唯一考えられるのは、マイクロソフトのWindows Media Center Editionに対するけんせい球だ。日本ではほとんど知られていないが、マイクロソフトは「パソコンをファミリールームに」という掛け声とともに数年前から「10-foot UI」とハードディスク・レコーダーの機能を備えたWindowsをOEM販売しているのだ。
私も今年の初めに一度は買おうとしたのだが、やたらと大きく値段が高いものしかなく、もう少し待つことにしたのだが、相変わらず状況は変わっていない。この業界に詳しい人に、「なぜMac Miniに対抗できるぐらいの大きさと値段のものが出てこないか?」と尋ねた所、「そんなものを作ってもパソコン・メーカーは全く儲からないから」というストレートな答えが返ってきてしまった。実際のところ、米国でMedia Center Editionのパソコンを売っているのは大手ではなく、Microtelなどの弱小メーカーだけだ(追記参照)。
そう考えると、今回のアップルによるFront Rowの発表は、Dellなどの大手のパソコン・メーカーに対しての、「その市場はアップルが本気で取りにいくからマイクロソフトと組んでメディア・センター・パソコンなんか作ったら損をするよ」とのメッセージとも受け取れるのだ。ハードウェアで利益を上げざるをえないパソコン・メーカーと比べて、iTunes Music Store での音楽や映像の販売というもう一つの収入源を持つアップルは圧倒的に有利である。今回のFront Rowの発表を見て、Windows Media Center Editionの採用を見送るメーカーがいてもおかしくない。
[追記] コメントでご指摘いただき知ったのだが、今月の12日に Dell が Media Center Edition を搭載したパソコンを発表したばかりであった(参照)。まだデスクトップタイプのパソコンに搭載しただけで、家電スタイルのものを作ったわけではない。アップルとしては、Dell との消耗戦だけは避けたいだろうし、ますますあれが「けんせい球」であったように思えてくる。