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lll小説『月迷三国志』lll連載中コミュの 『月迷三国志』第一章:[巡り逢い]

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『月迷三国志』   

-lllll▼三国時代を生き抜く月迷軍の物語△lllll-



 ―はじめに―
いわずと知れた普及の名作に三国演義が存在する。三国志演義とは長い中国の歴史において400年続いた漢王朝の終焉を遂げる前後100年程の中国二十四史のうちの一つ正史「三国志」を分かりやすく書き下ろされた随分昔16世紀頃の歴史小説である。
ちなみに正史三国志が書かれたのは3世紀頃であるようだ。

中国において三国が並列して建国された時代があった。
魏・呉・蜀(ギ・ゴ・ショク)と書けば誰しもどこかで聞き覚えがあるでしょう。
この三国が立ち並ぶまでの道のりから始まり、三国が滅びるまでの時代を一般的に三国時代と言ったりする。
この三国時代というのは実に多くの英雄がひしめく時代としてあまりにも有名であるが、それ故今なお三国志を題材にして多数の作家によって小説から漫画・研究書・雑学書に至るまで幅広く執筆されており、その人気は日本においても陰りを見せる様子がない。

私もまた最近三国時代の虜になり、三国志の面白さに心踊りついでに『月迷三国志』なる小説を書き始めたのである。この小説は三国志の世界観をベースに架空の物語を描いている。
史実の人物の他に架空の人物が登場し、月迷軍なる勢力が三国時代にあって、史実の魏呉蜀の攻防にいかように絡んでゆくのか?!
今まで三国志関連の小説を読まれた方も、またそうでない方も楽しんで読んでいただけるようにと思いつつ趣味の一環で執筆している。



今回こちらMIXIのコミュにおいてせっかくなのでこの『月迷三国志』を途中までではありますが載せてみようと思い至った次第です。
何分にも処女作なもので至らない点多々あるとは存じますが、一読いただけるとうれしいです。
少々硬い前書きになりましたが、感想など頂けると続きを書くモチベーションもあがるというものです。
あまり手痛い感想は気持ちが滅入るのでお手柔らかにねがいます。
誤字脱字等かなりあるかもしれませんが、どうぞお楽しみください。




第一章:[巡り逢い]



長い流浪の旅であった。趙慶(チョウケイ)は疲れ果てていた。肉体的に疲れていたのは勿論であったが、それ以上に自身の身の置き場を得られないもやもやに精神の方が疲弊し切っていたのだろう・・。しかしこんな薄気味悪い山奥の小さな村に居続けてもしかたないと、心身共に疲れていた自身にムチ打って、もう少しばかり進もうと決意していたのである。どこへ行こうと決めて旅してきた訳ではない。しかしそれでもどうにも薄気味悪いこの地域を一日も早く抜け出したいという気持ちが、彼を前に進ませるのであった。
険しい山を歩き、道なき道をひたすら歩くこと三十日三十夜、無限に続くかと思われた山の向こうにかすかに明かりが見えてきたのだ。そこは乱世にあっては割と平和な地であり、天におわす龍の加護への信仰故にしばし天龍城と呼ばれる長沙の街であった。
厳しく長い流浪の旅の末たどり着いた長沙の天龍城。何かましな食料とせめて馬を一頭でも得たいという衝動だけが彼の望みであった。天龍城は盛んに地方の産物が売られ銭さえあれば一通りの物はそろう街であったが、長旅で無一文になっていた趙慶にはそれらのものを買う銭などあろうはずも無く、ただ無表情に市場を見て回るしかなかったのである。疲れ果てた趙慶が街の広場にたどり着いた時には、もはや自身の意志とは無関係に倒れる様に座りこもうとする体を止める事が出来なかった。どれ程そこに居たか分からなかったが、ふっと我に返ると何度と無く声高々に叫ぶ者の存在に気づいた。

