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風唄コミュの本編1

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またおかしな夢を見た。

 夢というのはその者の深層心理であったり、過去の記憶であったり、願望であったりと、そういったものの組み合わせからなるらしい。
 要は自分で作り上げた産物で、その要素が少なからず自分の中にある。
 …はずなのだが、ここのところ見る夢には心当たりが全くなかった。
 そう思っているのは表層の自分だけで、何か心に取っ掛かりがあるのかもしれない。そう思って思考を巡らせても、やはり思い当たるものはなかった。

 悪夢という訳でもない。楽しい夢でもない。ただ、約束をする夢だ。
 その内容は良く分からないが、その約束を守りたいという信念だけが夢から覚めた後にも残る。歯がゆくて、切なさに胸を焦がされる。
 今朝見た夢もまた同じような内容で、同じような想いにとらわれた。
 叫ぶような願いは、自分には叶わないから?
 俺は…何がしたい?


 ここまで考えて、北斗は目を開けた。


 哲学的な事を突き詰めて考えることは嫌いじゃない。
 だが不幸なことに、今は一般的に朝と呼ばれる時刻だ。あまりゆっくりしていると、また睡魔に襲われる。
 昨夜もまた本を読み明かしてしまった。いつも朝に目覚める時、今晩は早く眠りにつこうと思うのであるが、どうしたことか、夜分になるとやりたいことが出できてしまうのは何故だろうか。そして次の朝予想されるこの抗い難い倦怠感について考えないことも無いが、どうしても享楽を目の前にすると、それはあっという間に頭の隅に追いやられてしまうのだ。体がだるい。今夜こそ早く寝よう。
 時間を確認して、布団から出ようとする、その時だった。

「北斗兄、まだ寝てんの?」
「リアル寝耳に水、ならず寝耳にミミズ、やっちゃう?」

 闖入者は2名。北斗にとって、下の双子の兄妹にあたる。彼等は戸の隙間から寝ているだろう兄を覗い、妹は恐ろしいことを口にした。じゃじゃ馬っぷりもいい加減にして欲しい。悪戯では済まされない領域だってあるんだぞ、と言ってやりたい。

「…起きてるからその必要はないからな」

 彼等の陰謀を阻止するべく、できるだけはっきりした声を出すよう心掛けた。
 あ、本当だ、珍しいこともあるんだね、と各々が勝手なことをぬかしている。相手にしていてはきりがないことは幼少期から知っているので、彼等の朝の挨拶にも返事をすることは無く、北斗は体を起こした。
 だがここで引き下がる彼等ではないことを、どうしてこの時忘れてしまっていたのだろうか。
 普段通り、何の断りも無く双子が自室に勝手に入り込んできたのを特に疑問には思わなかった。そこがいけなかった。

 いつもの静かな朝の始まりに、大きな絶叫が響き渡った。

 冗談かと思ったその言葉はどうやら本当だったらしい。周到にもミミズは用意されていて、あろうことか彼らはそれらを北斗の背中に放り込んだのであった。この世に悪魔がいるのなら、彼らで間違いないと思う。

「お…ッ…お前ら何を!!」
「なーいすリアクション!!爆笑なんだけどー!!!」
「朝っぱらから元気じゃん。つーか早く来ねぇと北斗兄の飯食っちゃうからな」

 背中のひんやりとした感覚がたまらなく…心地いい?とにかくたまらない究極の攻撃方法であった。慌てて立ち上がって、衣服に放り込まれた大地の掃除人達を解放してやった。気づくと、目の前にいたはずの悪魔2名は部屋から脱出していた。
 追いかけるように北斗が張り上げた、片付けて行け、という言葉は遥か向こうの彼らにはもう届いていない。どうしてこんなにも非常識なことが思いつくのだろうか、呆れ果てて怒る気にもなれない。

 しかしお陰で目が覚めた。

 背中から例の生き物達をすべて払い落とし終えると、一連の騒動ですでに乱れた寝巻きを脱ぎ捨てる。
 東向きのこの部屋は朝になれば陽光が目に眩しい。
 一日というものは誰にでも平等にあって、どんな者にも必ず朝はやってくる。けれども北斗はどうも朝は苦手だった。
 少しのんびりし過ぎたか、己が食卓に向かう前にいつもの日課をこなさねばならない。いつもの服に袖を通し、急いで外へ向かう。
 彼らに悪戯の道具とされ、さらに放置された不運な掃除人達…北斗はミミズを横目でチラリと見た。
 毎朝庭にやってくる小鳥達に、朝ごはんを与えねば。

