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バトル仮面舞踏会コミュの26.「ラストチャンス」 古屋守

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 カポッカポッとヒズメの音がする。雄馬は駆(かける)の背後から元気なく歩いて来る。駆は立ち止まり振り返ると、雄馬の鼻先に顔を近づけ見上げた。雄馬は前脚を上げたまま止まる。
「馬鹿な馬め、大事な所でしくじりやがって、お前があのまま駆け抜けていれば、万馬券で優勝だったのに」
 チッと舌打ちする駆を雄馬は大きな目を見開いて睨んだ。以心伝心、言いたいことが解るか?お前は?
 雄馬は歩みを止め前脚を下ろしブルルンと嘶いた。まるで解るとでも言うかのように、雄馬は前脚を軽く折り土を掻く。
「この馬鹿が、良く聞け!競走馬が飛び越すか?普通は騎手を 蹴飛ばしてでもゴール目指すものだ。お前、次で勝てなかったら、馬刺にしてやる」
 駆は父親の口調を真似て雄馬を指差し言った。
「だそうだ。お前と歩くのも走るのも次のレースまでだ」
 駆は雄馬の鼻先を両手で挟むと左右に軽く揺すった。この危機的状況が解るか?解るなら何とかしろ!
 駆はじっと雄馬を見つめた。ほろりとこぼれた涙を拭い駆はゆっくり歩き出した。雄馬は頭を垂れ駆の後をついて行く。

「駆、客だ」
 父親の駿(しゅん)が手招きする。駆は雄馬を繋ぐと事務所へ急いだ。調教師になって五年の駆に駿は厳しい。親の仕事なんか継ぐんじゃなかったと思う事が最近になって増えた。
「あっ」
 駆は来客を見て思わず声を上げた。
「君がサクラタイセンの調教師さん?」
 ゆっくりとソファーから立ち上がったのは騎手の尾高平(おだかたいら)。先日のレースの大本命でありながら、馬同士の接触で落馬し優勝を逃した一番人気の騎手だ。
「先日はサクラタイセンに助けられましたので、今日はそのお礼に伺いました」
 尾高は深々と頭を下げた。
「え?ウチのサクラタイセンが?助けた?」
 駆は駿を見た。駿は黙っている。
「あの時、サクラタイセンは落馬した俺を見たんですよ。騎手は手綱を引く余裕もなかった。サクラタイセンは自分の判断で瞬間的に俺を飛び越した。あのまま踏まれていたら俺は大怪我だったはずです」
 尾高は頬を上気させ一気に語ると駆の手を握った。
「あいつは、それが原因で次のレースで勝てなければ馬刺になります」
 駆が溜め息混じりに言うと尾高は駿を振り返った。
「サクラタイセンが馬刺に?」
「そうです」
 駆は尾高の手を振り払うと駿を睨みつけた。このクソ親父!駆は顔色一つ変えない駿が腹立たしかった。
「それなら、俺がサクラタイセンに優勝をプレゼントしょう。次のレース、俺がサクラタイセンを勝たせますよ」
 事もなげに尾高は言い放つ。
 駆は呆気に取られて突っ立ったままだ。尾高は駿と連れ立って事務所を出て行く。駆は黙って二人の後ろを引かれて歩く馬の気分だ。

 サクラタイセンは尾高を見て前脚で二度三度と土を掻いた。
「元気かい、サクラタイセン」
 尾高は躊躇することなくサクラタイセンに顔を近づけた。サクラタイセンは大きな目を見開き駆を見た。解るならアピールしろ!この気まぐれな騎手を本気にさせてやれ!駆は心の中で呟いた。
 サクラタイセンはじっと尾高を見ている。
「良い目だね。サクラタイセン、先日は有難う。次のレース、俺と走るかい?」
 尾高の言葉にサクラタイセンは甲高く嘶いた。
「商談成立か。尾高騎手、本当に良いのか?」
 駿が心配そうに尾高を見たが、尾高は笑っている。何の気まぐれだ?だが、いいさ。いずれにせよ話題になる。尾高が自分を飛び越した馬に乗る。滑稽な話だ。
 駆はサクラタイセンを見つめ笑った。首の皮一枚繋がっただけだ。お前が勝たねば馬刺になることに変わりはない。これが、最後のチャンスだ。駆は唇を噛んだ。

 一番人気の騎手、尾高が駄馬のサクラタイセンに乗る。勝てるのか?下馬評は案の定、真っ二つに割れた。勝てば万馬券、負ければ馬刺だと言う噂が広がり、サクラタイセンに同情と興味が集まっている。
 いづれにせよ、最近、話題に乏しかった地方競馬に話題を提供する形となり馬券の売れ行きは上々である。
「尾高人気様々だな」
 駿はにやりと笑って駆を見た。駆は聞こえないふりをしてサクラタイセンの鼻面をぎゅっと抱いている。行くぞ!馬刺になりたくなかったら、しっかり走れ!駆はサクラタイセンの鼻面を軽く叩くと手綱を引いた。
「サクラタイセン!馬刺になった暁には、しっかり食ってやる から、安心して走ってこい!」
 駆はサクラタイセンに言い聞かせるように言った。いいな!勝ってこい!死ぬ気で走ってこい!
 サクラタイセンは白い歯をむき出しにして笑った。良い笑顔だ!
「時間だ。サクラタイセン。勝ちに行くぞ」
 馬上の尾高がサクラタイセンの首を優しく撫でる。

