日韓対照言語学コミュの指示語の体系(コ・ソ・アと이・그・저)

はい。久しぶりの書き込みです。

待遇表現の更新が遅れていますが、とりあえずちょっと軽めの話題を扱っておきます(軽めといっても意外と難しいです)。

日本語と韓国語の指示語の体系が酷似していることは、よく知られています。日本語では普通、「コ・ソ・ア・ド」の後ろに「レ・ノ・チラ」等が付いて各種の語を形成することから国語教育ではこれを「こそあど言葉」などと呼ぶことがあります。

韓国語においても「이・그・저」という冠形詞(体言の前で直接その体言を修飾・限定する語。日本語の連体詞に当たる。[小学館『朝鮮語辞典』より])に「것・어기・렇다」等がついて各種の語を形成します。

日本語教育の初級段階においては、現場指示(眼前指示ともいう)の場合「コ＝이、ソ＝그、ア＝저」、文脈指示(文脈照応ともいう)の場合「話し手も聞き手も指示対象をよく知っている場合＝ア、話し手か聞き手のうち、どちらかが指示対象をよく知らない場合＝ソ」とされる場合が多いように思います。

しかし、文脈指示には「コ」も絡んでくることがあるので、単純化するのが難しい部分もあります。

以下、数回に分けて、次回「現場指示のコ・ソ・ア」、次々回「文脈指示のコ・ソ・ア」と書き続けていきたいと思います。皆様もお気付きの点があれば、どんどん書き込んでください。

コメント(8)

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[1] mixiユーザー 07月19日 15:29

現場指示のコ・ソ・ア(日本語)

これについては単純に「話し手に近い場合＝コ、聞き手に近い場合＝ソ、両者から遠い場合＝ア」とされることがほとんどです。国語教育においてもそういう説明がなされているようですが、もう少し掘り下げてみると面白いことが分かります。

もともとコ・ソ・アの研究に本格的に着手したのは佐久間鼎でしたが、その後、三上章がこの研究に新たな視点を持ち込みました。それはどのようなものかというと、コ・ソ・アの使い分けには二つの局面があるというものです。即ち三上は、対話の場で二人の間に存在するものを指す場合(これを三上は対立型と呼びました)と、対話の参加者と別なところに存在するものを指す場合(これを三上は融合型と呼びました)に分け、前者の場合「コとソの二項対立」、後者の場合「コとアの二項対立」であるとしたのです。

後に、後者のような場合にも「ソ」を使うことがあるということから、三上の提示した二項対立は否定されるに至りましたが、三上の持ち込んだ考え方は韓国語の指示語の体系を考える上でも役に立ちます。

韓国語ではどうか、ということを書く前に以上の内容を簡単に整理しておきます。

対立型→話し手に近いもの＝コ、聞き手に近いもの＝ソ
融合型→対話参加者に近いもの＝コ、対話参加者から遠いもの＝ア

ただし、融合型の場合はさらに遠いというほどでもないが、近くはないものに「ソ」を使う場合がある。(例：タクシーの運転手に「あ、そこで止めてください」と言う等)

韓国語ではどうか？

それは次回にします。

[2] mixiユーザー 07月28日 09:19

さて、今回はいよいよ韓国語の指示語について書くことになりました。この辺りで反論がいろいろ出てくるのではないかと楽しみにしております。

韓国語においても「이・그・저」(それぞれ日本語の「コ・ソ・ア」に相当)というのがあって、三上の言う対立型(前項参照)の場合、日本語と全く同様、話し手側にイを使い、聞き手側にクを使います。

梅田博之(1982)は、日本語の「ソ」よりも韓国語の「그」が指す範囲より一層限定されるとしています。つまり「그」は、明らかに聞き手の領域であると認められる場合にのみ使われ、少しでも聞き手の領域から外れれば「저」が使われるというのです。

梅田の場合、対立型・融合型に分けるのではなく、一元的に考察しているのですが、言葉を変えれば、韓国語では対立型の「그」は使われるが、融合型の「그」は使われないということになります。

前述のとおり、日本語では現場指示の「ソ」のうち、融合型の「ソ」というものがありましたが(前項のタクシーの例文のようなもの)、韓国語には融合型の「그」は存在しないのです。

これは、皆さんの近くにいる韓国語ネイティブの方に確認してみてください。また、このコミュニティに韓国語ネイティブの方もいらっしゃるようですので、一度考えてみてください。

「いや、私は使う」という韓国語ネイティブの方がいらっしゃるかも知れません。そういう方は、日本語をかなり使いこなせるようになったために、母語使用に第二言語が干渉している可能性があります。日本語を知らない韓国語話者に聞いてみてくださいね。

