みんなにやさしい自作小説コミュの徒然物語②～第十八章～

｢…待たせたみたいで悪かったな｣

あっという間に遥か上空へ昇っていったルドラを見送ると視線を双子へと戻す

行儀よくしていた二人に対する素直な感想だったのだが心外そうな苦情が即座に投げつけられた

｢待たせた？冗談キツいぜ。あたい達がアレを襲ってたら背中からバッサリ殺る気だったろぉ？｣

｢それは貴方の算段を隠蔽する発言。訂正しなさい｣

凶悪な笑みを浮かべる妹に淡々と指摘する姉

対極的な性格ではあるが二人とも冷静に状況が読めている

こちらがあからさまに飛ばしていた殺気を警戒したようだ

まあこちらも最初からそのつもりでやっていたのだが、改めて手強いと実感する

常人ではその場に立ち続けることすら困難な重圧を少女達は涼しい顔で受け流していた

｢なぁ姉貴もういいだろ？そろそろ本気で限界だ｣

｢待ちなさい。勝手な行動は許さない｣

…いや、受け流せていない奴が一匹混じっていたか

俺の殺気に反応して先程から自分の獲物を弄りながら気を紛らわせているオレンジ

それでも爛々と狂喜を浮かべる双瞳は興奮がおさまりきらずすでに臨界寸前だ

いつ融解するとも知れない溶鉱炉のような状態の空気を気づけない人物が割って入る

｢何をやっておるのだ！？お前達がさっさと殺ってしまわないからあの連中に逃げられてしまったではないか！？｣

赤くなっていた顔を怒りでさらに赤黒くし、その矛先を自分の配下へとぶつける商人

｢三人もいながらどいつもこいつも使えんとわ！一斉にかかればしとめておれたものを！！｣

｢お言葉ですが、一人は貴方の護衛です。自分とオーダースリーでやるにしろこの男を無視しての作戦強行はこちらにも被害が想定されます。ここでの戦力消耗は得策ではありません｣

｢任務はやりとげてこそ価値があるのだ！その為の貴様等ではないか！駒は減れば補充がきくが、事実の隠蔽・偽造・捏造には手間と金がかかってくるんだぞ！！そんなこともわからんのか！｣

この時、傲慢にも憤慨を続ける商人を見つめる双子の視線が急激に温度を下げていくのが俺にも理解できた

どうやら彼女達も雇われただけで飼い主に対する忠誠はさほど高くない様子

そこを利用することができれば…と作戦を練り始めるアストレイに商人の悪辣な声がはっきりと届く

｢ふん、最初から馬鹿親と一緒に死んでおれば霊石も容易く手に入ったものを…次から次へと厄介事を産み出しおって。やはり獣は獣らしく狩っておればよかったわ！復讐などと戯言を吐かれることも、それに付き合わされることもなかっただろうに…えぇい、ぐだぐだ言っとらんでさっさと―――｣

その時、戦場に一陣の風が吹き抜ける

アストレイの拳が喋り続けていた男の頬を痛烈に殴り飛ばしていたのだ

商人の体が後方へ弾かれ、地面を二転、三転しようやく勢いを殺す

…久しぶりにはらわたが煮えくり返る感情を抱いていた

普段戦場では冷静さを無くさないよう努めていたが、目の前で悶絶している商人を見ていると込み上げてくる嫌悪感を押さえきれない

俺が最も嫌いな人種だ

｢何を怒ってるのか知らんが、こっちは万倍キレてる事を忘れるな｣

にじりよる足が踏みしめる砂利の音で近づくアストレイの存在に気づいた商人が、呻きながら慌てて後ずさる

｢罪悪感が微塵もないようだから教えといてやる。お前にはあいつの言う『復讐』が意味のないただの因縁に感じているだろうが、あいつにとって肉親の仇であるお前を殺す事はあいつが今後を生きていく為に必要な鎮魂の儀式だ。死んだあいつの親はもうなにも感じない、望まない。死は全てを無くすことだからだ…だがな、それでも遺された者には必要な行為なんだ。天災や病魔に命を奪われた訳じゃない、目の前に仇がいて怒りと憎しみを向けるべき対象がいる。あいつは復讐を経てやっと現実と向き合い明日を見ることができるのさ｣