 ゴール前の混戦。観客の絶叫にも似たサクラタイセンコールと歓声が沸き起こる。駆も拳を突き出し叫ぶ。
「行けーっ」

コメント(24)

お話はきらいじゃないけど、サクラタイセン、馬刺の2単語が兎に角くどい。

もっと表現に工夫が出来たかとおもいます
投稿者:はる☆- 11/18 06:23

サクラタイセンは勝てたのでしょうか?結果が気になりました。
投稿者:ひねもすのたり- 11/18 18:54

ぐっと来ました。
競馬場の熱気と歓声が目に浮かぶような、いいラストです。
馬の事も良く調べてあるし、駆とサクラタイセンの友情も爽やかで良い。

勝ったよね。きっと。
投稿者:ちまみぃ- 11/18 19:22

すっげえ、好き。
映画化したら泣くなぁ。
投稿者:鳥新-11/20 20:08

 巧いですね〜、シンプルなストーリーですが、じんわりと心に染み入りました。
 馬刺、美味しいですよね〜(爆)
投稿者: 巳年のサンソン - 11/21 00:18

 こういうお話し大好き。
 友情は素晴らしいですねー。
 うんー。
 ネタに頼らず、サクラタイセン号の復活を描くのであれば、もっといろいろの事情を掘り下げないと物足りないなぁ、と思うのでした。もっとなんというかなぁ、2,000字で面白く出来る素材があったのではないかしら、と云うのが正直なところです。
 これを2,000字でやるのはもったいないなぁ。
馬は血統が全てといいますが、奇跡が起きるよう祈りたくなるお話です。
欲を言えば、駆とサクラタイセンの絆が判る描写が、もう少しあっても良かったかもしれません。
ちょっとありがちですが、でも映像にしたらそれでも引き込まれずにはいられない題材かと。

題材が映画やドラマのプロット向きと思いました。
まず競走馬はほとんど筋肉なので、馬刺しにするにはいったん脂肪に戻す手間が必要なため、馬刺しにはまずならないそうです。食用という目的には使われますがコンビーフとか、家畜の飼料とかですね。冗談だからそこはいい、という考えなのかな。
ネーミングセンスは面白かった。サクラ大戦やったことある身としてはニヤニヤしたし、この馬のオーナーはどんな馬鹿者(褒め言葉)なんだろうと笑ってしまう。

なんにせよ、これからマイルチャンピオンシップを見る自分としてはわくわくできました。って、これは小説とは関係ないですね。すいません。
雄馬っていう表現で続くのが違和感というより、読みにくい。そのせいでこの話にいまいち入り込めない敷居を感じた。
競馬はよく知らないけれども、地方競馬で、多少話題になって、一番人気の騎手が乗ったらそれだけで高配当っていうのは……ありうるとは思うけど、おそらく前走よりは配当下がるんじゃないかなぁと思ってみたり。本当にそうなるのか分からないけど、私のレベルの知識だとその辺で「?」ってなってしまった。あまりにさらっと出過ぎる。
いづれにせよ、だと古語かな。現代文だといずれにせよ、かと。どうでもいいですね。
このラストはすげー気に入りました。
投稿者:萩鵜-11/23 14:48

 この形で物語を終わらせるには、心の積み重ねが少ないかと思います。二千文字でそれをできるかと問われれば、難しいと答えますが……。
 この後どうなったのか!? という余韻を残したいのはわかりますが、それをやるには、切迫した描写が必要不可欠です。ですが、口文だけでそれが行われているので、どうも『まずい』と私が切迫することはありませんでした。
 二千文字で描くなら、最後はぼかさないほうがすっきりしたでしょう。

 『絶対に後がない』と思わせる事ができれば、この作品はすばらしい物になったことでしょう。
投稿者: 雉乃尾羽 - 11/24 22:14

 ストーリーがいいですね。まさにラストチャンス、ハルウララと武豊騎手なんかも、裏に似たようなやり取りがあったんだろうなぁと思いながら、なんというか、ほんわかしていました(あれはラストじゃなかったようですが)。
 少し残念なのが、全体的にあまり緊張感がないように感じたことです。ラストの歓声のシーンの活きが悪い気がしました。
投稿者:D・J・koby(man nan life) - 11/24 23:00

全体的に、文章がなあ。丁寧にはやっていると思います。手を抜いているというふうではない。ただなあ、うまくない。もっとたくさん書きましょう。

というので読むのがなかなか大変でした。

しかしそれでもよく書けていたと思います。アイデアがいい! というわけでもないのに、なんでだか内容がいいと思えたんですね。しかも競馬も知らないんですが。

作者さんはきっと、もっとうまくなります。そうしたらもっと、いい作品になる。


こういい感じのコメントで締めくくっちゃうのは、作品に引っ張られているからだと思います。そういう意味では、いいもん読んだんだなあ。
お話はよく書けています。
が、馬の描写に違和感があります。

私自身、馬と接触したことがないので、人から聞いたり書物やネットで読んだ知識しかありませんが。
そうした知識をもとに作者氏にお尋ねします。馬と直接接したことはおありですか?馬の仕種や性質について、ちゃんと調べましたか?