さらに梅田(1982)の例を紹介したいと思います。

　　　　A B C

上記A、B、Cのような位置関係にある家を想像してみてください。話し手・聞き手ともにAにいるような場合、日本語でCは「アソコ」でしょうが、Bは「アソコ」でも「ソコ」でも可ということになります。韓国語ではBもCも「저기」になります。相手の領域でなければ「그」を使えない韓国語では、Bに「거기」は使えません。

それでは、BとCをどうやって表現し分けるのかという疑問が出てきますよね。
表現し分ける方法としてはBを「저쪽 집(あっちの家)」と言ってCを「저～쪽 집(あ～っちの家)」というものが挙げられます。つまり、長く発音して遠さを強調するというのです。

また話し手がA、聞き手がBにいる場合、Cの家は「뒷집(後ろの家)」とか「앞집(前の家)」と言い、指示語は基本的に使わないそうです。この場合、前とか後ろというのはAとBから見た位置関係よりも基準となる家の門の位置に左右されるそうです。

いかがでしたか？こうして見ると、結構違いますよね。
次回は文脈指示のコ・ソ・アについてです。
お楽しみに!!

参考文献
梅田博之(1982)「朝鮮語の指示語」『講座日本語学12 外国語との対照?』明治書院
寺村秀夫編(1987)『ケーススタディ日本語文法』桜楓社
宋晩翼(1991)「日本語教育のための日韓指示語の対照研究」『日本語教育』75，日本語教育学会

[3] mixiユーザー 07月28日 10:35

はい、そういうわけで、今回は文脈指示のコ・ソ・アについてです。

まずは「ソ」と「ア」から述べることとします。「話し手も聞き手も指示対象をよく知っている場合＝ア、話し手か聞き手のうち、どちらかが指示対象をよく知らない場合＝ソ」とされる場合が多いという話は以前にも書きましたが(トピックのタイトル記事参照)、このことを本格的に述べたのは久野暲[くのすすむ](1973)が最初だと思います。既知であるか、未知であるかによって「ソ」を使うか「ア」を使うかが決まってくることを説いた有名な例文を以下に紹介します。

?話し手：太郎ハ馬鹿デ困リマス。
　聞き手：本当ニソンナニ(*アンナニ)馬鹿ナノデスカ。

?話し手：太郎ハ馬鹿デ困リマス。
　聞き手：本当ニアンナニ(ソンナニ)馬鹿デハ困リマスネ。

久野は、?では聞き手が太郎を知らないとしか解釈できないにもかかわらず「ア」が使われているため違和感を与えるとしています。一方、?は「ア」を用いても「ソ」を用いても文章としては成立しますが、やはり太郎を知っているか知らないかという点において意味が変わってくるとしています。

?において「アンナニ」と言えば聞き手も太郎の馬鹿さ加減を知っているという意味になり、「ソンナニ」と言えば「私は知らないが、あなたがそうだと言っている程度に」を表すという。

ただし、相手が知らないことに言及するときには「ア」を決して使わないのかというと、そうでもないようです。

?大学を出るとすぐアメリカに行ったんだけどね、(あの/その/*この)時は大変だったよ。

久野は、このような文で「ア」が使われるのは、既知の内容に言及する表現を用いることにより相手も同じ体験をしているかのように言うためのストラテジーではないかとしています。しかし、今回は?のような例についての考察は割愛します。

さて、韓国語ではどうか？
それは次回のお楽しみ。

参考文献
久野暲(1973)『日本文法研究』大修館書店

[4] mixiユーザー 07月30日 03:17

はい、こんにちは。
全く盛り上がらないコミュニティに一人ぼっちで書き込みを続けるおっさんです。

今日は韓国語における文脈指示の話です。今回はちょっと短めに書きます。まず、結論から言ってしまうと、韓国語では文脈指示の「저」というものは使われません。

梅田(1982)から例文を拾ってみましょう。

?a.어제 新宿에서 동창생 김 군을 만나서 그 사람하고 다방에 들어가 커피를 마셨어요.
　　(昨日新宿デ同窓生ノ金君ニ会イ、彼ト喫茶店ニ入ッテコーヒーヲ飲ミマシタ)

　b.그 사람 지금 뭐 해요?
　　(アノ人今何ヲシテマスカ)

　c.그 분 대학 동창이에요?
　　(ソノ方大学ノ同窓デスカ)

「다방」ってのが、ちょっと引っ掛かりますが、まあ当時は「커피숍」というのがそれほど一般的ではなかったのかもしれませんね。因みに私は日本で韓国語の勉強をしていた頃、韓国人留学生に「다방에 갈까요?」と言って思いっきり笑われたことがあります。

