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lll小説『月迷三国志』lll連載中コミュの『月迷三国志』第五章:[決着なるか反董卓戦]一〜四

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小説『月迷三国志』・・・第一章:[巡り逢い]
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第二章:[周翔副将の妙計]
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第三章:[激動始まる三国時代]
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第四章:[打倒董卓いな呂布] 一〜八
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第四章:          九〜十
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第五章:[決着なるか反董卓戦]一〜四



呂布を退却に追いやってから董卓軍は
虎牢関に立てこもり一向に出てくる気配がなかった。
完全に守りに入ってしまい、これといって打つ手がなく
両陣営とも膠着状態が続き静かなものであった。

「李雪よ。暇つぶしにあの張飛に手合わせしてもらってこいよ」

劉義が突然言いだした。

「え・・。それがしがですか・・・。」

呂布との果敢な戦いぶりを見ていた李雪だったので、
無茶なことを言い出したなという風な気持ちが顔に出ていた。
明らかに自分とは格が違いすぎると思ってるのだろう。

「そうだ。いい経験になるではないか。大体ここ数日どうも暇をもてあましているのだ。ちょっとここで待っておれ」

そう言って張飛のいる駐屯地の一角へと走っていった。
しばらくして劉義は張飛を連れて李雪の元へ戻ってきた。

「ほう。おぬしか、それがしに手合わせを願い出たのは。いい根性をしておるではないか」

張飛が李雪の前に来てそう言った。
一体なんと言って連れ出してきたんだと言わんばかりに、
李雪は劉義の方をちらっと見た。

「いかにも。我が軍の李雪という者でござる。どうしても一度張飛将軍殿に挑んでみたいと言っておりましてな。当方も失礼であると散々諭したのだが、聞き入れてくれぬのだ。張飛殿、申し訳ないがひとつ共に呂布に挑んだよしみで付き合ってやってくださらぬか」

そういってどこから持ってきたのか、劉義は細長い丸太の棒を
二人に手渡した。
張飛もなかなか乗り気なようで、逆にいい暇つぶしとばかりに
その申し出に応えようという感じでやたらとニヤニヤしていた。

「さあ〜。どこからでもかかって来い」

劉義に手渡された棒を握って立っていた李雪は
微妙に不貞腐れた顔をしていたが、
いざ構えるとその目が打って変わって真剣になっていた。
李雪もまんざらでもなさそうだ。
李雪とて今まで力では誰にも負けた事はないからである。
どれほどの力差があるのか試す機会なのだ。

「さ〜来い。」

張飛がただただニヤニヤしながら軽く構えて大きな声で言った。

「では失礼いたします。」
「や〜〜。」

とこれまた大きな図太い声で李雪は棒を振り回した。
一合二合と李雪が打つのを張飛は片手であしらっていた。
さすがは張飛殿とばかりに、李雪はより真剣な目になり渾身の一撃を繰り出した。
すると思いのほか衝撃を感じた張飛も棒を両手で持ち直し、
果敢に打ってくる李雪に

「結構やるではないか。そろそろ反撃にでてもいいかな」

と一言いうと
その棒を大きく振り上げ李雪めがけて振り下ろした。
力自慢の李雪も凄まじい衝撃に手がしびれているように見えた。
そしてもう一度張飛が棒を振ると、李雪の持っていた棒が床に落ちてしまった。

「勝負あり」

劉義が叫ぶと李雪は張飛の前で片膝をついて

「参りました。」

と頭を垂れた。

「はっはっはー。まだまだ青いのー。だが、なかなか素質はある。」

そう張飛は言葉をかけた。
いつの間にか人だかりが出来ていて、面白げに劉備も関羽も見に来ていた。

「張飛よ。その辺にしておけよ。李雪殿がかわいそうである。」

野次馬に混じっていた関羽はそう言って声を上げて笑い、
肩を回しほぐしながら劉義の方を向いて

「では今度をそれがしが、もしよろしければ劉義将軍殿。お手合わせいただけませぬか。棒では面白くないゆえ矛での手合わせと行きましょう。」

思わぬ申し出に劉義も一瞬たじろいだが、

「おー関羽殿でござるか。お手合わせできるとは光栄でございますな。ですが、さすがに矛勝負となりますと私は相手になりますまい。よろしければ私は剣を使わせていただきたい。」
「何でもよい」

