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バトル仮面舞踏会コミュの40.「即答解決の達人」 ひとみん

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 私の師匠は広場の隅にいる。折りたたみ式の簡易椅子に腰掛け、大きめの段ボール箱を机代わりにする。そして向かい側にお客様用の椅子をセット。これが師匠の店構えだ。
 粗末ではあるが、機能としてはこれで充分。私も師匠も見てくれは気にせぬ合理主義者だし、お客様方も嫌がらずにお越しになるので問題ない。今日も開店と同時に行列ができて嬉しい悲鳴を上げる(念のため申し添えするが「嬉しい悲鳴」をもって今回のお題である「最後の一行が叫びであること」をクリアしたと言うつもりは毛頭ない。まだ最後の行ではない)。
 師匠が何をしておられるのかご存じない方々の目には、師匠が占い師のように見えるらしい。確かに街の占い師が大きな駅の近くでこのような店を構えて商売している光景はよく目にする。手相だとか人相だとかを見ているのだろうか。私は詳しくないのでよく知らない。
 師匠は占い師ではなく「アドバイザー」と自称している。お客様の相談を聞いて、それに対して格安で適切なアドバイスを行う。占いと似たようなものじゃないかと仰る向きもあろうが決定的に違うのは方法論だ。師匠は非科学的な手法を用いないし、表現が曖昧で当たらずも遠からずというような役に立たない言葉も吐かない。師匠はお客様の状況や深層心理をその眼力で見抜き、自らの人生経験に基づいて具体的かつ実践的なアドバイスをする。
 それも相談を受けるや否やたちどころに即答。回答はほとんど一言で済んでしまう。その迅速さと的確さから、師匠は「即答解決の達人」として聞こえが高い(このように書くと「この作品はもしや第8回のバトル仮面舞踏会と取り違えて応募されたのかも」と懸念される読者もおられるかもしれない。確かにそのときのテーマは「達人が登場する作品」であった。しかし、師匠が達人と呼ばれているのはそれとはまったく無関係であり、私も今回のテーマが「叫び」であることは心得ている。心配はご無用だ)。
 私はそんな師匠の仕事のお傍にお付きして、いくばくかでもその腕前を盗もうと必死で努力している見習いだ。また、私は師匠の営業中は絶えずストップウォッチを片手に持っている。これは師匠の即答解決のスピードを客観的に観察・記録するためだ。

 本日最初のお客様は中学生か高校生のようだった。
 前払いの代金(百円)を支払うなり、彼は「明日、国語のテストがあるんですけど、全然自信がないんです」と言った。
 師匠は逡巡すること一秒半、机代わりにしていたダンボールの蓋を開ける。中から眠気覚ましの栄養ドリンク(試供品)を一瓶取って、彼に差し出した。
 そして一言。「おべんきょう!」
 相談を聞き終えてからの所要時間は三秒五六。今日も変わらぬ手際の良さだ。
 今日は徹夜で勉強しなさい、という師匠のメッセージは彼の心の奥に響いただろうか。というか、こんな公園に来る暇があったら勉強しろ、と思ったのは私だけだろうか(いや、きっと違うはずだ、というこの文法は反語と呼ばれる。テストに出るかもしれない)。

 次のお客様はまだ小さな子どもだった。子犬を胸に抱いた、小学校三年生くらいの女の子だ。
「子犬を拾ったんだけど、ママが飼っちゃ駄目っていうの。でも、犬が可哀想で……」
 師匠は一言。「あずかる!」
 女の子の手から子犬を受け取った。師匠は閉店後に飼い主探しに奔走する心づもりだ。これで女の子の問題は解決した。所要時間二秒三○。

 次のお客様はどこか陰のある三十代の女性。
「半年前に主人と別れたんですが、養育費を全然振り込んでくれなくて困っているんです……。仕方なくお金を借り入れて何とかやりくりしているんですけど、雪だるま式に借金が増えていくのが目に見えています。どうにか凌ぐためにお力をお借りしたいのですけれど」
 師匠は一言。「べ、べんごし!」
 段ボール箱から法律事務所の広告を引っ張り出して、女性の手に握らせた。所要時間五秒三七。話の重さにさすがの師匠も動揺したか、広告を出すのに時間がかかり、アドバイスも噛んでいた(「弁護士」という解決方法について、「他人任せじゃないか」と指摘される方もいらっしゃるかもしれない。師匠は、確かにこのケースは自力で解決できていない。だが、それを問題視する必要はないと私は考えている。無理に問題を背負い込むのではなく、必要に応じてエキスパートに任せた方が効率的である)。