「我ら月迷軍。昨今の世の乱れを正さんとうする義勇軍なり。心あるものは是非我等に加勢くだされ! 我らと共に戦うならば、食うに困らずまた壮気みなぎる軍馬も支給しおうぞ!」

声からしていかにも気概に満ちた武人だった。 その武人のみならず隣に腕を組む一人の武人もまた、そこいらの輩とは違う不思議な威光を放っていた。

「麗欄大将。この街にはこれ以上兵士と成り得る民などもう居ないんじゃないかな・・」

そう言ったのは先ほどから叫び続けていた武人である。

「そう消極的なものの見方はよくないぞ。斎慎(サイシン)!もう少し呼びかけて来い。必ずや力になる者がまだまだまだ居るはずなのだ」

一団の大将麗欄その人はそう彼を諭していた。そんなやり取りを傍らで聞き耳を立てていた趙慶は一瞬びっくりした。叫んでいた武人の隣の武人は喋る声からしてどうやら女性らしかったのだ。すらりと背が高く、堂々たる雰囲気から頭から男だと思いこんでいた。着ている服も明らかに男性ものの鎧であった。だがそんな驚きもつかの間、やはり空腹感に立ち上がる事も出来ずにいた趙慶は義勇軍に入れば配給されるという食料と軍馬に幾分心が揺れたが、さりとて一兵士として戦うという代償を払ってまで手を出すのは本意ではないと必死で自身に言い聞かせていた。

多少武芸のたしなみに自信は持っては居るが、自身の才を生かす場として無名な義勇軍に自ら志願する事に踏み切る程の意味を見出せなかった。
その様なことをもうろうとした中でぼーっと考えている時、不意に声をかけてくる者がいた。まさしく麗欄であった。広場の片隅に居座る趙慶に気づいた斎慎が麗欄に耳打ちをしていたのである。

「貴方。我らと共に立ち上がらぬか?見るからに武芸の心得があるとお見受けする。一兵士としてとは申さん、五十名程を率いる分隊長として我らと共に戦わぬか?その腰の錆付いた剣が泣いておろう」

趙慶は何も考えられなかった。しかし気づいた時には一つ返事で承諾していたのである。
自ら志願するという程の気にはならずとも向こうからの誘いであり、なお多少とも自身の才を見抜いて貰った事のうれしさもあったのかもしれない。
いや本当はなにより食にありつけることに体が反応していたと言った方が正しい。
趙慶はまさにこの決断を境に大きな転機を迎える事になるのだが、彼自身はまだその事に気づく術も無かった。




煮え切らない想いはあるにせよ気品漂う麗欄に一筋の光の様なものを感じたのかもしれない。

「おぬしも新参の者か」

ふと語りかけて来たのが周翔(シュウショウ)なる人物であった。この男、周翔はどうやら壮気みなぎる軍馬を得られるからという動機のみにて月迷軍に入団した新参の兵士であった。

「いかにも我輩新参の者。趙慶と申す。よろしくお見知りおきくだされ」
「我輩もまたこの間月迷軍に新参した者ですよ。話によればいきなり分隊の長に抜擢されたのは我ら二人のみらしいですね。お互い才を買われた者同士仲良くやっていきましょう。我輩のこと周翔とお呼びくだされ」

屈託のない笑顔で話しかける周翔に趙慶は嫌な気はしなかったが、あまり長く話す気分でもなかった為一礼をし早々に話を切り上げた。
趙慶はこの時すでに四十近い年齢であり、周翔とは親子ほど年の差が離れていた。だが、同じ分隊の長であるという事もあってか、何かと気さくに話しかけてくるこの青年にいつの間にやら笑顔を見せるようになっていた。気さくでありながらどこか品のある振る舞いが趙慶の心を開かせるのかもしれない。
二人はその後徐々に意気投合し訓練の後の晩によく飲み語らっていた。話すごとに周翔の聡明さに関心させられ、また長年学問に励んできた趙慶は惜しげもなくその知恵を周翔に教え聞かせるようになった。周翔の聡明さはどうやら天性のものようである。今まで学問に励んできたようでもないが、しかし物事の深い部分を見極める才を本能的に持って生まれてきたかのようであった。
お互い話が尽きることなく、周翔と飲み語らう時間だけが心の暗がりを照らす様に感じられるのであった。





