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元不良文学少年少女コミュのAnnie

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蜘蛛の糸に雫が絡んで
 しんと湿った夏の夜明けに
  鼓動の音を聴きながら
   震える雫がぽたりと落ちた
    私の言葉もひたりと墜ちた
     コトバの深淵に私も堕ちた

コメント(49)

【魚眼】

青緑の硝子片みたいな
ネオンテトラの眼球拾ったよ
空っぽの眼窩に嵌めこむと
清々しく涙腺から噴きだした冷たい水で
気持ちよく顔を洗う 身体を洗う
水晶体に泳ぐ魚のプリズム
禊のあとには
何もかもが見えるようになった
そうやって殉教者みたいに
私は盲いたよ
【ラーラ、哀しい雌牛】

誰も知らない小さな村で、ひとりの女が捕まった。

それはそれは巨大な大陸の真ん中にぽつんと属するひとつの点にしかすぎないその村はカジャヴァッキラグ村という名らしくもない名を持っており、誰もが密やかな雪の結晶の上を歩くかのように静かに生活を営んでいるトコロであった。
村の人々は誰しも、自らが荘厳なる共同体というオートマティック機械の歯車のひとつひとつでしかないということを自負し、誰が食するかも知れない小麦を育て野菜を育て根菜を掘り鶏の卵を集め牛の乳搾りをし額の汗を拭き拭き、時おり頭上を行き来する大型旅客飛行機に地平線の向こうの世界を刹那的に夢見てはまた仕事に戻るという、農業生活に従事していた。
村の時間は動かない。季節はゆるりと変わりゆくけれどだからといって育てる作物の種類や着る物の変化があるだけで村に何かが起こるというわけではない。誰もが1年という短いのだか長いのだか分からない期間を1周期として毎年毎年同じ事を繰り返すだけ、そしてごくたまに誰かが結婚し子供が生まれたというような小さな変化しか体験しえない。カジャヴァッキラグ村カジャヴァッキラグ村。呪文のようなその名こそが村の存在にかろうじて価値を与えているのかもしれない。

ところがある朝、カジャヴァッキラグ村に異変が生じた。
男は61歳であったけれどもそんなことはどうでもよく去年60歳であったことも来年61歳になることも毎朝牛の乳搾りをすることに比べたら何の意味もないことだった。とにかく男は61歳で、乳牛を9頭飼っていた。9頭の雌牛にはすべて名前がついており皆伏目がちの静かな雌牛らで村の近くに飛行機が墜落して大きな爆発音がしたときでさえほんのひと時その黒い目を遠くに馳せただけで、再び黙々と干し草を食すことに専念したという。
ある朝男はすべての雌牛の静脈のはちきれそうな乳と毛色の艶と目の輝きを確認した後、搾乳機を牛の乳に取り付けていた。
ラーラという雌牛があった。男がラーラに搾乳機を近づけたその時ラーラの瞳の中にとある確信が芽生え血走り1滴だけ涙を落とした後ラーラは行動に出た。自分の腹の下にかがんだ男の上にしめやかにけれどすばやく座り込んだのである。脚を折り腹ばいになった姿勢でラーラは男の上にのしかかり更に体重をかけ、上半身を完全に雌牛の下敷きにされてしまった男がもがき酸素を求め足をばたばたさせるのをじっと見ていた。どれだけの時間が経ったことだろう、男は絶命しラーラはそれでも男の上から立ち上がろうとはしなかった。
ラーラと男を発見した家族は一家総出で雌牛を立ち上がらせようとしたけれど巨大なラーラがやっとこさ立ち上がるまでに数分を要した。完璧な圧死。
駆けつけた警察官はラーラを殺人容疑で逮捕した。

ラーラ、ラーラ、哀しいラーラ。誰もが知ろうとせずけれど誰もが知っている、ラーラがなぜ男を殺したのかを。
男はラーラから乳を搾取していた、毎日毎日一日も欠かさずそれが誰のためであるかも知らず誰のためでもなくただそれが誰かのためになるから歯車の歯のひとつひとつが大きな機械を動かすように男もただそれをしていただけなのだ。歯車のために乳はきゅうきゅう搾られるミルクは天の川をこしらえることができるほどにたくさん搾られる、ただ歯車のためだけに。ラーラはほんの少し動いただけで、歯車を止めた。ちょっと男の上に座り込んだだけで。歯車を止めることに意味があるのかないのかラーラには分からなかったけれどとにかく歯車を止めたいと彼女のココロがその朝彼女に語りかけたのだった。誰もそれをする勇気があるものはいなかった、誰も口にしたことすらなかった、誰もが考えたことのあることだったけれど実行に移すことなんて誰にもできなかった、哀しいラーラ以外には。このなんとも魅力的な、歯車を止める、という行為を!

