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今、鳥人戦隊ジェットマンが熱いコミュの【外伝】小説 鳥人戦隊ジェットマン? 変則ダブルデート 2

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とはいえ沙羅としては、どうしても気になる。
あの無自覚鈍感男がこずえに無神経なことをしやしないか、言いやしないか。
ベッドに入ってもそんなことを考えていたら、なんとなく寝そびれてしまい、
起き上がると簡単に着替え部屋を出た。
スカイキャンプは24時間稼動しているが、さすがに夜は昼に比べると多少活気が落ちる。
その中を、沙羅は腕を組んで少し難しい顔をしながら歩く。あてもなく歩いていたわけではない。
スカイキャンプの上層にある展望室を目ざしていた。
そこは観光施設にあるようなものと比べると貧弱ではあるが、
ちょっとした息抜きには充分で、沙羅以外にも利用している隊員や職員はいくらでもいる。
職員同士、職場恋愛をしている者同士が
身近なデートスポットとしてひそかに利用しているという話もあるが、
沙羅としてはいまのところそういう使い道はない。
それとは別に、沙羅がそこを目ざしたのは、こんな時間だけに人もおらず、
考え事をするには都合がいいだろうと考えたからだった。
が、エレベーターの扉が開くと、先客がいたことがすぐに知れた。
照明が落とされて、非常灯だけの薄暗い中、音が響いていた。不快な音ではない。弦楽器の音だ。
窓辺のテーブルに行儀悪く座った一人の若者がバイオリンを弾いていた。禅だった。
「…………」
禅は沙羅がやってきたことに気づいていないらしい。
沙羅もすぐに声をかけることはせず、静かにその様子を見、奏でる音を聴いていた。
禅の生い立ちを考えれば、彼が正式にバイオリンを習うことなどありえない。
不良少年時代、雇われたヤクザの家で偶然見つけ、
見よう見まねで弾いてみたところなかなか気持ちがよかったので、
それ以来、気が向いたときに独学で練習をしていたのだ。
完全な我流ではあるが、彼はもともと物事の本質を直感的に理解する力に優れ、
また父譲りで音感もよかったせいか演奏法は理にかなっていた。
スカイフォースの隊員になったあと、
一度、正式なバイオリニストに演奏を聴いてもらう機会があってそのことを指摘され、
さらに「正式に学びなおせば相当上達する」とのお墨付きをもらったこともあるが、
当然禅は趣味以上のものにするつもりはなく、こうして時折好きな曲を奏でるだけで満足していた。

そういう奏者の演奏だけに、沙羅もしばし憂いを忘れ聴き惚れている。
と、曲が終わると奏者の方から声をかけてきた。
「タダ聴きはよくないな。コーヒーの一杯くらいおごれ」
笑みを含んだその声に、軽く我に返った沙羅は、少々つっけんどんに応じる。
「ちょっと音程ずれてたわよ。ちゃんと調律やってんの? それで代金取ろうなんてずうずうしい」
「金とは言ってないだろう」
「同じことよ」
そんなことを言いながらも、沙羅は備えつけの自動販売機に歩み寄り、
自分の分とふたつ、紙コップに注がれたコーヒーを買って禅に渡す。
「サンキュ」
「ワリカンだかんね」
「セコイなあ」
「運び賃よ。自販機からここまでの」
「ますますセコイ」
自分の隣りに座る沙羅に笑いながらそう言いつつ、禅はコーヒーをすする。
と、表情を変えずに尋ねた。
「なんかあったか」
「……なんでよ」
「いつにも増して仏頂面してるからさ」
「…………」
普段の沙羅なら、ここでさらに言い返すところだが、
そんなにわかりやすく不機嫌さが出ていたかと思うと、
自分の未熟さをちょっと反省せざるをえない。
「……べつに。たいしたことじゃないわよ」
「こずえと鷹男のことだろう?」
沙羅は少し気分を変えるように、軽く伸びをしてから答えるが、
「仏頂面」の理由を的確に言い当てられて、少し驚いたように禅を見る。
「知ってたの?」
「いや。でもお前がそこまで不機嫌になる理由って、たいていあの二人がからんでのことだからな」
と、小さく笑いをこぼした禅は答え、またコーヒーを口にする。
「…………」
言い当てられて悔しい気分もあるが、
同時に、ここまで自分たちをよく見てくれている「兄」に対する尊敬の念も覚え、
沙羅もまたコーヒーをすする。
「……いろいろさ、あんのよ。あの二人」
「そうだな」
正確には圭子も含めて三人だが、根本的に「誰も悪くない」というのが沙羅としてはつらいのだ。
沙羅や、もしかしたらこずえの感覚では、
生まれた時からずっと一緒の鷹男とこずえの間に割り込んできたのが圭子だと感じる気持ちが、
やはりある。
だが、恋愛とはそういうものでもない。そのこともわかる。
鷹男が鈍いのが悪いといえばいえるが、もし彼がこずえの自分に対する本当の気持ちを悟ったら、
それはそれで問題が起きそうだというのもわかり、
沙羅は、さらにいろいろと、もやもやした気持ちを抱えてしまうのだ。

