みんなにやさしい自作小説コミュの徒然物語② ～第十一章～

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深森の樹海

半日かけてようやく目的地らしき場所に辿り着いた

それまでに魔物との遭遇戦は何度かあったが、どれも小規模なものでいずれもさりげなく後ろに下がって他の傭兵達の実力を見物させてもらった

さすがに傭兵をやっているだけありそれなりの強さを各々持っているようだが

やはり単純に自分やソルトと比べると並ぶ実力者はいないようだ

…まあ、古参はこんな怪しい依頼受けるわけがないので当たり前と言えば当たり前の状況ではあったが…

ランクがＣ・Ｄクラスで構成された傭兵部隊はとある見晴らしのいい一角に陣を敷いている

樹海の中で一際スペースの開けた広場。ここなら警戒もしやすく戦闘になっても隊列を組むことも散開してあたることもできる都合のいい立地だからだ

普通であれば依頼の『荷物』をはやく捜索し、さっさとこんな森からおさらばしたいのだが

これがあまり順調とは言えない進行状況であった

｢…ぅぅ…｣

誰のものとも判別できない呻き、緊張感が全員を支配していた

深森の樹海に入ってから程なく最初に異変に気づいたのはアストレアであった

｢？｣

最初は気にも止まらないような小さな違和感であった

小さくレザーベストの裾をつまみ、異変を訴えてくるアストレアに頷きアストレイも警戒レベルを引き上げる

樹海の奥へと進むにつれだんだんと違和感は濃度を増していき、ここに到着する頃には他の傭兵たちも気づくほどの濃密なプレッシャーとなっていた

まるで何かに見られているような、絶えずまとわりついてくる不快感

その為、目的地周辺についた今も警戒体制を弛める(=ゆるめる)こともできず休憩なしでの強行軍となっていた

武器を構えた状態で一歩一歩慎重に探る

このプレッシャーの正体はわからないが

以前何度か来たことがある樹海とは今日のそれは格段に様子が違うようだ

頭の中で警報が絶えず鳴り響いている

｢おお！あれだ！！｣

依頼主の商人が突然一点を指差し叫ぶ

周囲にいた数人の傭兵が大声をあげたことを咎めるように睨み付けるが当人は全く気付いていない

この緊迫した空気を忘れるほど興奮しているようで、その目は嬉々として凝視し離さない

つられて全員が指差すそれに視線が集まる

(―――あれは！？)