ラーラ、愛しい女、殺人者のラーラ!捕まった彼女がどこへ連れられてゆくのかは村の誰ひとりとして知ろうとはしなかった、どうでもいいことだった。村人たちは一瞬止まった歯車の動きを翌日にはもう再開した。
そして私たちは新聞の隅の隅の方に小さく載ったこのラーラの記事をそのうちゴミ箱に捨て去りラーラのこともカジャヴァッキラグ村のことも忘却の彼方に追いやってしまうのであろう・・・。
ラーラは荷台に乗せられてどこかに連れられてったどこかどこでもないトコロへ。
【セックスに関する短い観想】

女にとって食肉行為の 男にとって削肉行為で
女のそれは舞踊に似れど 男のそれは酩酊に似る
女はそこで欣求の昇華 男はそこで欣求の劫火
女は最後に笑いに凭れ 男は最後に笑いに眠る
【バグ・マシーン】

突如
神々しく鳴り響いた天上のドンが
稲妻をまっすぐに地上に振りおろし
老木をふたつに切っ裂く
紫色に光る因子を幾千、幾万と降り散らしながら
割れた老木の股から生まれたるは
バグ・マシーン
煌々と爆ぜつつ
わらわら わらわらと
溢れ出てくる半翅目の虫たち
おまえたち、何を求めて?
二股の、燃えつづける昆虫羽化機から飛び出した奴らは
わたしたちの魂を
濁った薄青い液体を
この表皮にとりつきすがりつき
すべて吸い尽くすのだ
吸え、吸え
電磁波がとりまく
吸われれば吸われるほど
わたしたちは老木と化してゆく
虫たちの腹の発光体をわたしたちの魂の体液が満たすころ
またひとつ、空に雨雲が
怒りに震えるような雷がやってくる
ひからびた老木と化した哀しき人々、すなわちわたしたちは
その稲妻を待ちわび
身を引き裂けよ、と叫ぶ
身を引き裂けよ!
そして鞭打つような閃光に打ち砕かれたとき
まっぷたつになったわたしたちの身体から
また新たな虫たちが幾万と、飛びたってゆく
嵐のバグ・マシーン
空一面に黒雲と雷鳴、それにひしめきあう虫の大群
吸い尽くせ
嵐が去るまでに
この世は虫でできている
【かえるの王さま】

泡のような水の中のハインリッヒ
草の間からふと顔を出すハインリッヒ
きょろりと眼球を回して流れ行く空のアヲを眺める
彼を取り巻く、乾いたジェリー状の水晶体を持つ輩は苦手で
そんな瞳で凝視されると、つと目を逸らします
けれど彼は鉄のハインリッヒ
艶やかに、鋼の肌

ブランコに乗ろう、ハインリッヒ
小さな翠の両足は地につくこともなく
弧を描いて、跳躍
頭上をついと横切った真っ赤なドラゴンフライに挨拶
もう、秋ですねえ
アザミの綿帽子が雲に向かって一斉に舞ってゆく
あれに掴まって飛んだら
王国の外に出られるのだろうか

いとしい、翡翠色の肌が夕陽に透ける
こんな美しい肌があって良かった
虹のような跳躍ができて良かった

水に飛び込むハインリッヒ
同心円の輪が広がる
かえるになりたかった王さま
望み叶って、かえるになった王さま
あるいは鉄のハインリッヒ
空も水も、深く静まりかえる
翠の王国の中で
夢を見ながらハインリッヒは眠る
【腐りゆく季節】