禅にしても、あの奇妙な「三角関係」が気にならないわけではない。
だがそれは、鳥人戦隊のリーダーとして隊員のメンタルについて気にしている部分が大である。
禅は生い立ちが生い立ちだけに、性格が相当大人びていて、
自分と同年代の少年少女が、どうしても子供に思えてしまうのだ。
といっても鷹男やこずえ、沙羅たちの気持ちを馬鹿にしているわけではない。
常に一歩引いた位置から、できるだけいい方向に持っていけるように手を貸したいと思っており、
そのために彼らの気持ちを真から理解したいと考えてはいた。
それでも基本的に恋愛事は当人たちがなんとかするべきものだとも考えているので、
それほど干渉はせず、放っておいてある。
その点について禅は、偉そうに言う資格があった。
彼は彼で、それこそ当事者として自分の恋に忙しくもあったからだ。
実は禅は、一日に一度は必ず香にメールを送っており、日によっては電話をかけたりもしていた。
香の当惑はメールの返信内容や電話の声などから感じているが、
それでもマメに攻めることは怠っておらず、
そのあたりはさすがに凱の息子であるといえた。
香の当惑の理由が、自分の年齢以外にその父親が関係しているとは、
さすがに禅も気づいてはおらず、
いまは香をどうやってデートにでも誘おうかと思案している最中だった。

禅としてはむしろ、沙羅の「妹」への過干渉が気になっていた。
こずえは確かに、かよわい、はかないといった印象があるが、
芯に強いものを持っていることは、つきあいの浅い禅にもよくわかる。
でなければ、そもそもバイラムのような連中と戦えるわけがない。
そのことは沙羅もわかっているはずなのだが、これはどうにも、
子供の頃からこずえを守って――甘やかして――きた彼女の習性に近いもので、
容易になおりそうにない。
同じことは鷹男にも見て取れるが沙羅ほどではなく、
こずえの強さは、そんな「兄姉」の過保護にもスポイルされない
自律心の強さからも証明されているな、と禅などは感じていた。
このあたりはむしろ、本当の兄である大地の方が、
彼女を真に大切にしているといえるかもしれない。
彼らはごく普通の兄妹で、兄はよく妹をいじめ、妹は兄にそれなりに反撃し、
ごく自然に互いに鍛えあってきたのだから。
そんなわけで、禅は沙羅に対してなにか言ってやろうと思っていたのだが、
しばらくうつむいていた、考えるより行動の方を重んじる「妹」に先を越された。
「……よし決めた。明日あの二人についてく」
「……なんだって?」
「言ったとおりよ。明日はあの二人を監視する。というより鷹男を監視する」
沙羅は、少し冷めたコーヒーを一気に飲み干して紙コップを握りつぶすと、
テーブルから飛び降りる。
「あのなあ、そういうことは……」
その表情はすでに決意に満ちていて、禅は閉口する思いだったが、
沙羅はその「兄」の言うことを無視して、さらに彼が閉口することを口にする。
「あんたもつきあいなさいよ、禅」
「なんでおれが?」
「男じゃないと入れないようなところだってあるかもしれないじゃない。それに二手に分かれた方がいい場合だって。そのための要員よ。どうせあんたも明日ヒマなんでしょ」
「…………」
言われて禅は黙った。
ヒマがどうこうというより、こうなった沙羅はなにを言っても止められないと、
これも短いつきあいながらわかっていたのだ。
となると「これはもう沙羅がなにかしでかすのを止めるためについていくか」
と切り替えるのが建設的だろう。
「……わかった、いくよ」
「OK。あの二人の待ち合わせは明日10時に駅だから、ちょっと前くらいに出るわよ。それじゃおやすみ」
そんな禅の心にはまったく気づかず、沙羅はさっさと予定を告げ、
つぶした紙コップをゴミ箱に放ると、そのまま展望台を出て行った。





