コア・拓郎！コミュのつま恋紀行2006-vol.01／

★つま恋紀行2006-vol.01★

～八十歳以上になった時を想定してみると、一概に言えないかも知れないが、例えば肉体に衰えが見えたりして、きっと華々しく活躍するのは難しいような気がするのだ。～（中略）～僕は物事に楽観的な方ではないので、どちらかと言うと60歳くらいまでが、つまり本気で勝負の出来る年だと思っているのだ。～

（吉田拓郎「ふたたび、自分の事は棚に上げて」より／1995年1月・初版発行）
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だから、2006年のつま恋は、60歳の還暦を迎えた拓郎によって、体力的にもビジュアル的にも、明らかに“これで最後だ”的な想いで決行されたのだろう。

そして、僕は今回のステージではその想いが一種の悲壮さと共に、激烈に表現されるに違いないと確信していた。言ってみれば“ノドから血を吐いて昏倒するまで絶叫し続けるんじゃないか”“拓郎はつま恋のステージの上で死にたがってるんじゃないか”とさえ思っていたのだ。

しかしながら、実際のステージは始終なごやかに、牧歌的に進行した。天候にも恵まれ、病み上がりで心配されていた拓郎のコンディションも良好だったようだ。何より声がよかった。まろやかで凛としてよく通り、歌詞のひとつひとつがクリアに聴き取れた。

31年前のように頭に血が昇って最初から炸裂することもなく、冷静に自身の体力のことを考え、ファーストステージ、セカンドステージを余力を残しながら着々とこなし、ラストステージでようやく少々眉を吊り上げシャウトした程度であった。

そこには、あの時代のアイコンにまでなった“叫ぶ拓郎”“怒れる拓郎”は不在であったが、しかしながら、今や古い水夫となった吉田拓郎が、かといって、新しい水夫たちに何を申すでもなく、古い水夫としてのスタンスと戯れ、淡々と愉しみ、全うする潔さがあった。ディランの如く眉間に皺を寄せながら、いつもの臥せ目で一曲一曲を大マジメに、真摯に歌い、キースのスタイルでギターを弾いてポーズを決め、ゲストのムッシュかまやつと愛情溢れる軽口を交わす60歳の吉田拓郎は、人間として充分にビューティフルであった。

つま恋では定番の“人間なんて”を最後に歌わなかった理由も、以前のように「後ろは振り向かない」とか「オレがやりたくないんだ」等理屈を言うことなく、「体力が続かねーからさ、オレもキミたちも…」という説明で十分事足りるし、皆、納得するのだろう（実際そんなこた言ってないが）。
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9月23日（土）。快晴。朝7時22分・JR京都発のひかりで浜松へ。with ハニー。

京都駅でひかりを待っている時に、僕らの後ろに良く喋るオバちゃんの3人連れが並んで来る。どう見ても杉良太郎のコンサートにでも行きそうな感じの彼女達の会話を聞くともなしに聞いていると“なんや1時から夜の9時までらしいで”“ご飯食べるとことかとかトイレとかあるんやろか”…なっ、仲間だ。リアルだ。

高田渡には夜汽車が、吉田拓郎には新幹線がよく似合うと言ったのは、拓郎とタッグを組んでいた謎の吟遊詩人・岡本おさみだったと記憶しているが、その新幹線にて約1時間半で浜松駅着。そこからのぞみに乗り換えて1駅、約10分程で会場のある掛川駅へ。京都から2時間程なのだから近い。ちょっぴりあっけない。

途中の駅から続々と乗り込んで来る何だか正体不明で、妙に私服が板についておらず、大抵はTシャツの上にチェック等柄物の半袖シャツをはおり、リックを背負い、しかもキャップに、楕円系の小さなサングラスを掛けたりしているオヤジ達を見るに付け「キタキタ来たぁ～っ！！」と半分は久々の一大イベントの予感にワクワク、後の半分は年月の流れを実感してゾッとしていたが、浜松駅まで来ると、周囲はほぼそういうイデタチの人々で埋め尽くされ、近くで交わされる会話も「松任谷正隆来るのかな？」「落陽のイントロは…」てなコアな内容ばっかとなった。