驟雨と不可視的な大気からの氷の噴霧によって
夏の果物たちはいっせいに腐りゆく

森の中
まだ碧々とした葉のはざまに立てば
濃厚なる芳香
甘酸っぱくそして酔いをひき起こす淫靡な匂い
ブラックベリー、ブルーベリー、林檎に桜桃
それらの麗しい顔の上にみっしりと蔓延る青白いカビの化粧

少しでも触れれば
果物の陰に潜んでいた貴腐の精たちがぱっと舞い上がる
ウスバカゲロウにも似た羽を持つおんなの顔をした貴腐たちは
彼女らの毒を果物へと注入し
そして飛び立ってゆく
そうして果物はカビの化粧を施され腐ってゆくのだ

滴る甘き美酒
それは夏の終わりを告げる涙のひとしずくか

じきに
匂いをかぎつけたカタツムリたちが
厳かに礼拝をするかのように列を成して
何十匹何百匹と
腐りゆく果物に這い上がってくる
何を間違えたか生きているわたしにも彼らは這い上がり
強い香りを放つこの腐敗物を吸い尽くすのだ

どうやらわたしも腐りゆくようだ
貴腐の精はわたしにも毒を注入したのだろう
美酒として食い尽くされ、吸い上げられるのも悪くない

森の中
腐りゆく果物とわたし
冷たい葉陰に静かに横たわっていると
ふわふわと微小の胞子が鼻の穴からわたしの中に浸入する

ふと、眼球をその軟体動物に食われる直前
木々の間から覗いた夕刻の空に
やはり腐った肉色をした月がわたしを眺めおろしているのを見た
【至高聖所】

天井裏の住人からいつまで待たせるのだという私信を頂戴したのだけれど私は彼女をそれほどまでに長い間待たせたのであろうかと頭を抱えた私の昨今の記憶は曖昧で彼女と最後にいつ私信を交わしあったのかは定かではなかった
水槽の水は青緑色にゆらめきその中に潜水帽なしの裸の頭を潜らせてみれば赤子のように頬を吸ってくる吸いつきナマズのきょろりきょろりと瞬きする顔がまるで本当に自分の膣から這い出した嫡子のようで思わず水槽の硝子に映った我が面がナマズのようでないか確認する
私の膣から這い出すのはナマズではなく私の言葉たちなのだぞろりぞろりと単語やちょっと気の利いたような文句が膣から生まれ出た後太腿をしばらく徘徊し脊椎の彎曲に沿って登りはじめ頸周りを一周した後分裂して意味を成さなくなった言葉の断片一つ一つが軟体動物となり鼻の穴からナメクジみたいに再び私の内部に入り込み脳に達してニューロンと仲良く遊んでそして私自身の脳を壊す努力を惜しまないのだ
水槽に頭を突っ込んだまま夕陽色をした魚が食欲を発揮し海草のようにばかげた私の髪を啄ばんでいる間にも天井に空いた小さな穴を通じて彼女の追伸が私の背中の上に堕ちてくる
彼女曰く自らの頭を溺れさせる前にあなたのその珊瑚の出産のように生まれては消える言葉の泡をなんとかしてくれないかワタシはいつまでもあなたより高いところで待っているのにいつまで経っても珊瑚の子は天井裏まで上がってきてはくれないというのだ
至高聖所というものが本当に存在するのならばそれは天井裏にあるのかもしれない彼女の視線は常に私の頭上にあり時に実に細い線を放つ蒼白のサーチライトで私を照らし出しそして話しかけてくる彼女は私に依存し私もまた彼女の依存を望んでいるお互いにお互いの生を覗き見合いながらいつか私たちは同一の存在になるのだろうかという恐怖に苛まれながら
呼吸が止まる寸前ざばりと頭を水槽から解き放つそして後に残ったのは私の鼻の穴から逆流して蒼い水を湛えた水槽の中に本物の珊瑚の赤子のようにぱらぱらと落ちては小石の敷きつめられた水の底へと沈んでゆく私の言葉の断片なのだった
【不器用なる生物】

