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戦略としてのファンタジーコミュの永遠の少年

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河合隼雄『青春の夢と遊び―内なる青春の構造』(講談社)1998年

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062562669/qid=1126108318/sr=1-1/ref=sr_1_2_1/249-0270005-5677136

第五章 別れのとき


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『フォー ウェディング』
  ― 「永遠の少年」によるお姫様救出の旅というファンタジー

Four Weddings and a Funeral (1993)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 Written by : Richard Curtis

 Directed by: Mike Newell

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000793DNA/qid=1126004975/sr=1-3/ref=sr_1_10_3/249-0270005-5677136

ヒュー・グラント主演の映画をDVDにしたものを観たのだが、あまりにも第五章で分析されている一群の作品にちかい脚本だったので、二番煎じどころか五番煎じになることを覚悟の上で著者のまねをしてストーリーをたどってみたい。

その前に、この脚本とフアンタジーとがどうつながるか私見を述べておく。ひとつは登場人物の行動につよい因果関係がみられないまま重要なプロットが展開する事。また、登場人物の性格描写や心理よりも物語の展開に重点が置かれていること。結婚をもって物語が終結すること。その他の設定が多分に昔話的であること、などをさしあたり挙げておきたい。

映画が興行的に成功した要因のひとつが、ファンタジー的要素をしのばせた寓話として男性客にもアピールした事ではなかったかと考えている。無論、主演のグラント人気が大きかったであろうことは言うまでも無い。

【主人公】

チャールズ(チャーリー)
独身。32歳。ロンドン在住。

冒頭でチャールズは、友人の結婚式に遅刻するだらしのない人物として登場する。続く結婚式でも友人の結婚指輪を忘れてきたり、ほかの結婚式でも遅刻を繰り返す。つまり、おとぎ話によくある「どこか不全な独身青年」の要素を持っている。

同時に彼には「傷つかない人」あるいは「永遠の少年」の要素がみられる。つまり、

「あちこ飛び歩いてはなやかに行動する。たくさんの事をしているようで、よく見ているとほんとうにまとまった仕事をしているわけではない。どこか途中でやめてしまうところがあるので、それに乗せられた人たちは苦労したり、傷ついたりする。」(河合 p.254)

チャールズは「あちこちの」女性とつぎつぎに付き合う「はなやか」な経歴をもっているが、どの女性にもコミットしない。つまり、「まとまった」深い関係を築かないまま次の女性との関係へとうつっていく青年である。つきあった女性はつぎのガールフレンドとのあいだで笑い話の種にされたり、友人との会話の中でひどいあだ名でよばれたりして傷つく。

また男友達にたいしても、親友の離婚を結婚祝いのスピーチのなかで笑いをとる種として披露したり、意図的でないとはいえ友人の妻の男性関係を夫に漏らして新婚の友人夫婦のあいだに波風をたてたりする、はた迷惑な男なのである。

ところが、

「ご本人はそんなのは平気で、また次の新しいアイデアを考えている、というような青年である。」p.234

気まずい状況におちいったチャールズはいちおうは神妙な顔をして見せるだけで、いかにその場を切り抜けるかしか考えていない。むしろ、チャールズは披露宴でみかけた女性キャリーに強い関心をもち、友人や女性たちの傷心をよそに彼女の気をひこうとやっきになる。

【お姫様の出現】

ヒロイン、キャリー。
美貌のアメリカ人。

つまりイギリスからみれば、あちらの世界から来た女性。彼女がこちらの世界の人間の常識では測れない人間であることは、結婚パーティのこちらの人々の会話で強調されている。

有名人としか付き合わないと噂され、のちにスコットランドという異国の城に住む富豪と不幸な結婚をする、いわばお姫様である。

このキャリーもまた「傷つかない人」であり、「永遠の少女」であるのが興味深い。 「永遠の少年」のあいては「永遠の少女」がつとめる事もありうるということだろうか。

彼女は出会ったその日にチャールズと一夜をともにし翌朝婚約をせまるが、冗談だろうというチャールズにあっさりと別れを告げてアメリカに旅だつ。つまり違う世界からきた彼女は、またすぐにあちら側の世界へと帰ってしまうのだ。

この出会いはしかし、チャールズが「永遠の少年」の原型の支配から抜け出す重要なターニングポイントになる。 主人公は慣れ親しんだ故郷のような状況から見知らぬ国のお姫様をもとめて旅立つのである。

わずか三ヵ月後、別の結婚式でチャールズに再会したキャリーは倍以上年上の富豪と婚約したことを彼に告げるが、婚約者を送りだしたすぐあとでふたたびチャールズと一夜をともにする。その後も、結婚祝いを選びにきた彼に33人の男性と付き合った経験を話して聞かせたりするが、悪びれた様子は見られない。

