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バトル仮面舞踏会コミュの『達人喫茶』 浅倉達也(婿養子)

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「――いらっしゃいませ」
 おかしな名前の喫茶店。『達人喫茶』。
 ムシャクシャしている男が一人、この名前からいちゃもんつけて憂さを晴らしてやろうと、ドアを開けたと同時に、そうマスターに迎えられた。
 しばらくすると、店の外にも聞こえるほどの大きな音がして、すぐに静まり返った。
 カランカランカラン。
 先ほどの男とは違う、若いカップルが出て行く。若いくせに、何年も連れ添った熟年夫婦のように見えた。
 その立ち去る姿を追うように、だが、それに気がついた様子もなく、また一人。このおかしな名前に喫茶店の前に、暗く幸薄そうな若い男がやってきた。

 見るからに怪しい名前だ。
 店構えは普通で何処にでもありそうではある。ただ、何処がと問われると困るのだが、諒助好みの佇まいではある。だが、あまりにも立地が悪い。喫茶店経営に興味があるわけではないが、人通りの少ない、住宅街のど真ん中。アットホームを売りにしているのかも知れないが、だったらこの名前は、悪いというよりもありえないだろう。ただ、雰囲気は諒助好みなのだ。
 怪しさよりも好奇心。閑静な住宅街に突如現れた喫茶店。しかも、諒助好み。ふられたばかりの諒助を包み込んでくれそうな優しさをかもし出している。先ほど立ち去ったカップルが今このタイミングで出てきたら、諒助は間違いなく入らなかった。時間的運も含まれていたことに、諒助自身気がついていない。そこにあった全てが、店内へと誘う腕となって、諒助を導く。入ることにした。
「いらっしゃいませ」
 漫画に出てきそうな、絵に描いたそのままの、いわゆる「喫茶店のマスター」が諒助を迎えた。ヒゲにパイプ。ちょっと無愛想な面持ち。それも含めて、諒助のイメージと寸分違わず合致する人が。
 奇異な店名に対する不信感。失恋の痛み。あるはずの躊躇いを突き抜けた、嬉しさというか喜びが諒助の中で一気に膨れ上がった。その感情が頂点まで昇りつめて、戸惑うほどの高揚が訪れた。醒め始めたころに気がついた。諒助に覚えのある経験では前例がないほどの、昂りだったのだ。
 自分自身に戸惑っている諒助を、マスターは怪訝な目で見つめていた。それに気がつき、照れ隠しのように店内を見回した。それほど広くない店で、客足が伸びるような場所であるにもかかわらず、諒助の他にも客が数組いた。思いの外人気店である。諒助には気恥ずかしさもあったので、他の客と距離をとって、隅のカウンター席を選び、腰を下ろした。
「なににいたしますか?」
「えーっと、コーヒー……ぃ?」
 メニューらしきものを探しつつも、「とりあえず、ビール」並みの感覚でコーヒーを頼もうとしたとき、カウンターの上の小さな立て看板が目に入り、言い澱んだ。
「に、にじゅうさんまんごせんえん!?」
 あまりの金額に平仮名でたどたどしく叫んでしまった。ありえない。このありえない金額に諒助は呆れるではなく、怒りに火が付き天を衝いた。怒り心頭。
 勢いのまま、マスターに食って掛かると一気になら食え突き落とされたのか宙を舞ったのか、無重力空間にいるかのごとくあしらわれ、床に突っ伏されてしまった。押さえ込まれて呆然とする諒助を、菩薩のような笑みのマスターが静かに諭した。
「お兄さん、よく見て下さい」
 崩れた四肢を起こされながら、改めてメニューを見た。235.000円「,(カンマ)」ではなく、「.(ピリオド)」が打たれている。
「元はね、『230円50銭』で、50銭はサービスさせていただきますっていう、ネタだったんですよ」
 それよりも「.」の位置をずらして「二十三万五百円」に間違われるほうが面白いと、常連客の助言で替え、それだと「230.500円」で見場が悪いからと、「235.000円」にしたのだと。
 軽くあしらわれた上に、ユーモアと受け入れられずにまんまとはまった自分自身が可哀想に思えてきた。そういえばここに来たのは失恋したからだと、追討ちをかけるように可哀想な自分を思い出してしまった。
「つまらないのよ、あなたと居ても」
 バタンと締まるドアの音と、彼女だったはずの女の、最後の台詞がリフレイン。
 四六時中楽しませることなんて芸人だって不可能だ。もちろんそういうことを言っていたのではない。四六時中、つまらなかったのだろう。事実、つまらない人間だ。こういう事態にうまい切り返しのできない人間なのだから。切り返しができないだけではない。つまらないと思われた理由は、諒助自身よく分かっている。感情表現が下手なのだ。