｢け、獣風情が｣

｢…最初から理解できるとは思ってない。これから死に逝くお前にせめてもの手向けだ…｣

振り上げた白刃が光を反射しいっそう美しく輝く

｢せいぜい未練を残して死んで逝け！！｣

｢ひぃっ！？｣

振り下ろされる双剣には殺意が滲み、商人を袈裟懸けに切り捨てるべく軌跡を残す

肩口に届くコンマ零秒にもみたない間隙

双剣を受け止めた大鎌と四方から飛来してくる暗器がアストレイを怒濤の勢いで呑み込んでいた

｢ちぃっ｣

咄嗟に右剣は大鎌を防ぎつつ背後から迫る暗器を左剣で弾き、捌ききれなかった残りは体制を変えることで間一髪回避

地面に叩き落とされた暗器は独特の形状をし中心から四方に伸びた十字の刃が武器の正体をすぐに看破した

たしか東方大陸に普及されている『手裏剣』だったか

攻撃に気をとられているわずかの間に三人目の暗殺者が護衛対象たる商人を連れ後方に下がる

｢このアタイが一瞬見失う程のスピードで動くなんて最っ高だぜ！くぅ～、たまんねぇ！！｣

｢オーダーフォー、ちゃんと護衛しなさい｣

｢はぁ。一発目に殺意が感じられなかったんでつい…すいません｣

いまいち軽い返事の三人目は直接戦闘には参加してこないようなので一度思考から外す

息着く間もなく銀髪が第二波、第三波と正確に投擲する手裏剣を弾き、叩き落とし、かわしながら

その隙をつくように死角から影のように出現しては執拗に攻めてくるオレンジに手を焼かされる

個々の技量もさることながら、この双子声どころかハンドサインやアイコンタクトすらとらず息を合わせている事に戦慄する

なんなんだこいつらっ！？

およそ人間業ではない精度で追い詰められていき、じわじわと全身に無数の傷がつき始めていく

｢すげぇ！！アタイ達の連携をここまで凌いだ奴はお前が初めてだぜ！！楽しいなぁおい？｣

｢うるさいぞ馬鹿野郎！｣

オレンジの獲物が大鎌というのも苦戦を強いられている原因の一つだった

通常こんな特殊で特異なものを武器に使用する者などいない

刃は広く流線のように流れる刃渡りが力の負荷を分散させ切断するに適してはいるが反面獲物が長大な分細かいコントロールが難しくまた大剣並みの重量を誇示している

これほど扱いづらく使用者を選ぶのではそもそも武器として成立しない、はずだったのだが

それをこの年端もいかない少女が見事に使いこなし、大鎌が大剣の威力を秘めた槍のような業物と化している

まさに死神の大鎌=デスサイスのイメージ通り

刃を合わせることすら困難な一撃に受け止める度に肩や腕、足などへ裂傷がつけられていく

本能的に不利を悟ると、商人への追撃をあっさり断念し体制を整えるべく後ろへ大きく飛び退いた

｢待ちやがれ！｣

｢待つわけないだろ｣

追い縋ってきたオレンジへ大振りの一撃を見舞う

案の定異常な反射神経で見切ったオレンジが紙一重で避けカウンターを合わせてきたところでこちらもさらに踏み込み当て身を喰らわせる

さすがに体格差でオレンジがよろめきながら後退し、そこに銀髪も合流

再度訪れた睨み合いに自然と軽口が漏れていた

｢それだけの力があってよくあんなのの下についていられるな？俺なら仕事は選ぶぞ｣