三つ脚歩行を試すれば
どこか私は純粋たらぬ
何かが蛇足で何かが不足
己の背骨で綱渡りする
道化にも似て笑われ泣かれ

鼻の歩行を試すれば
かの幻の鼻行類生物にもなりきれず
どこか私は半分人間

低空歩行を試すれば
夢見るように何処までも往き
そして再び迷い人と為る
尾骨の如く野性に転じ
退化と存続の狭間に属する
どこか私は幽遠の徒
【鏡の部屋】

キュビズムにて描かれた自らの
いびつな一コマ一コマを剥がす行為の中で
消去法が混乱を極め
自らがゼロのマイナスでしかないという乱視的結論に至る
なんと、不恰好な
治癒しきれぬ瘡蓋を寄せ集めたような形相に慄き
私は鏡を叩き割る
形式は百万の欠片へと壊れ果て
そしてまた新たな形式を生み出す
私は、私は

空気中に散った硝子の一粒を呑みこみ増殖させそしてまたその痛みのさなか身体の内壁を鏡張りの迷宮に再構築するのだ
【聯体】

皮膚に顔を埋め
皮膚に顔を埋め

美酒と渋帷子の抽出物に耽溺[アディクト]する
笑いながら、君の皮膚で窒息するというのは愉楽に過ぎようか?

あるいはPointe[ポアント]で
完全なるPointe[ポアント]で

遠のき続ける彼方の空から駆け降りて虹のように
私の眼前へと弧状[アーチ]の形で差し出された君の背
艶やかに光るその背をおずおずと、渉る私の強かさを君は視るか?

水魚の如く
あるいは水銀の如く
互いの鱗片を剥がしあいながら
たった一滴の致死性の毒を注ぎあいながら

皮膚呼吸を赦し続ける混濁の魂を更に、赦し続けることを愛と呼ぼうか?
【天地】

オオカミの皮を被ったトイプードル犬と
ライオンのたてがみを纏ったペルシャ猫がやってきて
逆立ちをしながら訝しげに問う
お前は何故に逆さまでないのか?
お前は何故に柔肌を滑らせているのか?

私は逆さまにならんと空を蹴立てあげ
自らの基盤を蹂躙し
霜の降りた芝の上に爪をたてて笑ってみる

南半球のとある川にて
真っ直ぐに、ひたすら真っ直ぐであった大鰐が
これまた真っ直ぐなる大蛇に食われたとさ
そして蛇の腹の中で逆立ちをしたら
腹がポンと割れて共に水の底に沈んだとさ
沈んで沈んで、沈みすぎて
北の霜降る私の庭からひょっこり顔を出し
「ああ、やっと逆さまになった」と嘯いたとさ

私は
ひとの皮を被ろうか
そうしたら
少しは楽に贋者らしくなろう
少しは楽に逆さまになろう
【虹猫】

雲もない夜空に
ふと虹猫が現れてのたまう
「それ、私の背を渡りなさい。
聖夜も近い。
皓々と、そなたの中心へ向かい、
私の背を渡りなさい」

脈翅のような薄く艶やかな毛並みを弧にして
空の彼方へと前足をのばした虹猫は微かに微笑む

嗚呼けれど私には尾がない
私の中心、愛の源泉たるはテュペロ!
かの地、テュペロへ!
嵐の轟く祈りの地、テュペロ!
竜巻のように私を巻き込み、自転させ続けるあの聖域へ!

嗚呼けれど私には尾がない
微々たるコクシクス―尾骨の退化した姿があるのみ
どうしてこのような私に、静逸なる虹猫の背が渡れよう

そう嘆いたその刹那
虹猫はチェシャの如くミャウと一声鳴き
ふさふさとした長毛の尻尾のみを中空に残して
闇に霧散したのであった
【結晶呼吸】

深く、けれども静かに静かに呼吸するような
昇華性物質の祈りを吐き出す人びとがいる
薄蒼いそれらの結晶が降り積もる道々
拾い上げた刹那掌で溶けてゆく
葉脈の如き掌紋と八個の小さな手を構成する骨のあいだに
確固たる意思をもって吸収されゆく欠けら
それらは再び私たちの鼻腔から宙へと吐き出され
この抽象的世界を再構築し
また溶けて消え去るかと思った瞬間に
誰かの鼻腔から吸い上げられるのだ
甘い祈り
苦い祈り
酸性の祈り
流氷のような祈り
それらにまみれた私たちは
微笑みを思い出し
涙を思い出し
諦念と再生を思い出し
何度も何度も輪廻にも似た馬鹿らしくも宝石のような
生の断片を生きつづける呼吸者たちなのだ
【無題】

Hellooooooo!!!!
Is anyone there!!!!????
(an echo)....llooooooooo!!! ....s anyone there...!!??
Helloooooooooooooooo!!!!
....oooooooooo!!!