月迷軍には武勇に優れた斎慎(サイシン)の他に、薫呈(クンテイ)なる知る人ぞ知る武術の達人がいた。あまり表に顔を出す事は無かったが、薫呈のその強さに斎慎をして

「薫呈殿を虎とするならば我は猫程である」

と謙遜して言わしめるほどのものであった。月迷軍に薫呈ありき、義勇軍にしてこの規模まで兵数を増やせたのも彼の存在が大きいのだろう。その薫呈が現在月迷軍の副将であった。
麗欄大将その人はさほど武勇に秀でた感はなかったが薫呈・斎慎が大将と仰ぐだけあってその人望はさすがに新参の趙慶にも伝わるものがあった。
屈強な二人の武人が大将と仰ぐわけなのだから・・。細身の体つきにもかかわらず気概に満ちた堂々たるたたずまいをしている。負けん気だけは強いようだ。しかしながらそれでいて気品も兼ね備えた女性であった。
この時代に女性で大将として立つ者は聞いた事がなかった。実に珍しい事といってよい。このあたりの土地ではよくある事なのかもしれないが・・。とはいえ普段男物の服装をまとっている上に、臆する事なくてきぱきと指示をだすもんだから大将として違和感を感じさせられる事はほとんどなかった。
斎慎と薫呈がまさに後ろ盾として盛り立てるという風で、しかも二人の麗欄への絶対的な忠義の振る舞いを見る兵士達は、その威厳を斎慎と薫呈二人の麗欄に対する姿勢を通しても感じずにはいられなかった。

趙慶が入団して以来、月迷軍はしばらく大きく動く事はなかった。今のまま戦いに出るより兵力の温存に努めることを第一に考えていたからに他ならなかった。義勇軍の兵力は千数百人程には膨れ上がってはいたがしかしこの乱世において何かを成せるというほどの数ではない。とはいえ正規軍でもあるまいしこれだけの兵士を集められただけでもよい出来であったと言っていいだろう。
兵の訓練も充実しこれ位ならばと一度天龍城周辺地域に蔓延している、盗賊の一団を成敗するべきとの意向を斎慎は麗欄大将に進言しているらしい。趙慶自身は最大の訓練は実践であると斎慎が思ってのことと察していた。
かくして月迷軍は本腰を入れて盗賊団の討伐に出かけることとなった。

この頃趙慶も周翔も共に訓練などにおける分隊長としての指揮力の才を認められ三つの分隊を指揮する小隊長となっていた。分隊一つが五十人であるわけだから、小隊長となると約百五十人の指揮官ということになる。





「周翔殿。実戦に出るのは初めてであるか」

出陣前夜、明日にそなえ槍の手入れをしていた周翔に趙慶が訪ねた。

「うむ。少年の頃から喧嘩に負けたことは無かったけれども、こうやって兵士として戦場に立つのは恥ずかしながら始めてでござる。」

しかし初出陣とは思えないほど落ち着いて見えた。

「ほほう・・」

それ以上趙慶は話を続けなかった。趙慶も別に恐れを感じていたわけではない。もともとある程度の場数は踏んできた上に自身の武芸には多少の自信もあったからだ。ただ、なんとなく自分は一体何をしているのだろうという嘆きにも似た気持ちを捨てきれずにいたのだ。しばらく周翔の様子を眺めつつそんな事を考えていたが、

「ではまた明日」

と言って立ち去った。

夜が明け朝早くから盗賊団討伐へいよいよ出発した。討伐軍として出陣したのは月迷軍の半数の約八百名の兵士であった。討伐軍の総指揮官は斎慎隊長であった。薫呈が出るほどの戦いでもないし、元々討伐を言い出したのは斎慎だった為、麗欄大将はその指揮を彼に命じたのだ。ゆっくりと騎馬隊は進軍しながら盗賊団の本拠地へ近づいていった。