｢仕方ねーじゃん？上がやれって言うし、姉貴は上の命令絶対だって言うし？｣

｢それは…頭の固い姉だな｣

｢だろ～？｣

｢無駄話はそれぐらいにしておきなさい｣

ぼやくオレンジの首筋にひやりと冷たいクナイが突きつけられ姉の分かりにくいが幾分落としたトーンの声に｢はいはい｣と閉口する妹

正直俺はこの二人と戦うのは避けたいと思っていた

強敵なのは勿論そうだが、そのほかにも理由がある

この双子には悪意が全く感じられないのだ

命令には素直に従うし、どんな冷酷な任務も忠実にこなすだろう

だが、それ以上の感情を標的に対して持たないし抱いてない

むしろ先程から護衛の影で震えながらフガフガ文句を言っている商人の悪態を忌々しそうな表情で聞き流している節がある
(ちなみに商人が何を言っているのか聞き取れないのは俺の耳が悪いからではない
思いきりぶん殴ったおり歯が何本か折れている上に頬の腫れが酷く文字通り｢フガフガっ！｣としか発せられていないからである)

｢…姉貴、やっぱり先にアレ殺っちゃだめか？すげ～イライラするんだけど｣

｢駄目よ。採算が合わない内から見捨てるのは得策ではないわ｣

｢けどよ～｣

｢待て。あいつを殺るなら俺に殺らせろ。その方がお前らにも都合がいいだろ？｣

｢却下よ。妙案ではあるけどしれっと馴れ馴れしく入ってこないで｣

｢ちっ｣｢チッ｣

｢貴方達…似た者同士なの？｣

｢実は馬鹿なのか？そんなわけないだろ。こんな脳筋バトルマニアと一緒にするな｣

｢姉貴！？アタイはそんなに男っぽいか！？｣

｢…はぁ…？今のは何…｣

ため息をついた自分に不思議そうな反応をみせる銀髪

普段ため息をつかないのか？オレンジと一緒にいるわりに意外だな

少し場が白けつつあるが互いの目的に変わりはない

俺には傭兵達の撤退支援と商人の首、双子にはマグヌス傭兵達の命と雇い主の保護

現時点ですでにこちらの目的は半分達成されているので後は隙をつき撤退するだけなのだが

それを易々と許す二人ではあるまい

撒いたと思わせ、後に奇襲され皆殺しにあう可能性すらありえる

それほどに双子の実力は高い

通り名をつけられるほど実力を認められたアストレイだがその事で自身を過信することはなく、いっそ卑屈ともとれるほどの過剰な過小評価が楽観視を許さないでいた

離脱するには双子を戦闘不能にするか、それに近い状態に持っていく必要がある

…これは伏せているカードをそうそうにきることになりそうだ

ちらりと茂みの奥へ視線を移した瞬間真横に出現したオレンジが横薙ぎに大鎌を一閃

間一髪跳躍して回避したのも束の間、自分の目を疑う光景に出くわす

｢よそみしてんじゃねー！｣

｢チッ！！｣

大鎌を片手で振り抜いていた事にも驚かされたが、空いていたもう一方がかわしたばかりの足を掴み荒々しい叫び声と共にアストレイを地面へ叩きつける

足を掴まれたまま背中から落とされ受け身もとれなかったダメージは大きく意識がプツリと飛びそうになる

オレンジの手を振りほどこうと暴れようとしたところで

｢はぁぁぁあああああああああっ！！！！｣

(こいつ化け物か！？)

