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漂流小説コミュのたびさきななか

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 7月22日 晴れ

 今日から気が向いた時だけ日記をつけることにする。
 ……て、出だしからなんだけど、それじゃあ日記じゃないよね。
 だから、ネーミング的には旅記ってことでひとつ。何かいい名前思いついたらそれにします。
 気が向いたらなんていってるけど、ほんとに気ままに書くんだろうから、三日坊主にだけはしてはいかんぞ、ななかちゃん。

 さて、かくいう私、ななかは一人旅をしている。
 旅といっても特に計画もない、ゆったりとした自転車での旅行なのだが、それはそれで楽しいことが多い。
 この自転車ツアーが始まってかなり経つけれど、ようやくこんなマイペースな一日にもなれてきたななかちゃんではあるが、それでも疲れというものはたまるらしい。
 よって、久々に野宿ではなく宿泊するのである。
 ごちそう!
 お風呂!
 お布団!
 たのしみでたのしみで仕方がないのであった。



 たびさきななか



 太陽の光がさんさんとふりそそぐ森の中で、ふとしたようにななかは目を覚ました。
 森の中にぽつねんと横たわっていた青い寝袋が、朝日をもってして神秘的にみえなくもない孵化を遂げる。
 首元あたりまで伸びている黒い髪に左手ぐしをしながら、なかなか開いてくれないまぶたを右手でこすり、ななかはむっくりと起き上がった。
 ……一帯を木々がかこむその場所で、まるで最初からここに住んでいたかのような自然さで。ゆっくりと、かつすばやく立ち上がる。
 体をぐいぐいと伸ばすと、160ほどの彼女の身体が反り返る。そうして伸びきった力を吐き出すかのように、大きくあくびをして体はまっすぐに戻った。身体と一緒に屈伸をしていた白いTシャツのハートマークも、一息つくように元に戻り、ごそごそとベルトを締めなおすと、ジーンズは青々とした生地をぐいぐいと伸ばされた。ななかが片手手間にそんなことをしている間にも、ごしごしとこすり続けていた目はやや赤くなってしまったものの、いつも通りのくっきりとした大きな瞳を彼女は取り戻していた。
「よし、おはよう、ななかちゃん。それにクッピー」
 ななかはななかに、つまるところ自分に挨拶をして頬をぱんとたたき、それから木陰に止められている黄色いクロスバイクにも挨拶をいう。黄色いクロスバイクであるところのクッピーは、沈黙をもって了解とし、わずかにハンドルを寄りかかっている木に傾けた。
 こうして、ななかの朝はやってきたのだった。



 飲み水として利用できる川に久しぶりにめぐり合えたものだから、ななかは気持ちのいい朝を迎えることができたようだ。川の水で眠気を洗い流し、その後に手ですくって一口。気だるい感覚の中に、透き通った冷たい水がすーっと染み込んでいくのは、砂漠に雨をふらすのと同じイメージで、すごく気分のよくなる行為だろう。
 それから、さきほど腰に装着したばかりのポーチからスティック状のバランス栄養食を取り出すと、一気に食べ切って、また川の水を一口。特に朝に弱いというわけではないが、ななかは朝はあまり食べないタイプだ。どうにも胃が食べ物を受け付けてくれないらしい。まあ、その分、朝の行動開始が人より早い、という利点らしき要素をななか自身は気に入っているようで、彼女なりにその事をいわせると、周りの人よりも早く起きるのだから、三文の得に違いないそうである。
 せかせかと支度を済ませたななかは、愛(自転)車クッピーにまたがり、大きく立ち上がって、ペダルをひとこぎする。拍子で、履き替えたばかりの短めの黒いスカートと、少しゆるめに留めていた腰のポーチがゆれる。それについてがしゃがしゃとしたのは、おそらくポーチの中身だろう。
 まだ日がのぼって間もない薄明るい空。気持ちのいい涼しさを備えた夏の空気、長い長い下り坂の林の脇から、不意に道路に飛び出したのは黄色い自転車と女の子。その場所を少し遅れて通りすぎた自動車は、ななかをよけるようにわずかに揺れて、すぐに彼女を追いこしていく。その自動車の速さで巻き上がった風と、クッピーの速さでぶつかってくる風と、次々とすれ違う林から流れてくる風と、遠くに見える海の風がまじりあった空気を大きく吸い込んで、ななかはにんまりとしながら坂を下っていくのだった。
 さて、坂を下っていく黄色い影から目線を離してみると、坂の丁度てっぺんあたりから見た景色と同じ光景が見えてくる。左に山々、右に海原。そうしてそれに挟まれるような小さな町。実をいうと、さして観光名所のようなものもない、いずれ近代化していく社会に忘れ去られていく町のうちのひとつであるといえるだろう。どうして彼女、ななかがここに訪れたのかなどというのは、本人以外はあずかり知らぬところであって、また他人にとっても、たかだか一人の女の子が、どんな町にどんな理由で自転車でやって来ていようとも、大衆がざわめくほどの話題になるはずもない。
 のだが。いかんせん、ななかは自他共に認める美少女だったので、例外というものの枠組みに当てはまってしまうらしい。その顔立ちは絶世だとか宝石だとか天使の生まれ変わりだとか、そういう大層なものではなく、あくまで一般人という名の平均からみて普通という基準にのっとれば、確かにななかは可愛いという表現の似合う少女であることは確かだ。もっというと、それなりの手間と教育をうければアイドルとしても活動できるかもしれない。が、そういった外見そのものが彼女の魅力というわけではない。なにより特筆すべきは、誰に対しているわけでもないのに浮かべるその笑顔、語弊があるだろう造語になるが、独り笑いである。いやなに、普通の人が誰に向かってでもなく笑っていればそれは薄気味悪いのは確実なのだが、その独り笑いもこの手合いがやるとなると話が変わるというものだ。
 にんまりとした笑顔も、その感情の突出が薄れれば表情が和らぐもので、坂道を駆け下りる頃には微笑になりつつあったななかのその姿を、通り過ぎる朝練よろしくの野球部員は、完全に立ち止まって見送った。おそらく彼の坊主頭の中では、あんな子この町にいたかな、という考えやら、どこかの転校生ではないかやら、俺のクラスに来たりして、などという男子らしいポジティブな妄想が膨らんで連続して爆ぜていたことだろう。残念ながら、君とななかが出会うことはもうないだろうが。


***
 書きたいけれどーほかの長編を書かないとー

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