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恋しい小説コミュのワタユメ…9

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9 スーツを着たサンタクロース


アレから季節が変わった。
秋から冬に。
家と会社の往復の毎日。
何も変わらない。
…変わるわけがない。
変わるのを、
私が遮ったのだから。
今も尚残る、『後悔』。
どうしたら、いいの?
誰か、教えてください…。

「今日はなんと!デパ地下人気ナンバー1のケーキを頂いたわよ」
バサバサバサッ。
「おおーーーッッ。後光が見える」
書類の山から顔を出した営業席から感嘆の声。
ケーキ…。
『ハルちゃんのトコのカフェのケーキ』。
鮮明に蘇る、
あの日の顔、声。
…やばい、泣きそう。
会社なのに、泣きたくてたまらない。
「はい。麻生さんはどれがいい?先ずは、オンナのコの特権よね」
「…わっ私なら、残ったのでいいです」
「遠慮しないでいいのよ?ココのは、冬眠明けたちにはもったいないわ」
「いえ…ホントに」
「麻生さん。欲張ってもいいのよ?オンナのコなんだから。はい、どうぞ」
デコレーション鮮やかなケーキ。
あの日のケーキとは比べることも出来ないほど。
でも。
あの日のケーキがいい。
評判じゃなくて、
見た目じゃなくて、
味じゃなくて、
一緒にいてくれる人がいかに大事か、
私は知ってしまった。
西藤さんに会いたい。
会いたいよ…。
『欲張ってもいいのよ。オンナのコなんだから』。
欲張っても、どうしようもない時は、
どうしたらいいのですか?
近くにあるはずの営業デスクが遠く感じる。
歓声の声が、遠い。
目の前のケーキが、
歪んで見える。

明日から、12月。
世の中はもう、クリスマス一色。
赤と緑に白。
いつもはガラリとしているところも、なんだか華やいで見える。
不思議なシーズン。
巨大ツリーが、電飾を輝かせ、
プレゼントの山。
トナカイのそりの上には、サンタクロース。
サンタクロース…。
欲しいモノはない。
ただ…。
会いたい、だけ。
あなたに、会いたい。
会いたい…。

12月24日。
今日は、クリスマス・イヴ。
いつもは寂しくない、平日休日。
でも、今年は違う。
どうして今年に限って、この日?
なんて、考えちゃう。
恋を知って、何度がこの日が来てたのに。
今年だけ、ちょっと違う。
会いたいが募りすぎて。
寂しい日。