9時過ぎ、掛川駅着。ここまで来ればもう、隠しようがない。時の流れが白日の元に露呈している。ホームにも駅構内にも外のターミナルにも、テレビ発表によれば平均年齢48歳のオヤジ、オバちゃん達がウズ巻いている。圧巻かつ異様な光景と言っていい。辛うじて皆、半日に渡る野外ライブに備えたラフな格好であり、普段満員電車などを満たす饐えたスーツの臭いやポマードに代表されるスメルス・ライク・オヤジスピリットが漂っていないのがせめてもの救いだ。

さて、拓郎ファン諸兄の方々、レビューもまだ冒頭だっちゅーに散々のオヤジ呼ばわり、失敬。もちろん僕も現在44歳、団塊の世代ではなく、発表された平均年齢よりは下だが、世間一般では明らかにオヤジであることは認める。しかし、拓郎の第一期ピークを「結婚しようよ」でブレイクした1971年から1975年の初回つま恋ライブくらいまでだとすれば、高校3年の時の79年の篠島アイランドコンサートを最大の拓郎体験とする僕などは、やはり“遅れてきた青年”であり、まだまだ若輩者の部類なのだ。よかった。てか、僕のレビューなんて愛に溢れてる方だって。もっと若いののレビューじゃみんな“老人”呼ばわりだからね。まあ、表現力が幼稚なんでしょうな。うそだよ。僕は若い人、好きよ。

ターミナルから会場までの送迎バス待ちの列に並ぶ。列は折れ曲がって続き、駅からは間断なくオヤジ達が吐き出されてその列に加わる。白髪混じりの熟年層が多いのに驚く。まさに団塊の世代というヤツか。1人で来ているオヤジも多いようだ。女性軍の加齢の度合いがシャレにならない。

列に並ぶオヤジ達は皆一様に、僕が着ている自作の拓郎Tシャツがうらやましくてしょうがないという表情でチラ見してくる。いや、それとも僕の隣にいるハニーのホットパンツからむき出したカモシカの様な脚をチラ見してるのか。何せ親子連れの子供を除いて、ハニーはこの何万という人の群れの中でベスト10に入る若さであると思われる。ちょっとイイ気分。ライブに付き物の若いカップルは…皆無。

送迎バスに揺られること10分程で、つま恋多目的広場入口のバスターミナルへ。緑に包まれた緩やかな丘陵地帯の茫漠たる空地に、幾重にも折れ曲がり、交錯しつつオヤジ＆オバちゃん達の長蛇の行列が出来ている。それは、この夏出掛けた立山登山の際に見た、山間の稜線の向こうにまで、こちらも中高年を中心とした登山者の行列が延々と続いていた光景と似ている。

程なく開場時間の10時を告げる空砲が打ち上げられ、行列はユルユルと蠕動を始める。適当に歩かされ、また同じラインに沿って折り返しを余儀なくさせられる。さらにジリジリと進み、また折り返し。そして、さらに…。秋とはいえ晴天の強い陽射しが、何万というオヤジ達の群れにジリジリと照りつける。もちろん周囲にはジュースの自販機もトイレもない。まるでライブ中に、酔っぱらい過ぎたオヤジ達が騒ぎ過ぎないよう、今の内に体力を奪っておこうという主催者側の作戦なのか、と思う程だ。

ヘリコプターが爆音を立てて旋回しつつ、この一種異様な光景をTVカメラで捉えている。空から見れば、幾何学的に折れ曲がった行列はさながらナスカの地上絵の様に映るのかも知れない。拓郎はライブ中のMCで、前の晩は実感もなく寝て、朝起きるや否やテレビでこの光景を見てさすがに慌てた、と言ってた。3万5千枚のチケットが売れているのだから、3万5千人がやって来るのは予想出来ているはずであるが、やはり予想と、実際その人数を目の当たりにするのとは違うのだろう。そして、そのほとんどがオヤジ＆オバちゃん達ともなれば、ビジュアル的にも相当なインパクトがあり、かつてないことであると言っていい。

もちろん僕を含めて、まさに畜群に甘んじることを長きに渡る社会生活で骨身に染み込ませたイイオトナの大行進は、主催者のこの仕打ちにも殊更に憤ることもなく前に従い（たまに怒号が上がっていたが）、不作法な若者の様に列を乱したり騒いだりは決してせず、辺り構わずギターを掻き鳴らしたり大声で喚いたり等のはっちゃけた振る舞いも目に付かないまま、1時間半近くも掛けて、ようやくバスターミナルからつま恋多目的広場入口のゲートへと達したのであった。