いわば物語の主人公の一人(一頭)であるサクラタイセンについて、適当なのではないかと疑問がわきました。
そういう雑な仕事はどうかと思います。
話自体はよくある話ではあるけれど、なんか心が温まります。

ただやはり馬刺し馬刺しと連呼されると、なんだか冷めます。
「馬刺し」という言葉はもっとピンポイントで使ったほうが効果的だし、他の表現を織り交ぜないと、単純に作者さんの語彙が乏しく見られてしまいます。

個人的にはもっと個性的な表現を用いて、競走馬の儚さなんかを表現できていれば、すごく良い作品になったんじゃないかと思います。
投稿者: ゆきのしん - 12/01 00:00

 馬刺しって単語がやけに何度も出てきたところが気になりました。
 ストーリーは嫌いじゃないです。バトカメ作品としてではなくて、もっと肉付けした短〜中編として読みたいですね。
投稿者:シャケ弁 - 12/01 19:29

えぇっ!?

サクラタイセンは最後どうなったんですか!?
投稿者: 竜胆 - 12/05 10:47

このラストが好きです。
結果は分からないけど、なんという爽やかな。

全年齢向けの良い話が書ける作者でしょう。(勝手に判断)
他の作品、今後の作品も読みたいという衝動に駆られました。
投稿者:ガミ - 12/07 19:30

駆くんの天邪鬼ぶりが良いですな。生きるか死ぬかのレース直前になってもまだ悪態をついて。でも最後の最後は本音が叫ばれる。うーん。これってツンデレ(笑)?

構成と話運びはばっちりでした。優勝を勝ち取る千載一遇のチャンスを棒に振ったサクラタイセンの真実。傍目に理解されない敗北の仕方に逆に窮地に追いやられ、助けた相手に今度は助けられる(結果は出ていませんが)。枠はしっかりはまってると思います。あとは文脈に必要な情報が揃っているかや、心情描写でしょうか。

駆のしぐさと心情がちぐはぐなのは、天邪鬼な部分を出すためかと思われますが、内面が外に出る時は「誰にも見えないように」などの言葉を挟まないと性格破綻者のように見えてしまいます。特に、失意の駆の前に尾高が現れてからの中盤。駆はサクラタイセンが何故落馬した尾高を飛び越したのかある程度まで気づいたものとして読み進めてきたのですが、尾高を助けたという事実に驚いてみたり、「そのせいで馬刺しになる」と尾高に感情をぶつけてみたり。どこか無駄に一貫性が無い。

文に情報が足りてないというのは、主語や目的語が省略されてしまう点です。冒頭で、競走馬が飛び越すか?という文句が出ていましたが、「何を?」と思ってしまった。そういった細かいところにも、もう少し時間を割いてみても良いと重います。
投稿者:やえこ - 12/12 02:11

あぁ、いいですねこの話。今までよんだ中で1番よいラストの叫びかも。
ただ前半がちょっとわかりにくいです。色々と情報がごちゃごちゃしてるような。

が、後半の展開がとってもよい感じでよんでいてワクワクしました。楽しかったです。
投稿者: はる☆ - 12/16 15:34

沢山の感想、有難うございました。そして、投票して下さった皆様、有難うございます。皆様の感想を次に生かせるように頑張ります。


さて、
「ラストチャンス」は以前、テレビの競馬中継を見ていた時に実際にあった落馬の場面です。余談ですが、バトカメ締切日に行われたレースで武豊が落馬しました。その後のレースで再度、落馬し両肩骨折した武豊の一日も早い復活を願う次第であります。

はる☆の家の近所に馬主さんがいたり市内に乗馬クラブがあったりと馬に接する機会は意外とありますね。11月中旬には青森県下北半島で生息する野生の馬「寒立馬」を見てきました。写真が寒立馬です。とても骨太のがっちりした馬でしたよ。雄々しい凛とした美しさが馬にはあります。

競馬を知らなくてもラストで「行けーっ!」と叫びたくなったり応援したくなるのはゴール前の混戦。自然に叫びたくなります。馬券の買い方すら知りませんが、はる☆もその一人です。

「サクラタイセン」はサクラ大戦から取った名前です。ゲームを御存知の方はおやっ?と思われた事でしょう。雄馬と言う表現は馬の名前を連呼したくなかった為に用いたので、♂馬と言う意味で使いました。

親子の微妙な関係もベースに置きました。父親への反発からサラブレットが馬刺にならないことを解っていながら、わざと駆に言わせました。親と同じ調教師の仕事に就いて悩む駆の姿も絡めてみました。

爽やかな読後感を持って頂けたら嬉しいです。
有難うございました。


by.はる☆( ^-^)_旦〜

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