バトル仮面舞踏会コミュの42.「自分らしさという、絆〈ファッション〉」 幸福の月曜日

「……それで？」
　……こいつは何を期待してるんだ。
　なんで、そんな、お前らしくない、不安そうな目で……



「だから、言ってるだろうが。先に同類項をまとめんの」
「はあ？　何それさっき言ってないでしょ」
「いや、言ったから。いい加減人の話聞けよ」
　何故か俺は目の前の同級生とテスト勉強している。この目の前の同級生は、中々変わった考え方を持っていて、話に付き合うのは悪くない。ただ、大抵は話が噛み合わない。
「いっつも訊くけどさ」
「いっつも答えてるけど」
「何でさ、いつも左手に包帯巻いてんの？」
「…………」
　うわ、滅茶苦茶俺のことバカにした目で見てるよ。
「だって、……カッコいいでしょ！？」
「なんでためたの、今？」
「弱肉強食」
「は？」
「間違えた、強調だ」
「いやなんでその二つの単語間違えんの？」
　いつもこんな感じ。



『あ、はっはは……はっははは………………………………バカかぁ！！』
　泣きながら叫ぶあいつの顔は、今でも精神に焼き付いて、離れない。



「本当にさあ」
　一応は、忠告してやる。
「お前、リスカしてるってもっぱらの噂だぞ」
「もっぱらって何ー？」
「聞き返すとこ間違ってるから。あくまで善意から言うけど、包帯止めろよ」
「なんで？」
「いやなんでって」
「だって、カッコいいでしょ！？」
　無駄なカロリーを使っている、あ、ダイエットになるなとポジティブに考えよう。
「友達無くすぞ」
「元からいないもん」
　なんで拗ねられなきゃいけないんだ。そして今、何故俺は頭突きを喰らったんだ？
「ねーねー、なんで虹って虫に工って書くか知ってる？」
「なんで？」
「知らないから訊いてるんじゃないかぁ！」
　今度はパンチ。ツッコミいれれるやつは遠慮なくいれてやってくれ。



『嘘だろ？』
　俺はそれしか言えない。だから、叫べるお前が羨ましかったのかな。



「お前さあ」
「あぁん？」
「なんでキレられてんのか今現在最も知りたいけどそれは置いといて、進路決めた？」
「聞いて聞いて！……あのね、まだなの！！」
「はいはい」
　ここで期待するようなら、こいつとは会話出来ない。
「でもね、劇団員なりたいなぁって思う、かな」
「…………」
「何？」
「進路考えてたとは、意外過ぎる」
「バカにするなぁ！！」
　エルボー喰らった。だからなんでか、誰か教えてくれ。



　で、俺は何故かこいつと一緒に墓の前に立ってる。
「何故に何故かなの？」
「あ、独り言聞こえた？」
「絶対聞かせるために言ったでしょ、今のは」
「……だってさ」
　流石に少し、言葉を選ぶ。
「お前、墓参り一回も来たことないじゃんか」



　こいつの元親友で、俺の元カノは、三年前。手首や太ももや首筋などを切りつけて、自殺した。
　今でも理由が分からない。理不尽な自殺だった。
　こいつは叫んで、それから。『ファッション』として、包帯を巻くようになった。
　俺は泣きも叫びもしなかった。カッコ悪いというのもあるだろうが、麻痺してたのか、或いは何も感じていなかったかもしれない。



「……アメリカに行くから」
「…………」
　何でと、俺は訊かない。わかりきったことを訊くことほど、カッコ悪いことはないもんな。
「……それで？」
　……こいつは何を期待してるんだ。
　なんで、そんな、お前らしくない、不安そうな目で……
「いつ行くんだ？」
「来週」
「いつ帰ってくる？」
「わかんない。何年後だろね」
「帰ってくるのか？」
　沈黙。
「うん。私らしく、カッコよくなって帰ってくる」
「そっか」
　……初めてかも。こいつとすんなり会話できるのは。


　――そして最後かもしれない。


「じゃ、私これで」
「なあ」



　笑うこいつは、今まで見たことないほど優しい顔をしていた。
　手首には、白い包帯が丁寧に巻かれている。



「……乗り越えられたか？」
　こいつは、不安そうに、だけど力強く、何よりお前らしくカッコよく笑って。

　――そして、叫んだ。