ところで、僕は20代の吉田拓郎が、今この時代にデビューしたとしても、若者を中心とした多くの人々に支持され、充分に売れ、エポックメイキングな存在になるであろうと確信している。拓郎の持つポテンシャルはそれ程普遍的であり、強烈なのだ。

しかしながら、今回のつま恋に集まった膨大な数のファンのほとんどが拓郎本人と同世代であり、20代、30代の若者が滅多に見当らないことには、少なからずショックを受けた。僕的には昔の拓郎をリスペクトして髪を伸ばし、ベルボトムをはいた酔狂な若いのが少なからずいるに違いないと踏んでいたし、長渕剛や浜田省吾など、拓郎からの多大なる影響を表明する大物アーチストは多く、そのファンが遡って見に来るはずだ、とも思っていたのだが。

ここまでクリアに世代の断層を見せつけられると、もはや声高に“今の日本のミュージックシーンは吉田拓郎なくしてはありえなかった！”などと息巻けなくなる気もするが、しかし“にもかかわらず”拓郎の影響力は多岐に渡っており、その一連の楽曲のクオリティや重厚感、ホンモノっぽさに迫るアーティストはごくわずかであり、しかも、それは曲単位のことで、全体として、拓郎の存在を脅かす逸材は現れていない、と言うしかない。他の誰でもない、おそらくは最大の拓郎フリークであるこの僕が、そう断じて止まないのだ。

例えば、本人が60歳になってイベントを開いた時に、万単位の人を集められる日本のアーチストは誰だろう、などと考えてみる。矢沢あたりか。かつてのヤンキーがどうなっているは興味津々だ。井上陽水はどうなんだろう。サザンはおそらくもっと呼ぶかも知れない。ミスチルやスピッツ…は…どうだかねー。

つま恋多目的広場入口でチケットをもぎってもらい、認証用のリストバンドを貰ってつければ準備OK。しかし、この入口のゲートからライブエリアまでがまた遠い。途中出店が軒を並べるフードエリアや一大トイレゾーン、休憩所などを通り過ぎ、10分程も歩かされようやく、会場へ。僕等の席は一面に緑の芝生が敷かれたアリーナ真ん中、舞台に向かってやや右よりのC-6ゾーン。人の波に相当揉まれはしたが、3万5千人全体から見れば比較的早めに入場出来たようで、ゾーンはまだあちこち空いており、前の方にレジャーシートを広げてスペースを確保。

一見して分かるが、ステージ上の意匠は31年前のつま恋のステージ上に貼ってあったブラジャー型（？）のテントの輪郭を模したもの。照明＆音響用の鉄骨が高らかに組み上げられ、舞台正面左右と、アリーナ中央のミキサー基地となる鉄塔の後ろ側に、巨大なスクリーンが据えられ、長髪に鉢巻き姿の拓郎がシャウトする75年のつま恋のビデオが流れている。テンション↑↑↑。

懸念の台風は大きく南へ反れたらしく、爽やかな秋の陽射しが降り注ぎ、山手特有の涼しい風が会場を吹き渡っていく。サ～スガお天気男・吉田拓郎だ。絶好の野外ライブ日和である。

朝からバタバタで何も食べていなかったことを思い出し、ハニーを残してフードエリアへ食料の買い出しへ。昼1時の開演まではまだ1時間半程もあるので余裕と思いきや、フードエリアの相当数ある店のテント前はどこもまたまた長蛇の列。もー、今日は並んでばっか。

1時間近く待ってやっと焼きそばやソーセージ、春巻きを買って会場に戻り、それをハニーに手渡して、さて、ビールを買おうとドリンク販売テントへ向かうと、ここもまたまた信じられないくらいの長蛇の列。しかし、ビールのないライブなんぞ考えられないので、またしても大人しく居並ぶ畜群に加わる。