霧にむせびながら叫ぶ。
その早朝、地域一体を包み込んだ霧の中で目覚めた私は、己が寝巻きのまま、冷たく湿った舗装道路にひとり、放り出されていることに気づいた。
ココはドコなのか。ワタシはナニをシているのか。
濃密なコンデンスミルクのような中空に手を伸ばしてみる。と、私の指先はその深すぎる霧の中に一瞬にして消失した。
ダレカ居るのか?ダレカ居ないか?
喉を振るわせる声さえも、どこにも届かず、こだまとなって霧散するのみ。
爬虫類のように光る道路には誰かがそこを通ったことを証明する轍すらなく、周囲は身がすくむほどの無音。道路の広さからして、高速道路である。けれど、車のエンジン音ひとつ聞こえぬ。
誰か、誰か、ここはどこなのか教えてくれ。誰か、応えてくれ。
立ち上がろうとした刹那、私は両の脚の脛から先が硝子のように粉々に砕け散ってしまっていることに愕然とする。身動きすると、つま先はぱり、と明るい音を立ててその破片をコンクリートの上に転がす。
肘を使って路面を這いながら、私は叫び続ける。
Hellooooooo!!!!
Is anyone there!!!!????
その時であった。どこからともなく、かぽり、かぽりという音が聞こえてきたのは。私は、真っ白になった頭を四方八方に巡らす。
ふと、霧の中から一頭の真っ黒な馬が現れた。弓なりに垂れ下がった首。静かに上下する四肢。
地面に這いつくばった私からは、血走った目をした馬の姿と、乗り手の下半身だけが霧の中にぼんやりと浮かび上がって見えた。
ああ、良かった。あなたはどこから来たのですか。ここは一体どこなのですか。
常歩(なみあし)で上下する馬の四肢。かぽり、かぽり、かぽり、かぽり。聞こえる音はそれだけだった。乗り手の返答はない。
かぽり、かぽり、かぽり、かぽり。馬は無言の乗り手を乗せたまま、徐々に私から遠ざかってゆく。
待って、待って!
そして、馬と乗り手は、霧の中に消えた。
辺りが、死のように静まり返る。
己も知らぬ間に、涙が一粒、涙腺から転がり出た。
その雫が冷え切った舗装道路に落ちた瞬間、ぴ、と私の眼球にひびが入り、水晶体の破片が涙と共に、コンクリートの表面にに砕け散った。
ナニも見えぬ。ナニも聞こえぬ。
私の声が粉砕する瞬間もそう遠くないのかもしれぬ。
その前に、ひたすら私は叫ぶ。
誰か!!!!
ダレカ!!!!!と。
【乙女の遊び】

アリスの子孫とリリスの子孫
水際に立って魂(たま)蹴り遊び

「アンタはバイタ 夫のアダム 
イヴに寝取られ 地獄に堕ちた」
アリスの踵、嗜虐に躍る

「アンタはロリータ 哀れなドジソン
妄想に委ね アンタが殺した」
リリスの膝にて 震える蹴鞠(ボール)

