キョンシー･ホラーコミュの【コラム】Kung Fu Stars Challenge Vampires～カンフースターたちのキョンシー･ホラー

さて､久々に｢霊幻道士｣や｢幽幻道士(キョンシーズ)｣シリーズ以外の"キョンシー･ホラー"作品を取り上げて参ります。今回は香港･台湾映画のアイデンティティーともいえるジャンル､カンフー･アクション映画で活躍したスター俳優が主演した３作品です。それぞれの詳細は作品トピでご覧頂くとして､この項では主演俳優のプロフィールをご紹介致しましょう。

①激突!キョンシー小僧 vs 史上最強のカンフー悪魔軍団(88年)：主演ゴードン･リュウ/リュー･チャーフィー(劉家輝)
1951年8月22日､中国･広東省生まれ。本名･冼錦熙。８歳の時に中国南派武術･洪拳の伝統を受継ぐ劉湛の下に弟子入りして同家の養子となり､義長兄のラウ･カーリョン(劉家良)より洪拳を学ぶ。71年に学校を卒業後サラリーマン生活を送りながら､夜間劉湛の武館(道場)で武術を学び続けた。1973年映画界入りしいきなり主演デビューを飾るが､その後カンフー映画の巨匠チャン･チェ(張徹)監督の下しばらく台湾で下積み生活を送る。香港へ戻り､監督となったラウ･カーリョンの作品『ワンス･アポン･ア･タイム英雄少林拳』(76年､ＤＶＤのみ)で大役に抜擢され､その後主演した『少林寺三十六房』(78年､画像左)が香港で大ヒットし､所属していたショウ･ブラザースのスター俳優入りしたばかりか､スキンヘッドと僧侶のイメージで世界的な名声も獲得する。
1983年には『少林寺武者房』(テレビ放送)で監督デビューするも､折からのカンフー映画の衰退によりＴＶドラマへも活動の場を広げ､映画では悪役も演じるようになった。日本との縁も深く『少林寺vs.忍者』(79年)では倉田保昭始め多数の日本人俳優と共演し､日本との合作映画『孔雀王』(88年)にも出演。プロモーションで何度も来日を果たしている。
2003年､クエンティン･タランティーノ監督の招きに応じ｢キル･ビル｣２部作で､各パートで別の役を演じハリウッド進出を果たす。その後も引続き香港のＴＶドラマや映画で精力的に活躍を続け､仏教や伝統中国武術の啓蒙にも努めた。
2011年８月､脳梗塞の発作から階段で転倒。下半身不随状態となり､現状寝たきり､移動は車椅子での生活を余儀なくされている。

②キョンシーの大逆襲(88年)：主演ブルース･リャン(梁小龍)
1948年4月28日､香港生まれ。本名･梁財生。幼少の頃から詠春拳や空手などを習得し､1964年にわずか15歳でショウ･ブラザースへ最年少のスタントマンとして入社。70年代に入りゴールデン･ハーベストでアンジェラ･マオ(茅瑛)主演作に脇役で出演､武術指導も手掛けるようになる。73年にウー･セイエン(呉思遠)監督の意欲作『必殺ドラゴン鉄の爪』に大役で抜擢。同監督で日本俳優･倉田保昭と組んだ主演作『帰って来たドラゴン』(73年､画像中)や『無敵のゴッドファーザードラゴン世界を征く』(74年)の２作で香港のみならず､日本でもポスト･ブルース･リーの最右翼として注目を集めた。その後も倉田と育んだ縁から｢闘え! ドラゴン｣(74年)や｢Ｇメン'75｣などのＴＶドラマにもゲスト出演し､映画と変わらぬアクションを披露した。

『帰って来たドラゴン』(73年)クライマックス､ブルース･リャンVS倉田保昭戦動画

ふてぶてしさのなかにもキザでコミカルな表情を織り交ぜ､キレがよく打点の高いキックを連発するリャンのアクションは､香港芸能界でもブルース･リー(李小龍)､ジャッキー･チェン(成龍)､そしてショウ･ブラザースのスター､ティ･ロン(狄龍)と並ぶ"四龍"の一角と呼ばれ､70年代カンフー･アクションの巧者と称された。そのジャッキーとは『飛龍神拳』(78年､テレビ放送)で共演している。私生活でも"武闘派"として､いくつかのスキャンダルでマスコミを騒がせた。
"第1次功夫映画ブーム"後はＴＶドラマにも進出し､特に81年制作のブルース･リーの『ドラゴン怒りの鉄拳』(72年)をリメイクしたドラマでは､リーが演じた陳眞を熱演し､話題を呼んだ。だが､その後は肥満体質と加齢による容姿の変貌で徐々に表舞台から姿を消し､80年代末期以降は中国大陸に渡って実業家としての活動がメインとなっていた。
しかし2004年､香港映画界の大スター､チャウ･シンチー(周星馳)からの誘いを受け『カンフーハッスル』に出演。自身初となるラスボス的な悪役で､往年と変わらぬアクションと凄みのある芝居を見せ､話題をさらった。その後も『さそり』(2008年)､『燃えよ!じじぃドラゴン』(2010年)等の話題作に大役で起用されベテラン俳優として完全復活。ＴＶドラマでも活躍を続けている。

③カンフー･ゾンビ(81年)：主演ビリー･チョン(莊泉利)
1957年2月10日生まれのインドネシア華僑。富裕な家庭に育ち､少年時代から洪拳を始め数々の武術を体得､大会でも優勝を修める。加えて精悍かつ甘いルックスと鍛え上げられた肉体美で77年頃から香港のアクション映画に顔を出すようになる。そしてエターナル･フィルムと契約し､名武術指導家ユエン･ウーピン(袁和平)率いるアクション･チームのバックアップを受け『ドラゴンカンフー･水晶拳』(79年､画像右)で鮮烈な主演デビューを果たす。この作品でビリーは現代的な格闘技法を巧みに織込んだスピーディーかつスタイリッシュなカンフー･アクションを披露。アクロバットや陽性のコメディー芝居もこなせることから､"ブルース･リーのルックスとジャッキー･チェンのアクションを備えた新星"として大きな注目を集めた。日本でも東宝東和配給で劇場公開を予定されていたが､機会を逃し83年にフジテレビ系での放送に留まった。

『ドラゴンカンフー水晶拳』TV放送時の日本語吹替版OP動画

ビリーの資質にはショウ･ブラザースも興味を抱いており､ラウ･カーリョン(劉家良)監督の肝煎りで入社後主演作を撮る計画もあったようだ。しかし80年代を迎え香港でもカンフー映画は既に下火になりつつあった。ビリーもアメリカ･ロケや台湾でホラーやギャング映画の要素を加えたアクション映画に主演するが､大きな成果は得られなかった。一方で彼のスター性に眼を付けた黒社会系の映画会社から高圧的アプローチを繰返されるが､毅然とした態度ではね付けた為苛烈な嫌がらせを受ける事態となり､結果香港映画界での居場所を失うこととなる。最後の香港映画出演は劉家良監督作『悪漢探偵Ｖ最後のミッション』(89年､ＤＶＤのみ)の脇役。
傷心でインドネシアへ帰国したビリーは､ウィリー･ドーゼンと改名し､現地でアクション･スターとして再出発。香港で得た実績を糧に現在に至るまで多数の映画やＴＶに出演を続けている。