自身も「永遠の少女」であるキャリーについては、とっぴな行動の動機は語られず、その間の感情表現もほとんどなされないのが特徴的である。つまり彼女はリアルな人間というよりはイコンなのである。

この作品をミメシスを目指さないファンタジーというジャンル内で読み解けば、登場人物は動機が無くても行動を起こす事はなんらの差し支えももたないが、一方ではトールキンの『指輪物語』が成し遂げているように、描きだされるリアルではない世界を受け手にリアルに感じさせる描写が必要になってくる。その点は脚本もさりながら、映画という媒体の場合は監督や俳優の手腕によるところも少なくはない。結論として、キャリーの行動が視聴者に受け入れられるか否かは脚本をテキストとして読む限りでは判断できない。

キャリーの役割に話を戻そう。
ものがたりの登場人物をすべて主人公の分身としてみてみれば、キャリーは同類として、チャールズの見失われた半身ではないだろうか。現実世界に足をつけて暮らすためには、半身との結婚という儀式をとおして世界との関係を結びなおす必要があったのである。

異国からきたお姫様は、スコットランドというイギリスにとっては身近な異国の城へ嫁ぐことで再び姿を隠す。その間にチャールズは意に沿わない婚約をむすび、次のステージへと内なる旅の歩を大きくすすめていた。

ここでもお姫様の最も重要な役割は、もたらされた境遇を受容して世間の目から隔離されたところで静かに耐えて待つ事にある。同時期に主人公の青年がついに新たな決断と行動に出てゆくのとは好対照をなしている。

【死のモチーフ】

再生し生まれ変わるためには旅の途中で一度死ななければならない。本人が死に瀕するのでなければ、近しい人物が死を請け負う。

年上の友人としてチャールズたちに結婚をうながしてきたガレスがキャリーの結婚式の最中に死亡する。その弔いの日に、チャールズは彼の遺志をつぎ家庭に落ち着くことを考えはじめる。

この友人は物語論でいうところの青年に知恵を授ける老人の役割をはたすとともに、価値を転覆させるトリックスターでもある。

独身仲間の主要な一員としてチャールズと親しくしてきたガレスだが、その死に際して、実際はゲイである別の親友マシューと結婚していたも同然かあるいはそれ以上に深い結びつきを築き上げていたことに仲間たちは気づき、愕然とする。彼は自ら死ぬ事で価値が覆されるきっかけを運んできた。

【お姫様の救出】

キャリーの結婚はわずか半年で破綻するが、彼女はそれをチャールズの結婚式当日までかれに隠していた。彼女ははじめて人間的な気遣いと傷心をみせる。

ものがたりの登場人物すべては主人公の分身だとみれば、キャリーの変化はチャールズの変化でもある。お姫様は眠りから覚めようとしている。

一方で、お姫様であるキャリーを閉塞した状況から救出する、という使命はファンタジーのプロットの根幹をなし、チャールズの行動をあおり続ける。

【裏切り】

青年がある境をこえて大人になるとき、裏切りは重要なテーマである。

永遠の青年だったチャールズがその壁を乗り越えてひとりの女性にコミットしようとするときにも、裏切りがおこなわれる。

自分の結婚式で、花嫁のほかに愛している人がいると参列者と司祭の目前で認めたチャールズは、激怒した花嫁に殴られて式は混乱のうちに中止となるのである。このとき顔に傷を負って気絶したうえ親友にまで責められた彼は、はじめて相手の女性に悪い事をした、と友人たちのまえで後悔の言葉を口にするとともに、その責任を自分で負うことを宣言する。彼もまた、初めて傷を負い、意識を失うという形での象徴的な死を経験せたうえで再生する。

【遅れの神】

この式直前の重大な告白をうながしたのが、耳の聞こえない弟との手話だったことがこの物語をものがたりたらしめている。

「この重要な儀式の司祭とも言える役割を、人よりは「遅れている」と思われている兄がつとめたことは忘れてはならない。」「本来はイニシエーションが絶対者の名のもとに行われたことを考えると、オーちゃんの兄の姿を「遅れの神」の顕現をして見ることもできるように思う。」p.253

チャールズとこの弟との手話では、他の人相手に飛び出すようなその場しのぎの言い訳はみられず、つねにかれの本音や真実が語られることからも、この弟の特異な役割がうかがわれるだろう。

この二人の会話と他の会話との違いは、弟がキャリーに紹介される場面や、結婚式の日に迷い続けるチャールズに思いやりをもって対する介添え役の親友と乗り込んできた弟との位相の異なる会話によく現れている。

【癒し】

裏切りによる傷を負った青年は癒しを経験してもういちど世界との関係を結びなおす事になる。

チャールズの場合は、嵐の中を尋ねてきたキャリーに雨の中でプロポーズをする場面をへて、ひとりの女性との結婚という形を通して世界との関係をむすびなおす。雨は水や無意識、女性とかかわりがあり、癒しの場面にしばしば登場するアイテムなのである

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