電車の中は、さほど混んではいないが座席はすべて埋まっており、
鷹男とこずえはドア付近に立っていた。
黒い窓外と軽い震動の中、こずえはドアにもたれ、鷹男は手すりを持って立っている。
見方によってはこずえを守るようにも見え、こずえは内心、うれしさを抑えきれなかった。
電車を待つプラットホームで今日の目的――圭子のためのプレゼントを買う――
をあらためて聞かされたこずえは、
最初から知っていたためショックを表情に出すことはなかった。
それでもかすかに胸を痛めていたのだが、このことで相殺されたようである。
「鷹男くん、今日はどこに行くの?」
「そうだな、キャッスルタウンへ行こうかと思ってる。あそこならいろいろ店もそろってるらしいし」
キャッスルタウンは大型ショッピングモールで、女性のための店をメインでそろえており、
こずえも納得した。
「そっか、わかった」
「こずえちゃん、あそこ行ったことある?」
「何度か。たいてい沙羅ちゃんと一緒だったけど」
「そうか、それなら安心だな。よろしくお願いします」
と、鷹男が軽く頭を下げるのに、
「い、いえいえ、こちらこそ」と薄く赤面しながら律儀に頭を下げるこずえだった。

「……悪くない雰囲気ね」
とは、隣りの車両から隠れて二人の様子をのぞく沙羅。
安堵と満悦の間の表情と口調で、
禅は「そうだな」と、二人の他にそんな沙羅も等分に見て軽くホッとする。
鷹男とこずえは談笑を続けていて、地下鉄は目的地にあと数駅で着く。


と、そこでちょっとしたトラブルがあった。
鷹男たちが乗る車両に、見るからに、という4人の若者が乗ってくると、
座席の一角を占拠し、足を投げ出して大声でおしゃべりを始めたのだ。
しゃべる内容も下卑た笑声を基本としたもので、他の乗客は不快さを覚える。
だがやはり注意するのは怖くもあり、全員見て見ぬふりをしていた。
「…………」
鷹男も普段だったら、それに近いところはなくもない。
竜の息子である以上「義を見てせざるは勇なきなり」というところは鷹男にもあるが、
彼は自分のバードニックウェーブという「与えられた」能力に負い目があった。
「自分がここで偉そうなことを言えるのは、実力で連中を排除できる力があるからじゃないのか。もしこの力がなければそんな勇気はないのではないか」
という怖れが、彼の人格の根幹の一つとなっていた。
それだけに鷹男は自分に厳しいところがあり、
同時に自分より明らかに弱い――腕力の類という意味で――
相手に対して手を挙げることはなかった。
そういう彼であるから、今回も、多少の後ろめたさはありながら無難にやり過ごそうと考えていたが、
少し気になることがあった。
同じ車両に小さな子供が乗っており、その子がその若者たちを凝視しつつ、
恐れていることがそれだった。
下手にその子が騒いだり泣いたりすると、若者たちがその子やその親にからむ可能性がある。
「…………」
見ると。こずえも自分と似たような表情でその様子を見ていた。
こずえは鷹男の「信条」を知っているだけに、そして彼女自身も似たような感情を持っているため、
自分を責めることはあれど、見て見ぬふりをする鷹男を責めたりはしない。
だがそれだけに、ここでどういう行動を取ればいいのかつかみかねていたのだ。
「……こずえちゃん」
それを見て、鷹男はこずえの耳元でささやく。
「え?」
「目的の駅に着いたら降りて。それでそのままおれの後について走って。いいね」
そう言い置くと、鷹男はこずえの返事を待たず、
迷惑そうな、それでいて関わり合いになりたくなさそうな乗客たちの間を抜けて、
大声でくっちゃべってる若者たちの前に立った。
当然そんな鷹男を、若者たちはいぶかしそうににらみあげる。
「……んだよ」
いかにもな連中が、いかにもな表情とドスの利いた声でにらんでくる。
まともに生活している人間だったら、容易に怒りと恐怖を覚えるだろう。
だが鷹男は平然とした表情で、ニコニコと見おろしている。
育ちのよさそうな、ケンカなどと無縁で生きてきたような少年に、自分らの脅しが通じない。
それだけで若者たちは「カチン」ときた。
育ちがよさそうに見えながら、意外としたたかなこの少年の期待通りである。
「んだっつってんだよ」
と一人が立ち上がり、他の三人も似たような形相で立ち上がって鷹男をにらむ。
四人のうち二人は鷹男より背は高く、見おろすようで、威圧感はさらに増すが、
鷹男は動じた風もなく、相変わらず無言でニコニコしている。
それが自分たちを馬鹿にしていると感じた若者たちは怒気をみなぎらせ、
ハラハラと彼らを横目に見ていた、他の乗客たちの恐怖も高まる。
と、そこで電車はホームに入り、数秒後、扉が開いた。
その瞬間、鷹男は小さく「フッ」と、今度こそ馬鹿にしたように笑い、
間髪入れず開いた扉からホームへ飛び出す。
「待てやコラァ!」
鷹男の小馬鹿にしたような笑いに逆上した若者たちは、その彼を追って走り出た。
が、その時にはもう鷹男は、他の扉から出て来たこずえとともに、
彼らが追いつけるはずもないスピードで階段を走り昇って、若者たちの視界から消えていた。
そして列車は唖然とした彼らをホームに残して発車した。ホッと安堵した乗客たちを乗せて。