 このように、師匠はどんな種類の相談でも受け付ける。てきぱきと片付け、あっという間に行列は短くなっていく。
 最後のお客様は体の弱そうな青年だった。順番が来て腰掛けても、彼は黙っている。
 私は「どうしましたか?」と促した。すると青年は、
「しゃっくりが、ひっく、止まら」
 青年のしゃっくりは私がストップウォッチを押す前に止まった。相談を聞き終えるよりも早く、師匠の大声が公園じゅうに響き渡っていた。

コメント(23)

投稿者: はる☆ - 11/18 22:34

苦しんで書いているのか?楽しんで書いているのか?何なんでしょうか?
叫びは他にあるように感じてしまいました。
投稿者: 陸 - 11/19 01:01

個人的にめっちゃ好きです(・ω・)/
きらいじゃないけどくどい。

読むのがしんどかった……
投稿者: ひねもすのたり(寝袋青組?22) - 11/20 11:44

ああ、しゃっくりって脅かすと止まるって聞きますね。
師匠のキャラクターもさりながら、この語り部の何とも軽妙なこと。()内の注釈に笑ってしまいましたよ。
読んでいて楽しい話でした。
いいぞ、これ。
大好きです。師匠。
 (感想執筆所要時間・5秒33)
投稿者:鳥新-11/21 22:13

 ぎゃーっははは、いいよ、いいよコレ!
 文章も巧いし、途中で挿入される言い訳がましい文にも味がある。
 この文章書いたのはかなりの手足れとみた。いや、なんにせよスゴイ、尊敬!
(でも、前回の投稿予定作でしょ実は)
面白い。師匠の端的な一言が、良い味を出しています。
ただ、作者視点が入る必要が全く感じられず、余計な蛇足であるよう感じました。
投稿者: ちまみぃ - 11/22 18:06

「あずかる!」に笑った。
こうやってみたら師匠って大したことしてないじゃんね?は?最後はびっくりさせてしゃっくり止めんの?と、何となくこの物語は「下らなさ」があるかもしれない。でも、でもあると思う。どうにかして欲しい、聞いてほしい、確信が欲しい、大したことじゃないからこそ周りには言えない小さすぎる悩み。端から見たら下らない悩みでも助言が欲しいもの。誰だってそう。今晩の夕飯何にしよう?っていうのだって悩みだ。何がいい?なんて聞いたって家族はなんだっていいよって丸投げ。でもなんだっていいよが一番困る。ああ、今晩の夕飯何にしよう。もうこんな時間なのに。あわあわ。なんて主婦が師匠のところに行って「カレー」って言われたら悩みは解決される。だから、もしかしたら、あるんじゃないか。どこかの広場でこの師匠は。まだまだ見たいです。他にどんな人が悩みを言いに来て、ソレに対してどんな一言を言うのか。
私もしゃっくりを止め、て欲し、いぃ!うぃっ!
あうー。なんというか・・・評価に困るな。勢いは良し。だけどそれだけという気がします。
あとこの作品、最初で読者を挑発(というか挑戦?)していますよね。
僕はその挑戦を読んだときに「おっ!? さては相当なオチを用意しているな?」と期待するわけです。
それこそすべてがひっくり返るような大どんでん返しを。
なのに読んでみたら「あー、それだけ?」という気持ちになりました。
辛口ですいませんが、自分でハードルをあげて、自滅しちゃったなぁ、という気がします。
いちいち入る筆者による言い訳(?)が痛い。あってしかるべきものならいいけど、これは単に鬱陶しいレベルか。オチは割りとキライじゃない、むしろ好きな落とし方なのに、これに内輪ネタ的に、前回がどうだとかテーマがどうだとか説明しちゃったんだろう。つまらなくしていると思う。
あと、正確にはこれ、「叫び」じゃないような気がする(苦笑)。
投稿者: 雉乃尾羽 - 11/24 22:42

 面白い! アイデアが楽しいもので、それだけで話が作られているところが「これで勝負!」って感じがして好きです。最後の青年、長蛇の列の最後尾につくほどしゃっくりで悩んでたのか!(笑)
 ()内はちょっとくどいです。全部削るか、あるいは地の文にするかしても大した問題はないかもと思いました。
投稿者: サンソン - 11/27 01:20

