなら、戦い、勝敗を決める。それだけである。

「だったら、せめて奴の特徴を教えてくれ。たとえ連絡があったとしても、オレは奴の顔も声も知らないんだ」

 最低限、これだ許されるだろう質問をアキナはラビットにぶつけた。

 が、

「悪いな。それもオメェには教えられない」

 あっさり拒否された。

「テメェ! 何もかも秘密にしたら、こっちが「不利」じゃねぇか!」

 あまりにも横暴な条件に、さすがに腹が立ったアキナが怒鳴った。しかし、ラビットはサングラス越しにアキナを睨んで、こう言った。

「当たり前じゃねぇかテメェ。ケンカ売ったのはどっちだ? テメェからだろ? オイラはオメェのオフクロじゃねぇんだ。オメェが負けるように仕向けるのもオイラの仕事の一つだ。それとも何か、オイラが味方になったとでも勘違いしたのかい? 小娘」

 アキナは黙った。

「いいか? 奇襲するのもされるのも自由だ。んなことオイラが決めることじゃない。オメェらが殺し合おうが共食いし合おうが知ったことじゃねぇよ。ただ、どっちか生き残ったらここで戦わしてやる「チャンス」を恵んでやるんだ。それに不平不評つけるんだったら、さっさと帰ってクソして寝な」

 吐き捨てるように言い放ったラビットに、アキナは眉間にシワを寄せたが、その実、ラビットのいう事全てが正論であることを改めて理解したアキナは、踵を返してその場から立ち去ろうとした。

「一つだけ、教えてやるよ」

 アキナの背中に向けて、ラビットが声を投げた。

「オメェがこれからやり合う「ルナ」は、リッチとは比較にならねぇからな。何度肝を抜かれるんじゃねぇぞ」

 アキナは振り向きもせず、ヴァルキルプスを出た。

 ヴァルキルプスの出口は、いくつかあり、そのうちの一つは、ジャンクストリートの地下に流れる下水道に繋がっている。

 真っ暗といっても過言ではないそこには、汚水と汚物が流れ、ドブネズミや昆虫が徘徊している。アキナが歩く度に、彼女がこの場所ではただ一人の人間であるのだと、壁に反響する音で認識させてくれた。

 嗚咽すら覚える下水道、そこをしばらく歩くと、アキナは立ち止まり、上を見上げた。天井に筒状に伸びた穴があり、そこから微かに光が漏れていた。

 アキナはその場で跳躍した。自分の身長の倍はあるだろう高さまで、軽々とジャンプした彼女は、筒状に伸びた穴の先に、梯子がついていて、それにしがみついたアキナは、そのまま梯子を上って、マンホールを腕で押し上げるように開けた。

 地上に出ると、周囲の建物は傷んではいるものの、青や赤などのカラフルな塗料が塗られ、壁のあっちこっちこっちにはキリル文字での落書きが目立っていた。歩いてる人間も白人ばかりである。そこはジャンクストリートの中でも北の地区、ロシアやグルジア、ギリシャなど、北欧系の異国籍外国人が住む地区の道路の一つであった。

「お、おかえりなさいませ! 姉御!」

 三人の白人が、ひきつった笑顔でアキナを出迎えた。

 トレーニングをしていたアキナに奇襲をしかけた三人であり、三人とも、顔面が痣だらけであった。

「いかがでしたか? ミスターラビットとの交渉は?」

「ああ、ここの通路使えるな。オレが前に使ってた地下道とはルートは別方角だが、ここだったらいつでもヴァルキルプスに入れる」

「左様でしたか…それはそれは」

 揉み手をする三人に、アキナはマンホールの穴から身体を全て出すと、そこに立ち、スタスタとその場から立ち去ろうと歩いた。

「どこに行くので? 姉貴」

「帰るんだよ。いつまでもこんな辛気臭い場所にいてられるか」


「そんな! せっかくオレのお袋直伝のボルシチをご馳走いようと思ったのに……」

「テメェらで勝手に食っとけよ」

 冷たくあしらうアキナに、しゅんと首をうな垂れる三人。そのうちの一人が「あの」と、遠慮しがちな声でアキナに言った。

「何だ?」

「あの、先ほどこんなものを渡されたんですけど……」

 おずおずと三人の中でも一番背の低い白人が、ポケットからくしゃくしゃになった便箋らしき薄い紙をアキナに手渡した。

「これは?」

「あ、いや。さっきそこのジジィがシャイガールに渡してくれって」

 背の低い白人が自分の後ろを指差すと、そこに帽子を被った白髪の白人の老人がベンチに座っていた。

 アキナの存在を確かめると、軽く帽子を持ち上げ、会釈した。

 それを見てアキナは、ズカズカと大股歩きで老人に歩み寄った。

「アンタ…まさかルナを知ってるのか?」

 興奮していたのか、ついアキナは日本語で聞いてしまった。

 当然ながら、老人は眼を丸くし、肩をすくませた。

「あ、オレが言いますよ」

 その横から割って入ってきたのが、三人の中で中ぐらいの白人で、ぺらぺらと老人に事情を話した。ルーマニア語だった。

 自分の知っている言語を聞き、ようやく事情を知った老人は、ルーマニア語で返事した。

「何だって?」

「どうやら、このじいさんも違う奴から渡されたみたいで、この手紙の持ち主とは直接会ってはいないそうです」

「チ」

 アキナは舌打ちし、握り締めた手紙を改めて見た。

 そこにはやはりというべきか、フランス語で文字が綴られていた。

「おい。お前フランス語わかるか?」

「フレンチっすか? 小学生の頃にチラっとだけ…」

「じゃーオレの代わりに読め。俺はわからねぇんだよ」

 バッと三人にアキナが手紙を突き渡す。おおるおそるアキナの手から手紙を受け取った三人は、中の文章を読み始めた。途中、ルーマニア語で「こうか?」とか「こういう意味だろ?」的なニュアンスの相談がされ、しばらくして、解読完了した様子で、腕を組んでつま先でパタパタと地面を叩くアキナに、「あのぉ」っと声をかけた。

「わかったのか?」

「Да(はい)。とりあえず、この渡した相手は姉御の対戦相手らいくって名前は……」

「んな事は聞いてねぇよ。そいつはオレに何をして欲しいのか、書いてないのか?」

 苛立った声で催促するアキナに、三人は焦り、ええっと手紙を読み直した。

「あ、これだ」

「で?」

「対戦場所は……南海市、グリーンタワービル。36階だそうです」

「グリーンタワービル?」

 アキナは首を三人に向き、目をむいた。

「おもいっきり、ジャンクストリートの外じゃねぇか……」

 底知れぬ謎が、アキナの中で渦巻いた。


 To be continued...

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