水面に揺れる乙女の笑顔
垣間見せるは無垢なる殺意

つと尖んがった少女のつま先
ガラスの魂(たま)を打ち砕き
カケラは死して流れ去る

後に残るは二人の少女と
殺められたるガラスの涙
ちっぽけな洪水に踝を潤し
永遠なるは乙女の笑い
【陽だまりの白】

ふと見ると今日も陽だまりにぽっかり浮かんだ白が。

もらいにきたよ
ああそうか、もらいにね
今日も、くれる?
うん、あげるよ

それで、私は白にあげるのだ。心地よい冷たさに冷凍してある私の指先のひとつを。

白は笑いながらそれをちょっと舐め、舌の先で味わい、それからゆっくりと飲み込む。

今日の白、お嫁さんみたいだね、木陰のヴェールに包まれて
うん、なんだかとっても幸せな気分なの
明日も来てくれる?
どうかしら、あたし、気まぐれだからね

小指を、ありがとう

そうして、白はひらひらと飛んでった。
陽だまりの中、私は欠けた小指をゆっくりと温める。
【人食いびと】

屠られたひとびとの笑顔が市場に並ぶ
敵対民族の屍の味はほんの少しターメリックの効いたエスニック・テイスト
最高級のラムにも似た風味です
幾千もの巻き毛の羊の穏やかな寝顔が軒先に吊り下げられるが
それはまさしく羊頭狗肉の呈をなし
ひとを食した者はみな下賎なる笑いが止まらなくなる

人食いびと
まったく、人を食った話だ

愛などということを考え始めると愛は盗人の如く一目散に走り去ってゆく
それを追いかけて食らいつけば
シチューにされる寸前の野うさぎの涙ぐんだ真摯な瞳の風味です
微かに幼げな若草の香りを含み
それを食したものはみな残忍なる笑いが止まらなくなる

いつも、嘘ばかり
では真実の味とは何の味がする?

我が小指を噛んで噛んで噛みしめて錆びた液体を啜る春の日々
陽だまりの芝生の上に落ちた赤い鉄の幾粒もの雫を呆然と眺め
自己をこのように削り落としながら生きるのはまるで他者の血の砂糖菓子の風味です
ゆくりなくカニバリストである我らを発見した私たちにとって
世界は笑い落とすにしか値せぬ、笑いは、永遠に止まらぬ

涙がとめどなく迸るほどに
世界は冗談でできている
世界は、冗談で、できている
【毒のおはなし】

日が暮れた直後の、ざわめきの残る生垣に囲まれた藍色の小道を一人歩いていた子供は、ふと道を抜けた向こう側に小高い丘が月に照らされているのを見る。

此処は。
瘡蓋のできた爪先のじくじくと鳴るのを聞きながら、子供は暗い丘陵へと独り登る。
こんな所に来てはいけないのだ。本当は。こんな、何処でもない場所へ、家々の灯りが燈り始めるこの磁場のような時間帯に、このような秘所で指先の痛みを感じているということは。
けれど、何処に居てもいいのだ自分は、というどこか空虚な思いが一番星と共に子供の心に飛来し、子供は歩を進める。

新月の、弱い光と暗闇。
丘にまばらに生え揃わない芝と低木。
子供はひとつため息を吐くと、丘の天辺へと登りきり、其処にしゃがみこむ。
そして、今日一日使われることの無かった乾いた手指を、闇に浮かんだ地面につ、と差し込んだ。
土は意外に柔らかい。少しだけ湿った土くれを人差し指でえぐりだすと、あの匂いがした。指に付いた黒い塊に鼻を寄せると、あの匂いは強まる。子供は、無言で、確信する。

ここは、掘ってはならぬ聖域なのだ。ここの土は、毒にまみれている。確か、ひとの背丈以上に掘ってはならないと大人たちが口々に言っていた。せんそうちゅうに、せいぶつへいきのじっけんをしていたくいきだから。いまだにここにはたんそきんというどくがうまっているのだそうだから。

無心に、月が傾くことに気づきもせず、子供は掘る。小さな指先の皮がめくれ、微かに赤が滲んだ時、子供は少しだけ微笑む。傷口に、土が、その湿り気が音も立てずに沁みこんでゆく。
月が、灰色の雲の向こうに消える。

今夜は、と子供は心に誓う。この指先を煮込んだスープを作ろう。そしてみんな、それを食べる。父さんも、母さんも、自分も。父さんも母さんも、あの匂いには気づくまい。気づかぬうちに、あれは少しずつ、みんなの中に吸収されてゆくのだ。
子供は、痒みを引っ掻くかのように、それを掘り続ける。小さな笑みを、火照った顔に浮かべながら。掘り続ける。

