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ウヰスキー蒸留所コミュのアイラ島上陸

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 イースト・ロッホェッドでの滞在はわずか12時間。早朝のフライトに合わせ、ジャネットも早起きして朝食を用意してくれた。朝が早いからとここで手抜きをしないのも、イギリス人である。そう、これぞまさに憧れの「ピクチャー・ウインドウから朝露に輝くガーデンを一望しながらいただく、フル・ブレックファーストである。信じられないぐらいビュジュアル本通りである。しぼりたてのオレンジジュース。カリカリの三角トースト。自家製ベリージャム。パンケーキ。はちみつ。良さんはベーコンエッグ。わたしはスクランブルとソーセージ。そして、たっぷりのミルクティー。
 わたしは、本の片隅にジャネットのサインをねだった。旅の想い出は、こうして自分でつくることも肝心である。
 別れ際、駆け足のわたしたちに快く付き合ってくれたジャネットにお礼がしたくて、トランクに忍ばせってあった「海苔せんべい・梅味」をひと袋、進呈した。彼女はすごーく喜んで、ハグ(熱い抱擁のことです)してくれたが、わたしたちが旅立ったあと、おせんべいを味見して、きっとまたムムと眉間にシワを寄せていることだろう。
 
 さて、当たり前のことだけれど、空港というものはローカル度合が強くなるにつれて規模も小さくなるし、チェックインカウンターも遠くなるし、飛行機自体も小型になってゆく。さらには、飛行機のタラップだって親切に空港の建物に横付けなどしてくれない。そのような状況を目の当たりにするにつれ、気分はどんどん心細くなるものなので、飛行機嫌いのひとはとくに、離島に行ってみようなどとは思わないほうが懸命である。
 アイラ島行きの飛行機は、双発のプロペラ機と聞いていたが、イメージとしては、ヘリコプターとセスナ機をたして2で割ったようなものであった。操縦席と客室はカーテン一枚で仕切られているだけである。特に腑に落ちなかったのは、約33人乗りの座席が、飛行機の真ん中で、縦に振り分けられているのではなくて、真ん中から左にずれた通路を挟んで、左に11席、右に22席、と偏って設置されていることである。新幹線ならまだしも、飛行機の座席がシメントリーでないというのは、納得がいかないものである。・・・しかしまぁ・・・きっと知らないところで、納得がいくような設計がなされているのであろう。
 双発のプロペラ機は、シースルーのエレベーターに乗っているときのような、頼りなさがあるけれど、それゆえに開放感があって、ジャンボ機などに比べて低空飛行なので、眼下には先ほど後にしてきたばかりの、バル・ロッホ湖も、イースト・ロッホェッドも確認出来た。
 わたしは飛行機嫌いではない。むしろ数ある交通機関の中で、飛行機がいちばん好きだと言える。
 映画『グラン・ブルー』の中で、主人公が深海でイルカと戯れ、導かれ、自分の呼吸の限界と、イルカへに対する憧れを秤に掛けた末、ふっと、死へと繋がる臨界線を超え、イルカについて行ってしまったように、わたしは飛行機に乗っている時、アンドレア・ボチェリ(イタリアのオペラ&ポピュラー歌手)の「君と旅立とう」なんかを聴いていると、このまま空の彼方に消えて宇宙に同化してしまうのも悪くないかも。というふうに感じるのである。(・・・逆説的に、近頃ではそんなふうに感じたくて、飛行機に乗るときは必ず彼のカセットテープを持参する)

  アイラ島には8ケ所の蒸留所があるが、経営の存続が難しくなり、様々なオーナーの手に委ねられ、その間休業、または見通しのきかない操業停止になってしまうことも、珍しいことではない。しかし、完全に潰れてしまうことが無いのは、アイラ島のウヰスキーが、強烈な個性を持った、唯一無二の産物であり、何か問題があれば、業界の中に必ず手を挙げ、保護と立て直しに乗り出す企業があるからだ。
 島に近づくと、上空からは、南の海岸線の、波飛沫(しぶき)がかかる際(きわ)に、4つの蒸留所が見て取れる。
 アイラ島のウヰスキーの個性をひとことで表すなら、熟成中、潮風に晒されることにより生まれてくるアロマに、ヨード香を感じるということである。身近なものでたとえるなら「塩蔵わかめ」の匂いである。「ヨードチンキ」みたいだ、という人もいる。いづれにしても、決していい香り、とは言い難いのに、嵌まると、ウヰスキーを飲まずとも、香りが細胞のひとつひとつに語りかけ、母なる海の懐かしさと、人間の理性とは逆の、もっとシンプルな動物性のようなものまで、呼び覚まされる。それほど壮大な感慨が、一瞬にして身体を駆け抜けるのである。
 あなただってきっと触手が動いたなら、その虜になるのは時間の問題である。

 ちょっと広めの校庭のような空港に飛行機は着陸した。荷物のためのターンテーブルもないので、ポーターの手によって待合室の片隅に並べられていく中から、自己申告で荷物を受け取る。
 レンタカー会社の女性が、わたしたちの姿を見つて、早速、書類の作成に取り掛かった。運転をするようになってからどれぐらいの年月が経つか?保険はどうするのか?てきぱきとシビアな質問攻めに合い、こんな、世界の果てのようなアイラ島にも、グローバルスタンダードな事務処理は存在するんだなぁと、小さくため息をついた。しかし、彼女の最後の一言で、やはりここは、シングル・モルトの巡礼聖地であると、強く確信した。
「アイラ島の人口は四千人ぐらいかな。ま、飲酒運転しててもね、ポリスマンは、たった、ふたりだけだから、捕まりっこないわ(ウインク)。グッド・ラック!」
むむむむ。世界は広い。世界の果てには、飲酒運転を奨励する、レンタカー会社の従業員というのも、存在するのであった。

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