といい、矛と剣にて手合わせる事なった。
周りの群集も本物の武器での手合わせとあって、どよめいていた。
劉義は決して小柄というわけではないのだが、
関羽や張飛と比べると体格差は明らかであった。
劉義は矛ではあまりに分が悪いと思ったのだろう。
関羽は自慢の長い髭(ヒゲ)を手で触れながらいつでもいいとばかりに立っていた。
劉義は一礼し剣を抜いて早速打って出る。
思わぬ劉義の速さに関羽も驚き腰を入れてあしらっている。
関羽はしばらく剣をあしらい、今度はお返しとばかりに
凄まじい速さと迫力で矛を右に左に振り回す。
まるで違うタイプの武人と言ってよかった。
片や豪腕で矛を振り回し、かたやそれを身軽さをもってかわしている。
一向に勝負が付かないようであった。
群集も固唾を呑んで見守っている。
ただただ矛と剣の当たる音が聞こえていた。
例えるなら熊が兎を捕まえようとするがごとく。
矛が剣に当たると吹っ飛ばされんばかりになる劉義であったが、
全身の力で踏ん張り耐える。
と思うと次の瞬間には剣が関羽の顔の目前をかすめている。

見かねた劉備が
「一端やめい。充分であろう。引き分けとしましょう。両者ともなかなかやるではないか。これ以上続けて万一傷を負ってしまっては戦どころではないでな」

両者とも不適な笑みを浮かべつつ肩で息をしていた。

「さすがは関羽将軍。危うく討ち取られる所でした。無論関羽殿ほどの武人に討ち取られたのならば、未練なく成仏できるというものですが」」

と劉義はニヤっと笑って言った。

「いやいや、そこもともなかなかやるではないか。いつわしの自慢の髭が切り落とされるやと冷や冷やしておりましたわい」
というと大きな声で笑って応えた。
だが、この二人の見事な手合わせに周りにいた兵士達は呆気にとられ、
しばらく静寂が続くと一転して拍手喝采となった。

「それではこれにてお開きにいたしましょう。皆様大変お騒がせ致しました」
そう劉義が言い軽く礼をすると集まっていた皆も
それぞれ各自の陣営へと去って行った。


「李雪や。お前だけをからかうつもりが、わしまで本気を出してしまったではないか。張飛相手によく耐えたのう」
「いえ恥ずかしい限りです。それよりもさすがは斎慎(劉義)将軍。すばらしい剣さばきでございました。普段は矛を使われるので、あそこまで剣術に精通されておられるとは・・。改めて将軍の強さを目にし感服いたしまた」

李雪は幾分憧れの目で劉義を見ていた。

「いや、実のところ今までに無いくらい必死になってしまった。しかも関羽殿はまだまだ本気を出していはいないようにも見うけられた。すばらしい武人であるな。あれほど強い武人と手合わせしたことがないわ」

劉義の方はというと逆に関羽の武勇に関心しているようで、
そんな事を話しつつ陣営へと戻った。





その頃零陵の留守を預かっていた趙慶は、
多忙ながら平穏な日々を送っていた。
税収も順調で零陵の民との間にも大いに民心も高まっていた。
そう低い税収ではないはずなのだが、以前の陶龍軍の統治がよほど
悪質であったのだろう。
趙慶は役所としている零陵の中心に作らせた建物にて
はじめは民政の体制構築に斎慎、周翔共々奔走していたが、
それらも一通り片が付き二人がその後反董卓戦に出向いてからは、
とにかく毎日ひたすら事務的な作業に明け暮れていた。
最近では形式的な作業にこ慣れたこともあってか、
手を動かしながら頭の中はどうやら
実務とは関係ない事で一杯であった。

我ら月迷軍は以後どうなるのであろうか・・。
無論現在の反董卓戦が如何に決するのかで、大きく方向も
変わってくるであろうが、さりとて今のうちに出来る事を
せずしていかように大きな志へと歩んでいけるものか。
ひとつ、零陵の地が我ら月迷軍の目的ではない。そんな事は百も承知だ。
たまたま成り行きでここを任されているに過ぎない。
大局的に物事をみつめねばなるまい。
となれば零陵での民政はいわば実験だ。
今後より大きな城、いや州を統治するための実験なのだ。
実際、思うがままに民政を作り上げたこの経験は何ものにも
変えがたい拙者趙慶の血となり肉となったといえよう。
次なる課題は何であるだろうか。
先へ先へと目を向ける程にやはり文官の育成に
尽力しなくてはいけないと思い至る。
軍事方面においてはある程度の人材が揃ってきてはいる。
もし仮に周翔が民政に力を注ぐなら、間違い無く充分に才を発揮するはずだ。
だがそうなると軍事面が手薄になってしまう。
ならばやはり文官の発掘を最優先に動かねばなるまい。
育成しようにも育成する人物が居ないのではどうしようもないわい。
うむ。民政を強化であるな。地盤固めをなおざりにしたならば
必ずや後々大きなしっぺ返しとなってしまうはずだ。
今もし動かなかったならば必ずや遅れをとる事になるやもしれん。