「趙慶殿、あの斎慎隊長を実の所どう思う」

周翔は趙慶に尋ねた。

「そうだな・・一緒に出陣するのは初めてだしまだ分からぬ。しかし一見して拙者の才を見抜いたこと。また実践をもって兵を鍛えようとするあたり、若いが有望な資質があるとは思っている。」

沈黙がしばらく続き

「なるほど、趙慶殿もそう思うか。拙者もあの方には言葉にし難い何かを感じずにはいられないのだ。なにより武術の腕前が素晴らしい。本気になった所をまだ見た事はない故、実の所どれほどかはわからないのだけれど・・。ああいう方を真の武人と言うのだろうな。」

周翔小隊長はあの斎慎隊長を幾分気に入ってるようであった。しかし趙慶はその才を認めはしても周翔小隊長ほど魅力を感じていたわけではない。いや確かに無名の義勇軍に埋もれるには勿体無い逸材ではあるのは認めているのだが、そんなことはいうなればどうでもいいことだと感じていたのだ。

「盗賊団の本拠地が見えてきました」

先鋒の分隊の者が声をあげだした。

「さていよいよですな」

趙慶は気を引き締めた。そこへ斎慎隊長が一騎で駆け寄り指示をだしてきた。

「趙慶小隊長は右の丘から合図と共に火矢を放たれよ。周翔の小隊は我と共に正面衝突する」

言い終わるが早いか隊長は馬首を返し駆け出した。周翔率いる小隊もその後に続いた。さすがに日ごろの訓練の成果があがってか陣形は見事に乱れず突っ込んでいく。
趙慶小隊も丘の方に周りこみ合図を待っていた。この丘からは月迷軍の動きが良く見えた。盗賊共はいきなりの攻撃に混乱してるように見える。逃げ周っている姿が滑稽にさえ思えた。
隊長率いる騎兵隊が一通り盗賊団をかき乱すと火矢を放てとの合図があった。趙慶の小隊は指示通り火矢を放っていったがここは指示以上の成果を上げる好機と的確に的を絞って食料庫や馬小屋などを狙った。火は瞬く間に広がり盗賊団は敗走するばかりであった。最初から大した戦いではなかった。とはいえ予想以上の機敏な兵の動きに斎慎隊長も遠目に満足げであった。




この討伐を機に長沙の治安は徐々によくなってきた。盗賊団は月迷軍の存在が煩わしいと思ってはいても治安維持活動に精を出す月迷軍にどうする事もできずにいた。その後二度の討伐戦が行われさすがの盗賊団も影を潜めるようになった。月迷軍は民から長沙治安維持隊と呼ばれたりもするようになったし
長沙の住民もその存在を喜んでいた。
討伐戦を重ねるうち自然な成り行きで趙慶小隊長、周翔小隊長は斎慎隊長に誘われよく飲み語らうことが増えてきた。思いの他話は弾み、気づけば夜が明けていたこともしばしばあったほどだ。斎慎もこの二人の学問と洞察の鋭さに感嘆することが多々あった。

「我々月迷軍に貴方等のような人材が参入してくれた事は力強い」

と口癖のように言っていた位だ。
だが元来月迷軍はもっと大きな志の為に結集したはずだった。このまま治安維持活動をしていても小乗の善が大乗の悪となっているようなものだ。立ち上がらねばならないそう斎慎は思っていた。けれども実のところ麗欄大将は唯一の血縁の父親が病に倒れその見舞いに留守がちであった。

