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バトル仮面舞踏会コミュの45.「食うか食われるか」 牛ステーキ2008kg完食

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 今日は念願の給料日。愛用のドカヘル片手に出社すると何だか様子が変だ。
「あのーっ」
 恐る恐る声を掛ける。
「何だ?社長は夜逃げしたぞ」
 煙草を揉み消し背広姿のグラサン男が振り返る。
「え?」

 突きつけられた現実。俺の給料は……。ぐうと鳴る腹を押さえ歩き回る。金は尽きた。俺の給料は……。あああ……。

 このまま……。死ぬか……。遠のく意識。あー、腹減った。それにしても……。

 つ、冷たい!雨か?ふと目を覚ますと犬が片足上げている。かーっ!く、クソ犬がぁ。てめーっ!はあ……。腹減った。

「……と、まあ、……探してるんだが……だ」
 ぼそぼそと話す声に目を開く。少し離れた場所に屋台が出ている。
「……は一番。祭りは……な。スカッとするぜ」
 話し声が急に大きくなったのではない。俺が完全覚醒したのだ。
「勝てば牛一頭、丸焼きだ。好きなだけ殴れ好きなだけ食える。どうだ?参加してみないか?」

 スカッと?牛?殴って?食える?

 俺は犬の小便の臭いを漂わせながら屋台で酒を飲んでいる禿頭の客を覗き込んだ。
「参加する!」
 禿頭は、はぁ?と間抜けな声を出し俺を見る。
「何だ?兄ちゃんは若いのにルンペンかい?」
 屋台のオヤジがニッと笑う。ルンペン?何だそれ?

 ぐううぅ!腹が悲鳴を上げる。
「まあ、食え」
 俺は禿頭の差し出すおでん平らげた。俺は久し振りの食い物にありつけた小便臭い犬だ。俺は禿頭に寄り添い尻尾を振り続けている。俺は犬だ。俺は……。
「頼むぜ!」
 禿頭に肩を叩かれ俺は黄色いドカヘルを夜空に向かって突き出した。
「おう!」
 禿頭はにやりと笑い俺を見ている。

 祭りの朝、俺は禿頭に風呂に入るよう指示された。風呂から出ると「供物」と書かれた紙のついた新品の真新しい作業着と防寒具と長靴を渡された。使い古した黄色い俺のドカヘルがやけに薄汚い。
「頑張れよ!」
 肩を叩く禿頭に礼を言って俺は用意されたご馳走にありついた。

 ひそひそと村人の声がする。
「今年のは若いしイキが良さそうだな」
「新宿のガード下のホームレスだそうだ」
「期待出来そうだ!」
 英雄か何かになった気分だぜ。なんなら服をバリバリ破って胸の北斗七星を見せてやるところさ。

 何でも旧暦正月に伝わる古い祭りで、青竹で東西に分かれ殴り合い、その年の豊作を祈願する奇祭だと禿頭が説明した。が、そんなことは俺にはどうでも良い。スカッと殴れて牛一頭食えれば。

 会場は古い寺の前の広い畑だ。お寺の鐘が打ち鳴らされる中、明々と焚かれた篝火に大きな牛が立っているのが見えた。あれが獲物か!俺はゴクリと唾を飲み込んだ。行くぜ。我先にと勢い良く飛び出す。
「うわあああぁ」
 と、気勢が上がり青竹があちこちで振り下ろされる。
 がつんと鈍い音がして俺の振り下ろした青竹に衝撃が伝わる。よし!一人倒したぞ。
「行くぞーっ!」
 俺は先頭切って敵陣に飛び込んだ。背後から気勢を上げた仲間がついてくる。気持ち良いぜ!まるでヒーローじゃないか!

 足取り軽く背後に上がる歓声に俺はこの世の極楽を見た。

 がつん!

 重い衝撃が背後からした。薄汚れた黄色いドカヘルが真っ二つに割れ宙を舞う。

 え?

 赤い血飛沫が飛び散った。脳天に鈍痛が走る。俺は崩れ落ちるように膝をついて辛うじて堪えた。振り返れば角のついたバイキングヘルメットの男が薄笑いを浮かべている。禿頭だ。

 何だ?

 俺は暗がりにぬうと立っている禿頭を見る。

 どういう事だ?

「五穀豊穣!」
 次の瞬間に四方から青竹が振り下ろされた。ぐふぅっ!失いかける意識の中で俺は牛がにやりと笑うのを見た。

「供物はまだ生きてるぞ!牛神様、万歳!」
 村人の青竹の嵐を受けながら俺は気力で立ち上がった。
「おおお!供物が立ち上がったぞ!牛神様、万歳!」

 俺は青竹を握りしめ群がる村人を殴り飛ばし牛へと突進した。

 そういうことか!俺が供物か!