開演時間が見る見る迫り、あと5分を切った頃、ようやくビール2カップとお茶2本をゲット。急いで自分のゾーンへ戻るとそれなりの人だかりが出来ている。敷き散らかされたシートの間を縫ってようやくハニーに再会、ビールを手渡して乾杯＆祝杯チュ～。と、同時にスクリーンに、今回のコンサート実現までの経緯を辿った映像が流れ始める。う～ん、間に合うかも知れない、と信じていたが、ナントカ間に合ったぜ。

この2月に拓郎とかぐや姫が会場となるこの多目的広場を訪れたシーンや、4人揃ってのフォトセッションの様子などが映し出され、映像は、それでは2006年、9月23日、つま恋へ…てなコピーでフェイドアウト。いよいよライブ本番のスタートである。まず、かぐや姫の3人が手を振りながらステージに現れる。どっと客席からの歓声。思わず立ち上がる人も多い。オールバックの山田パンダ、白いスーツを纏って小ぎれいになった以外は昔と余り印象の変わらない南こうせつ、そして、髪型も口ヒゲサングラスも、パッと見は昔と寸分違わぬ佇まいのショーヤンこと、伊勢正三。第一声は、南こうせつの「元気ですか～！？」であった。

バックバンドによって穏やかなイントロが演奏され、すぐにそれが「旧友再会・フォーエバー・ヤング」であることが分かる。う～ん、成る程、こう来たか。どうやら拓郎は死にに来たのじゃなく、古い水夫として、このつま恋のステージに立とうとしているらしい。
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＜takuro-1st.stage／13:00～14:30＞

イントロが続く中、フラリと拓郎その人がステージに現れ、やや低めに構えたギターを揺らし、いつものうつむき加減のスタイルでマイクに向かって歌い始める。スクリーンに大写しになった拓郎のアップに一際の歓声、会場はほぼ総立ち。トレードマークのサングラス無しの生顔。髪型は例のザンギリ。ザンギリ頭を叩いてみれば「人間なんて」の音がしそう。デコ隠しのため、前髪がちょっとだけ垂れている。キューピー風、というとスゴク分かりやすいかも。ステージ衣装はグレーで、広がった袖の部分に赤いラインの入った大きめのパジャマ風スエット。なんだかラフ過ぎて笑える。おそらく協賛しているミズノの商品だろう。思わずハニーに「何？あの服」と突っ込むと、「でもかわいい、似合ってる～」と心の広いフォロー。
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01）フォーエバー・ヤング／

山田パンダとのユニットによる同タイトルのアルバムの先行シングル曲。ボブ・ディランの同名の楽曲から影響を受けて作ったであろうことは想像に難くない。スタ録盤では全パート拓郎であったが、今回は山田パンダと交互に歌い、こうせつとショーヤンがコーラス。先にも述べた通り、この歌を一曲目に選んだこと、そして、それがかぐや姫とのセッションであったことから、今回のライブに対する拓郎の、力むことのないラフなスタンスが垣間見える。発表当時は、拓郎が歌うことに何だか違和感を感じたこの曲が、今の拓郎、今の僕、今のファンにはぴたっとハマり、スルリと入って来る。

「フォーエバー・ヤング」には“魂が熱くならなきゃ、恥ずかしいだけ”という歌詞があるが、拓郎の魂はまだまだ熱いと思われる。熱くなければ、還暦にしてこれだけの規模のイベントの中央に立ち、プロジェクトを推進することは到底無理だったろう。先は長いが、ともあれ、そのことを最初に述べておく。
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これまでは野外イベントと言えば拓郎の「朝までやるぞ～！」が決まり文句であったが、今回の一応夜9時までというプログラムがテレ臭いのか「朝までやりません」「夜9時にはみんな家へ帰ろう」的な喋りで会場を沸かせた後、2つのコードで構成された、聴き覚えのあるイントロが始まる。
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02）ペニーレーンでバーボン／

アルバム「今はまだ人生を語らず」の一曲目からのチョイス。アレンジは大幅に変えられているが、僕にはすぐにそれだと分かった。非常にこなれたカッコイイ演奏。しかも勢いがある。まごうかたなき拓郎流ロックンロールの炸裂だ。テンション↑↑↑。何度聴いても思うのだが、ここに歌い込まれている全ての風景の何と拓郎的なことだろう。この曲の歌詞は100％、どこを切っても吉田拓郎なのである。そして吉田拓郎以外ではあり得ないのである。その、楽曲としての孤高の佇まいは、問題の“見ている者はいつも、つんぼ～桟敷”の箇所が“見ている者はいつも、蚊帳の～外”に歌い変えられたくらいではビクともしないのだ。ふと思ったのだが、拓郎はそこんとこを歌い変えて「ペニーレーンで～」を再録音し、何らかのカタチで発表するつもりでは？

