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みんなにやさしい自作小説コミュの▲ T.Pシリーズ [PM13:21] ナイフ

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「わぁ…。」
私は初めての水族館に興奮しっぱなしだった。
私の生まれ育ったイギリスのど田舎にはこんな立派な代物はありはしなかったからだ。
やっぱり、日本は凄い。
「おい、任務を忘れるなよ?俺はお前を水族館に招待するために日本に連れてきたんじゃないんだからな。」
私の後ろから野暮ったい声が投げ掛けられる。
「はいはい。分かってますよー。でも、少しくらい楽しんでも罰は当たらないでしょ?」
はぁ、と諦めに似た溜息が聞こえた。
全く、溜息吐きたいのはあたしの方だ。せっかく日本に来たのに、三日後にはもう帰国するなんて。ろくに観光も出来ないじゃない。
私は軽い足取りで次に進もうとして、
「きゃっ!?」
何か軽いものがぶつかってきた。

女の子だ。
女の子の方は衝撃を支えられず、尻餅をついてしまった。

「あ、ご、ごめんなさ、あ、えーと、ソーリー!」

彼女はおたおたしながら何とか言葉を紡ぐ。
その様子が面白くて、思わず私は噴き出してしまった。

「日本語でいいわよ。こちらこそごめんなさい。大丈夫だった?」
「は、はい!オールOKです!」
元気に返事する女の子。
あぁ、いいなぁ。こんな娘が欲しいなぁ。
「おい。行くぞ。」
だっていうのに、この男は…ホントに野暮な奴。
「ごめんね。連れが呼んでるから。それに、貴方の彼氏も待たせてるしね?」
「か、彼氏!?そう見えましたか!?」
「あら、違ったかしら?じゃあ兄妹とか?あんまり似てないようだけど。」
「………うふふ、ナイショ、です♪」
「?」
意味深な返答をし、女の子は奥にいる男の子の方まで駆けていってしまった。
何故はぐらかしたのか問い質したかったが、こちらも待たせてることだし、まぁいいか。


「で、どこ?さっさと終わらせて観光を続けたいんだけど。」
「こっちだ。」
そう言って彼は私の先をどんどん進んでいき、関係者以外立入禁止の色褪せた看板を通り越して、その先に進んだ。

開けた場所に出た。
普段ならイルカが跳びはね男女問わず楽しそうな歓声が反響しているだろうホール内は、今は全席空席で淋しい様相を呈していた。

来よう。
終わったら絶対また来よう。イルカショーを観に。
「そこに隠れていろ。それと、これを渡しておく。合図をするまで勝手に動くな。」
そう言って渡されたのは、お馴染みの使い古された無骨なトランシーバー。
私はイヤホンを耳に入れ、おとなしく指示された座席の陰へと隠れた。



成る程、一応仕事に関してはちゃんと気が利くようね。
相手からは見えにくく、こちらからは見やすい位置。まぁ少し狭いけど、そこまで要求するのは贅沢というものだ。
座席と座席の間に身を潜めること数分後、急に無線の音が入った。
「来た。取り巻きは三人。全員銃を持ってるな。身体が膨らんでるから防弾チョッキを着込んでるかもしれん。やれるか?」
「あたしじゃないと出来ないからわざわざ連れてきたんでしょ。ちゃんとやるわよ。」
「……ターゲットだけは殺すなよ。生かして捕えろ。」
「何よその言い方。まるで私が殺人鬼みたいじゃない。」
それだけのやり取りを交わして無線が切れる。
そして、ほどなくして。
ホールの扉がゆっくりと開かれた。
まず最初に入って来たのは2Mはあろうかという巨躯を携えた厳つい顔の黒人。次に、これまたガタイのいい、しかしどこか飄々とした感じのするサングラスの白人。

その次が、今回の標的。

下品な顔とピカピカ光る金のネックレスをいくつも首にぶら下げた、武器ブローカー。
短足なので、周りと較べるとより一層チビに見える。
そして、最後に黒のロングコートを着込んだ寡黙な雰囲気の男が入り、扉を閉めた。



男達は周囲を忙しく見渡して危険が無い事を確かめると、ゆっくりと一段一段階段を下り、ホール中央の特設ステージへと降り立った。
……ていうか、足痺れてきた。合図まだなの?

ターゲットがステージの隅に置かれた器具を何やらがさごそと弄っている。
やがて目的のものが見つかったのか、下卑た笑顔を浮かべて手を引き抜いた。
その手に握られていたのは、一枚のディスク。
その時だった。
「…よし、いいぞ。行け!」
無線の声に弾かれたように地を思い切り蹴り飛ばす。
跳ぶ、というよりも飛ぶ、といった方が正しいかのような跳躍を見せ数Mを一気に横断。
その勢いのまま、私は一直線にステージへと向かう。
標的は声を上げて驚いていたが、さすがに周りのボディーガードは場慣れしているのか、淀みない動きで懐からハンドガンを取り出し、ピッタリと私に狙いを付けていた。



………けど、遅い。

私は左袖口から二本のナイフを抜き、右手を降り抜くように水平に払った。
と、同時に投擲したナイフは男達の引き金にかけられた人差し指に一直線に飛翔し、突き刺さる。
「ぅ!」
痛みに呻いたその一瞬が私にとっての絶対の好機。
今度は右の袖口からナイフを一本だけ取り出した。
そして、何の躊躇もなく、一番近かった黒人風の男の喉元を横一文字に切り裂く。
黒人の喉から勢いよく飛散する赤黒い血が降りかかるのも構わず、今度は左手を白人に向かって下から上に振る。
滑るように袖口から飛び出した投げナイフが、白人の眉間に突き刺さった。
この間、僅かニ秒足らずの出来事だ。
その時。
「!!?」
私は直感的に身体を後ろに逸らした。
コンマ三秒遅れて、さっきまで顔が在った位置を鉛の弾丸が通り過ぎる。
見ると、最後の三人目の男の銃から硝煙が立ち上っていた。
(……やるじゃない。このあたし相手にまったく気配すらさせずに撃つなんて。)
尚も撃とうとする男に向かってナイフを数本投擲。と、同時にバックステップで壁の出っ張り部分に身を隠す。


「参ったわね……。」
思わず口に出してしまいながらも、現在の装備を確認する。
投擲用ナイフが残り3本、普通のナイフが2本テーサーが一丁、後は……護身用程度の催涙スプレーが一つ。
………くそ、変な意地を張らずにもっと色々用意して来ればよかったわ。
あの男相手じゃ後ナイフが6,7本は欲しいところだけど…。贅沢をいったら始まらないわね。

現在状況はこちらが不利。でも、何とかしてこの装備でひっくり返さないと……。

と。そんな時に、カラン、と足元で乾いた音がした。

しまった、と思ったときにはもう遅かった。

床に転がったグレネードが破裂し、辺り一面白い閃光に包まれて、そして――

突如、私を取り巻く世界全てがブラックアウトした。




……?

あれ…私……確か、爆発で…

…私…?

私って、誰?

…………誰、だろう。

分からない。何も、分からない。

一体、ここ、は?

まっくらで、なにも見えなくて、音も、光も、何も無い。

何も、ない?

………。

………。

………あぁ、なるほど。

分かった。全てを理解した。

無いのは、創ってなかったからだ。この先を。

なんだ、もう終わりなのか。

しょうがないな。”私”の出番は終了。

君は、今も見てるんだろう?

それじゃ、まぁこれで終わりって事で。交替だ。

今度は”僕”が見る方。君が体験する方。

……あれ、もしかして、もう入れ替わってる?

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