 面白いですね!
 師匠最高!
 あと、語り部の適度な諄さが笑えまする。やっぱり、しゃっくりには、びっくりさせることが定番ですね(笑
投稿者: D・J・koby - 11/27 20:05

おーこれはおもしろい。ちょっとネタっぽすぎるんじゃないかというところと、括弧の中の文章がちょっとしつこいところがちょっと気になるけど。

腕の良さのわりにところどころある綻びは「力まずに書けばより楽しんでもらえるだろう」という意匠のなごりではないだろうか。美化しすぎだろうか。でも、楽しませてもらったのだからなにか言いたくなるものだ。

最後の「叫び」で、妙にリアル(漫☆画太郎的)になった師匠の顔が見られるのもうれしいサービスである。いや、それはさすがにうがちすぎかもしれない。つの丸かもしれない。
投稿者:萩鵜-11/29 00:20

 この作品ってどういう構想の下書かれたかはわかりませんので、私の言葉は無視しちゃってもかまいません。
 あくまで萩鵜の独断と偏見ですので。


 最後のオチと序盤・中盤の辛みが全く感じられませんでした。
 本作は最後の数行だけでいいのでは? と思ってしまいます。

 作品を書くならば、やはりオチに繋がる多少の伏線が前に有るべきです。
 それを付けたくないならば、前半部分を思いっきり削ってしまうのも手です。
 前半部はどうしてストップウォッチを持っているかだけでいい気がします。

起 私と師匠の説明
承 ストップウォッチを持っている理由。
転 青年の登場。異変
結 師匠のオチ

 これだけ簡潔になれば、物足りなさは感じても構成上の無駄は省けます。物足りなさに関して、如何に間延びした部分にギャグや魅力を引き出すか、それこそ腕の見せ所かと思います。

 無駄が多いというのはやはりもったいない点なので、推敲時にあらかた削って簡素にしてしまいましょう。
なんとも言えませねんえ。

やはり特徴的な()書きですが、これが微妙。
最初の()は何だって初めからこんな作者視点の注釈入れてんだろ? と冷めました。
しかし、次の()で前回のテーマについての言い訳がやはり作者視点で入ってきた時は、お、何だかユニークだぞと考えが変わりました。
その上、次の()がまちょど惜しくさえなったほどです。
しかし、3番目の()は誰の発言か分からず、またその効果も微妙。
そして最後の()はなぜか文中の「私」視点での言い訳? 
そこは作者視点で統一しろよな!
これでまた()いらね!
という評価に落ち着きました。

それ以外の内容は「行列ができて嬉しい悲鳴」を上げるほどの達人(笑)なのに全然大したことなかったり所なんか、私好みではあったんですけどね。
投稿者: 久遠 - 12/03 08:03

この作者と飲みながら話したら楽しいだろうね。
物語については、書き手としては巧いけど発展性が無いのが、ちょっと。
読んで得られる何かが無い。
電車の待ち時間にMacでコーヒー飲んでる気分だ。
オチは良かったのに、オチへ到達するまでの過程が今一つ。

それと、楽屋オチは反感を招くでしょうね。
投稿者: ゆきのしん - 12/06 06:37

 軽妙な語り口調がすごくいいですねー。読んでいて顔がにやけました。段ボール箱とか前金100円とかいちいちツボに入りますねー。カッコ付きで加えられている言い訳がましい説明もいい。前半部分が少し長いかな、とも思いましたが。

駅のホームで笑い堪えるのに苦労しました。バカっぽい。この師匠、漫画で書いて欲しい。
ただ、最後のオチが、理解するまで1.2秒。ここでつっかえた分リズムが狂ってしまった。
惜しい。
投稿者:やえこ - 12/12 18:50

なにこの作品、素敵すぎ。
好みは別れるかもしれないですが私は好きです。
投稿者: ガミ - 12/12 23:01

うるさいよ弟子!(笑)

違うな。これは多分、あの人だ。この連射式の着想。着眼点。二千字の縛りの中で余ったんだ字数。言い訳がましい注釈、実は本文より多いんじゃないですかね(笑)?まったくトンデモネェ人だ…おかげであんまりだらだら書けないじゃないですか(笑)

題名とオチの対比が秀逸。

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