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日々こぼれ落ちる歌たち(童話)コミュの外伝「ドルイ・ド−ある意味での世界征服」

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「朽ちる前に林檎を砕け」外伝



『ドルイ・ド−ある意味での世界征服』






















研究室の中とは思えない、広々とした温室がある。
天井は建物の屋上まで吹き抜けている。

既に絶滅した種ばかりが咲き乱れている。
植物学者がここを訪れたら歓喜の悲鳴を上げて、そのまま出てこないだろう。

その古代のジャングルとも言える森は人工的に手入れされ
砂色のレンガの小道がくねくねと続いている。

巨大なオニシダの葉を手でよけながら進み、
まぶしい人工太陽灯の光に目を細める。
中央にたどり着くとそこには一本の木が生えている。


…否。

木であって木でないもの。

その幹には若い男の形が見てとれる。


だがしかし、足元は根となり地中に根付き、
その皮膚は茶と緑に彩られている。



まるで、巨木に埋め込まれた人形のようだった。










その幹の中の「彼」名前は
旧典に使われる古代語で、「死と生を司る」の意。

かつてカヤ王朝の時代に活躍した英雄キュベアイロスの生死をも
左右したという。



















ドルイ・ドの前で、木に埋め込まれた人形のような「彼」は、手・足を
木から…そして次に自由になった両手両足を使って、
背中も…樹木からひきはがす。
「さあ、時間だ。行こうか」
ドルイ・ドは「彼」を特別な部屋へと連れて行く。
「彼」が生きるための、部屋だ。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




















『兄さ〜ん!』
天使のように、愛らしい顔をした弟。小さな小さな弟。
はにかむような笑顔を浮かべていつも私の後をついて回って歩いた。

小さな村。緑の丘の上。咲き乱れる野の花を摘んで、冠にする弟。
その横で風に吹かれながら本を読みふけるのが私の至福のひと時だった。


みんなが穏やかに暮らすこの小さな村。
花とヤギと、木こりの男達。
糸をつむぐ女達。
パンの焼ける匂い。小麦畑。


そして…、丘の上の小さな泉。






泉のほとりには白い花をつける大きな木が一本立っている。




この泉は病気や怪我の治りが早くなる不思議な水がたたえられている。
しかし神性な場所として、普段は人の立ち入りが禁じられていた。
ひどく重い病人や怪我人だけが神官の付き添いのもと入れるのだった。

もっとも村の人はこの泉を敬いつつも恐れていたので、そもそも寄り付かなかったのだが。

何故か?

古い言い伝えでは、この泉は人の命ともう一つ。

死を招くこともあると言われていたからだった。




その男は小さな飛行機に乗ってやってきた。
小さな言い伝えを頼りに、閉ざされた辺境の土地へと。
男は泉の成分を解析するとその水をめぐってトラブルを起こし、あっけなく神官を殺してしまった。

そう、とある組織が彼のバックについていた。
軍事力を欲しがる戦争に弱い国がある。
国を守るためには、力がいる。
そして、その泉の成分を使えば、その小さな国にも勝運があるだろうと。

まさか、泉の水の成分が兵器の燃料の一部になるなんて。

「刃を持って人を守ることができるわけがありません!」
「フフ、奇麗事はお祈り小屋の中で吐くことだ」
これが、神官と科学者の最後のやりとり−−−。





ドルイ・ドとエルノアは丘にいた。
いつものように二人、風にそよがれていると
神官の悲鳴が聞こえた。

駆け寄った時には、白い法衣から血を流し倒れている神官の姿があった。

「いたぞ、子供だ!」
「どっちだ?!」
「ええい!人が来る!二人とも連れて行け!」

科学者の周りにいた、黒い服を着た男達が口々に叫びながら、
二人を連れさって行ったのだった。


泉は木の「主」の不在によってその神聖なる力を失う。
「不在」の間、村では助かる命が消えていくことになるだろう。










暗い地下研究所。目の前には、あの科学者がいる。

「兄さん!兄さん!」
「エルノアを離せッ」

ドルイ・ドは必死になって体を動かすが、鎖はびくともしない。
鎖で壁に貼り付けられたドルイ・ドは、目の前の男を恐れと憎しみの目でにらみ付ける。
男の横には黒い鉄の籠に入れられた弟がいるのだ。

「憎しみと殺意に満ちている。いい目だ…」
「この悪魔!神官様を返せ!」
「悪魔か…悪魔にもなりようぞ」
「?!」
「お前の村の泉の成分。その成分がより凝縮されているのがお前の弟の血液であると知っておろう?否、血ですらないがな」
「?!」
「そうかそうか、知らぬなら教えてやろう。
 お前の弟がニンゲンではないということをな」