 このーっ!牛め!てっめー!食ってやる!

 俺の振り下ろした青竹は牛の脳天に見事に命中した。鈍い音と共に牛が倒れる。青ざめる村人。

 あはは!ざまーみろ!あちょちょちょちょちょーだ!ちょろいもんだ!

「お前は既に死んでいる!」

 かっかっかーっ!やってみたかったぜ!ヒーローってヤツを!気持ち良いぜ!最高だ!


 がつん!

「このバカ!何を笑ってるんだか」

 え?

 脳天への一撃で、はたと目覚める。
「あんた!一晩で一ヶ月分の給料を飲み干すとは何だい!」

 へ?牛は?夢?

 こわごわ薄目を開ける。角をぬうと出した牛、もとい鬼のような嫁が立っている。俺は這いつくばって逃げる。

 俺目掛けて箒が振り下ろされる……。



「あんたぁ!」

コメント(23)

ベタだ。
ベタだけど、分かりやすくて痛快だ。
頭の弱いワタシでも分かりやすい。
投稿者: はる☆ - 11/19 13:40

笑えました。どこまでが現実で夢なのか?痛快でした。
投稿者: シャケ弁 - 11/20 12:24


こんなリンチみたいな祭あるのかな?って思った所でバッサリ夢オチ。

すっきりした読後感。

面白かったです。
投稿者: 銀 - 11/21 01:28


一ヶ月分の給料を一晩で(笑)
一度やってみたいものです。

「あんたぁ〜。」
じゃ済まないんだろうな。
 犬が片足上げてたら「つめたく」はないだろう?
 などという部分はさておき。
 なんというか、いまひとつこの祭の図が見えてこないのです。どのくらいの人が集まっていて、どのくらい盛り上がっているのか。んで、人と人とで殴りあうのならば、牛は要らないんじゃないのか。供物である「俺」は祭においてなんの役目を果たしているのか。

 この辺の整合性は、夢の中だからどうでもいいんじゃろうか。
 夢の中だから、こう断片的なんじゃろうか。

 夢オチがタブー視されるのって、おそらくはこのへんの「なんでもあり」な感じが許されちゃうからなんだと思うの。
 うーん。
筆力は拙いが勢いがあり、楽しめて読めた!
投稿者:鳥新-11/21 22:58

 かっかっかー! 祭のシーンのやけくそになった主人公が面白かったです。このまま牛と村人とぐっちゃぐっちゃになって終わって欲しかったけど……夢オチは妙に着地がきれいでがっかりするんですよね。
投稿者:ひねもすのたり(寝袋青組?22) - 11/22 00:41

夢オチか。と、ホッとしたら、奥さんが(笑)
二段オチに笑えました。

牛より青竹より、奥さんの菷が怖いんだ。可愛いなぁ。
現実では、牛もとい嫁に敵わない……その不満が、夢に出たのでしょうか。
夢オチだけかと思いきや、なかなか。
投稿者:久遠 - 11/22 09:26

面白かったです。作者さん、明るい方ですね。
夢オチは、「チャンチャン」て感じで…。
無難ちゃ無難なんだけどね。
投稿者: ちまみぃ - 11/22 21:32

アホだ(笑)「あんた!」
箒がごーん!「ごめんなひゃい母ちゃん!」みたいな茶番がありそうだ。ポテチ片手に寝ながらアニメで見たい。
肉が食いたい食いたい食いたい食いたいでも給料使ってるよ今使ってるよ。どうしよう母ちゃんに怒られるどうしよう母ちゃんに怒られる。逃げたい逃避したいそれにしても肉が食いたい。とか思いながら寝たのかな。殴り倒せれば食ってよし!の条件で参加して、食われる側になるという悪夢。うぎゃぁぁ!と思ったときに、母ちゃんが「あんた!」
爽快だ。爽快だね。
素晴らしく清々しい。
アニメ化して!(笑)
投稿者:蔵螢 - 11/21 22:40

六郷のかまくらの竹打ちですね。
これは痛い、と思う(TVでしか観たことがないから)
ほとんどリンチです、あれは。
いやぁ、読んでて伝わった。痛みや雄々しさが。
怖い。ホラーの作品が多かったけど一番怖い。しなる竹(6m)が迫ってくるようだった。
どこからが夢でどこまでが夢だったんでしょうか。
会社の社長が夜逃げした最初から夢? そのあとから?
ちょっとわかりませんでした。
時事ネタとか社会風刺はいいけど、そこに含まれる小ネタがいちいち古いのが時代錯誤のような気がする。世紀末で時代が止まっている風なのを入れるなら、もう少し入れ方を検討してほしいかった。
さらに夢オチで、オチの叫びの使い方としては割りと好きな部類だけど、中身が……。ただ話し全体はありきたりなコメディータッチだけど、相当好きです。
投稿者: サンソン - 11/27 01:58