ストーンズのライブとかに準じてるんだろーが、拓郎が舞台のそでを走る姿は今にもコケそうでちょっとドキドキもの。決してカッコよくはなく、その努力を買うしかない。そんなのお互いにイヤでしょ。これまで散々明日に向かって走ってきたんだし、もう走らなくていーんじゃない？明日に向かって座れ！でいいよ、拓郎。ミック・ジャガー？あの人はまた別種の妖怪だからさ。
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拓郎曰く「一応、9時までってことになってるけど、9時…半くらいまでやろうか」
どっと、歓声。
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03）海を泳ぐ男／

アルバム「吉田町の唄」から。「夕映え」や「コカちん」等、好きな作品が収録されており、後期では気に入っているアルバムではある。しかしこの曲は、泳げない拓郎がなんでこのタイトル？と気にはなるが、僕としては余り印象に残っていない。この特別の場で本人が選んだのだから、何らかの思い入れがあるのだろう。「ペニーレーンで～」で立ったファンも同じ気持ちなのか、ちらほら座り始める。で、この隙に僕はまだ食べれていなかった焼きそばとソーセージにパクつく。
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04）ひらひら／

岡本おさみとのコラボが、見事に結晶した人気アルバム「ライブ'73」から。その中でも、これは特に人気の高い一曲だろう。始まったのが「ひらひら」だと分かるや否や、一度座ったファンも再び立ち上がる。後に控えた2ステージを考慮してか、拓郎は淡々と抑え気味に歌い、ハイライトである“お笑い草だ～お笑い草だ～あ～あああ～”の部分も無理に叫ぶことなく生声でサラリとかわす。
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途中のMCで、「“あの3人”のことはよく知らない、31年前のライブの時にはついにひと言も喋らなかった」などと言って会場を沸かせる。
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05）淋しき街／

アルバム「ロング・タイム・ノー・シー」から。作詞は阿木燿子。拓郎はアルバム「ローリング30」でほとんどの歌詞を松本隆に任せたが、その際「歌詞は松本を強姦して作った」と形容している。この曲は…う～ん、ダンナこわそーだし…言えない。しかし“訳もなくここは東京～”という決めのフレーズもまんま拓郎テイストであり、やっぱ…やっちゃったんじゃ？と思いたくなる…もちろん拓郎一流の比喩ですよ、竜童さん。Aサビがアルバム「フォーエバー・ヤング」収録の「7月26日未明」とほぼ同じであるが、自分のメロディーをパクってなにが悪い。いいメロディーはじゃんじゃん使い回すべきだろ。聴けば聴くほど味の出てくるナンバー。観客の反応は一部立ってたり、一部座ってたり、ってなノンビリした感じ。僕は立ってハニーと手を繋ぎ、何度もチュ～。
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06）消えてゆくもの／

アルバム「こんにちわ」から。すごくイイ曲で、後期拓郎もまだまだイケルねーと感心したが、実はこのライブで聴くまで、僕はこの歌を知らなかった。「こんにちわ」聴いてないもんねー。この曲を含めて今度チャンと聴いてみたい。てか90年代以降、アルバムで言えば、「ロング・タイム・ノー・シー」以降の拓郎を僕はほとんど知らない。拓郎からディラン、ストーンズと典型的な洋楽をつまみ食いした後、三十路を過ぎていきなりセックス・ピストルズに覚醒、ニルヴァーナに心酔。分かる人には分かると思うが、拓郎とパンクはアティテュード的には非常に近いものがあるのだ。少なくとも僕の中ではスムーズに繋がったし、今現在でもゼンゼン共存している。何せ僕は「人間なんて」こそ、日本初の、いや、ニューヨークやイギリスに先んじたパンクロックだと言い張っているくらいだしねー。しかし、一時はポーズにしろ、拓郎を含めた古めの邦楽アーティストを遠ざけて10年くらい聴かなかった時期があった。でも結局、僕の音楽的リピドーは、吉田拓郎に執着してるんだよなー。
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曲間に拓郎がローディーからアコギを受け取り、ハーモニカホルダーを取り出して首に掛けると客席から“オオ…！！”というどよめきが起こる。みんな拓郎のこのスタイルが何故か大好きなんだよなー。強く影響されたボブ・ディランの影から完全に抜けだして己が奏法を確立している…というよりも、自分の個性によってディランをも凌駕してしまっている、と言った方がいい。“ピワ～ン”という音から始まるハーモニカのイントロは「ともだち」だ。
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07）ともだち／