「趙慶先生」

役所の掃除婦がそう言ったが、返事がなかった。

「趙慶先生!」
「お、どうした」

我に返り返事を返した。

「食事の用意が整ったようですよ。どうされますか」
「そうか。わかったこれを片付けたら行くと伝えてくれ」
「かしこまりました」

程なくして区切りが付いた後食事をとり始めて、手は動いているのだが、
明らかに考え事をしているようで、誰も話し掛ける者は居なかった。


かつて趙慶は若かりし頃、武人として生きるという事を
我の宿命と考えていたが、自身の限界を感じ、
それよりも実践的学問に身を投じようと
考えるようになったのは今から十年程前の事であった。
とにかく賢者いると聞けば南に東にと教えを乞い
今まで毛嫌いしていた頭脳を使う事の楽しさに目覚めたのだ。
こうしたらよい、ああしたらいいであろうと日々思い巡らし
良きと思う指南書に出会えば吸収し、取捨選択、更には
よりよい手法を思いつけば付け足していって、
とにかくそれはそれでたまらなく楽しかったが、
全ては頭の中で模索していたのみだった。
次第にそうして頭の中で育ててきたものを実践にて使わんと思いを馳せる様になった。
だがそんな思いと裏腹に何年もいかような機会は訪れる気配さえなく、
ところが月迷軍に身を寄せたが為に、現在の様な民政を自身の
思うがままに司る機会に恵まれたのはまさに宿命であったのだと
感じられてならなかった。
我の居場所得たり。まさに生き甲斐なるものを満喫していた。

世に聞こえし名門の袁家やらに仕官を申し出たとて、
海のものとも分からぬ書生を文官に迎えようなどとしてもらえる訳もなく、
運よく迎えられたとしても、下っ端の使いっぱしりとなるがおちというものだ。
いや実のところ趙慶は初めの頃は淡い期待の元、
士官を申し出た事も多々あったのだが、門前払いされつくし、
ただただ自分の才を生かせないもどかしさの中に
ここ二年ほどどっぷり浸ってしまっていた。
世を恨み、いつしか精神もひねくれそれゆえ宛て無き流浪の果てに
長沙の天龍城を訪れた頃は真に身も心も疲労困憊であったのだが・・・。
そこで月迷軍と出会い、当初は無名の義勇軍に属して何とすると
やはり悲観的になっていたのだが・・・。
皮肉な事に無名であるが故に今や心置きなく
自身の才を生かせる立場になるにいたっているのだった。


実に人生とは不思議なものだ。
あれほど脱力しきっていた自分の精神が
日に日に生き生きし始めるようになった事に驚くばかりである。
やはり人は身の置き場を得てこそ活力もみなぎり精神も健常を保てるとうものなのだろう。
ありがたや。天は拙者を見捨ててはいなかったのだ。
趙慶は一日中自身の歩んできた道を回想したり、
月迷軍の今後について熟考したりで
日々を過ごしていたのであった。

趙慶を食事や事務作業の傍らで見ている者達は、
なぜ最近、かくも趙慶先生はにやけ眼にてうれしそうに作業をしておるのか。
そうかと思えば、無表情で手だけを動かしていて居たりなさる。
といぶかしがる程であった。





所替わって反董卓陣営では・・。
しばらく膠着を見せていた虎牢関の対峙であったが、
ほどなくして思いもよらない報告が劉義の元に届いた。
その報告をしてきたのは斥候隊長の劉延によるものであった。

「斎慎将軍。非常に不思議な現象が起きております。なに分にも洛陽城において不振な動きがあるのです。二、三日前よりにわかに洛陽の民が何故か大勢西へ移動し始めたのであります。その数、五万を超えているようです。しかも手押し車やら馬車やらに家財道具一式詰め込んで、新たな移住地を求めているかのようなのです。」
「ほー。さようであるか。董卓の暴政に不安を覚えても仕方が無いのではあるまいか」
「いや、ですがつい先日までは民の城外への外出は手厳しいものがございました。我が斥候隊の部下も洛陽城付近までは近づけましても中に忍び込むすべがないくらいでしたから。それほど厳重な検問がなされていたわけです。
然るに董卓自ら新たな地への民の移住命令を出したと考えるのが妥当かと思われます。ですが、その民を洛陽から移住させるという事は、元来洛陽を基盤として足場を固めねばならないはずの董卓軍からすれば当然避けねばならない選択から、大きく逸脱している訳です。となれば、民の移住の理由として絞られる可能性というのは、一つしか考えられません。すなわち、都の移動でしょう。」
「なんと!そんな事がありうるのだろうか。いやいやそちの洞察力は斬新であるが、いささか信じがたいというものよ」