 表情が顔に出ないだけでなく、そもそもの感情の起伏に乏しく、口下手。なにを考えているか解らないと言われることが、つまらないと言われるよりも多く、人の輪から敬遠されがちだ。だから、「つまらない」と称した彼女でさえ、諒助には貴重な存在だった。
 これでもか、というどん底まで落ち込んだところで、諒助は自分自身がおかしくなった。ここへきてから、どうだ。
 怒涛のように様々な感情が諒助の中に溢れかえっているではないか。こんなこと、今までの記憶に、生きてきた中にあっただろうか。いや、ない。そう思い至って、諒助は自分でも気がつかないうちに口元が緩んだ。
 それを見たマスターも、口元を緩めて改めて諒助に椅子を勧めた。
「落ち着きましたか」
「ああ、すみません。一人で大騒ぎしてしまって」
 また急に恥ずかしくなって、再度他の客の視線を探ったが、相変わらず諒助を気にした風はない。あれだけ騒いだというのに。
「どうぞ。コーヒーでよろしいですか?」
 そういえばあの注文は活きていたのか。バツを悪そうにしてはみたが、カップの鳴る音が耳に心地よく響き、それと同時に香ばしい匂いが鼻をくすぐる。暖かそうな湯気が、穏やかな空気を作り上げて立ち込める。落ち着く。
 こんな小さな音ですら心に沁み渡るほど響くのに、大立ち回りした自分に意も解さない周りに、圧倒された。赤くなる顔を隠すように、諒助は慌ててカップに口をつけた。
「うまい」
 思わず口に出た。今までのこと全てを凌駕するようなうまさだ。おいしいなんてまどろっこしくて言っていられないくらいの、うまさだ。
「ありがとうございます」
 マスターは穏やかに笑っている。こんなうまいコーヒーがこの世にあったのか。むしろこのコーヒーを出してくれたマスターにこそ、「ありがとう」という言葉を受けるに相応しい。
 二百三十五円。安い。二十三万五千円はさすがに出せないが、二万三千五百円……もキツイか。二千三百五十円。これなら十分支払べき価値がある。全てを至福で包み込んでくれる、懐の深い幸せなのだから、二万三千五百円でも本当はいいのだろう。二十三万……コレは……。
「235円です」
 ふとすると、先客が御代を支払い、席を立って帰って行く。帰り際、ポンと諒助は肩を叩かれた。
「私もはじめはあんなだったよ」
 やはりというか当たり前というべきか。先ほどの立ち回りに気が付いていないわけはなかった。気がつかないほうがどうかしている。苦笑いを浮かべて見送り、出て行ったのを確認して、マスターに問うた。
「人の悪い常連さん、でしたか」
「いや、初めての客だよ」
 え? と思い改め、マスターをまじまじと見直した。マスターは相変わらず、穏やかな笑みを浮かべ、静かに話してくれた。
「君の来る、一時間くらい前かな?」
 諒助と同じように大立ち回りだった。語り終わって、人が悪そうにニヤリと笑った。諒助をおかしくなって、思わず声を出して笑った。
 あんなに達観しているように見えたのに。
 俺もあんなふうになれるだろうか? 自分への問いかけが脳裏をよぎったが、このコーヒーを飲んでいると「充分なれる」と自分自身からの返答がある。
「あ、だからですか?」
 この店の、おかしな名前。「達人喫茶」の由来。誰しもが達人のように達観できるほどのコーヒーを出す店、ということで。
 そう話すと、マスターは今までで一番、楽しそうに笑ってくれた。
「そこまで言ってくれるとは嬉しいね。でも全く違うよ」
 235.000円と同じ、シャレ。「マスターのお店」。「マスター=達人」と和訳しての、店名。
「それじゃあどの喫茶店も『達人喫茶』になりますよ」
 諒助も楽しく笑った。
 ふられたことなど遥か昔のように。彼女がいた時だって、彼女の前でだって、こんなに楽しく笑っていなかった。こんなに楽しく笑えるときが、ふられてすぐに、こんなに早くに来るなんて。
 思えばこの店に入ってから、全ての感情が頂点に達した。そんな意味では、諒助も達人といってもいい。

 カランカランカラン。
 この不思議な「達人喫茶」に、また一人、客がやってきた。今度は俺が達観を決め込んでやろう。諒助は密かに思う。
 柔和だが無愛想にも見える笑顔で、マスターは客を迎えた。
「――いらっしゃいませ」



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コメント(24)

致命的な部分が二つ。

>この名前からいちゃもんつけて憂さを晴らしてやろうと
している男はこの主人公ということでOK?
この最初の文と後に続く描写がなんともちぐはぐで、そこが引っかかってどうも作品に没頭できない。