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



泉。

この泉は神様がくださった宝物。


この泉のほとりにある、一本の木の樹液が
しみだすとき、すべての水は病を癒し、
怪我を治すだろう。



ただし、その木に知恵を授け、
人を愛する心を持たせよう。

すべては人がその木を折ることができぬように
守る為。

人が神の恩恵を踏みにじらない限り、
永遠に受け継がれるように。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



























ドルイ・ドとエルノアは気がついたらいつも一緒にいたのに。
それは丘の上の泉の近くのみだった。




「いってえ」

泉の近くで一人本を読んでいると、寝転んだ拍子に草の葉で手を切った。
したたる血をながめてぼんやりしていると、その男の子がやってきて
手をあててくれたのだ。


「なんだお前?」
「こうすればね…ほら、もう治ったでしょ?」
「あ…、すごいな、お前」
「へへッ」
微笑む男の子。
「お前この村の子?見たことないな」
「ずっとこの村にいるよ。僕の名前はエルノア」
「俺は」


「カナリア・エ−ル=ダルヒャテッド」

「かなりあえーるだるひゃ…?」
「女みたいな名前だよな。名字は、昔の読み方。今はドルイ・ドと言うらしいが俺はこっちのほうが好きだな」
「いつもここにいるね」
「このとおり泉の近くは立ち入り禁止だからな。一人になるにはもってこい」
「一人…。お父さんとお母さんは」
「神官様が今の俺の親代わり。まあそれで、ここにいるのも大目に見てくれるわけさ。村の人には内緒ってな」
「えるのあ・かなりあ…」
「ん?」
「うん!きょうだいみたい」
「んあ?!」
「ひびきが似てるでしょ」

「…


 …


 …ん?」


その時、初めて自分の名前も悪くないと思った。
私よりちょっとだけ背の小さいエルノアが弟。
背の高い私のほうが、兄。なんとたわいない理由だろうか?


エルノアの話しをすると神官様は微笑み、
私の頭を撫でてから言った。
『その子は君の兄弟になるために来たんだね。でも村の人には決して言ってはいけない。二度と弟に会えなくなってしまうからね』

私達は手をつないで遊んだ。
でも…

私が一つ一つと大きくなっても、エルノアはほとんど変わらない。
いつもまぶしいような笑顔を浮かべて笑っていた。

でも少しずつは成長している。随分、ゆっくりだ。
「まるで100年かけて大人になってくみたいだな」
「そうかもしれない」

そんな会話をしたこともあった。

夜寝床に帰る頃、エルノアはいつも白い花の木のあるほうに歩いて行った。
その先にエルノアの家があると、聞いていたのだ。

不思議に思えば良かった。魔法にかかったみたいだ。

あそこには、泉と白い花の木しかなかったはずなのに。





















−ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「もっともお前は掘り出し物だったがな。
知能指数をはかったことがあったかな?
田舎にこもっておってさぞ退屈じゃったろう」
「?」
「はっは。100年に一度生まれる天才の目だ。私が憎いか?憎むがいい。
だが、私はお前に私のすべてを授けよう。お前がどう思うとお前の中にその器がある」

エルノアの命を保障する代わりに私はその男の教育を受けることになった。
もとよりもう帰る場所もないのだ。

だが、あの男を許したわけではない。当たり前だ。
力をつけ、エルノアと二人で逃げるのだ。その日まではと耐えてきた。

中年も後半に差し掛かった。
もっと早く、ここを出るはずだったのだ。

ところが計算外の事態が起きていた。

エルノア。
彼の体はあちこち遺伝子改造されていたのだ。

恐ろしいことに、エルノアの樹液は再現なくあふれつづけ、
一定の間隔を置いて注射器で何ℓも取り除かなければ、彼は死んでしまう。

取り除いた樹液は兵器の燃料として更に改良され戦争に使われた。

戦争は終わった。
小さな国は勝ち、人が思ったより死なずに、大きな国に取り込まれずにすんだ。
ただそれだけだ。


私達の戦争は今もずっと、ずっと、終わらない。



膨大な薬品と生命維持装置。
薬品も生命維持装置も、この組織にいなければ叶わない。

私はボスの命による様々な研究の裏で
秘密裏に弟の体を元に戻す方法の研究を重ねた。


弟の成長は以前としてゆるやかではあるが
二十歳そこそこの若く美しい容貌にまでなり…
自分は兄というより伯父と言ったほうが差し支えないほどになったものの、
酒の愉しみを覚えたりもした。