「世は弱肉強食、君らには食物連鎖に従ってもらう。ごめんな」

 そう、弱いやつは生きられない。弱さは甘えを生み出す。弱さは必要ないと、北斗は考える。
 世の中には弱さと言うものがあまりにも蔓延しすぎている。同情を買って喜ぶ人間、地位にすがり付いて強さを誇示いている人間、どちらも弱さゆえの行動であり、見ていて空しくなるだけである。それに気づいていないのは、本人達のみ。
 自分は肉体的にも、社会的にも"強い"と言うわけではないが、そういった意味では決して弱くはないと思っている。漠然と、ではあるが。
 そこでまた今朝の夢を思い出した。
 自分は無敵だった。ありもしない不思議な力を使いこなし、不敵に笑っていた。そこには怯えも卑屈も、そして驕りもなく、自信に
 満ちた笑みであった。それはあまりにリアルで、そこにいる自分は自分でなくなるような、そもそもはじめから自分ではないような感覚だった。
 だが北斗は思うのだ。知は力だ。能力などなくたって、自分には力がある。夢も関係ない。
 だから俺は…この家を継ぎたくなんかない。

 北斗の家は代々術を受け継いでいる。この家を興した先の人物が大きな力を持っていたらしいが、あまり興味ない。
 先祖が偉大であれど、その能力が薄れた今でもその術を受け継がなければならないことに、北斗は理不尽さを感じずにはいられない。
 本来ならば、男の第一子がその役を引き受けるはずなのだが、北斗の兄は体が弱く、術や修行に耐え得る体ではない。よって、次男の北斗にいずれ回ってくるであろう役割だ。だが、はっきり言って自分は凡人。ほぼ強制で受けている術の修行も実を結ぶことはない
 だろう。人並みか、もしくはそれ以下の術しか扱えず、またそれは弱々しいものであった。
 北斗はそれを別段淋しいと思っていなかったし、また使える人間を羨ましいとも思わなかった。別に術が使えなくてもかまわない。かわりに次期当主の座もまっぴらだ。自分は好きな本を読みながら、この魔にあふれる世の中では格下と呼ばれてもいい、普通に生きて行きたい。
 小鳥が啄ばんでいる様子を、そんなことを考えながら眺めていた。
 暖かい朝の陽だまりは天からの享受。


 突如―――――。

  
 一陣の旋風が彼を襲った。
 砂埃が舞い、目を開けていられない。とっさに片腕で顔を覆い、突風から己を守った。
 そして小鳥達は風に流されるように飛び去り、その場に北斗だけが取り残された。

 ザアザアと、木々のざわめきに聴覚が支配された。

 小石が撥ね、頬を掠めて小さな傷を作った。


 知らない記憶が、呼びかけた。


 声なき声は、耳を傾けるにはあまりに小さなものであった。
 しかし北斗は感じている。
 記憶は確固たる遺志。


 足が勝手に動いた。


 否、動かしているのは自分。
 目的地へと進むために、動かしているのだ。
 どこへ?
  
 強く誓ったあの場所へ。


 北斗は混乱していた。まるで、目覚めながらにしてあの夢の続きを見ているかのようだった。

 夢と違うのは、自分の体は自分としてあるということ。
 これは夢ではない。

 不思議なことに恐怖はなかった。己が己の意志と反した行動を取っている事に、疑問は持てど恐れはない。
 自分の体に何かいる。そしてそれは強く願っているのだ。
 あの時果たせなかったあの約束を、今こそ。

 自分の中にいる"何か"は慣れた様子で家から離れ、確かな目的を持って"どこか"へ向かっている。
 穏やかな歩調で、それでいて急いている。


 そこは、家の裏手の海の見える場所。
 夕方ともなれば美しい夕焼けが見える崖沿いに、自分はいた。

 目の前には洞窟。こんなところにあるなんて、この辺は子供の頃に探検したけれど知らなかった。

 足を踏み入れたのは自分なのか、あるいは自分の中にいる"何者"か。
 意志と、思考と、想いと、行動の全てが合致しない。
 困惑の最中、北斗は、北斗の中にいる何かは、それを見た。
 そして、"北斗"は声を失った。



 氷付けの少年は、死んでいるようにも、僅かに微笑んでいるようにも見えた。

 その傍らに寄り添うように、野獣と呼ぶには幼若で、愛玩動物というには鋭い爪と牙を持った、幼き獣が眠っていた。



 そのとき自分に感じていたのは、あまりに現実離れした光景に対する畏れだったのかもしれない。悠久の時の流れを、少年と獣は過ごしてきたに違いない、そう思わせる光景であった。
 巨大な氷塊は、自然現象でそう簡単にできる物ではない。ならば考えられることはひとつ。

 強大な、魔の力。

 こんなことができる人間は、相当の術師であっただろう。"北斗"の足はそこに竦んで動かなかった。
 だが自分の体は、足はそれに近づいていき、自分の腕は何かの陣を描いた。そして呪文の詠唱を開始した。



 そして自分の口元は笑みを浮かべながら、見知らぬはずの少年の名前を呼んでいた。
 それは溢れるほどの親しみの情がこもっていて、それでいて尚、泣きそうなくらいの切なさに富んでいた。




「そろそろ起きる時間だ、颯輝」


 封印は解かれる。


 北斗の手によって。

http://mixi.jp/edit_bbs.pl?id=32060416&comm_id=2044844へ続く

コメント(1)

各々が勝手なことを抜かしている。→各々が勝手なことをぬかしている。

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