一軍は薫呈副将と斎慎隊長がその留守を束ねていたが、その方針も定まらぬまま月迷軍は士気を徐々に落とし始めた。その矢先薫呈副将もまた以前所属していた門派に呼ばれ、その武力ゆえに切に復帰を望まれていた。もちろん即断することはなかったがなにぶんにも長きにわたって漢王朝に雇われている武侠集団であり由緒ある門派の切なる誘いとあって
薫呈副将の心は揺れ動いていた。しかも現在厳しき抗争の矢面に立たされているようで大きな決断を迫られていた。薫呈副将はそのような誘いがあったことを内密にしておりただ長年の友に会うのだと言って出かけていたのだが、内心では断腸の想いで月迷軍を去ることを決断していたのである。




その頃薫呈副将すら居ない間斎慎がその留守を預かっていて現状況に対し遠方の大将麗欄は実はまた月迷軍を解散するべきか思い悩んでいた。どうしたものか・・。このまま浮き足立っていては義勇軍に入団してくれた皆に申し訳が立たないというその切々なる想いを斎慎に書簡を送っていたのである。
時がたつにつれ段々と減ってゆく兵数とその士気の低下に歯止めがかからず、斎慎自身はこの期に及んでは新たに大将交代するしかあるまいと趙慶小隊長を含め、少数の信頼置ける者と共に薫呈殿を大将とした新たな体制移行の構想への準備していた。悲しきかな、斎慎は薫呈副将が月迷軍を去る決意をしているなどとは予想もしていなかったのである。

しばらく留守にしていた薫呈副将が帰って来た。直ぐに斎慎含め以下三名にて薫呈副将の大将就任のむね直訴したのである。しかし思いもよらず薫呈副将は返答に渋った。返答に渋った事に一番驚いたのは無論斎慎であった。新体制移行を綿密に打ち合わせしておりまた麗欄大将からもその方向で後押しされていたからである。

「何ゆえ渋っておられるのであろうか」

たまらず斎慎は声を荒げている。しばらく黙っていたが薫呈副将は前門派より復帰の声がかかっていて、一刻の猶予も無きことを打ち明けたのであった。

「斎慎よ。貴行が大将となればよい。武勇においても今や我と互角なるまで成長しておる。わしの修練にもよく耐えた。皆も異存は無いはずだ。そもそも拙者は生粋の武人である。麗欄の情熱に心打たれ参ずるに至ったのではあるが、武人以上の器ではないのだ。大将たる者、武力以上に統率力が重要であるのだ。統率力とは単に戦におけるものの事を指して言っているのではないぞ。そうではなく皆を付従えさす何か熱き志を言っておるのだ。大将にそれがないならば賊と何等変わりはない。そちに日ごろよく聞かされし、世の乱れを正さんとするその熱き心、それを貫く志をもって月迷軍を統率するのだ。拙者なんかよりよほど大将として適任である。無論そちが副将を差し置いて何とするという心情もわかるが、この際私に対する遠慮は無用。もしそちに大将となる気がないのであれば、月迷軍を解散するべきだ。しかしもし月迷軍を引き受ける気概を示してくれるいうのであれば、義のために生きるそれこそが我々月迷軍の志であった事を忘れるでないぞ。その伝統是非とも守り通して頂きたい。」

斎慎は悩んだ私ごときが大将などと恐れ多い・・。
しかし薫呈副将の意思は固いようだ。薫呈副将が自分は大将としての器でないとあえて言ったのもわかっていた。自分としては薫呈副将が大将になる事を望んでいたが、本人にその意志がないとなればどうする事もできなかった。しかたなく、取りあえず薫呈殿との別れを惜しみ、後の対応は我々が何とかすると送り出したのであった。かくて薫呈は月迷軍を去ることとなった。