まあ、それはおいといて話を進めます。?の文で、bの返答は金さんを知っている人の発話、cの返答は金さんを知らない人の発話となります。ところが韓国語ではどちらも「그」が使われるのです。

さて、次は同じく梅田(1982)から。これは設定がややこしいのですが、ソウルに住んでいる人がテグにいる人に対して電話で話しているのですが、テグにいる人が釜山に転勤することになったと話した後の会話です。

?a.거기서 그리 가면 서울 오기 더 어렵겠구나.
　　(ソコカラアソコヘ行ケバソウルニナカナカ来ラレナクナルナア)

　b.여기나 거기나 다 마찬가지지.
　　(ココデモアソコデモ同ジサ)

ここでもやはり「저」は使われません。

つまり、韓国語で話したり書いたりする時は、文脈指示を表す指示語で悩む必要はないということです。韓国語学習者には朗報ですね。
ただし、日本語にも文脈指示の「コ」があるのと同様、韓国語にも文脈指示の「이」があります。
これは次回、書きたいと思います。

さて、皆様は韓国語ネイティブと日本語で話したことがありますか？話してみると、やはり相当に上手な人でも誤用がちらほらあって、興味深く観察しています。
今はそれほどでもないようですが、一時期学習者の誤用分析のいうのが流行りました。指示語の場合、韓国語ネイティブが間違うのは文脈指示に集中しています。
これはいろんなところで言われていることでもありますし、私自身も常々感じていたことなので確かなことだと思います。

まあ、韓国語の場合、現場指示の「ソ」にあたるものがないわけですから(２番の記事参照)、そこでも誤用が生じそうなんですが、現場指示の「ソ」っていうのは必ずしも使わなければならないものではないため、「あのぐらいの距離だったらアソコじゃなくてソコだろう」等という違和感が生じることは普通ないわけです。融合型のソを除けば現場指示の指示語の体系は明瞭ですので、どうしても文脈指示に誤用が集中せざるを得ないということになります。

面白いのは、その間違いのほとんどが文脈指示の「ソ」を使う場面で「ア」を使うというものであるということです。彼らは文脈指示には「그」しか使わないというのにです。

これについては、現在韓国外国語大学校で教鞭を執る이인영(李寅泳)が筑波大学の留学生であった頃、「日本語で文脈指示にソの他にアを用いることが母語で그しか使わない学習者に強く印象づけられてかえってソを用いる場合にもアを用いててしまう、いわば過剰修正によるもの」という仮説を発表しています。

しかし、これに対して梅田は「解放前の強制的な日本語教育を受けた世代の、日本語の極めて堪能な人々にも同様の誤りを根強くおかす点を見ると、むしろコ・ソ・アの具体指示の用法を文脈指示に適用して、眼前にないものを「遠称」のアで指示する誤りと考えた方がよいかも知れない」としています。

李寅泳は韓国でも「한국인 일본어 학습자의 오용분석-문맥지시어「その,あの」의 오용을 중심으로」という論文を書いていて、これを読むとまた新たな見解に触れることができるかもしれませんが、そこは不勉強な私、まだ読んでおりません。指示語は全く専門外なので、読むかどうかも分かりません。ご容赦ください。

私も以前、個人的に李寅泳の「過剰修正説」と同様の考えを持っていたのですが、最近になって梅田の「現場指示援用説」の方が真実に近いのではないかと思うようになりました。
2ヶ月ほど前、東京大学の生越直樹教授の講演会でこのことについて質問したのですが、教授も「現場指示援用説」の方に分があるのではないかという見解でした。

しかし、「いや、違う!!この誤用の原因は・・・」という考えをお持ちの方は是非書き込みをお願いします。

しかし、この記事、読んでる人いるのかなぁ・・・

あともう一つ、ちょっと面白いと思ったことがあります。
日本語教育では「二人とも知っている＝ア、話し手か聞き手のいずれかがよく知らない＝ソ」になるという話をするんですが、どこまでが未知でどこからが既知なのかというと、それは一概には言い切れないところもあるような気がするのです。

以前、ある生徒が「あいつがね・・・」と言ったので、一応話を聞いた後で、私はその人のことを知らないので「そいつ」と言わないと違和感がある旨を伝えたのですが、「でも、前にもこいつの話、しましたよ。」と言われました。
一回言及したぐらいでは既知とまではいえないと一応言いましたが、じゃあ、何回ぐらい言及すればいいのかというと、これも案外難しい問題だなぁと思いました。
「言及では足りない。実際に会うことが必要である」と考える方もいらっしゃるかも知れません。
しかし、会う度に川上さんという人の話をしている人が川上さんにつき「あの人」と言及することは不可能でしょうか？ただし、勿論これはいつも話を聞かされている側の人の場合、「あの人」とは相当いいづらいでしょうけど。
また、実際に会うことがアを使う条件ではないことを示す例として、このような文はどうでしょう。