オレンジは自身より重いアストレイの体を細腕一本で振り回し始めたのだ

幾度となく地面や樹木・岩塊に叩きつけられ身体中の骨が軋む

魔力で強化をしていなければこの時点で死んでいただろう

それでも相当なダメージを負ったアストレイをとどめとばかりに一際大きな樹木に投げつける

高速で叩きつけられた体は全身からミシミシと嫌な音が聞き取れるほどに軋んでいた

痛みに視界が真っ白になる

このまま地面に倒れ込み意識を手放せばいったいどれ程楽だろうか…

苦痛に歪む世界を、それでも奮い立たせた一歩が切り開く

この程度の怪我で立ち止まれるほどやわな戦場には立っちゃいない

過去に瀕死の重傷を負いながら三日三晩気力だけで戦い続けたこともある

それにくらべればこのダメージは『なんてこと』ない

勘に任せて振るった双剣が手裏剣を再び叩き落とす

｢馬鹿かっ！？信じらんねぇタフさだ！！｣
｢！！｣

…やはり…

そしてどういう仕組みかはわからないがようやく双子の神業の如き連携を俺の経験が捉え始めた

感嘆しながらも嬉しそうに突っ込んでくるオレンジが目前で姿を消し変わりに飛来する暗器を落ち着いて避け

跳躍した勢いそのまま上方から強襲をかけんとするオレンジと眼を合わせる

｢な、にっ！｣

驚愕する少女に一跳びで接近し不意をついて鳩尾に強烈な膝蹴りを見舞う

そのままなんなく着地し再び戦闘体勢を維持するアストレイとは反対に体をくの時に曲げ弾かれたオレンジは背中から地面に落ちると動かなくなる

気絶したか？

易々と連携を打ち破ってみせたアストレイに銀髪が目を見張る

｢…驚きました。まさか単独で私達の連携を崩す人間が現れるとは｣

コメント(2)

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[1] mixiユーザー 03月28日 14:02

｢そこまで凄いことではない。たしかにお前らは秀逸だった。正直二人がかりでこられたら勝てる気がまるでしない｣

｢？言っている事と現実が食い違っていますが？｣

｢お前らの呼吸が完璧すぎて逆に読みやすいからだ。『二人』とじゃなくて『一人』と戦ってる気分になる。互いに隙の多い攻撃の時に必ず穴を埋めるよう攻撃がある。くるとわかっている攻撃であればたいした驚異にはならないということだ。妹が突撃でお前が死角をカバーしながらの遊撃。理に叶っちゃいるがそれ故にからめ手に弱い。そういうこった｣

｢…今後の参考にします｣

｢おう。しっかり勉強しとけ｣

互いに武器を突きつけながらだが、どこか教師が生徒に教えるようなそんな温かさを持った会話

最初に比べ冷徹に見下すだけだったはずの姉の瞳にはうっすら敬うような視線を感じるのは気のせいか？言葉遣いも敬語になってるし…

恐らくだが自分より実践を積んでいると俺を純粋に認識したのだろう

無表情なせいで感情の機微が読み取りにくいが、なんとなくそんな気がした

嘆息しつつ気を引き締めると無駄とわかりつつも聞いてしまう

｢まだやるか？｣

｢無論です｣

…だな

わかってはいたが改めて聞くと少し残念に思う

自分も傭兵だから理解できる

生きる上で仕事の重要性を

失敗は評判に関わり、評判は信頼に関わる

信頼を無くした傭兵なぞ何処にも行き場を無くしたただのゴロツキか盗賊に成り下がるしかなく、それはろくな結末が待っているものではないのは明らかだ

お互い同じ傭兵ではあるが、確固としてある信念の違いゆえの対立

『自分の価値観』と『他人の価値観』だ

彼女の所属している暗殺ギルドは特に規律に厳しく自分を殺し他人を殺すことを徹底している集団

おそらく失敗すれば制裁という名の処刑が待っているのは想像に易い

対してアストレイは自分の信念を貫くために他の全てを振り払った人間

傭兵としての違いはそこだけかもしれないが、それは譲ることのできない深い境界線だ

｢…変なことを言ったな。すまん｣

｢いいえ｣

チャキリ、と双剣の刃を重ね正眼の構え

対して静かに迎え撃つは双刀の波が妖しく輝く二刀流

奇しくも似たスタイルの青年と少女はどちらからとなく駆け出すと互いをパートナーとした舞踏のように付かず離れず立ち位置を替えては剣を交えていく

高質な剣撃の音だけが二人の間に響き続ける…

続く～

[2] mixiユーザー 03月28日 14:10

～～～あとがき～～～

ずぅえんずぅえんまとめられなかった(苦笑)

今回はいつもより長いです
納められなかった気持ちが追加でかかれてます
長いと読むの大変でしょうに…申し訳ありやせん(軽w)
なかなか話が進みませんでしたが次でようやく進められる気がします
ついにここまでやって来たか！という気分です
第二話も佳境だと思われますので
お読みいただけるかたはゆるりとお付き合いいただきますことを切に願います♪

ここまでお付き合いありがとうございます！！

では！(^3^)ノシ

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