木々の間に抱かれるようにして鎮座している大きく丸い石

岩塊のように角ばったものではなく、水晶玉のように研磨されたと思えるほどの流麗な曲線

ただの石、では当然ない

その石から洩れ(=もれ)でるようにして漂う魔力に思わず息を呑む

魔力を秘めた『魔石』であればここまで驚かないだろう

そもそも魔石とは破損でもしない限り魔力が外に洩れることはないのだ

アストレイの所持している魔剣も然り

行使している時であれば話は別だが、普段は内に秘め宿しているから魔石であり魔剣なのだ

それが目の前にある石からは出てしまっている。放出されていると表現した方が正しいか

魔力操作が使えるアストレイにしか分からない些細な違いだろうが、それ故に見逃さなかった

この周囲に漂う魔力。それも恐ろしく透度の高い純魔素は魔石から洩れでるものとは違う

まるで魔力そのものが結晶化したような魔素

そこまで考え一つの推測が打ち立てられる

｢まさか『霊石』か！？｣

｢霊石？｣

アストレアが聞き返す

｢ああ。ある種族が死んだ後、生前身に付けていた魔力が全て凝縮し結晶化する性質から発生する希少な石の事だ。別名を『化生石』ともいう｣

｢ある種族？｣

ヤバイな

俺の推測が正しかったらあの石は間違いなく霊石だ

そうなると、あの霊石の『継承者』が近くにいる可能性が高い

｢さあ皆さん、あの石が依頼対象です！すぐ運び出して下さい！｣

｢おおぉっ！｣

商人の号令に従い、運搬作業専門で連れていた男達が霊石に駆け寄る

こいつらは商人がもとから連れてきていたアンヘル組合の連中だ

｢さあ！護衛依頼を続けるぞ！周囲の警戒気を抜くな！｣

この部隊で唯一のランクＢであるソルトが自然と指揮する形で作業員達を中心に防御陣形を組む

｢アストレイ！この僕がどれ程頼りになるかその目に焼き付けておけ！！｣

叫びながら宝剣を掲げ霊石へ殺到する一団

先陣を走るソルト達の前に突如として出現する紫色の炎

光の精霊ウィルオーウィスプか？

不用意な接近を警告しようとしたが、ソルト達には間に合わない

よほど宝盾の防御力に自信があるのかソルトは構わず突っ込んでいき、その後をさらに傭兵達が雄叫びをあげながら続く

どんな時でも過信せず用心深くいるようにしていたアストレイが、一団最後尾に移動する形で陣形が変わる

ついに先頭のソルトが紫色の炎に接触

宝剣『ドラグヴァンデイル』が陽光を反射して煌めいた時には、炎が二つに切って捨てられていた

形ないものまで切り裂くとかどんなだよ…

以前自分がやってのけたことを棚にあげ、感嘆の声を漏らしそうになった時

炎が一際強く揺れた

周囲を呑み込むほどの強烈な閃光が巻き起こり視界を奪われ全員がその場から一時動けなくなる

咄嗟に視界を覆いアストレアをかばう

地面に転倒し呻いている連中よりはやく回復したアストレイがただ一人先頭で微動だにしていないソルトの背中に声をかける

｢おい、無事か？｣

返事はない

嫌な予感がするが構わず声をかけ続ける

｢うぅ…｣

ソルトの脇を視力を失った作業員がよろめきながら通りすぎかけたときだ

ソルトの右手が霞む

｢っ！？｣

ゴトリ、と作業員の首が地面に落ち周囲の大地を彼の胴体から吹き出す噴水のような鮮血が真っ赤に染め上げていく

思い出したように作業員の胴体が横たわるのと同時にソルトがゆっくりとこちらを振り返る

誰かの悲鳴が響く

｢…お前…｣

ソルトの目は無機質で無感情

普段の彼を知っている者であれば人一人殺めた直後にこんな風でいられるはずがないのはすぐにわかった

なによりあの感情の起伏が激しい青年の顔に一片の感情も浮かんでいないというのが異常である証拠

(操られているな)