>一気になら食え突き落とされた
これは致命的な誤変換ですね。


全体的に構成が悪いように思えました。
話の流れに脈絡や必然性が無い……とまでは言わないけれども薄い。
同じ内容のことを何度も繰り返して言われているようにも感じました。

人物の登場の仕方や、心理描写が唐突な感も否めません。

「マスター=達人」というネタなのでしょうが、暴漢をあっという間にカウンター越しに組み伏せてしまうマスターはきっと武術の達人でしょう。
投稿者:ちまみぃ - 05/19 03:56

達人=マスター。マスターの店だから、達人喫茶。うおおっ!言われなきゃ気付かない!お洒落なシャレを使うこの達人喫茶!へぇ!すごい!なんか、感激ッ。というかびっくり?
読みやすかったです。流れが、美しい。まとめが美しい。
暖かい喫茶だと思いました。
さて……さっぱり誰かわからないじょ。。。
投稿者:ひねもすのたり(寝袋青組No.22) - 05/19 08:50

武道の達人?
コーヒーの達人?
喫茶店の雰囲気の達人?
と、色々考えていたら、『マスター=達人』でしたか。
なかなか。盲点を突かれました。
暖かい話に和みます。

『,』じゃなくて『.』……。
ビバップだ(笑)
投稿者:まそほ。ツン多謝♪ - 05/19 17:04

素敵なお店…行ってみたくなりました。
投稿者:サンソン - 05/19 17:12

『230円50銭』(笑)
投稿者:シャケ弁 - 05/19 23:34

タッちゃん婿養子なんだ

暖かいですね行きつけの喫茶店で漫画がぶ読みでマスターの話殆ど無視の自分には目からウロコでした

流れも上手いと思います
投稿者:雉乃尾羽 - 05/20 20:51

 シャレの達人、と勝手に名付けます。その場の人間を和ませ、笑わせる。まさにシャレの役割を果たしています。

 最初から最後までストーリーがきれいに組まれていてよかったです。最初の大きな物音がなにげなく中盤から終わりにかけて生きてくるところとか、参考にしたいなぁと思いました。
 ラストも上手いです。諒助もきっと、あのタイミングで店を出るんですね? ニクい客ぅ〜。
投稿者:うなぎ - 05/20 22:22

さてさて、この作者の頭の中はどうなっているんだろう。(笑)
発想がなんだか突き抜けてます。文体も視点がカッチリ定まってないように見えて、その不安定さがいい雰囲気を出している。
なんかいい。なんかいいけど、なにがいいって聞かれると困る。でもなんかいい。なんか知んないけど、引き込まれる。
投稿者:蔵螢 - 05/21 00:04

人生には分岐点がある。
仕事や学校もそうだが、必然なる人物や建物との出会いもまた然り。
きっとこの主人公には、『達人喫茶』のマスターとの出逢いがそれにあたるのだろう。
『つまらない』
そう言われて振られた無口な主人公は、冷やかす程度に入った喫茶店で店で、取り乱して声を上げる。
きっとこのときに、なにかが弾け(主人公自身は気付いていない何か)、知り得たのだろう。

少し成長する主人公なんですが、もっと内面を掘り下げた方がよかったんじゃないでしょうか。
それとも、敢えて失恋のくだりは省いても差し支えなかったんじゃないかな。達人(マスターor達人喫茶)がメインなら。
投稿者:ゆきのしん - 05/21 05:58

型破りながら一応話にはなっている。けれど読みにくいという印象が先行しました。わからなくはないですが…読み手に考えさせる話というより悩ませる話?『これはこうなんですよ』と説明しているところが洗練されるとより良いんじゃないでしょうか。
 まぁ、達人ッたら「達しちゃった人」だから、そういう気分になるのかも知れぬ、などといいつつも、マスターの名前が達人(たつと)さんだったりしてな。
 でも、なんだかなぁ、「達人」ではない気がする。

 技法的な面においては、主観的な描写をコントロールできればもっと読みやすくなる、はづ。

 しかし、Gのラーメン屋もそうだけど、食い物屋の店員がタバコ吸ってるのは違和感があるなぁ。意外とそういうものなのかしら。
 客商売としては「よっぽど」だと思うけど。
話としてはいいと思います。
しかし、メリハリに欠けるので、読み飽きてしまう。
余計な描写を削って、マスターとのやり取りに終始したほうが良かったのでは。
振られた彼女とのエピソードも浮いてしまいましたね。
惜しい。
投稿者:イビコ・J・D - 05/22 00:30