月が、灰色の雲の向こうから顔を出す。
【森に為る】

乾いた呼吸を赦されぬわたしは
ひっそりと
森に息づく
指先をうねる樹の根へと触れると
わたしの左の乳腺がほの暗く湛えるひとつの塊を
まるで心の中のしこりが権化したかのような
小さく痛みをもったその細胞の塊を蕩かすべく
全身の葉脈がいのちのみずを吸い上げる
樹液の甘みと透明な清水
眼球が慣れ親しんだ苔類には
あなたのような深いミドリの匂いを纏わせてとねだって
すべてのイキモノの餌になってしまいましょうと
いのちの色、乳房を這う
おんななどというものは
こんなちっぽけな、しこりなどというものは
流れる樹液の中ではすぐに溶解してしまう砂糖菓子のようなもの
おとこなどというものは
あるいは
いきものというものは
ミドリになってゆく、全身
もう、生も死もどうでもよいほどの、ただのミドリになってゆく
森に棲む
誰も彼もが森になってゆく
あ、トピのところのですか?
そう、文字通りのななめ読みです(笑)。
意味のない文字の羅列として、むしろ読み飛ばしてやってください;
【石〜ici】

夏のおわりが近づいたのだよと雷鳴が耳元で囁いた夜
わたしは小さなわたしの左の乳房にもっと小さな小さな
ひとつの石を見つけました
まるで岩陰に潜んででもいるかのようなこどもの石です
いつのまにこんなこどもをじぶんの胸に育てていたのだろうと
わたしはそれを右の手で静かに慈しみます
けれどこどもの石は泣いて泣いて
そんなんではないのだ、と
そんなんではないのだ、と

ではどんなんだ、と撫ぜあげれば
ごぉろごぉろと轟く空みたいに不毛な痛みを訴えつづける
むずかるこどもというのは、こんなんでしょうか
左の胸の、こころの近くですすり泣く
わたし自身の石の部分のような姿をしたこどもとは
こんなんでしょうか

こころが小さく固まって
ひとつのくだらないけれどいとおしい瘤へと昇華して
そして苔を集める、動かぬひとつの絶対的存在であるかのように
わたしのこころと呼応しあうこんなわたしのちっぽけな病は
転がしていのちのみずに溶かしてやったら喜びの声をあげるのしょうか
わたしのこころは
それでもいつかどこかでまた石になって
夏の夕立のような強い匂いを放ちながら産声をあげるのです

石は
わたし自身でもあり決して砕きつくせぬ石自身でもあり
宝石でもあり森の葉陰の虫の住まいでもあり苦悶でもあり歓喜でもあり
病でもありあなたの微笑みや憂鬱の現象体でもあり孤独でもあり幻でもあり
それなのに、
それなのに
そんなんではないのです
>al-chemis†.さん

んーー、まだまだ表現しきれてないというか、甘いんだと思いますが、「階段にけつまづいたときに階段が悪いという」ような意図はほとんどの詩に関して、まったくないのですが(むしろ、逆)…。
ただそのように受け止める方がいるということは、実際そのように書いているのだ、ということに気づかされました。
ありがとうございます。うんざりでなかったら(笑)またコメントください。
なるほど。確かに、「ナニカらしく」しようという下手な小細工があるのは自覚してます;
ありがとうございます。
【角度】

その日
斜めの陽光が胸の中を通過するのを感じたわたしは
わたし自身も斜めになってみて
光を逆に通過せんと試みる

にじいろの魚を、瞳を輝かせる子供たちに売る怪しげな商人のようだ
絵の中からおおかみが躍り出るぞ、と脅しながら語る紙芝居屋のようだ
傾くと色の変わる水に満たされた魔術的詐欺師のガラス瓶

水、といえば
世界のどこかで洪水が起こる度に
ひとと家と豚と羊と樹木と宝石と昆虫と義足と土くれと子猫と声と
どうでもいいものと何だかよくわからない物体と女の丸い尻みたいなものが
ごったになって仲良く斜めに流れ
かつて垂直だったお互いを爆笑するよな

角度は常に流動していて
そのくせ
熱に浮かされた感情移入にまみれて遡りつづけながらも
決して振り向かない

その日
真夜中に無言の電話を受け取ったわたしは
首を微かに傾けて一晩中、強迫的無言であなたをからかった

鋭角には、なりすぎないほうがいい
鋭角に、なりすぎるほどにはなりすぎないほうがいい
>al-chemis†.さん
たしかに、その2行が芯でございます。
うだうだ…しがち?笑
【夏の日】