セカンドとなった同名のライブアルバムより（ファーストにもスタ録盤が収められているが、完全バージョンはこっち）。シングルカットもされた最初期の名曲。拓郎がイントロと一番をハーモニカとアコギで弾き語りし、二番からバンドがカブッてくる。何だろう、このフォークとも歌謡曲とも演歌ともつかない、大陸的なメロディーは。やたらと理屈っぽく比喩的な歌詞がダラダラと連ねられ、それでいて胸を衝くこのリアリティは、どこからやって来るのだろう。そして、このメロディはまだ完成された拓郎のものではない。どこかの時空の隙間から聴こえてくるような旋律。拓郎自身は“大切な友人との決別の歌”であるとどこかで言っていたが、それにしては難解ぶった歌詞を高校の頃、友人とあれこれ解釈したことを思い出す。
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「キミたちも、ブロック分けが気に入らないとかいろいろあるだろーけど、かんべんしてよ」とかMC入れつつ…
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08）知識／

アルバム「今はまだ人生を語らず」から。暫くしっとり聴かせた後で、一転、バンドはミディアムテンポのロックンロールをぶちカマす。もう何年も一緒にやっているサポートメンバーならではの、ぴったり息の合った燻し銀の演奏だ。これは一種青い怒りに満ちたナンバーではあるが、やはり拓郎はシャウトを控え、感情を抑えるようにサラリと歌いこなす。声がよく通っているので聴いていて気持ちがいいのだ。テンション↑↑↑。目の前で、背中に“北陸拓ちゃん連合（グループ名違うかも。責任持ちません）”てなロゴ入のTシャツを着たオバちゃんがグルングルンと腰を回して踊り狂っている。僕はぬるくなった残り少ないビールをゴクリ、ゴクリ。
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09）生きていなけりゃ／

アルバム「ロング・タイム・ノー・シー」から。アレンジこそ違うが、サビのコード進行もテンポもほぼ「落陽」と同じ。さっきは“自分のメロディーをパクってなにが悪い”つったが、これはまんま過ぎねーか？おまけに「落陽」はいわばファンの間でも1、2を争う人気曲だし。それをこういう風にダイナシにしなくても、てのが正直な気持ち。大病を患った後だし、自分を鼓舞するためにも歌いたくなるのかなー。そう思うとちょっと可愛い。
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…と、ベースに引導され、ファンキーなリズムのイントロが鳴り響く。どこかで聴いたことあるなー、そう、「イメージの詩」篠島ライブ・R＆Bアレンジバージョンだ。
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10）イメージの詩／

ファーストアルバム「青春の詩」より。拓郎が作った中でも、最も長い一曲。僕がこの曲のスタジオ録音テイクを最初に聴いた時の感想は「何かヘンな曲？？」であった。ボブ・ディランの「廃墟の街」を拓郎がやるとこうなちゃったという…。本人もクラシックギターの音が「涙くんさよなら」みたいだ、とか言ってたけどその通り。ちなみにコムロさん評は“赤あげて、白あげて”みたいな曲（君と会ってからというもの僕は…より）だと…。こちらも言い得て妙。

しかしながら、この異色の曲が初期拓郎の詩才と孤高のスタンスを聴く者に強く印象づけ、多くの人が拓郎に和製ボブ・ディランの称号を与えたことは事実であろう。特に“自然に生きてるって分かるなんて、何て不自然なんだろう”というフレーズは哲学的な思索の域にまで踏み込んだもので、南こうせつも、拓郎初の著作本「気ままな絵日記」の中に、“自然に生きてるって分かるなんて、何て不自然なんだろう～という拓郎の言葉が好きです”というコメントを寄せている。