うん、色々とおかしなところがありますね。文章それぞれを見てみればしっかりとしているようなのに、視点とか、時制とか、ぐちゃぐちゃです。ハッキリいってわかりづらい。
自分の好みで言うなら、わかりづらいのは別に構わないんですけど、喫茶店の落ち着いた雰囲気を出すのには、この上なく邪魔です。

きっと、落ち着いて書けなかったんでしょう。作者本来の実力を出せなかったのではないかと、そう感じました。
投稿者:久遠 - 05/23 07:51

緞慢な文章、緊張感がありません。
独特の文体というか調子のため、評価は二分されそう。
しかしそれとは別に、読んでもらうことが前提の文章での打ち損じはご法度。ダメすぎ。
やりたいことというよりも話の中でおきていることが、内容の割りに多すぎ。しかも要らない部分に文量をとりすぎて、バランスが悪い。
もっと狙いを絞り込んで、書き込んでほしかった。
投稿者:銀 - 05/24 03:39

主人公の気持ちの変化が目まぐるし過ぎる気がしました。
そして、そのどれもが根拠が弱いです。
結局最後まで感情移入出来ずに終わってしまいました。

自分を投げ飛ばした相手のコーヒー……

オイラは飲めないなぁ(-.-;)
投稿者:太郎丸-05/23 22:32

タイトルで期待してしまった分、物足りない。主人公の心の動きに深さが無い。
つまり感情移入出来ないのだ。やっぱり小説を読む時は主人公がどんな性格で
あっても、側にいるように感じられると嬉しい。
しかし、長男である上杉達也が朝倉南と結婚して、喫茶店のマスターになって
しまったとは思わなかった。
投稿者:ようこさん。-05/24 16:58

数字の問題がくどすぎて。たとえおいしいコーヒー店でも、もう行きたくない。とおもいました。
投稿者:パンダコッタ10oZ - 05/28 11:02

感想です。

作者自身が楽しんでしまって少し悪ふざけしちゃった気がします。
ボリュームをもたせようとしてふわふわになってしまった印象。

あまり関係ないのですが、作者は女性の方ですか?視点がぽかったので。

失礼します。
 タイトルとペンネーム良いなぁ。意外と大事な事ですよね。
 内容は、尻切れトンボ――というか、話はここからでしょう。現状を把握した主人公がどう動くかがドラマなんでは?
投稿者:橘内-06/12 23:49

 まず冒頭の数行。
 喫茶店を外から見ている情景が書きたかったのかな? だとすると、視点の置き方が悪い。
 『そうマスターに迎えられた』ではなく、「そうマスターに迎えられたのが、閉まっていくドアの内側から聞こえてきた」とでもするべきだし、『店の外にも聞こえるほどの大きな音がして』も「大きな音が店の音にまで響いてきて」となるべき。
 同様に『若いカップルが出て行く』ではなく「若いカップルが出てくる」となるはず(まったく見当外れだったら堪忍)。

 読書のリズムがとにかく悪い。
 誤字脱字のせいもあるけれど、「出る、行く、立つ、」などの漢字がやたら多くて硬質な文章と、接続詞を省いて短文を重ねていく文体がマッチしていないんだと思う。
 すごく個人的なのだけど、『諒助好み』『時間的運』『諒助自身気がついて』などは読みにくい。「諒助の好み」「時間的な運」「諒助自身は気がついて」のほうが読みやすいと思う。
 違っていたら申し訳ないのだけど、書き上げた後にあまり読み直していないのかな? 朗読しながら推敲することをお奨めする。絶対、劇的に読みやすくなる。

 「達人喫茶」というインパクト、場面のつなぎ方、話の転がし方とかは面白いと思うし、読後感も温かめで悪くないのだけど、コーヒーの描写が個人的にはいまひとつ。
 美味い美味いと連呼して抽象的な形容をされるより、酸味や苦味がどんなものなのか――などの具体性がほしかった(ただ、具体性をあえて省くこと手法もあるかもしれないから、私的な好みの問題として)。
 全体に、独白主体の一人称を自分のものにしきれていない印象。

 書きたいものの形は伝わってくるから、これからどんどんスマートになっていくと思う。
投稿者:とりしん-06/14 14:12

 ああ、美味しいコーヒーが飲みたい。
 そう思わせる丁寧な描写だった。
 こういう珈琲の店で漂っていたいなあ。

 235.000のくだりはちょっと邪魔な気がした。
批評してくださった皆様。
感想書いてくださった皆様。
読んで下さった全ての皆様。
本当にありがとうございます。

今度はもう少しでもいい作品をかけるように精進いたします。
浅倉達也(婿養子)こと、古森はな。

あ、mixiでは花屋まと。ですが……気にしないで下さい(苦笑)。

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