 いいなあ〜〜。この作品。
 勢いがあって、尚かつ笑えます。最後にベタな展開を持って来て笑いに変えるといった作り方!しかも二段落ち(笑)!
 夢の中の祭りが、とっても凶悪ですね(笑
投稿者:D・J・koby - 11/28 18:43

「今日は念願の給料日。愛用のドカヘル片手に出社すると何だか様子が変だ。」
こんな凝縮された導入、初めてだぜ。

朝起きて、「なんか夢見てたな」というので、忘れないうちになぐり書きにしたら、こんなふうになりますね。
投稿者:萩鵜-11/29 01:00

ぶっとんだお話だったのは分かりますが……夢オチですか。残念です。

 北斗神拳ネタも
>北斗七星を見せてやるところさ。
 だけでお腹いっぱいです。

 2,000文字のなかで何度も同じパロが出てくると、胸焼けがしてくるので、違うパロをちりばめるというのは手ではないでしょうか。


 ドクロちゃんやバッカーノ!など色々見て、ユーモアを磨いてみてください(汗
念願の給料日? 待望ではなくて?
犬のションベンが冷たい? いまそこから出ているのに?
挙句の果てに夢オチ?

なんか評判がいいようなので、気を取り直してもう一度読んでみようかと思ったけれど、ごめんなさい。無理でした。

読点なくて読みづらいし…。
投稿者: ゆきのしん - 12/06 07:03

 展開が早くて、中味はすごくシュールですね。ちょっと突っ走りすぎな感じが否めないです。途中からついていくのを止めようかな、と思ったところで夢オチ。
 そうかぁ。
 そうなのかぁ、うむむ。首を捻っております。

ルンペンて、なっつかしい言い方ですねw
しかし夢オチでしたか。夢オチってだけで嫌遠する方もいるかも知れませんが、内容が面白ければ全然オッケーです。
書き出しの軽いノリに対して人身御供とは、やられました。ダークなのにノリがいいから笑えてしまう。
生きた牛に対し食欲!
田祭りで殺人!
そしてバイキングの兜!ww
オチ云々よりも、オチに達するまでに充分楽しめたって感じです。
投稿者:やえこ - 12/12 19:36

勢いがありますね。この勢いは好き。
けど夢オチかぁ。
なにかちょっと勿体ないです。
でもこのタイトルはナイスですね(笑)
投稿者:はる☆ - 12/14 10:31

沢山の感想を有難うございます。

蔵蛍さんの仰るように、この祭りは、秋田県六郷のかまくらの竹打ちです。秋田県横手市の友人の行きつけの店のマスターが六郷の方で、その方から祭りの話を伺いました。しなる青竹で味方に背後から叩かれたり、外部から参加した余所者がターゲットになったりと毎年、雪の舞う深夜に繰り広げられる過酷な祭りだそうです。
祭りの後は一週間くらい頭がガンガンして体中が痛くてふらふらして夢の中にいるような気分になるんだとか。
マスターは「リンチみでぇなーまづりで、奇祭中の奇祭」と話されておりました。
一度、祭りを見に行けたらと考えています。

「食うか食われるか」は、マスターの話をもとに悪乗りして黄色いドカヘルかぶって楽しんで書きました。来年は丑年ですから、牛神様に登場して頂き祭りを盛り上げて頂きました。実際の祭りに牛は登場しません。

文中の北斗の拳話はマスターの語りのままなので、ギャグでも何でもありません。体の内側から血がたぎるんだそうです。
夢オチにした覚えはないのですが、皆さん夢オチと言われているので、そう読めたのかな?と。

さて、このお話なんですが、
会社に行ったら社長は夜逃げで給料を貰えず家に帰るに帰れず、ガード下で寝ていた男が六郷の祭りに参加する事になり、青竹で叩き合い体中痛んで腹だけは満たされてふらふらになり家に帰り着くと、そこに待っていたのは角を出した嫁で、箒(竹)でまた叩かれるんですよ。「あんたー!」チャンチャン的な乗りで書きました。無茶苦茶ですね。(笑)

いつもは書かない素材ですし仮面かぶってネイガーになりました。

読んで笑わねば、
ネイガー、豪石!
m(_ _)m


by.はる☆( ^-^)_旦〜

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