一瞬は驚きを見せたもののあまりに突飛な事を言い出したものだから、
劉義はそう簡単には信じられないようだった。

「そうお思いになるのも重々承知しております。ですが考えても見てくださいませ。董卓は弁帝を廃して協皇子を擁立し、しかも他勢力が弁皇子を保護した場合にそなえ、新たに弁帝を擁立するのを避けんが為に弁皇子を毒殺したのであります。宦官の意見にも耳を傾けず、ただただ自身の意見を強引に押し通している董卓のことです。二百年続いた都を捨てる事もありうることではございませぬか」
「そう言われると、確かにありうる事かもしれん。さりとて・・。
逆に董卓は、ただただ此度の無敵と思い込んでいた呂布騎兵隊の退却により内心大混乱に陥り、訳の分からぬ事を言い出したのやもれぬぞ。なにせ董卓なる男は誰の意見も聞き入れないとそちも言っているではないか」
「なるほど。一般論が通じない人物であるのだと私自身が報告しておきながら、一般論が通じる事を前提に状況を推し量ろうとしていた事に気づかされました。斎慎将軍の言われている可能性の方が正常なご判断かもしれません」
「いや劉延よ。その可能性もあると言ったのみで、二百年の歴史のあの洛陽を捨てるという事が信じ難いだけだ。だが、実際に直接に状況を把握しているのはそちであるわけだから、そちの推測が的を得ているのやもしれん。
民の移動方向は西側だと申したな。西側となると廃墟とかした長安位しか思いあたらないのだが、まさか長安を都にとすることもできまい。無論、地理的にはこの洛陽よりも守りやすい場所にあるのは確かだが・・・。
そちの推測が当たっていたら大変であろうし、早速いったいどこへ民が移動しているのか調べられそうか」
「はい、それはすでに手を打ってあります。ただなにぶんにも距離が離れておりますゆえ、今しばらくお待ちくださいませ。」
「わかった。相変わらず仕事の早い斥候隊であるな。実に頼もしい」

劉義が言い終わると一礼して劉延はその場を去った。
劉義はさっきは思わず劉延の推測を否定しかけたが、考えるほどに、もしかするともしかするかもしれないと、思うようになっていた。
恐るべき状況推測能力であるとしかいいようがない、普段必要以上の状況報告はしない劉延が、今回わざわざ自身の推測を述べたわけだから、それなりの自信があってのことだったのだろうか。

とはいえ、最も立場の低い我々月迷軍としては、
たとえそうなったにしてもどうすることもできないのではないか。
まずは目前の虎牢関を攻略しないことには洛陽城へ行くことさえできやしない。
もう少し様子を伺うしかあるまいな。





場所変わって零陵の趙慶はというと、
数日前までひたすらに事務作業に明け暮れていたのだが、
この日はまだ日も昇らない薄暗い時間にどこへやらと
出かけて行ったのだった。

北東へ早馬を駆けること数時間。早朝に出かけて、
ちょくちょく休息をとりつつ辿り着いたのは
長沙の天龍城の宿場町の中にある大きな広場であった。
かつて趙慶が月迷軍と出会ったかの城の広場である。
広場では盛んにとは言わないまでも交易商が近隣の産物を売りに来ていて、
外来の旅人が多く集まる所であった。
広場にはよく目立つ大きな木が一本そびえ立ち、
人と待ち合わせをするのに打って付けであった。
趙慶はしばらくその辺りの適当な場所に腰掛け誰かを待っているようであった。

「趙慶殿!趙慶殿でござるか。」

しばらくすると、ふと声をかけてくる三十前後の男が趙慶の前で立ち止まった。

「これはこれは、舜憂(シュンユウ)殿。何年振りであろうか」

顔を見るなり立ち上がりお互い両手で握り合った。

「お変わりございませんな。いやむしろお若くなったかの様にさえお見受けいたします」
「そちも元気にしておったか。なかなかしっかりとした顔つきになりおって、なかなか頼もしい井出たちであるの」
「お恥ずかしい限りです。私も三十歳になりましたから。多少は成長したのでしょう」
「こんな所で立ち話もなんだから、天龍城では少しばかり人気の酒店へでも行こうではないか」
「いいですね。ただその前に連れのものが宿屋で待っておりますので、一緒に連れて来てもよろしいでしょうか。腹も空かしておりますので・・・」
「それは勿論。それでは私も一緒に迎えに行きましょう」