ここを出たら、エルノアと一杯やろう。
まだ彼は酒を受けつけられないが。
いいではないか、そのささやかな夢に人はいつだって支えられている。





しかし。
ある日、とうとうわかったのは「弟は二度とこの温室を出られない」
ということだった。




もはや、体の組織ごとそのように生まれ変わったも等しい弟を
元に戻すのは神に頼るしかない。





今でこそ父と呼ぶこの男を、今日こそ殺してしまおう、そう思ってそっと
ナイフを握った。




私は、一人の暗殺者が私の「父と弟」を

目の前であっさりと殺すまでは、その暗殺者のことを

頼もしくさえ思ってもいた。

仲間として。一人の年の離れた若い−当時彼はまだ少年とも言っていいほどの風

貌をしていた−友人としても。











「やめてくれ!お前は同じ組織の人間だろうが!」

「お前のお父上はルールに反した。その結果がお前の弟だ」

暗殺者リドは私の弟に向って銃口をつきつけている。

その横には、私が憎んでその手にかけようとした父が息絶えて倒れている。

「エルノアは何もしていない!何も悪いことはしていない!殺すなら私を殺せ!」

「お前が死んだあとも、この弟の樹液を欲しがる人間は山ほどいるだろう。世界 
の均衡を崩すことはルールに反する。

エルノアは樹液を取りつくされ「枯れる」はずだった。ボスはそれを知っていて

連れてこさせた。お前が何を言ったか知らないが、お前のお父上はこいつを「生

き」させる処置をほどこしちまった」

「?!」
私はとっさに、もう息のない「父」を見た。

「あなた…僕を殺しに来てくれたの?うれしいな…もう…罪を重ねるのはいやだよ…」

「エルノア!馬鹿言うな。おい、リド!やめてくれ!」





「大丈夫。あの丘でまたきっと会えるよ。兄さん。兄さんは僕の兄さんだもの」



エルノアはころころと音がしそうなほど、丸い涙を一粒流し、
銃口から吹き出た炎に焼かれて灰になった。

涙はころんと彼の灰の上に転がっていった。淡く光る月の光のような涙だった。














エルノア抹殺の命を下したボス。

私達を拘束した組織。

手を下したリド。



不要となれば、利用していたものも

業火に放るか。




ならば。




ドルイ・ドが復讐の狂気に取り付かれたのは、エルノアの最後の微笑があっけなく崩れ去っていったときだった。

ニンゲンデハナイ?タダソレダケデ
ビショウシ、ココロモツモノヲコロシテイイノカ。





あの日から、リドを苦しめ組織を内側から崩壊させて
ボスもろとも自爆するためだけに
生きてきた。





しかし、リドを殺すことは叶わなかった。








「ドルイ・ド。今度会うとき、この基地の残骸はお前の墓標となる」


復讐に破れたドルイ・ド、彼の命を助けた後リドはそう言い捨てると立ち去った。


ドルイ・ドはしばらくそのままその場に立っていた。

どれくらいそうしていただろうか?







ふと、ドルイ・ドは崩れた組織の建物の隙間から、光るものを見つけた。
淡い月の光のように輝く不思議な双葉だ。




「?!」


ドルイ・ドの目にじわりと涙がにじんだ。
その双葉の周りの土をそうっと根ごとすくいあげて、手のひらにのせた。

「おッ、おいッ!ドルイ・ド!どこに行くんだ?!」
「私は苗を植えに行く。お前も来るか?」
「……?」






ドルイ・ドはそう言い、サヴァスの返事も待たず歩き出した。
転げるように、サヴァスはその後を追う。

「おい!意味がわからねえぞ、ちょっと待てよ」
そんな風に叫びながら。
「説明しろよぉ〜〜!!!!!!!」
「まあ待て。私とビッグビジネスをしかけようじゃないか」
「世界征服はどうした?」
「ふんッ、あんなものただの暇つぶしじゃい」

ドルイ・ドはにやりと笑う。
「今度のはな、世界中の子供の命を自在に裏から操るんじゃい。

共に金貨の海に溺れようぞ。



いい〜ひっひっひっ!」












○年後。




とある親が子供を連れて病院に来た。

子供は別段病気でも怪我でもない。

ワクチン接種に来ただけだった。




国の保険が利いているとはいえ、あまりに格安の料金なので

(サヴァス格闘協会基金が資金源となって子供を
バックアップしているらしいが)

ぜひとも受けさせてしまおうと決めたものの
「これ以上わんぱくなってもな…」
と途中で考えこんでしまった。

そもそもワクチンというより栄養剤のようなもので、
ありえないくらい元気にわんぱくに育つらしい。
栄養事情のよくない発展途上国では、このワクチンの寄付によって
何人もの子供が命をつないでいるというが、

ほんのり怪我の治りが早くなるという噂は果たして本当だろうか?





その薬の名前は


「ノア・シードワクチン」



現在の文明が続く限り改良を重ねられ、
永きに渡り人を助けることになるのだが、
その話しはまた別の機会に譲ろう。



















































2010 4 13 0:35



















fin

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