ちなみに、コムロさんは某雑誌で“あの頃はみんながディランみたいにやりたかった。高田渡はそれを悟られるのが恥ずかしかったんでしょう。僕なんかは単純だからやりたいと思ったけどできなかった。拓郎はそれがフッとできちゃった人だよね”と言っていた。

僕は篠島ライブで初めてこの「イメージの詩」のR&Bアレンジを聴いた時は、全然気に入らなかった。あの頃は音楽の大海を知らないカワズだったし、フォークっぽいもの以外はMGだったのだろう。で、実を言うとある程度大海を知った今でも、拓郎本人程はこのアレンジを好きではない。むしろハマショーバージョンのがノレルくらいである。ここだけの話。

何よりも感慨深かったのは、この曲を古い水夫となった拓郎が歌っている、ということである。時の流れが、歌う者の立ち位置までを逆転させてしまったのだ。“古い船には新しい水夫が乗り込んで行くだろう／古い船を今動かせるのは古い水夫じゃないだろう／何故なら古い船も新しい船のように／新しい海へ出る／古い水夫は知っているのさ／新しい海の怖さを”…しかし、今更ながら気づいたけどこの歌、なんで船は古いままナノカ？で、古い拓郎は新しい海のコワサを知っているのか。たぶん、もうどうでもいいやと思ってるんでしょ、還暦になってもどこかのボンボンみたいな拓郎チャン。
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「イメージの詩」をフルバージョンで歌い切ったところで、ファーストステージ終了。全10曲。
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ファーストステージの途中で軽くメンバー紹介があった。ここ何年かのツアーメンバーらしいが、どうりでコナれた演奏だ。ブラスセクションやオーケストラのない、シンプルなバンド形態である。メンバーは以下の通り。

○ギター………古川望、土方隆行（知らない2人）
○ベース………富倉安生（もともとはあの、トランザムのベースだったらしい）
○ドラムス……島村英二（拓郎バンドのドラムといえばこの人）
○キーボード…重実徹（知らない人）、エルトン永田（篠島からおなじみ）
○コーラス……遠藤由美、斉藤妙子、高尾直樹、若子内悦郎
○指揮…………瀬尾一三（31年前の雄姿は忘れがたい。ご存知、拓郎プロジェクトのお祭男）

※コーラスはこの後のセカンドステージにて紹介された。
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さて、拓郎は、今回のつま恋再現ライブ企画の際に、「オレはかぐや姫の音楽が好きではない、でも今つま恋をやるならかぐや姫抜きでは考えられない」と言って南こうせつを口説いたという。ツカミがいかにも拓郎らしいねー。

いわんや、どうしたって拓郎のフォークロックに比すれば、かぐや姫の叙情フォークソングが甘っちょろく思えるのはいたしかたがない。いや、その楽曲の完成度やトリオとしての力量が素晴らしいことは僕にもよく分かっている。「かぐや姫フォーエバー」や「トゥディ」も持っていて、けっこう良く聴いていた。が、あくまでも僕の中で語るべきは拓郎その人なのであり、かぐや姫については、彼らに同じ想いを持つ誰かにお任せしたい。そういう訳で、拓郎のファーストステージの後、あの3人が登場し、やや傾き始めた心地よい陽射しの中で燻し銀のハーモニーを聴かせるのであるが、そのレビューについては割愛させていただくこととする。

約1時間半の拓郎のステージでビールもお茶も飲みほしてしまった僕とハニーは、かぐや姫の「妹よ」を後に水分補給のためフードエリアへ。みんなかぐや姫観てるだろーし空いてるだろーという予想は外れ、相変わらずの列に並び、30分程も掛けてようやく冷たいビールにありつく。ついでにトイレを済ませ、ライブエリア横の喫煙コーナーにて煙草をイップク。思いのほか涼しい風に乗ってショーヤンの「ペテン師」が響いてくる。いやいや、懐かしー。ハニーいわく「タマキの歌ちゃうん？」
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てな感じで、夕方の気配が会場に漂い始めた頃、拓郎のセカンドステージが始まる。

（ウッディー／つま恋紀行2006-vol.02に続く）

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