…ピンポーン。
ひとりぼっちの私に、インターホンのベル。
姿を変えた、クリスマスベル。
今の私にピッタリ…。
…ピンポーン。
2度目。
誰だろう、こんな日に。
こんな日でも、勧誘営業は関係ないとか?
平日だし、関係ないか。
クリスマス、なんて。
…ピンポーン。
平日なのに、3度目!
こんなに粘るなんて、本当に誰?
郵便屋さん?
でもいつもは、ポストに「不在通知」を2度目で入れる。
勧誘さんも、意外と粘らない。
そう。
用心のため、私は出ないことにしてる。
若いオンナのコが、平日のお昼間に家にいるなんて無用心でしょ?
念の為に!
コレはお母さんの思い込み。
まぁ、実行してる私も私だけどね。
だから、3度目って珍しい。
恐る恐る、やっとドアに近づく。
音をたてないように、そーっと覗き窓を覗く。
…あれ?
誰もいない。
イタズラ?
…もうッッ。
さすがの私も、ちょっとムカッ。
その所為か、緊張がちょっと解け。
ガタン。
足が傘立てをキック。
!!!どっどうしよう。
ドキドキドキドキ。
ガタガタガタガタ。
どっどうしよう…。
こっ怖い人だったら…。
キーロックされてることなんてすっかり忘れて、大パニック。
『真っ赤なお鼻のトナカイさんは〜♪』
…えっ?
私の出した音を合図に、何かが聞こえてきた。
これは…。
この声は…。
お世辞にも「上手」なんて言えない。
でも。
すごくすごく優しい声。
「赤鼻のトナカイ」。
有名なクリスマスソング。
この声…聞いたことある。
また聞きたかった、声…。
カチャ、バンッッ。
その瞬間、勢いに任せてた。
ドンッ。
「…イタタタタ。痛いよぉ。また、お鼻が赤くなっちゃったよ。どうしよう、サンタさん。…大丈夫だよ、トナカイさん。キミのお鼻は、プレゼントを配る夜道を照らしたくれるんだから」
「…西藤さん」
忘れることなんて出来なかった笑顔が、目の前にある。
会いたくて会いたくて仕方なかった笑顔が、目の前に。
どうして?どうして…。
「ハッピークリスマス!ハルちゃん。サンタさんとトナカイさんと一緒に、来ちゃった」
右手には、サンタさん。
左手には、トナカイさん。
そして、西藤さん…。
ポロポロポロポロ。
いつもみたいに、笑顔でいたいのに。
ううん。
いつもと違う、本当の笑顔を返したいのに。
涙が出る。
目の前のことが信じられなくて、
涙が出る。
本当に嬉しいのに、
涙が出る。
人は、
本当に嬉しくて幸せな瞬間。
笑顔じゃなくて、涙が出るんだね。
「はっハルちゃん?ごっゴメンね、こんな日に…。あの日断られたも同然なのに、こんな日に来るなんて…迷惑だったね。ハルちゃんに、もう一度だけ会いたいって思って。先生に住所聞いたら、教えてくれてね。いつがいいだろうって考えてたら、今日がいいなって思って。…ハルちゃんのこと、考えてなかったね。自分のことでいっぱいいっぱいだったから。ハルちゃん。ゴメン、ね」
違う。
違うの。
この涙は、西藤さんが考えてる涙じゃない。
この涙は…。
嬉し涙。
喉の奥まで出かかってる言葉たち。
でも、声には変わってくれない。
恋にも勇気がいるってわかったのに。
まだ、出ない。
声って、
どうやって出してたんだろ。
ホントに出ないの…。
…トンッ。
えっ?
誰もいないはずなのに、何かが触れたような感触。
触れたと言うか、誰かに押されたような…。
ぅわわわわ。あっ足がっっ。
頭と体がめちゃくちゃで、
反応がバラバラ。
バランス揺ら揺ら。
こっこのままじゃぁ…だっダメーッッ。
心とは裏腹に、地面が近づく…。
きゃぁーーーっっ。
心の叫びと同時に、目を瞑った。
「だっ大丈夫?」
…痛く、ない?
どうし…
かぁぁぁ。
に…にっ西藤さんに抱きとめられてる!
ドキドキドキドキ。
目の前は、西藤さんの左側だけ。
声しか聞こえない。
あのアクシデントは。
アレはきっと。
勇気の出ない私への手助け。
勇気。
今出さないで、いつ出すの?
「だっ大丈夫じゃないです。私、西藤さんに謝られたくないです。来てくれて、すごく嬉しいのに。「会いたい」って思ってくれて、すごく嬉しいのに。私も、ずっと…」
「3年前のウエイトレスさんが、忘れられなかった。誰かもわからないのに、ずっと。 だからその次の年からずっと、文化祭に行ってた。卒業した明くる年って、確率あると思ってね。でも、大ハズレ。いつまで行こうかなって迷って、今年で最後って決めて行ったら会えた。びっくりした。あの時のオンナのコが、いたから」
ギュッと力がこもって、途切れた私の言葉。
まるでその後を知ってるかのように、続く言葉。
こういう時って、聞いてていいの?
こんなことって初めてで、どうしていいかわからない。
ただ、ひとつだけ。
わかっていたのは…。
心地の好いココを、私の場所にしたい。
「あの日のウエイトレスさんに、恋をしました。そのコの名前は、僕のスキな季節と同じ名前でした」
一瞬力がこもって、ふわっと離れる。
今日はじめて合った目にドキドキが募る。
「ハルちゃん。…スキです。僕の彼女に、なってください」
「はい」
やっと、言えた。
ちゃんと「はい」って。
今日は、言えた。
離れても、西藤さんの鼓動が聞こえる。
私のと、一緒に。
遠い鼓動も、
今は不安なんてない。
そばにいる。
私の目の前。
「ほっホントに?」
「はい」
今度は、私が言う番。
もう後悔なんて、したくない。
一番の笑顔とともに、あなたに伝えます。
「私もあなたがスキです。出会った時からずっと」



      →ワタユメ…10へ続く
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