あなたはときどきわたしにいじわるする
わたしもしかえしに、あなたにいじわるしてあげる

つぶさに
そうやって自分が独りではないとたしかめているのだ
つぶさに
地を這うとかげのしたたかさを真似てみているのだ

いじめっこもいじめられっこも
独りの帰路
夕焼けの足元に伸び上がる自分の影を追い続けては
えーんえーん、と
おおきな声に出して泣いてみる
夏の日
(例外的ひとりごつ)

【Three Haikus about countless lovely bugs in the world】
【この世の愛すべき虫けらたちにおくる英語俳句】


On a rainy day
A bug turns into a numb monk
Under the tiny rock

 氷雨打つ石くれの下に虫の僧


The bug dreams of
A gentle moon's cuddle
……Cruel winter night

 冬月の抱擁夢みる虫独り


I just got to know
This stupid world is full of
Hopeless mad bugs

 我気づく虫けらに溢るるこの世かな
【あいだ】

夜中の3時
ふと目覚めたあなたが言葉にならぬ言葉を私に向かって発する
私もまた
不完全な声の断片をあなたに還す

同意を求めるかのようなあなたの「ねえ」の
「N」と「E」のあいだにかろうじて耳をくすぐる何らかの子音
拒絶するかのようなわたしの「もう」の
「M」と「O」のあいだに同意を含んだおかしげな母音

交わそうと思って交わす言葉に意味らしいものなどない
だからといって
意味でない何かなんてものもない

競るようにいつのまにか近寄りあって
やがて互いの表面を触れ合わせる唇と唇のあいだには
静かな息の交感と
音もない超新星爆発がくりかえされる
【ウサギの部屋にて】

そもそも
言葉というものが先にあったのか
ひとが自らを自動書記に設定したがために
言語というものが存在を始めたのか
そのようなことを考えているうちに部屋が一面ウサギの毛に覆われた

ふんわりと耳たぶに生えたようなのと同じ柔らかさの
カビのような白に曇天色のぶちが入ったウサギの毛は
室内にあまりに心地よい湿気をもたらし
私は危うく言葉を囁いてしまいそうだ
部屋の成長に意味を与えてしまいそうだ

壁一面
天井床窓扉電灯机なにもかもすべて
ふんわりに多い尽くされて

黄金虫が舞い降りる
顔を撫でてはにやりとほくそ笑みあい
獣くさい空気を呑む秘密の乾杯

ぽつりぽつりと無意識のうちになにごとかを呟くと
空間が
言葉を得る瞬間瞬間に伸び上がってゆく
さまざまな色で
さまざまな匂いで
世界はどこまで密集し続けるのか
ひしめきあってぱん、ぱん、と弾けあうのか
キューブ状のワンルームが蜂の巣のように
ひとひとりひとりの空間を為す
言葉と同じように
言葉を吸収して
この世でただひとつの部屋であらんとする
ある部屋は愛らしすぎるような気恥ずかしい花に満ち
ある部屋は愛おしくなるような血に塗れ
意味があることだらけ
まるでそれが価値のあることであるかのように

私もいつか全身をウサギの毛に覆われて
もはや何も発することもできずに息を詰まらせたとき
ぱん、と弾けるのだ
そして意味のないただ濃厚な匂いだけを発する物体と化して
世界の幾万幾千万の破裂を聞こう
きみの破裂をも聞こう
【愛】

The wind blows into our subconscious love,
stroking its surface and revealing its shape.
We notice how hot our hearts are,
never be frozen in this windy, even icy world.

Now our souls fly higher with the wings of a dove,
looking at our fate and our quantum leap.
We realise that we exist everywhere,
forever shining dazzlingly, like a legendary gold.

風吹きて無意識下のココロの中へと這いこみ
その肌を撫で上げてはココロのカタチを露呈させる
そのような方法で気づくのだ、我らが体温に
冷たき風のふきすさぶ、氷の世界にても凍てつかぬこの内なる温度に

今や魂は一羽の鳩に託されより高みへと舞い上がる
我らが宿命と異次元への跳躍までをも瞳に投影しつつ
そのような方法で感じるのだ、我らはあらゆる場所に存在すると
語り継がれるひとつぶの黄金のように、眼が眩むほどに輝きながら

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