?a.原史奈ってどうよ。
　b.いいねぇ。俺、ああいう顔、大好き。

そうなると「顔を知っている」ということが条件になるのかという話にもなりそうですが、写真一葉しか見たことがない人について「あの人」とはちょっと言いにくいように思います。
また、会ったことはないけど、毎日のように話を聞いている、そんな場合に「その人」というのも若干空々しいような気もします。
この辺は結局、発話者自身が既知と捉えるか未知と捉えるかというところにかかってくるのでしょう。って、答えになってませんよね。

因みに恋人・配偶者・片思いの相手等を表す時に使う「あの人」に近い韓国語は「그이」で、やはりア系ではありません。

思いのほか長くなってしまいましたね。次回は多分、指示語最終回です。
お楽しみに!!

参考文献
梅田博之(1982)「朝鮮語の指示語」『講座日本語学12 外国語との対照?』明治書院

[5] mixiユーザー 10月22日 02:44

他コミュから流れて参りました。

非常に専門的な講義で勉強になります。
梅田先生の教科書は留学前に使いましたが、説明が難しすぎて理解が全く進まなかった覚えがあります。

さて、그と저の使い分けに関してでございますが、
留学前に大学の授業で
「韓国では目に見えないものは그、目に見えるものは저なんだよ！」と言われ、目から鱗が落ちる思いをした覚えがございます。
그때 그사람は「そのとき、その人」でも分からなくはないが（「そのとき、歴史が動いた」という言い方もありますし）
、「あのとき、あの人」と訳した方がより元の意味に近くなりましょう。

日本語学習の盛んな韓国でも、その辺の微妙な意味の違いを教えていないのか、私の身の回りにいる、かなり上級の日本語話者でも妙な表現をする方が多いようです。えてして「あれ」より「それ」を多用する傾向があるように思いますが……。

[6] mixiユーザー 11月03日 14:39

masaoさん、書き込みありがとうございます。
レスが遅くなってしまってすみません。

＞「韓国では目に見えないものは그、目に見えるものは저なんだよ！」と言われ、目から鱗が落ちる思いをした覚えがございます。

ということですが、確かに上にも書きましたように指示語の体系は韓国語の方が単純ですね。
ただまぁ、「目に見える」というところには「実際に映像としては見えていないけど、さっきまでここにいて、今は隣の部屋にいることがはっきりと分かっている」というケースなども含める必要があるのですけれど。
まぁ、結局韓国語では現場指示では相手と対峙している状態(三上章のいう「対立型」の場合です)で相手の方を指すのでない限りは「이」と「저」で事足り、文脈指示ではほとんどの場合「이」と「그」で事足りるということだと思います。特に文脈指示で一般的なのは「그」でしょうね。
私は恥ずかしながら、いまだに「あの人は・・・」と現場にいない人のことを話し始める時に「저 사람은・・・」と言ってしまうというミスをよく犯します。

＞えてして「あれ」より「それ」を多用する傾向があるように思いますが……。

ということですが、これは誤用として「あれ」を使うべき場面で「それ」を多用するという意味でしょうか？だとしたら、どのようなケースでの誤用か興味があります。
急ぎませんので、具体的な例を示していただけるとありがたいです。
また検討してみます。よろしくお願い申し上げます。

[7] mixiユーザー 11月03日 15:19

結局、話し手の意識なのでしょうね。

聞き手にとって既知なのか未知なのかという点も、あくまでも話し手の主観的な判断でなされるものであり、そこに聞き手の実際の状況は存在しないと考えていいのではないかと思います。

会話中のすれ違いも「話し手の考える聞き手の状況」と「実際の聞き手の状況」のズレから起こるものでしょうしね。上に書いてあった「このまえ話したじゃない？」という話し手の返答は、話し手の中ではすでに「聞き手にとって既知として（一方的に）認識されている」と解釈すればいかがでしょうか。

[8] mixiユーザー 03月18日 12:15

このトッピクとても、ためになりました。
前に見たのですが、そうかぁ、それで間違えるんだと納得しました。

ところが、昨日、ＪＲが強風でストップしましたよね。
その後、韓国人の方に会い、その話題になったんですが、「私が常磐線に乗ろうとしたとき、『あのとき』止まりました」と言いました。

個人差もあるようですが、「その」「あの」の違いは、実際の会話の中では大変な差を生みますね。

また、何か１つの項目を解説してください。

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