二人は旅宿まで歩き、ほどなくして連れのものと共に三人で酒店の立ち並ぶ店へと入っていった。

「長沙といえば何と言っても長江で水揚げされる魚介を使った天津の類が名物なのだがな、この酒店の評判は天龍城随一でござるのだ。ささ、遠慮なく召し上がれ」

一通り腹を満たすと酒のあてをつまみつつ、昔話に花を咲かせた。

「昔はよく一緒に民政のあるべき姿を議論したものですな。」
「そうだったな。我らまるで地位の高い文官にでもなったつもりで、ああでもないこうでもないと食べることも忘れる程に語らったものだ」
「いやいや私は食べる事を忘れた事はございませんよ」

そう舜憂が言うとにやりと趙慶も笑う。

「そうであったな。舜憂は食べながら話しておったわい。そのくせ太りもしなかいそちを羨ましいと思ったもんだ」
「そうでございましたか。とにかく私の様な若輩者といつも対等に議論して頂けた事、とてもうれしい事でございました」

趙慶と舜憂は十程も年の差が離れていたが、趙慶はまるで弟のように舜憂に接していたのだった。

「ところで、お連れの青年は仁貴(ジンキ)殿ともうされましたな。いかような間柄でござるか」
「この者は薛仁貴(セツジンキ)と申しまして、三ヶ月ほど前襄陽の辺りを旅していた折知り合った者です。なかなか頭の良い青年でございまして、身寄りは居ないとのことで一緒にしばらく旅をしていたのであります。歳ははっきりとわからないらしいのですが、多分十四になったのではないかと申してます」

そう舜憂が説明すると、趙慶はまざまざと仁貴の顔をみて

「そうであったか。なかなかいい目をしているではないか。そちは何か目標を持っておるのか」

と尋ねた。

「はい。私は舜憂様に出会ってより、舜憂様の話を聞く度に、行く行くは私も文官にでもなれるならと思うようになりまして、色々御指南頂いて居るのであります。」
「そうであったか。良き師に出会われたな。舜憂はな、昔わしと共に民政の勉学に励んだのだよ。色々な者に出会ったが、舜憂程その才を持ってる者は居なかったぞ。あ、いや一人おった・・・。わしじゃ」

と自分を指して言ったもんだから、三人して声を上げて愉快に笑った。
しばらく話を続け、ひと段落つくと舜憂は一旦姿勢を正し、趙慶にこう言った。

「趙慶の兄貴。この長沙まで来るようにと書簡を送られたのは、単に昔話をする為ではございますまい。何かあるものと御推察しているのですが・・」
「そうなのだ、舜憂。わざわざこんな遠くまで呼び出したのは他でもない、実は今わしは零陵において、太守の代理を任されておるのだがな。月迷軍といって・・・」

そう話し始めて今までの経緯をつぶさに話して聞かせた。

「そうでありましたか。あの趙慶の兄貴が小さな城とはいえ、民政を任されているなんて私にとってもうれしいことでございます。それでその月迷軍の文官として私を登用下さるという事でございますか・・・。」
「そうじゃ、確かに小さな勢力ではあるし、舜憂殿ならば由緒ある家系であるわけだから、頑張ればもっと大きな所にて居場所を得られるであろうが、しかし正直に申そう。わしはそちと共にこの月迷軍を盛り立てたいのじゃ。即断する必要はない。とりあえずしばらく零陵の方へ客人として寄ってもらえぬか」
「そうでございますか・・・。私もそろそろ落ち着くべき所を探していた所ではあったのですが、実を言いますと襄陽の太守の元に一年程下級の文官として仕官してお遣していたのでございます。ですが、やはり大きな城でありますから、まさに自身の才を生かせそうにないと、つい半年程前に病を患って体が優れないと野に下ったのであります。私の事でしたら趙慶殿も良くご存知。共に働ける事光栄というものです。ただ、そう簡単お受けする訳にもいきません。ですので、とりあえずは親しい友人として零陵に身を寄せて頂くことにいたします。構いませんか」
「勿論勿論。大事な客人としてお迎えさせて頂きましょう。よければ薛仁貴殿もお越しくだされ。色々と吸収するがよい」

三人はこの日はこのまま長沙にて泊まり、翌日早速零陵へと出発したのだった。



第五章:[決着なるか反董卓戦] 五〜七
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