薫呈のまさかの離脱により斎慎の心境は複雑に揺れ動いていた。元々薫呈は月迷軍旗揚げ以前からの盟友であった。兄貴分と言った方がいいかもしれない。放浪抜刀軍なる門派所属の頃から共に戦ってきた。
見に覚えのない罪において斎慎が組織を追放された時も暖かく復帰に根回しをしてくれたこともあった。その罪も実のところ斎慎を快く思わない同志の謀略によるものとわかったのだが、しばらくして放浪抜刀軍はその大将の都合で突然解散されたのである。
斎慎はそれを機に流浪しつつそのまま武人としての道から足を洗ってしまおうかと想い至っていた矢先、ばったりと長沙の地において薫呈と再会したのだ。そして月迷軍を麗欄が旗揚げしたのだと知ったのである。行き場がないのならば是非我等と共に月迷軍を盛り立ててゆこうではないかと薫呈に拾ってもらったという経緯が斎慎にはあるのだ。
しかも当時僅か三百ほどの月迷軍を今日まで共に二千近い義勇軍にまで頑張って拡大してきたのである。その薫呈が今、月迷軍を去って行った。その存在はあまりに大きく、心のどこかでずっと薫呈に依存していた自身がいたのだと感じずにはいられなかった。
この月迷軍の現状を知り、かねてから交流のあったとある勢力から
月迷義勇軍の吸収の話も出ていた。決して悪い話ではないとも思っていたのだが、月迷軍の現責任者として最善の対応を考えに考えつくしなお決断出来ずにいたのだ。そんな折斎慎の苦悩を察してか趙慶は周翔小隊長と共に斎慎を訪ねてきた。

「天下の乱れを正さんとするその熱き志を貫かんとするならば、今立たずしていつ立つ事ができましょう。斎慎殿!もし大将として立たんとするならば我等この身が果てるまでお供いたしますぞ」

と趙慶がいつになく力強く声を大にしていた。

「拙者周翔も何の依存もありませぬ。我等ここにたたんや」

二人の思わぬ熱意に斎慎はしばし言葉がでなかった。

「斎慎殿!」

たまりかねる二人が大きく身を乗り出して大叫する。以前二人との宴会の席にて天下平定への熱き志を切々と熱弁したことがあった。それはしかし酒の席でもありしかも自身が大将としてということはあまり考えての事ではなく、ただただ世の乱れを立て直すが為万分の一でもこの命が役に立てればという事であったのだが・・・。ゆえにどうしても自身が大将となることへの迷いもあったのだしかしここまで言われて立たないならばそれはもう男ではない。全て起こる出来事は天命であろう。薫呈副将の言葉も心に残っていた。この場に及んで何をちゅうちょしているのかと優柔不断な心境の自身を恥じた。
しばらくの間があり意を決したのかふいに斎慎は立ち上がり愛刀を天高く突き上げた。

「我等今後何があろうとも最後まで立ち向かおうぞ。そして死す時は共に死のう。乱世を正さんが為、共に戦わん!」

趙慶も周翔も立ち上がり自身の剣を抜き天高く突き上げ忠誠を誓い合った。
かくてここに月迷軍は生まれ変ったのであった。

さすがにその後の動きは早かった。新体制の移行に向け三人は次々に取り掛かっていった。斎慎は趙慶を副将に任命しようとしたが、趙慶はすでに幾分老齢であった為か副将は若く有望な周翔のほうが適任と辞退したので、趙慶を訓練総指揮官に任命した。無論周翔を副将にすることに何の依存も無かったのだが、
思い悩んだ結果年上の趙慶をと思っただけであったこともあり趙慶の副将辞退の旨聞き届けるや周翔を副将とすることを斎慎は即断した。
こうして大将不在であった月迷軍は新たな大将・副将を得、みるみる生命力を取り戻し血気みなぎる義勇軍へと変貌しはじめたのであった。旧体制においては小隊長であった趙慶・周翔両氏も一旦軍の重鎮となるや斎慎の予想をも上回る程におしみなくその才を発揮しだした。月迷軍の総大将交代の噂は瞬く間に長沙中に伝わり、再度義勇軍の募兵をするやいなや義勇軍へ復帰する者など次から次へと兵数は増えるばかりであった。勢いは止まらずその数優に三千を越え義勇軍としては異例の兵力を誇るようになったのである。長沙の治安維持の先頭に立っていた斎慎への民の期待が形になって表れていたと言ってよかった。


第二章:[周翔副将の妙計]
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