この時、当然沙羅と禅も列車を降りていて、
「あの連中、殴ってきていい?」
「やめとけ、時間の無駄だ」
という会話をしつつ、鷹男とこずえを追っていた。


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http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=35219269&comm_id=2123162

コメント(8)

>桂 真枝さん
いつも感想ありがとうございます!

ホントは親父と同じく、そのままサックスにしちゃおうかな、とも思ったんですが、
それだと芸がないと思って、思い切ってこっちにしてみました(笑)。

スカイキャンプについては、
もうあることないことというか、ないことないことばっかりで(汗)。
一応、あってもおかしくなさそうなものを選んでるつもりではあるんですが。

竜だったらどうでしょうかね、
意外と襟首つかんで引きずり出したりして(笑)。
凱だったら全員コテンパンでしょうけども(笑)。
>涼さん
感想どうもありがとうございます!

鷹男らしい、と言ってもらえるということは、
読んでくださってる方の中で鷹男像みたいなのができているということで、
それがとてもうれしかったりします(照)。

竜だとたしかにそんな感じかもしれんですね(笑)。
凱もそんな感じがしますが、セカンドバックで頭ぽんぽんはアカンです、それはアカン…(泣)
>サユリンさん
いつも感想ありがとうございます!

どうなんでしょうねえ〜。
気分的には親の感覚もあるから、成長しているのかどうかよくわからんです(笑)。

でも自然に成長してくれてるなら、それはすごくありがたいな、と思っています。
 久しぶりに読ませていただきました。
 鷹男は女心には鈍感だけど、正義感の強さはある・・・ますます父親譲りですね(笑)そして女性を守ろうとする心も受け継いでいたんですね。少しだけ、ホッとしましたあせあせ

 逆に禅の戦法は「時間の無駄」というあたり、父親のようにトコトンやるタイプではない。いかに効率よく、不特定多数と思われるバイラムの残党を早く倒すかを心得ているって感じですね。

 さて、今回未登場の大地が、個人的には結構気になるんですよ〜。既に目次では「終」の文字もあったのですが、じっくり、順番に読ませて頂きます。
>masaさん
お返事遅れました、すいません(汗)。
いつも感想ありがとうございます!

なんか知らんが女にモテる、というところも似ているかと思われます(笑)。

禅はですね、父親の隠れた本性である
「真面目で寂しがりな良い子」が少し素直に前面に現れている感じも考えていて、
その分優等生的なところもあるかと思われます。
あとはまあ「弟妹」がまだ頼りないので、がんばんないといけないお兄ちゃんですから(笑)。

大地は最後の方と、あと書き足した方にちょっと(笑)。

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