この状況に至り、アストレイの推測は最悪の形で的中することになった

地面に倒れ今だ呻いている商人の胸ぐらを掴み強引に起き上がらせる

｢てめぇ、『旅狐(=りょこ)』に手を出したな！？｣

｢ひぃぃっ！？｣

｢レイ、旅狐って？｣

人の死を間近で見てしまったアストレアが青い顔をさせたまま聞いてきた

上ずった声が気がかりではあるが、平静を装ってかいつまんだ説明をしてやる

…この稼業を続けていく上で人の死に直面するのはどうしても避けられない

命をやり取りをしている上でそれは誰しも覚悟していることであり、明日の我が身だ

決して他人事ではない

辛いかもしれないが今慣れてしまわなくては遠からず心が壊れるだろう

それ故に努めて冷静に接する

旅狐とは獣人の一種『狐族』の中でも飛び抜けた魔力を秘めた種族であった

もともと狐族は他の種族とは交流を持たない閉鎖的で自尊心が高い種族なのだが、その中では珍しく旅狐は他種族と積極的に交流を持とうとする種族であった

なぜ旅狐だけがそうなのかは知らないが、色々な場所を訪れてはまた移動を繰り返す習慣があり

『旅する狐』=『旅狐(=りょこ)』と呼ばれる由縁となっている

そして、彼等は秘めた魔力を死後結晶化し他の仲間に託す習慣がある

その魔力たるや元来の長命もあわさり、並の魔法使い１００人分にも相当するとさえ言われ

それゆえ他の種族から命を狙われたりすることも多々あった

そこまでの稀少価値、そして利用価値の高さゆえに一部の人間の間でも高値で取引される

王族・貴族・魔法使い…

欲しがる奴等は星の数ほどいる

そして需要が高い『商品』であればアンヘル商会が黙っているわけがない

おおかたこの霊石の存在に気付いて慌てて緊急クエストを依頼してきたのだろう

そもそも旅狐はその個体数と稀少性からマグヌスでは殺傷禁止指定を受けている種族である

知性も高く会話が成り立つ存在であるから討伐の必要がないのだ

こんなことがギルドにばれたらなんらかの処罰の対象になるだろう

｢…人間共…｣

｢レイ！！｣

｢ちっ、もうきたか！？｣

商人を問い詰めるのを中断し、視線を向けるまでもないほどの殺気をみなぎらせた一人の狐族を捉える

｢よくも父様を殺したなーーーっ！！！｣

金目金毛、まるで芸術品のような毛並みに立派な耳と尻尾を逆立て

狂気のはしる眼光と目が合う

一瞬の交錯

たったそれだけでアストレイは旅狐の身に渦巻く深い悲しみと憎しみ・絶望の断片を垣間見てしまった

とりつく隙がない

旅狐の最大の武器はその高い魔力を練り上げ顕現させる炎『狐火』

集束し放たれる狐火は如何な物質も灰塵(=かいじん)に帰す

また、上位の旅狐であれば精神に作用する幻惑の炎『幻炎』すら使ってくる

げんに無類の防御力を誇る霊亀をもってしてもソルトの精神を防御することは叶わなかった

脳内の警鐘はすでに最大級のレベルに引き上げられ、ここにきて撤退の選択肢は諦めるしかなさそうだ

―あんな瞳を見て、背中を向けられるかよ―

半端な覚悟じゃ死ぬのはこっちだ

意を決して双剣を向ける

旅狐はすでに空中に無数の狐火を浮かべ迎撃する構えだ

狐火を飛ばされより早く地を駆ける一陣の風

先手必勝

まるで瞬間移動のようにして出現したアストレイに旅狐が目を見開く

｢…悪いな｣

呟き、断頭の連撃を見舞うべく双剣アロンダイトが煌めく

旅狐の喉元に白刃が届く間際

予想外の方向からの衝撃に体勢が崩された

(ソルトかっ！？)

旅狐を庇うように、操られたソルトが双剣を振り下ろすアストレイへ体当たりをしてきた

もつれ合うように倒れ込み、いちはやくソルトが宝剣を振り下ろす

｢ちっ｣

迎撃する左剣ダイト

甲高い金属音が辺りに響き渡る

鍔迫り合いになり空いている右剣アロンを振るうが、こちらはソルトの宝盾霊亀が受け止める

ギリギリと膠着状態におちいってしまったアストレイの頭上を真っ赤に染め上げた狐火が今にも降り注がんと膨れ上がっていた

｢くそっ！おいバカ野郎！さっさと目を醒ませ！！｣
爆発まですでに秒読み段階

イライラしながら怒鳴るがソルトに変化は一向に見られない

歯噛みしながら再度呼び掛けようとし、ついに決壊した狐火がソルトもろとも呑み込まんと殺到してきた

避けられぬ猛火に包まれ焼死したであろう愚かな人間二人に満足気な笑みを浮かべる旅狐

しかし、すぐにそれは崩れることとなった

猛火が終息していくにつれ透明なバリヤー状のものが現れたからだ

｢…すまん、助かった｣

｢うん。大丈夫｣

胸の前に一枚の光輝くカードを構えたアストレアがアストレイのそばに立ち旅狐を牽制している

スペルカード『ラウンドプロテクト』

対象に付与するタイプのバリアではなく、空間軸の座標に展開するバリア

言わばシェルターに近いスペルであった

使用後の術式を再度移動させることができず、また一度展開すると他のスペルカードとの併用ができないことがネックだがそれを補ってあまりあるほどの強度を備えたスペルである

一千度を超えると言われる狐火の業火からアストレイとソルトの二人を完璧に守りきったことからもその強固さは実証済みだ

魔力コントロールを身に付ける過程で覚えたスペルカード三枚のうちの一枚

そして

｢レア、悪いが狐の相手を頼む。あれを相手に他の奴への配慮も遠慮もいらん。やられる前にやれ！俺はこのバカ野郎を止める｣

｢うん。わかった｣

頷き応え静かに移動していく

一見物静かで落ち着いているように見えるが、全身から溢れだしている魔力量に息を呑む

これまで練習中でも全力を出すのは控えさせていた

どれだけのポテンシャルを秘めているのかアストレイにすら把握しきなかったからだ

アストレアにとっては初戦の相手となるのがあの旅狐と

不安はあるかもしれないが、内心相性は俺よりいいと感じていた

コメント(1)

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[1] mixiユーザー 09月06日 10:55

あとがき

やっと戦闘がはじまりかけましたねw
まさか文字数オーバーでぶったぎられるとは思いませんでした(泣)
僕はミクシの日記に書いて(非公開)は編集編集してるんですが
中途半端な所で文字数の限界がきちゃいましたw

さあ、アストレアの初戦闘と行きましょう！敵は人類を遥かに超える身体能力・魔力を使う獣人だ！獣耳に惑わされるな！
アストレイも相手はソルトだけど仮にも伝説級の宝具を相手に立ち回るからには容易にはいかないぞ！

次回にこうご期待(笑)

…次回予告はこんな感じでいいのかな？あおってみたけど実際は書くの僕だかんね
そこを踏まえお付き合いいただけると幸いです

最後に、長くなりましたがここまで読んでいただきありがとうございます♪

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